247 :ひゅうが:2013/12/01(日) 12:45:05

大陸日本ネタSS――「戦艦QEヲ量産セヨ!?」

――1907年8月某日 英国 「日英合同新戦艦設計会議」

「はっきり申し上げますと、私どもが求めているのは強力な主砲と装甲、そして速度性能の三位一体であります。そのためには少々の大型化と費用の高騰はやむを得ないものと考えております。」

近藤基樹技術中将が口を開き、申し訳なさそうながらも断乎たる口調でそう明言した。

「ではコンドウ閣下。貴国が試験した38センチ砲は搭載されないと?この艦体規模であれば38センチ砲を8門搭載しても十分間に合います。開発中の41センチ砲も――」

「その通り。ああ、理由は今から申し上げます。」

ヴィッカーズ社や大英帝国海軍の技師たちが不満そうな顔をしているところに近藤は笑いかけ、横に座る少し目つきの鋭い男性に向けて目線で合図を送った。
眉間にしわをよせているフィッシャー卿をはじめとする英国側の高官たちも、とりあえずは日本人の言い分に耳を傾けるつもりであるようだった。

「わが国が経験した日本海海戦において、戦艦『初瀬』は控えめに言っても大破寸前の状況でありました。」

何枚かの写真が配られる。
そこには、天蓋を叩き割られた後部主砲塔の姿があった。
声にならないうめき声が満ちた。

「ご覧になってもわかるように、この惨状は砲塔天蓋と水平甲板に向けて30センチ(12インチ)主砲弾が降り注いだためです。日本海海戦において砲戦の距離は6000を超えました。
追撃戦においては1万2000で撃ちあった例もあります。今後の砲戦距離が伸長する傾向にある以上、我々は『大仰角で降り注ぐ大重量砲弾』を警戒しないわけにはいきません。」

ぐうの音も出ない話だった。
簡単な物理の知識がなくともわかる。野球などで外野に降り注ぐ打球と内野主がとる打球のどちらが高い角度かと問われれば当然のことであるからだ。

「さらに、わが軍は優れた速度をいかしてバルチック艦隊を包囲いたしました。しかし、装甲巡洋艦などにも大きな被害を受けています。戦艦なみの装甲を施していたためにこの程度で済みましたが、今後は同様の幸運は期待できません。」

装甲巡洋艦「出雲」という題の写真をトントンと指で叩きながら平賀という名の技術者は周囲を見渡した。

「わが軍の勝因は『高い機動力で包囲を実施できたこと』とする貴国の分析は正しくあります。しかし、装甲を軽視すれば恐るべき奈落へ落ち込むことになるのです。
下手をすれば、中盤でわが軍が行った水雷戦隊による突撃によって一気に5隻の戦艦が沈んだように大重量徹甲弾に砲塔を叩き割られて一撃轟沈するかもしれません。」

「そのために、大型化を甘受しても速度・砲撃力・装甲の維持を図りたい。それが日本海軍艦政本部の一致した意見であります。」


248 :ひゅうが:2013/12/01(日) 12:45:38

――日英合同の新戦艦設計会合。
日本海軍が発注を決定した新型の超弩級巡洋戦艦の設計に伴い、日本海軍は60人もの設計技官と技術者たちを渡英させた。
同時に携えられていた「試製36センチ砲・試製38センチ砲」の試験結果をみて英国側は色めき立つ。
これを利用すれば、強力な14インチ…ことによると15インチ砲戦艦が作れる!と。
そのために出されたラフプラン「15インチ砲8門搭載の巡洋戦艦案」は日本側に一蹴されてしまう。
日本海海戦の結果から日本海軍が手にしていた戦訓を前にして、英国側は鼻白む。

結局のところ日本海軍は自分たちが満足のいく「巡洋戦艦という名の高速戦艦」としての「金剛」型巡洋戦艦を手にした。
英国にとっても水平防御の強化と対魚雷防御の強化は見るべき意見であり、のちにクイーンエリザベス級といわれる8隻の巡洋戦艦にはこれと同様の対策が施された。
しかしながら、それ以前の主力艦に対策は限定的にしか施されず、現場の速度至上主義とも合致しなかった。
このためユトランド沖海戦ではわざわざ高速性能に優れた(竣工間もないクイーンエリザベス級たちの錬度を危ぶんだこともあったが)グランドフリート旗艦「アイアン・デューク」に乗艦していた首脳陣が一撃で全滅してしまうという悲劇を生んでしまっている。
しかしながら、金剛型同様の対策が行われていたクイーンエリザベス級は大量の敵弾を浴びながらも全艦健在であり追撃に参加できていることから、本級の建造経験は英海軍の勝利に大いに寄与したともいえるだろう。


249 :ひゅうが:2013/12/01(日) 12:47:49

【あとがき】――「主は問われた、『汝らは何者か』。かれは答えた。『我が名はレギオン、我々は大勢であるがゆえ。』」 新約聖書マルコによる福音書より
というわけで、チート化したQEを大量生産させてみました。
インスピレーションを下さったyukikaze氏ありがとうございました。

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最終更新:2014年02月23日 01:15