499 :ひゅうが:2013/11/20(水) 22:52:15

大陸日本ネタSS――「童話 『竜とお花畑』」

――むかしむかし、あるところに村がありました。
その村は喧嘩がたえません。
村人たちは自分のおうちをどれだけ大きくするのか、どれだけきれいにするのかに熱中し、時には気に入らない村人の家や自分よりもきれいな家を壊してしまったりもしていました。
そんなことをしていたものですから、村人たちは近所の村へ腕っぷしの強い若者をやって無理やり材料代を出させたり、家のかざりつけをやらせたりともうやりたい放題。
誰もがそれを正しいと信じている、そんな時代でした。

そんなある日、村人のもとにあるうわさが届きました。

「山をこえたところに、とてもきれいなお花畑がある。そこには見たこともない珍しい花がさいている。その花からとれる蜜はとてもおいしく、誰もが夢中になるほどだ。それに、『山の向こうには、宝が眠っている』。」

村人たちは思いました。
「その花を手に入れられれば家をもっと美しく飾れる。
それに、お花畑を手にすればそこからとれる蜜で大儲けできるぞ!宝まであるのだ!!」
ですが話には続きがありました。

「そのお花畑の隣には、とても強い竜が住んでいる。
花畑の花たちが大好きな虫たちは、自分の子供になる花を世界に広めようとして何度も竜に立ち向かいましたが、そのたびに竜が巻き起こす嵐や、吐く火でこれを防がれている」
というのです。
村人たちはめいめい考えました。

「お花畑へゆくには竜を倒さなければいけないのだろうか。しかし皆で立ち向かったとしても勝てるかどうか。それに勝ったとしてもお花畑をどうやって独り占めできるだろうか?」
と、勇敢な若者が手を挙げて竜と会いに行くと言い出しました。
若者は山をこえ、ついに竜のいる場所へたどりつきました。
なるほどお花畑はとてもきれいで、そこに住む花たちからは甘いかおりがただよってきます。
若者は聞きました。

「竜さん。私たちはあのお花畑へいきたいのですが、あなたの前を通ってもいいですか?」
竜はこたえました。
「ええどうぞ。私はゆっくりこの日当たりのいいきもちのいい場所でお昼寝をできれば幸せなのです。」
若者はびっくりしてききました。
「ですが竜さん。あなたはあの花を独占しようとしていると虫さんから聞きましたよ。」
竜は悲しそうな顔になって言いました。
「それは誤解です。あの花はたしかに美しいですが、土地の栄養をとりすぎるのです。しかも私の鱗の上にも種を落としたり、このお昼寝場所を花を咲かすために神様が決めた場所だからどけというのです。
私が知る限り、あの花たちも私も、同じくらいのずっと昔にこの土地にやってきて以来ずっとこのままなのですが。」
「すると、虫さんのいうことは正しくはないと?」
「その通りです。虫の方からすれば花畑が広がればたくさん蜜をもらえるのでしょうけれど、私のすみかを追い出してまでやられてはたまりません。」
なるほど、と若者は思いました。
よく見ればこの竜は、ずいぶん立派な鱗をしています。金属でできているようできらびやかに光り、そしてその足元にはいろいろな変わった生き物たちが気持ちよさそうにお昼寝をしていました。
「竜さん、実は私はこういうものを持っているのですが。」
若者はふと思い立ち、手にした鉄砲を渡してみました。
竜のうろこには歯が立たないと思ったからでした。


500 :ひゅうが:2013/11/20(水) 22:52:47

「これは面白い。私の鱗と交換したいのですか?」
「そうです。」
「よろしいわかりました。交換しましょう。ですが鱗には限りがありますから、あまり持ってこられてもこまります。それに私はお昼寝をしているのが好きなのです。」
「そうですか。わかりました。」
若者は頷きました。
竜は立ち上がり、のっそのっそとそれまで寝ていた場所から横に動きました。そこにあったのは扉。
その中にはきらびやかな宝物がたくさんありました。
びっくりした若者に竜はおちゃめにウィンクして言います。
「私はお昼寝を邪魔したり、私の仲間たちを傷つける人はきらいです。
でも友達は大好きです。あなたとも友達になれたらいいと思っていますが、どうでしょう?」
若者は頷きました。
「ありがとう。」
竜も頷きました。

