30 :わかる?の人:2014/05/13(火) 00:30:06
【ネタ】戦略的劣勢下におけるアメリカ空母マフィアの苦難(4)


――俺、なんでここにいるんだろうな…
ウィリアム・ハルゼー・ジュニア海軍大佐――最近、海軍の特殊兵器(要するにトンデモ兵器の一群)の第一人者という風評がついていたらしい。それを聞いたハルゼーは何故か気が遠くなって倒れかけた――は、厳めしい表情を意識的に作りつつ、前方の海面をにらみつけていた。
座乗するのは雷装巡洋艦トラクスタン。主兵装と言うことになっていた12インチロケット弾投射基を就役早々取り外し、代わりに幾ばくかの6インチ砲と魚雷発射管を搭載する改装を受けることで、目出度く軽巡洋艦に再分類された軍艦である。
その彼女は今、新たに開発された画期的新兵器――近頃のハルゼーにとっては『画期的』という言葉はもはや呪いの言葉に等しいが――の実証試験を行うべく新機材を搭載し、ここアメリカ西海岸沖合の洋上を航行していた。
試験海域の策定においては、周辺国の島嶼から離れており、また航行する船舶等の航路から離れていることなども考慮し、慎重に検討された。
アメリカ本土中枢の東海岸側は船舶の航行量が相応に多い上、『あの』イギリス寄りの海であったため避けられ、比較的条件の良い西海岸側が選択された。カリブ海も同様である。アメリカ海軍当局は、イギリスがもつ外套と短剣を操る手――その高い情報収集能力を、決して忘れてはいなかった。
ただ、アメリカ合衆国建国前から続く英国、ひいては大英帝国による世界覇権に対する隔意が根底にあったことはけっして否定は出来なかったのも確かではあるが。
――ああ、日英が羨ましいな。彼らは秘匿しやすい海域には事欠かんのだから。
彼らが試験すべき新兵器は、アメリカ海軍にとっても最大級の秘密兵器――抑止力とするため、長射程の新型魚雷の開発に成功したという噂は流されているが――に、さらに画期的機能を取り付けたもの。どれほど注意を払っても払いすぎということはない。
「よし。周辺海域に船影はないか?」
予定海域に到着後、試験開始の命令が下ったこともあり、内心わりとどんより気味に念のための確認をしたハルゼーである。
「問題ありません、艦長。哨戒中の駆逐隊からも、聴音機も反応無しとのこと」
「そうか。じゃあ、試験を開始するか…」
さっきまで、周辺海域に国籍不明の潜水艦が紛れ込んでいてこの試験が延期されないかなあ、と思っていたのはさっさと心のくずかごに捨てたハルゼーであった。
――海況は波高3フィート程度。初の実証試験としては理想的とは言いがたいが、より実戦に近い条件で試験できると思えばいいだろう。
「副長、試験班へ、試験開始を号令せよ」
「アイ・サー。試験開始を号令します」
「航海長、西側から回り込む。標的船への射界とれ」
「ようそろ。20ノットへ増速、取り舵。進路0-2-0!」
「20ノットへ増速、取り舵、針路0-2-0、アイ!」
水平線上近くに見えていた標的船――実態は廃棄予定の商船ではあるが――がぐぐっと大きくなったような気がした。実際には17000ヤードほどの距離があるので、それほど顕著に大きくなったわけでもないのであるが。
――悪くない。このときばかりは、悪くない。畜生、航空機のことなんか忘れちまいそうだ!
「標的船との距離、読み上げろ。砲雷撃戦用意」
「アイ。距離、16400……16350……」
「水雷長、雷撃距離、16000だ。ただ今回ばかりは、測的ドンピシャはいかんぞ。新兵器とやらの実験だからな」
「アイ・アイ・サー。それは残念です!」
「実験班より報告。万事順調。いつでもいけます」
「よろしい。撃ち方始め!」
「16050……16000!」
「アイ。目標、標的船、撃ち方始め!」
どこからか太い管から空気が打ち出されるような音が幾度か響き、続いて重く長いものが水中に落ちる水音がいくつも響いた。
それに続いて水雷長がストップウォッチをスタートさせたカチリという音が微かに聞こえた。
訓練ならば即座に敵艦艇との対処に戻るところなのだが、これは実験兵器の動作実験。
「新兵器の様子はどうだ?」
「アイ。全機…機関始動を確認。調停深度に浮上。直進していきます。順調に馳走中…航跡消えました!」
「うん、ここまでは順調だな…」
――これだけだったらまだいいんだがなあ…

