796 :ひゅうが:2013/11/23(土) 09:41:07

※一本書いてみました。SHIMAZUではありません(汗)

大陸日本ネタSS――「捨て奸―1919―」

「もしも、日本が挑んでくるのなら、わが軍は300万人の軍靴で東京を蹂躙して御覧に入れる」
「それは重畳。こちらも500万人の軍靴でロシア極東を制圧して御覧にいれましょう。まぁ両方ともに海を渡れるかという問題もありますがそれは置いておいて。」

見事な返しだった。

私は思わず大声で笑って、目の前のコダマという名の日本陸軍中将に手にした酒を勧めた。
ああこれはいつの話だったかな?
そうだ、1903年8月。場所は極東の国の帝都。私の敵情視察を兼ねた極東巡視の旅のもとで訪れた歓迎会の席上――

「閣下――閣下!!」

ロシア帝国陸軍総司令官クロパトキン元帥の意識は、真冬の雪原の馬上で即座に覚醒した。
視界には、騎兵軍団。
はるかかなたに翻るのは、赤い旗。

「閣下。敵は我らの陽動に食いつきました!」
部下であるコサック騎兵大佐が興奮を隠しきれないように言った。
「そうか。」
そうだ。今は1903年8月のトウキョオではない。1919年2月のコーカサスだ。
いずれにせよ自分の双肩に祖国の命運がかかっていることは間違いないのだが。

「わが軍は予定通り?」
「は。ジェネラル・アキヤマから『受領完了』の電文が入っています。」

アキヤマ。
その名前にクロパトキンは苦笑した。
コダマ参謀総長とのやりとりを思い出したのはそういうわけか。
なるほど今度の大戦でも指揮をとったと聞いているし、今回の作戦を実行できたのも、彼の伝手があったからこそだった。

「わが軍の軍民あわせて500万は脱出に成功――ウクライナ正面へ向けて『撤退』するとはさしもの赤軍も思うまい。常識的に考えれば南からモスクワを強襲しようとするコーカサス軍団に合流しようとするはずだから。」

ウランゲリ中将には酷なことをやらせてしまったがな。とクロパトキンは思う。
だが、もはやモスクワを固められた今となっては祖国を赤い魔の手から守り抜くのは不可能だ。
皇帝陛下を遠くエカテリンブルグに送られてしまい、軍と分断されてしまったことも致命的である。
だからこそ、クロパトキンは祖国の「魂」と「ちから」を生き残らせることにした。

ボルシェビキの手で、「政治的に信頼できない」として対ポーランド戦の前線で使い潰されることになっていた帝国陸軍の虎の子「親衛軍団」に帝政派の将帥を集め、かつ機会をとらえて欧州へ「亡命」させる。
受け入れ担当は、日本帝国陸軍遣欧総軍。
彼らが守るあの極東の大陸ではさしもの赤軍も追ってはこられない。あの天険の地で祖国再興の時を待つのだ――

おそらくはボルシェビキは日本人に加え、欲に目がくらんだアメリカ人との直接対決を避けるために極東を切り離し緩衝国家を作るはずだ。
我々は、可能ならロマノフ皇室の影響力をそこへ行使し、祖国への帰還に備える。
それがクロパトキンの描いた未来像だった。
そのためには、日露戦争の結果更迭された自分が帝政への不満を口にしていること、そして陸軍の帝政派への抑えとして陸軍を一時的に統帥できる立場が必要だった。
だからこそ、彼は血を吐くような思いで現政権への不満を口にし、もてる限りの権謀術数を用いてまんまと「臨時ロシア軍総司令官」の地位を手に入れていた。

そしてその仕上げは、コーカサス軍団を率いてのモスクワ強襲を匂わせ、騙されて怒り狂い、また恐怖する赤軍をこの地へ釣り上げることだった。
母なるボルガを渡り、反体制派の巣窟と化していた親衛軍団と合流しロシア帝国復活を図られるのはモスクワの革命政権としても避けたい。

そのため、コーカサスには革命軍の軍事部門のトップであるレフという名の男が200万の革命軍とともに向かっていた。
対するのは、ボルガ・コサック軍団とコーカサス・コサック軍団。
数としては10分の1がせいぜいだろう。
だが――

「生きてみせるさ。私は後退防衛戦は得意なんだ。」

だからあとは頼んだぞ。コダマ。皇帝陛下を――


ロシア内戦、その最後の戦闘として伝説となった「コーカサス撤退戦」が、はじまる――
この3日後、特殊部隊がエカテリンブルグを強襲。ロマノフ皇室の末裔の救出に成功することをクロパトキンはまだ知らない――

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最終更新:2014年02月04日 23:32