村へ帰ると、若者はこの出来事を話しました。
村人たちは考えます。竜の鱗は高く売れるでしょう。それに竜の宝物も手に入れられたら大金持ちです。
でもお花畑も捨てがたい。

村人の中で一番腕っぷしが強い大男の家が、竜退治をするといって出ていきます。
ですが竜は一息で大男を吹き飛ばし、竜の足元で寝ていた妖怪も「首おいてけ」とばかりに大男の家の荒くれ者どもを根こそぎ追い返してしまいました。
「あの竜はとんでもない暴れ者だ」
大男はすっかりこりたらしく、竜には近寄りたくないようでした。
ですが先の若者が通ると、竜はにっこり笑ってお花畑への道の間中、何もしませんでした。
それどころか「お元気ですか」とあいさつをしてくれ、また珍しいものを持って行くと竜のうろこをくれました。
これはいい。
若者は、仲のいい近所の友人を誘って竜のところへ出かけることにしました。
竜は決まって彼らが訪ねていくと起き上がり、楽しい話を聞きたがったものでした。

――やがて、村人たちは竜のことを気にしなくなり、こぞってお花畑にいきました。
とても美しいおお花畑は、実はある庭師の手で管理されていることを知った村人たちはこぞって花をわけてくれるように頼みました。庭師は言います。
「それは花たち自身に聞いてみてくれ」

村人たちはそうしました。
ですが、彼らは驚きます。その花には鋭いトゲがあり、またとてもプライドが高かったのです。
「私を持って行こうなどとは百年早い。贈り物をしてきたのなら私の家来として蜜を褒美に与えてやらないこともないが。」
そう聞いて、ある青年が贈り物を持って行きますが、花はそれを自分の葉で叩き落としてせせら笑います。
「こんな程度のものが贈り物とは片腹痛い。」
怒った青年は、以前自分が傘下におさめた隣村から、とてもよくきく肥料を手に入れました。
ですが、それはあまりに危険なもので、使いすぎれば花が弱ってしまうものでした。
青年は花にそれを渡してみました。
プライドの高い花はそれを受け取り、そして溺れました。
青年のもくろみ通り、花は弱り、そして少しすなおになりました。
 

501 :ひゅうが:2013/11/20(水) 22:53:20

そんな様子をみていた村人たちは、花畑へ次々に向かうようになります。
ですが、その花畑に踏み込んだ人々はその美しさのあまりに夢中になってしまう村人が多く出てきました。
しかも、肥料を渡せばかぐわしい蜜を得られるのです。
そんな人たちは弱ったことをいいことに、花を独り占めにしようと考えて勝手に線を引き始めます。
庭師が止めるのも聞かず、人々は花畑から庭師を追い出してしまいました。
しかしそうすると、花は次々にかれていきました。
なぜなら、花は放っておけば栄養をとりあってみんな枯れてしまうからです。
ほかならぬ庭師がそれをわかっていて、花たちをたんねんに手入れしていたのでした。

庭師はほとほと困り果てました。
「こうなったら、新しい花畑を作るしかないな。」
庭師は、自分が追い出した先代の庭師がやろうとしてできなかったことをしようとしました。
竜のすみかに花畑を広げようというのです。
幸い、お花畑からの収入で、竜にききそうな鉄砲は手に入れています。
「こりないですね。ならばあなたは敵です。」
竜はすさまじい力で庭師を倒してしまいました。
竜とて何も学ばないわけではありません。話し相手の若者たちの話を聞き、また、遠い村からやってきた野性味あふれる男の子の忠告を聞いてお昼寝よりも最近騒がしくなってきた身の回りに対処できるようになっていたのです。
もっとも、野性味あふれる男の子の側としては御花畑を独り占めするための小屋をたてようと、竜のお昼寝場所を横取りする魂胆があったのですが。