31 :わかる?の人:2014/05/13(火) 00:30:57
魚雷。
海上戦闘に於いて、小よく大を制すを実現しうる兵器として、主に小型艦艇に搭載されている。(戦艦にも搭載されてはいたが、後述の理由で実用性が薄れたため、近年は改装を機に撤去されることが多い)
その攻撃力の秘訣は、敵艦が水線上に備える艦砲や装甲板といったあれこれを無視し、海中から艦の柔らかい下腹を食い破り、船としての『浮く』能力を喪失せしめんとする点にある。
この当時に於いて、魚雷といえば、内燃機関を用いて推進する熱走式魚雷が主流である。
搭載した燃料――石油燃料やアルコール燃料の類――を内燃機関で燃焼し、発生したエネルギーでドライブシャフト、ひいてはスクリューを回して魚雷を推進させる、というのが基本的な構造である。燃焼により必然的に発生する排気ガスは海中に排出される。

ところで、内燃機関にて燃料を燃焼させるには何らかの酸化剤が不可欠であるが、魚雷は海中を航行するものだ。
では、魚雷の内燃機関は酸化剤をどこから手に入れるのか?
答えは簡単。
空気を圧縮して高圧ボンベに貯蔵し、魚雷にあらかじめ積み込んでおくのだ。
この原理故に、魚雷の航続距離は、搭載できる燃料と圧縮空気の容量によって上限が決まるといえる。

実にシンプルであるが、ここにこの当時の魚雷の最大の問題点があった。
限られた魚雷内の空間を割いて搭載されている圧縮空気であるが、この成分中で、内燃機関での燃焼に直接寄与するのは、1/5ほどしか含まれていない酸素だけなのである。
酸素を除いた残りのほとんどを占める窒素は燃焼に寄与しない。それどころか、排気ガスとして海中に排出された際、海水にほとんど溶けようとせず、気泡の群として浮かび上がる。燃焼で出来た二酸化炭素や水蒸気のほうは海水に良く溶けるのにである。

纏めるとこうだ。
空気を使う以上、役に立たない窒素も一緒に持って行くので無駄に容積が食われる上、排出された窒素が海中で気泡となるため、雷跡――魚雷が通ったあとにできる航跡――が非常に目立つ。これだけみると、魚雷にとっての窒素は無駄飯喰らいにも見えるだろう。

好敵手である艦砲のほうは欧州大戦前から有効射程が伸びつづけていたが、魚雷のほうは上記の原理上の問題のために有効射程を伸ばす余地は年々小さくなっていった。
最も単純な解決策として、魚雷そのものを大型化するという手段もある。実際にアメリカ海軍などが採用した方向性ではあるが、魚雷が巨大化して艦艇側の設備負担が大きくなる割に、射程の伸びが今ひとつ少ないというのが実情であった。大雑把に言って、増やした容積の1/5しか酸素搭載量が増えないからだ。
出来るだけ搭載できる空気を増やすためにボンベのさらなる高圧化を進めるにしても限度というものがある。実際、高圧に耐えるボンベの製造は魚雷の生産工程に於いて隘路になりがちなほどであった。
こういったこともあって、魚雷の有効性は相対的に減少しつつあったのである。

これを見れば、窒素などを排除して純粋な酸素だけ搭載すればよいのではないか、と考えるのは当然の流れである。
これが実用化できれば、ボンベの中身が100%酸化剤になって効率が上がり、窒素などという余計なものが燃焼室に入らないため内燃機関の燃焼効率も上げられ、ひいては魚雷の高速化・長射程化に繋がり、さらに弾頭の大型化も達成できるであろうし、おまけに排気ガスに含まれるのが二酸化炭素と水蒸気だけになり海水にすぐ溶けるため雷撃しても目立たない。理屈の上では正にいいことずくめである。

このため、各国ともに酸素魚雷こそ理想の魚雷と考え、研究開発に邁進した。
しかし、純酸素というありとあらゆる可燃物を恐ろしい勢いで燃焼させる危険物――大気中での"ただの可燃物"が一種の爆発物にもなり得るほど――を扱ったがために、開発中に爆発事故を多発させることとなり、ごく一部の例外を除いて、ほとんどの国は開発から撤退せざるを得なかったのであるが。

