632 :237:2013/11/09(土) 09:09:34

「・・・・ふう。人生とはままならんな」
クルト・アーヴィング少尉は揺れる列車の中で嘆息していた。

クルトは士官学校で優秀な成績を収めていたが、それが災いして、繰り上げ卒業となってしまったのである


原因は去年勃興したシベリア戦争であった。
シベリアでは現地軍が頑張っていたが、敗戦続きであるという

そこで、援軍を送らなければいけないのだが、本国の戦力が空っぽになった隙にユーロブリタニアが攻めてくると
いう恐れもあった。また、辺境地に最精鋭部隊は送りだして、被害を出すのを政治家達が嫌ったのである。

そこで、動かしても問題ない2戦級部隊や、義勇兵などをシベリアに送りだした。
クルトの士官学校の繰り上げ卒業も士官確保の一環であった


クルトは列車の中で、もう少し図書館にこもって本を読みたかったなーと思い更けていた。




列車はシベリアに到着し、それぞれの任地に分かれて行った
クルトも伝えられた任地に行ったが・・・・・


「・・・・・・」
クルトが着任した基地は酷かった。半壊したハンガーにテントが立っているだけ
戦場ならそれでいいのだが、隊員達も問題がありそうだった。

「極東のサルを追い出すんだ!」と気概を吐いている少年兵
「ウヒヒヒヒ・・・・」なにか思い出し笑いしながら酒を飲んでいる人
「うう・・・・おかーちゃん」泣きだしている人
「・・・・・・」逆に諦めたかのように黙々と機銃弾を詰める作業をしている人

はっきり言えば、軍隊としての統一が図れていなかったのである

そうやって、呆然としていると

「到着をお待ちしていました!クルト・アーヴィング少尉殿!オットー・ゲイル軍曹であります!」
「あ・・・ああ。隊長に着任を申告したいんだが、いるか?」
「いいえ、いません!」
「・・?どこか、行ったのか?」
「いいえ、言葉通りいません。隊長は2日前に戦死しました」
「・・・・・・」
あんまりな言葉にフラっとなりそうなるが、こらえて他の事を尋ねる

「一番高い階級持ちのひとは?士官でもいいから」
「いません。ほとんどが、死ぬか負傷するか逃げ出しました。あなたが一番上です」
「・・・・・・」
末期すぎる言葉にとうとう頭を押さえてしまったクルト

633 :237:2013/11/09(土) 09:10:15

気を取り直して、戦力を尋ねてみたが、アント・ワーカー1機、オルレアンが2機、パンツァーフンメルが8機という戦力であった。
他には攻撃ヘリが2機、戦車が8両という有難いものであったが、大量の兵を持つ清相手には焼け石だと思われた。

「これだけか?他にはないのか?」
「それが・・・・・あるにはあるのですが・・・・」

そういって、軍曹は言いにくそうにチラッと見る。
その方向を見れば、半壊したハンガーの奥に、白い機体が鎮座していた

「アレクサンダじゃないか。なんで、あれが使えないのだ?」
「あれは、元々ここに配属された物ではないんのです。他の戦地に輸送する途中だったものです。
さらに言えば、胸部装甲が無くて、素地が露出状態なのです」
「むう・・・・それは勿体ない。なんとか掛け合ってみよう」

数日後、クルトは精力的に働いた。何とか、兵士達の士気を上げ、更に修理した結果
アント・ワーカー1機、パンツァーフンメルが1機使用可能となった。

「何とかなりましたね。隊長」
「ああ。アント・ワーカーも2機しかないがローテンションで偵察に出れるようになったのは大きいな
ところで、アレクサンダは何とかここに配属することができたが、整備状態はどうだ?」
「新品状態でしたので、特に問題はありません。ですが、胸部装甲が届いていません。どこかで横流しにあったのでしょう」
「むう。それはいかん「お話し中、すいません!正門で義勇軍が入場許可来ています」何?分かった、すぐに向かおう」


クルトが正門に向かえば、男が言い争いをしていた

「だから、負傷者も多いから入れさせてくれと。せめて負傷者だけでもいいから!」
「ここは正規軍の基地だ。義勇軍が入るべき場所ではない。お引き取り願おうか」

クルトはその様子に嘆息して、男達に向かう
「おい、そこで何をしている?」
「あっ!た・・・・隊長・・・」
それまで、威勢の良かった男が、クルトを見た途端に猫を借りた人のように勢いが無くなっていた

「そこで何をしていると聞いているんだ?」
「そ・・・それは・・・ぎ・・・義勇軍が図々しい要求をしてきましてですね」
尚も言い訳をする男に、クルトはフンっと鼻を鳴らすと

「戦場に正規軍も義勇軍も差はあるものか。そいつらを入れろ」
「し・・・しかし・・・・」
「命令だ!ぶっ殺されたいのか!?」
「り・・・了解です!サー!」
正門を開けて、次々と義勇軍が入ってくる。健全な人もいれば、負傷したのか担架や肩を貸す人もいる

