834 :ひゅうが:2013/11/11(月) 01:22:43

ネタ――小論「和魂洋才」あるいは明治という時代について

――「和魂洋才」という言葉がある。

明治維新によって成立した新政府がスローガンとして掲げた「富国強兵」「殖産興業」という二枚看板、あるいは「万邦対峙」という開国後の日本が掲げた対外方針に隠れて目立たないものであるが、この言葉が示す日本の明治維新は深くて重大である。
それは、日本に遅れること30年あまりの清国が用いた「中体西用」という方針と似ているようでまったく違う。
開国後、日本人はまず国家機構や社会体制の刷新を図った。
同時に、教育において西洋化を図った。
これは一見すればたいしたことではないかもしれない。しかし、これが全土で、そして抜本的かつ一斉に行われた点が重要なのである。
清帝国やオスマントルコ帝国は「西欧諸国の力の源は科学技術だ。だからそれを導入すれば自分たちでも勝てる」と考えた。
そしてそれを行うために工場を建て人を呼んだ。だが、それだけだった。
彼らは工場から作り出される兵器や鉄鋼、そして機関車に注目しはしたが、それを運用する自らの自己改革は限定的にとどまったのである。
対して、日本は幕末の混乱の中で、「西欧列強の力の源泉は科学技術」という認識に到達。
しかし、そこからまた考えたのだ。「自分たちと西欧列強のどこが違う?『なぜ自分たちは彼らのようではないのか』?」と。
たどり着いた答えは、「自分たちが科学技術を運用し、近代国家として父祖の地を守ることができないのは『根本的にシステム、国の体質が非効率的で、また運用する頭脳もまた非効率である』から」という戦慄すべきものであった。
それほとんど、自らの過去の業績を否定することである。

だが、そこで日本人たちは縋れるものがあった。
歴史の開闢以来の伝統、その根幹となる魂の部分である。
であるなら、その魂と歴史を引き継ぎつつ、自らを抜本的に改めねばならない。
古代以来国家を支える基本となっていた養老律令は、五箇条の御誓文で否定された。
幕府は、その存在根拠となる法令を喪失し、自らの手で新しい法体系が築かれることになる。
そして、宗教的な影響が強すぎる寺子屋や、場所によって差がありすぎる私塾は義務教育にとってかえる。
もちろんそこで教えるのは、西洋が1000年をかけて磨き上げた別の論理体系に基づく学問たち。
この、ある日天地がさかさまになったような改革において、日本の伝統を支えた人々は自ら率先して旧弊を破った。
戸惑いながらも明治日本人たちがこれについてゆけたのは、ある種「死なばもろとも」という意識があったからであろう。
伝統を守り、未来に無限の責任を負っていた、裏を返せばかつてのようであり続けなければならなかった皇室や幕府を構成していた人々が自らを改める。
それは、自らの身をかんなで削り続けるような行為である。
そうまでして、そこまでして日本は変わらなくてはならないということをトップが示したからこそ、抵抗は全国民的なものにならず、明治日本人たちはこの大変革についてゆけたのだ。
しかし、魂の部分までは西欧人と同じになってはいけない。
なぜなら自分たちは日本人であるのだから。
こうした意識は、明治維新に伴って爆発的に増大した外国語を翻訳した「和製漢語」によくあらわれている。
すべて受け入れよう。しかし外国語を自らの言葉にすることはない。
我々は自らがかつて用い、体になじんだ言葉で西洋を理解する。
それは、ラテン語を捨て自らの言葉で叙述を行ったルネサンスの文人ボッカチオにも匹敵するある種の傲慢さが混じった静かな革命であった。

自ら新たな歴史を作るか、それとも滅亡という名の死か。
この悲壮な覚悟は、明治日本人が共有した危機感のあらわれでもあった。しかし同時に、数々の旧来の慣習を否定し、また自らがそれらを作り上げていくという進取の気風にもつながった。
明治日本人ほど、野心にあふれた人々はこの国の長い歴史でも片手の指で数えられる程度の時代にしか存在してはいまい。
歴史を自ら作り上げていく熱狂と、未来で語られる「新たな歴史への見栄」、誇り高い武士たちであった明治新政府の人々はそれに忠実であった。
だからこそ国民の虐殺や言論の圧殺などという諸外国における革命にはつきものの惨事は徹底的に防止が図られたのである。
「和魂洋才」この四文字に記された意味は、かくも深くて、重い。

――ルース・ベネディクト「日本の『魂』」
1941年10月2日 タイム誌への寄稿


835 :ひゅうが:2013/11/11(月) 01:25:15

なぜか筆がのったので一本。
史実日本にもつながる大陸日本の明治維新についてネタです。
日露戦争ネタを書こうとしたらなぜかこんなのができてた…解せぬ…

なお、著者は某菊と刀を書かれた方にお願いしてみましたw

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最終更新:2014年01月31日 21:46