32 :わかる?の人:2014/05/13(火) 00:31:31
この当時、アメリカ海軍は多額の開発費と優秀な頭脳を可能な限り投じた報償として、そのごく一部の例外となりえた海軍の一つであった。
その原動力には、日英同盟という余りに巨大な仮想敵国の存在があった。
20対10。
アメリカと、日英同盟陣営との主力艦艇保有排水量枠の比率である。
質的優位は同等としてランチェスターの第2法則に当てはめて単純計算すると、アメリカ海軍の主力艦部隊が完全消滅するまで勇戦敢闘したところで、日英海軍は8割以上の主力艦が残ることになる。
この計算は『ある日いきなり一箇所に戦力を集中して何も考えずただただ全力で殴り合ったら』という仮定上のものでしかなく、端的に言っても極めて乱暴なものではあるが、倍の戦力というのがどれだけの心理的影響をもたらすのかの一例にはなる。
アメリカは開戦から5年もすれば開戦前の数倍の艦隊をそろえられるだけの潜在国力を持ってはいる。
だからといってひとたび艦隊主力に大打撃を受け、さらに相手には余剰戦力が十分残っている、という危機的状況に陥った場合、その戦力整備すらままならなくなる可能性は考えられた。
日英に対して一方的に軍拡を先に進めてからの開戦であれば十分に対抗は可能だと考えられたが、そもそもあのイギリスがそのような事態を見過ごすことなど有り得ないと言っても良い。
とすれば、当面は防戦に徹して艦隊保全を第一とし、新造戦艦が竣工するまでの間はひたすら時間を稼ぐしかなく、しかしながらそれは基本的に受け身の戦略であって戦略的イニシアチブを放棄するのにほぼ等しい、という悩みどころがあった。
つまり、他の列強国から十分に離れた立地条件と強大な工業力を両立したそれなりに恵まれたこの大国は、戦略的な劣勢下にあり、それを覆す事が出来ずにいる。そういうことになるのだった。
だからこそアメリカ海軍は、質的有利の確立によって劣勢の主力艦戦力を補うことを目指し、画期的兵器の研究開発に日夜邁進し続けていたのだ。

そうして酸素魚雷という、当時における理想の魚雷の開発に成功したアメリカ海軍ではあるが、そこでさらに考えてしまった。
『これで2倍の戦力比を覆すことが出来るだろうか?』と。
排水量枠比が1.2倍程度であればまだしも、2倍である。
実排水量ではきっかり2倍ではないし、アメリカは空母枠のおおかたを使った航空戦艦も保有しているから額面上はそこまでの差はないとはいえ、大幅に劣勢なのは否めなかった。
アメリカ海軍作戦本部で誰かが叫んだ。
『この程度で満足してはいられない!もっと画期的で、もっと革命的な兵器を開発せねばならない!それこそが、我がアメリカ海軍が祖国に示さねばならない義務だからだ!』
後の世でいわれる、米国面の発露、その全力回転開始の瞬間であった。

長射程・高速・大威力と三拍子のそろった酸素魚雷の開発に成功したアメリカ海軍だが、酸素魚雷にはそれ単体では解決できない根本的な問題がある。
射程の長さである。
これは冗談で言っているわけではない。
有効射程が飛躍的に長くなったからこそ、命中率が激減し、故に魚雷一発毎に期待できる破壊効率ががくりと下がってしまったのだ。
艦砲の有効射程が伸張した際に行われたように、雷撃に関わる各種機材――方位盤や発射指揮盤、艦によっては射法盤等――の整備と改良によってある程度は改善されうるし、戦術面での研究も進みつつはある。
しかし魚雷という兵器は、艦砲のように連続して射撃しつつ適宜修正していき命中を目指すといった、試行回数が比較的豊富に持てる兵器ではない。雷撃とは基本的に、一発こっきりで当たるか外れるか、という面が強いのだ。
そのため、この長射程を生かしつつ実戦に於いて実効的な戦果をあげるには、大規模な水雷戦隊で統制された雷撃を行う必要があった。
幾度か行われた演習と、確率論的な演繹によって得られたその結果は、米海軍にとってもいささか認めがたい事実だった。
だがもしもこの、強力無比の酸素魚雷に、高い命中率を与えることが出来たのなら。
アメリカ海軍を苦境に追いやっているこの現状は一変する。そのはずである。