「やあ、さっきはどうもありがとう。どこもかしこ、正規軍が偉いんだと言う人が多くてね。負傷者が多かったから、正直助かったよ」
「なに、礼は及ばないさ。戦場じゃ正規軍か義勇軍かの違いは無いからな」
「そうだね。おっと、申告が遅れたよ。僕は、ウェルキン・ギュンター予備少尉です」
「クルト・アーヴィング少尉だ。ごもっとも、士官学校を卒業したばかりのテンプラ少尉だがね」
「それでも、他のところで見てきた少尉の誰よりも立派な隊長だよ」

634 :237:2013/11/09(土) 09:10:55

クルトが話をしていると、ふと一人の女性が気になった。
その女性は、光のない目をしながら歩いていた。

「あいつは?」
「うん?ああ・・・・僕達が撤退する途中で拾ったんだ。可哀そうに彼女を残して部隊が全滅したんだって」
「そうか・・・・」

女性はフラフラと歩いていく・・・・・



指揮所にウェルキンと交えて意見交換していたが、やはり気になるのは戦況であった。

「やはり、ここは突破されてしまったのか」
「ああ、正直、僕達が撤退しなければ全滅していたかもしれなかったね」
「司令部からは、情報を出してくれないさ。現地を死守せよと繰り返すばかりだ。他の部隊との連携も糞もない」

重くなる空気にけたましいベルが鳴る

「どうした!?」
『偵察に出たアントから連絡です!清の機甲兵団がこちらの基地に接近中だそうです!』
「戦力は?」
『確認できるだけでも、ジェンシーが8機、ガンルゥ20機ほどです!他にも戦車や歩兵も少数ながら確認できます!』
「やつらめ。大判振る舞いすぎるじゃまいか。警報を鳴らせ!迎撃に出るぞ!」
「義勇軍も援軍に参加するよ」
「助かる!一人でも戦力は欲しい!」


けたましい、サイレンが基地中に響き渡り、大勢の兵士が走っていく。
その様子を先ほどの女性がぼんやりと見ていたが、やがて、フラフラと立ち上がると

「テキ……タオサナイト…」

そう呟きながら歩いていく


基地の外に構築した、野戦陣地で待ち構えるクルト達。すると、地平線の向こう側から土埃が見えてきた。

「来たか・・・各員、落ち着いて戦闘を行え。俺の指示に従えば、生き残れるぞ」
「僕達義勇軍は左翼に展開するね」
「ああ、状況によっては、前後の挟み撃ちをしたい。グッドラック!」
「グッドラック!そちらもな!」


そう言って、KMF、戦車を伴って、展開していく。
クルトも緩やかに視界に入って来る清軍を見つつ静かに命令を出す
「戦車部隊、砲兵、撃ち方始め!」


戦車と砲兵が射撃した弾は先頭を歩いていた、ガンルゥに直撃し、爆発する
しかし、同時に清軍が走りだし、撃ち返してくるようになった。


こうして、生き残りをかけた戦争が始まった。

635 :237:2013/11/09(土) 09:11:48

「ガンス!下がれ!アンドルフ前に出てカバーしろ!」
戦闘が始まって数十分経ったが、クルトは声をからしながら指揮を続けていた。


最初の戦闘こそは、隠匿して砲撃することで、戦場のイニシアブを握ることはできた。
しかし、数に勝る清軍に押されて、徐々に損害が出始めたのである。

攻撃ヘリも戦車数両、ガンルゥを2機喰う戦果を出したが、KMFのアサルトライフルによって木っ端微塵にされたのだ
オルレアンも既に1機が撃墜されており、パンツァーフンメルも砲撃戦でガンルゥを撃墜していったが
ジェンシーの接近攻撃によって、あえなく壊滅させられたのだ。

ウェルキン隊も正面から侵攻してくる清軍に手一杯でとても救援に出す余裕は無いという

「おい!どうした!?砲撃を止めるな!?」
「弾がありません!」
「くそ!」
クルトは悪態をつきながらも、次々と指揮を執る。
先ほど、司令部に「ワレ キュウエンヲヨウス」と送ったが、望み薄だろうな

クルトがため息を付いていると、後ろからゲイル軍曹が「危ない!」という大声と共に倒された
すると、後ろが爆音に包まされた。

倒れたクルトは急いで起き上がると、自信は無事だったが、庇った軍曹の背中は見るも無残な姿になっていた

「しっかりしろ!傷はまだ浅いぞ!」
「へへっ・・・・隊長殿。この手紙を実家に届けてくれませんか?」
「馬鹿な事を言うな!お前が届けて来い!」
「すいません・・・・・後は・・・よろ・・しく・・・た・・・の・・・」
そこまで言うと事切れた。


