892 :サブカル板389:2013/10/12(土) 02:30:07

「ちっくしょおおお!」

 酔った男が叫んでいる。

「これじゃない。俺が作りたかったのはこんなんじゃないんだ……」

 手の中にある黒いトラックの玩具を、男は地面にたたき付けた。
 トラックは変形して人の形になった。



  どうしてこうなった?憂鬱トランスフォーマー



 子供のころより男はトランスフォーマー(以下TF)が好きであった。
 それも第一作が日本で放映された時からのファンである。
 というかもう病気である。
 小遣いもお年玉もすべてTFの玩具に変わった。
 成人してもTFにかかわる仕事がしたいと、努力を重ねタ〇ラに入社したぐらいだ。
 とはいうものの希望の部署にはなかなかつけず、ようやく念願がかなった矢先に事故死してしまった。

(こんな……まだ何にもしていないのに……)

 男の無念を神が聞き届けたか、気がつくと男は史実とは別の歴史をたどった世界、そう憂鬱世界の商社員に転生していたのだ。
 言うまでもないが、夢幻会の暗躍によりこの世界では20世紀半ばでありながら、アニメや漫画などのサブカルチャーは21世紀に近いほど発展している。
 男の野望が燃え上がった。

(この世界にTFを!)

 男の場合いささか常軌を逸していたが、史実でも支持を受け長らく続いていたTFシリーズ。
 この世界でも成功は約束されているかに思えた。
 男は転生先の人物の勤めていた商社の上司を説得し、TFの玩具とアニメの企画を通すことに成功した。

 だがしかし!

 実際に完成したアニメと玩具は男が作ろうとしていたものとかけ離れたものであった。

893 :サブカル板389:2013/10/12(土) 02:30:55
 ケチのつき始めは、TFの名物キャラの一人スタースクリームをはじめとするジェットロン部隊である。
 その名の通りジェット戦闘機に変形するロボットたちである。
 ここに男の誤算があった。
 なんとこの世界にはまだジェット戦闘機と言えば、日本の『疾風』しか存在しなかったのである。
 超大国アメリカに奇跡の勝利を得たことにより、無敵皇軍への信仰が高い憂鬱日本。
 その日本軍の誇りともいえる最先端戦闘機『疾風』を悪役にすることをアニメ制作陣が躊躇したのだ。

 後にこの男のことを知った夢幻会の転生者はこう語った。

「空気(時代背景)読めよ」
「もう少し待てばドイツ製ができたものを」

 さらに言うと主人公たちオートボッツあるいはサイバトロンのキャラクターについても問題が生じた。

「こいつら、アメリカ人みたいだ……」

 男が第一作を特に意識していたのが災いした。
 そう、第一作はアメリカで制作されたため、オートボッツのキャラクターはみんな、史実のアメリカ的な価値観を反映したものであったのだ。
 そして、アメリカに言いがかりで戦争を仕掛けられたあげく、日本がアメリカを滅ぼしてしまったこの世界では、アメリカに対する印象が悪く、アメリカ人のようなキャラクターに人気が出るとは思えなかった。

 致命傷となったのはこの一言である。

「姿を変えて人の目を欺く、まるで忍者だな」
「それだ!」

 夢幻会がいかに暗躍しようと、転生者の絶対数は非転生者に比べて少ない。
 そのため、アニメや漫画がいかに広まろうと、古い価値観がなくなったわけではない。
 芝居や講談で出てくるキャラクター『忍者』は、憂鬱世界の日本人にとってもロボットよりもなじみ深い存在であった。

 この一言が起爆剤となり、あれよあれよと男の出した設定が変えられていった。
 そして男にその流れを止める力はなかった……
 男は自分の夢が壊れてゆくのをただ見ているしかなかった……

 TFたちは宇宙からやってきたロボット忍者であり、忍法(!)を使って地球の様々な機械に変形するとされた。
 さらに本来正義側のオートボッツたちは、自由を愛すると称した乱暴な無法者であり、市民のすぐそばに潜む犯罪者とされ、悪役を務めることになってしまった。
 リーダーのコンボイのモットーにそれが表れている。

「すべての生き物には自由に生きる権利がある。ルールなんぞ知ったことか!」

 逆に本来の悪役である、ディセプテイコン、デストロンが善玉を演じることになり、「鉄の統制が平和を産む」がモットーのメガトロンの下、オートボッツを追う忍者部隊という設定になった。
 帝国軍と協力関係を結び、帝国製の兵器に変形するという設定になったため、帝国の兵器の人気を取り込むことに成功した。
 特にリーダーのメガトロンの人気は高い。
 これは救国の宰相、嶋田義太郎の存在により、独裁者ともいえる強いリーダーが支持される風潮によると思われる。
 また日本の軍用拳銃を基にした架空の銃に変形するメガトロンは、いわゆるなりきり玩具としてのプレイバリューがあったこのも人気の一因であろう。
「わしを使え!」の一言で拳銃に変形して、部下や人間の協力者の手に収まり、敵を撃つシーンはアニメの定番の見せ場となった。
 このシーンの後に、子役俳優が玩具のメガトロンを構えるCMを放映したところ、メガトロンの玩具は爆発的に売れたという。

 余談であるが、とある夢幻会の転生者のコメント。
「なんというシャッタード・グラス」

 こうして憂鬱版TF、「変形忍者ロボ」はアニメもヒットして玩具の売り上げも伸びたが、男の望みとは全く異なるものになった。
 男は会社を辞め姿を消した。
 一説によるとカリフォルニア共和国に渡ったという…

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最終更新:2013年10月25日 17:03