33 :わかる?の人:2014/05/13(火) 00:34:47
故に、アメリカ海軍が求めたのは、『誘導能力を持つ酸素魚雷』であった。
後の時代ではごく当たり前に存在する誘導魚雷ではあるが、この当時では未だ誰もなしえていない、正に不可能への挑戦であった。
誘導兵器は、最も簡単なものであっても、検知機構にて目標の方角を検出し、自己をそちらへ誘導する機能が必要となる。
先に述べたとおり、魚雷は海中を進むものである。
この時点で、使用できる捜索手段は、海水を伝わる音――たとえば敵艦の機関音など――を使用する音響方式しかなくなる。
当局は音響誘導について検討したが、これはこの当時の技術水準では到底不可能ではないかと思われた。
自らに搭載された内燃機関が純酸素を使用して轟音を立てて燃焼している傍らで、遠方にいる敵艦が発する音を拾い出すなど、この当時の処理技術では困難どころではなかったためだ。
全力運転する蒸気機関車の真横で、1マイル先を闊歩する馬の蹄の音を聞き分けろ、というようなものだ。
誘導酸素魚雷の開発は、あっという間に暗礁に乗り上げたかと思われた。
だがアメリカ人らしく不屈の意気にあふれた男達は、決して諦めなかった。
彼らが解決方法を求めて無数の資料をあさった結果、一つの情報が発見された。
それはかつてのアメリカの発明家がとりあえず思いついてとった古い特許だった。
特許としてのそれはすでに失効していたが、発想自体には確かに魚雷を誘導可能にするだけのものがあった。
そうして、アメリカの技術の粋が結集され、秘密兵器が遂に産声を上げた。

ボシュロム社製双眼鏡で魚雷の行方を捜していたハルゼーだったが、雷跡がまったく見えないのでは見つけようがなかった。
――ウーム、とんでもない速度で馳走してるはずなのにまったく見えん!これはたいしたもんだ!…ここまではな。
そろそろ起きるであろう光景を想起して、彼はこめかみをそっと押さえた。
その時、海の青で覆われていた海面を切り裂くような、目立つ白のラインがいくつも浮き上がるように生じた。
「マスト、展開しました」
「アンテナカイト、展開…飛翔状態に入りました」
「試験班より連絡。新型魚雷は我が制御下にあり、以上」
――なんで魚雷が水上にマストを展開して、そこから凧を飛ばすんだよ!訳が分からんのだが!
ギリリと奥歯をかみしめながら、ハルゼーは周囲で任務に精励する士官達を見渡した。
彼らも何か言いたいことがあるのだが、任務に没頭することでそれを押さえつけている風情だった。

それは、電波式無線誘導魚雷である。
アメリカ海軍は、酸素魚雷を誘導化するに当たって、電波によって母艦から遠隔操縦する無線操縦方式を採用した。
1930年代当時という時代の技術水準からしても、技術的な実現性と機械的な信頼性の両方を満たしうる、堅実な選択であった。
誘導電波を受信するため、アンテナを海上に露出させねばならず、酸素魚雷が持つ隠密性を失うというデメリットはあったものの、無線誘導により命中率が飛躍的に向上するのであれば問題ないと判断された。
ただし無線操縦方式には、操縦者が操縦対象を見失った時点で、実質的に誘導不可能になる原理的な制約があった。
魚雷の無線操縦化という発想が最初に生み出された1900年代の魚雷は、射程は雷速を押さえてようやく3000m程度、雷速をあげると射程が数百mに落ち込むという代物だったため、魚雷位置の把握は不可能ではなかったのだろう。
その当時の魚雷は、スクリュープロペラを回す動力源に圧搾空気が開放される際に生み出される圧力そのものを使用していた。排出される圧搾空気の泡が雷跡をなす上に、短い発射距離も相まってそれなりには判別できたのだと思われる。

34 :わかる?の人:2014/05/13(火) 00:36:35
しかし今回対象となる魚雷は、それらと比べて、射程は一桁上、雷速はほぼ倍で、さらに雷跡がほとんど見えない酸素魚雷である。単純な無線誘導化では、魚雷位置を早期に逸失し、誘導に失敗することが考えられた。さらに射程が長いことは、母艦からの誘導電波を捕らえづらくなるということでもあった。
この問題に対して、アメリカ海軍はある意味で非常に合理的で、ある意味で何を考えていたのだ、という方法で解決するに至った。
魚雷本体から洋上へマストを伸ばし、そこからさらにアンテナ兼現在位置マーカーとしての凧をあげるのである。
誘導母艦には十分な光学的観測能力(アンテナカイトを認識するため)と通信機能(誘導電波を出すため)の二つが要求されるが、アメリカ海軍はこれらを両立しうるプラットホームをすでに保有していた。
ベインブリッジ型雷装巡洋艦である。
もともとオマハ型軽巡洋艦を原型とした本型は、低い復元性と引き替えに高い艦上構造物を持っていたし、さらにかつてロケット投射艦だった頃には、ロケット弾射撃管制のための光学測距儀を前檣・後檣に備えていた。後檣の測距儀は雷装巡洋艦に改装される際に撤去されていたため、光学観測機器を追加することは可能だった。また船体の規模がそれなりにあったため、誘導用の電波設備を備えることもできた。
ベインブリッジ型二番艦であるトラクスタンが新兵器の実地試験に選ばれたのはそういった事情からだった。
その経歴になにがしかが追加されてしまう艦長に取ってみれば、厄介ごと以外の何物でもなかったが。