「くそったれが!」
クルトは拳銃を取り出すと、塹壕を超えようとした清の歩兵を連続で射殺する

その時、爆音と共に土砂が舞う。クルトが庇うように手を上げていたが、目を開けたら
ジェンシーが目の前に立って、機銃をこちらに向けていた。

それでも、クルトは怖気ずに睨みつける。
そして、命が散った。



ただし、クルトではなく、目の前に立ったジェンシーが爆発したのである



驚くクルトが、周りを見回せば、いつの間にか、アレクサンダが近づいていたのである。
ただし、胸部装甲は取り外している状態で

「おい!そこのアレクサンダ!その機体は危険だ!下がれ!」
『・・・・・・・』
「聞こえているのか!?誰が乗っている!?」
『テヤ・・・・ロシ・・・・ル・・・・』
「返事しろ!」
『ロシテヤ・・・・コロシテ・・・・コロシテヤル!!』
アレクサンダが獣の咆哮をするかのように体をのけぞる。
クルトは音声が聞こえないはずなのに、咆哮する音が聞こえたことを感じた

636 :237:2013/11/09(土) 09:12:48

そして、アレクサンダが、走り出した。
ジェンシーもアレクサンダを確認できたのか、アサルトライフルを乱射する

だが、アレクサンダが従来のKMFからは想像もできないような軽やかさで銃弾を避けると
手に持ったトンファを展開し、ジェンシーを殴り飛ばし、よろけたところで、後部に杭を打ち込まれる
人にダイレクト攻撃されたジェンシーは間もなく人形のように事切れた

そして、可変で銃撃を避け、ジェンシー1機に這いより、飛びつくと同時に膝蹴りし、
よろけたところで、トンファを右左殴打し、体を一回転させて上からたたきつぶすようにトンファを叩く
これも機体に致命傷を負ったのか、動かなくなる

背中に格納していたジャッジメントを取り出すと、もう1機のジェンシーに向け銃撃する
ジェンシーは大型リニアガンであるジャッジメントに耐えきれず、爆散する


「・・・・すごい」
クルトは知らずに賞賛が漏れた。瞬く間に、苦労していたKMFが3機あっという間に撃墜して見せたからだ


「そこのアレクサンダ。所属と階級を知らせよ」
『・・・・・』
「もう一度言う。所属と階級を知らせよ」
『マダ・・・テキイル・・・』
「おい!」
クルトが止める間もなく、アレクサンダが走り出す。

「待て!迂闊に動くな!」
クルトが叫ぶが、舞い上がる土砂で動けない



走り出したアレクサンダが、向かった先にはジェンシーが4機ほどいた
『・・・ミイツケタ』
乗っていた人は邪悪な笑みを浮かべて、歓喜の顔をしていた


アレクサンダに気付いたジェンシーがライフル、パズーカを連射するが左・右と避けると
空中で可変し、ジェンシーが持ったライフルを蹴り飛ばすと一度着地し回し蹴りを2連撃加え、トンファで後部を叩きつぶす。

倒れたところで持ち上げて、他のジェンシーからの攻撃を盾に使って、爆発する前に蹴り飛ばして
爆煙が包まれたところを突いて、突撃を行い、戸惑うジェンシーの前ににじり寄ると
トンファで上から頭部を吹き飛ばし、更にアッパーのように下から殴り飛ばし、真正面からコクピットを潰す

637 :237:2013/11/09(土) 09:13:20

『ツギハオマエダ!!』

そして、残された2機のジェンシーが中華刀を持って斬りかかるも、両手のトンファと体術を使って捌き続け
まず片方のジェンシーの腕の付け根を叩き壊すと回し蹴りで遠くに吹き飛ばす

そして、中華刀で大きく振りかぶったジェンシーに右のトンファで受け止めると
左手をパンチするかのように飛ばす

『シネェ!!』
左手の中に隠された隠し剣が飛び出て、まっすぐコクピット奥まで深々と突き刺さる
やがて、中の人が死んだのか、事切れるように倒れだした。

『・・・・』
アレクサンダはそれを一瞥すると隠し剣を抜きだす。

そして、残されたジェンシーに向かう。ジェンシーは残った腕を使って命乞いをしたが、アレクサンダは意に介さない
アレクサンダは素早く、ジェンシーに近寄り、マウントポジション状態にする

『オマエタチガ!』
そう言いながら、トンファを叩きだす

『オマエタチガコナカッタラ!シナナカッタ!』
ガンガンと叩きだす

『アノコモ!ヤサシカッタヒトモ!ソンケイデキタヒトモ!キライダッタヒトモ!』
ジェンシーの頭部はすでに潰れていたが、それでもなお叩き続ける

『ミンナ・・・・ミンナ・・・・!シナナカッタ!』
ジェンシーはピクリとも動かない。それでも叩き続ける

『オマエタチガ・・・ウワアアアアァァァァァ!!』
ついにアレクサンダは叩くのを止めた。

クルトは無線から入ってくる、悲しい告白に異常な光景に止めることはできなかった。

これが、後に「死神」と呼ばれたリエラ・マルセリスとクルトの出会いだった。



クルト達はウェルキン達と合同で、各地を駆けまわり、全滅せずに、停戦を迎えることができた。
これが、クルトのシベリア戦争であった。

638 :237:2013/11/09(土) 09:14:07
終わり

想像以上に長いSSになりました。
みなさんが楽しんでいただければ幸いです。

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最終更新:2013年11月09日 18:02