そして、もう一人竜のお昼寝場所を狙っている村人がいました。
村一番の力持ちの木こりです。
彼は竜など何するものぞと自慢の斧を担いで、花畑にやってきました。
いずれは竜の場所も、そして宝物も自分のものにしてやるつもりです。
「ここから向こうは私の場所。あなたはお昼寝を邪魔しないでくださいね。」
竜は庭師に言いました。
ですが、それを聞いた三人の男たち、コックと騎士、そして木こりが文句を言います。
「御花畑は私たちのものだ。あなたはお花畑の平和を乱すつもりか。その土地の一部は平和のために庭師に返しなさい。」
竜は従いました。
蜜を吸った村人たちはずいぶん大きくなっており、竜も全力で戦わないと勝てないと思ったからです。
そして木こりや騎士、そしてコックはそうして返させた場所を奪い取ります。
鋭く見えた棘は大したことがないと分かったからでした。
そんな様子をみた、花の使い走りである虫は思いました。
「これは木こりたちのもとについた方が得だぞ。」
木こりはそんな虫たちを見て、「しめしめ。いい口実ができた」と思います。
竜のお昼寝場所はかねてから花たちが自分の場所だといっていた上、虫たちが住む場所は竜のすみかのすぐそばであったからです。
木こりは虫たちを懐柔しました。

と、花たちがさわぎはじめます。
「このままでは私たちの住処が住みにくくなる。庭師よ、追い払え。」
当然そんなわけにはいきません。
庭師は暴れまわって村人たちが切り分けた御花畑を荒らします。
ですが、お昼寝を邪魔された竜や青年、そして若者たちが参加したとりもので捕まってしまったのでした。
その中でも木こりは、どさくさにまぎれて多くの御花畑を手に入れました。
「次は竜のお宝だ。」


502 :ひゅうが:2013/11/20(水) 22:54:31

木こりはまさかりをとぎはじめました。
「これはいけない。」
竜は立ち上がりました。
ですが、木こりが何かしてきたときに別の敵が現れては困ります。
「私と友達になってくれませんか?」
竜は、木こりの行動に困り顔であった青年に目をつけました。
友達である若者に仲立ちを頼み、竜はと青年は話し合います。
「いいですよ。ですが、私が困ったときはあなたが助けてくださいますか?」
「いいですとも。」
竜は安心しました。
青年は友人が多く、また村のまとめ役のようなことをしていたからです。
そして竜は木こりに向かっていきました。
木こりはあっという間に吹き飛ばされてしまいます。

「竜はあんなに強かったのか。」
村人みんなが竜に驚きました。
くだんの青年も驚きます。
しかし、竜はそれまでと同じように若者と楽しくおしゃべりをし、それに青年を加えてくれたのでした。
「これは、あの面倒な花畑よりもこの竜と友達でいる方がたのしいかもしれないな。」
青年はそう思いました。

よくよく考えてみれば、お花畑は花自身が肥料を要求してあれこれエラそうにするわりにはお金になりませんし何より楽しくありません。
村人たちが蜜を吸い取るために使う力と、蜜と、果たしてどちらが損をしているのか。
そう考えたとき、青年は気付きました。
「自分たちはあの庭師になりつつあるのだ」と。
青年は決断しました。

やがて、村の中で大きな争いが起こりました。
青年も危うくなり、は竜に助けを求めます。
竜は駆けつけました。
遠くの村の悪ガキが風邪をひきながら無理をしてやってきたおかげで喧嘩はなし崩し的に終わってしまいましたが、青年にとってはまず負けなかったことが大きな勝利でした。

「そうか。そういうことか。」
青年は気付きました。
ことの発端となったあの噂話。
「山の向こうにある宝」とは、お昼寝好きで親切な竜との間で結べる友情だったのです。
「それに――」
青年は、今までたくさん喧嘩もした間柄である若者といっしょに竜と一緒に日向ぼっこをしながら、御花畑の方を見ました。
悪がきと、騎士やコックが花畑をあらしながら言い合いをしています。
そして花は相変わらずわがままで、虫は悪口ばかりいっていました。
「ここの方が、よほど気持ちがいい。」
青年と、若者と、そして竜はにっこり笑いました。


503 :ひゅうが:2013/11/20(水) 22:55:09

【あとがき】――以上です。
かなり長くなってしまいました(汗

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最終更新:2014年01月31日 21:48