「5、4、3、2…命中、今!」
水雷長の報告があった。
一瞬の時を於いて、水平線のまぎわに浮かぶ標的船の舷側に、水柱が生じた。
今回使用された試験魚雷の弾頭は、命中数を判定しやすくするために、水柱が確実に上がる程度へ炸薬量を減らしたものだった。炸薬をフルロード状態とした場合、今回の標的船程度ではあっという間に撃沈してしまい試験結果を確認できない恐れがあったためだ。
「…命中、2。成功ですな」
「そうか。そのようだな」
発射した四発中、命中二発。
命中率50%は、この距離からの単艦の雷撃としては、脅威的に高いといえた。
しかしハルゼーの顔は冴えなかった。
――このまま改良すればいい兵器になるかもしれんが…だが俺は、ただまともな空母を指揮したいだけなんだ!ああ、畜生!海軍作戦本部なんか今すぐ爆発しろ!
先進的ではあるが奇抜ではない海軍高級士官であるハルゼーは内心、自らをこのような境遇に至らせたすべてに毒を吐いていた。
しかしながら、彼は自らの社会的地位を否定するつもりはなかった。
彼は正しく骨の髄まで、海軍軍人であったからだ。
しかし、後の創作物において『ハルゼー』と呼ばれる登場人物がどういった扱いをされるのか分かったものではなかったが。


なおこの当時、日英両海軍はアメリカ海軍に先駆けて酸素魚雷の開発に成功していたのだが、彼らは酸素魚雷が必然的に持つ整備性の悪さ――使用前に配管から徹底的に油脂分等を完全に除去する必要があり、これには通常数日かかった――が判明するにつれて実戦化を断念。より高い実用性を持つと考えられていた過酸化水素・アルコール燃焼式魚雷などへ開発の軸足を移していた事を付記しておく。

Mk.14 Mod7
重量 5550ポンド(2517.4kg)
全長 27フィート8インチ(8.433m)
直径 24インチ(60.96cm)
射程 15000ヤード(46ノット時)
   21000ヤード(40ノット時)
弾頭重量 990ポンド(450kg)
炸薬 RDX/TNT
誘導方式 電波による遠隔誘導
マスト長 折りたたみ式、展開時250インチ(635cm)
アンテナ長 伸縮式、展開時最大20ヤード(18.2m)

アメリカ海軍が実戦化した酸素魚雷、Mk.14を母体とした史上初の誘導長魚雷。
ただし誘導に関わる各種機構を内蔵する必要上、内部設計は他のMk.14ファミリーと異なる部分が多く、整備保守上も別の扱いとなっていた。
無誘導型のMk.14と比べて弾頭重量・有効射程等は低下しており、またマストおよびアンテナカイトの展開のために酸素魚雷特有の隠密性が失われるといったトレードオフ事項はあるものの、遠隔誘導による高い命中率が期待できるという点で多大なメリットとなると考えられた。
誘導機能を使用しない状態での雷撃を行う機能もあり、その場合マストは展開されず、通常の酸素魚雷として機能する。ただし本機能を有効にするには、魚雷を発射管に装填する前に抑止ピンを差し込む必要があったため、実質上訓練でしか使用できなかった。

35 :わかる?の人:2014/05/13(火) 00:39:29
はい、超下手物でございます。
誘導対象となる魚雷は母艦の光学観測能力及び電波管制能力に依存しますので、1本単位で無線誘導するのはこの当時の技術では不可能です。
このため、実際にはある程度の数をまとめて1単位にして、それぞれを誘導することになるわけです。
雷撃戦の規模が大きくなればなるほど誘導が困難になるという…

この実証試験時は4線を2本ずつに分けて、それぞれ凧を赤と白に塗り分けて識別して誘導しておりました。
誘導係が基準としていた2本がうまく命中したわけですね。
実戦がもしあるとしたら、誘導数は4本中2本ではなく、より大雑把になるでしょう。

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最終更新:2014年05月18日 22:18