412 :わかる?のひと:2013/12/23(月) 00:55:15
【ネタ】戦略的劣勢下におけるアメリカ空母マフィアの苦難(3)


――なんでこうなった。
ウィリアム・ハルゼー・ジュニア海軍大佐――アメリカ海軍の航空派高級士官は、いわゆる戦艦派と比べて昇進がいささか遅い。決してハルゼーが今の海軍の軍備方針に対して批判的であるからではない。建前上は――は歯を食いしばって、漏れようとするうめき声を押し殺した。
新造艦トラクスタンの露天艦橋からこの艦が備えた新型主兵装を見下ろしつつ、新造艦の艦長に推挙されたことを誇るべきなのか、それともどう見てもやくざな新型艦の艦長に島流しに遭ったと嘆けばいいのか、どうにも判断がつかなかった。本来の艦の規模と階級の釣り合いを考えるに、後者の方が正解に近いと思われるが。
「ふう…」
どうしていいかさっぱり分からない感情をため息の形ではき出すと、航海長との雑談に興じることにした。
「なあ、あれは使い物になるのかな?」
「あれですか…どうでしょうな。当たれば大きいですが。一番艦の実績を見るところ、弾道の安定に問題があるようです」
「だろうなあ。弾道が安定してる砲だって、そうそう当たるもんでもないしなあ。魚雷だってそうだ」
「驚きですな。艦長は航空畑とばかり思ってましたが」
「おいおい。俺はこれでも元は水雷畑だったんだぞ。まぁ航空畑に移籍してから鳴かず飛ばずだがな?困ったもんだ」
「ああ。アンティータム型オカマ戦艦…もとい航空戦艦が建造されたからこっち、大変なようですな」
「まあな。そんで、主兵装が空母と同じ『空を飛ぶもの』だからってこの艦の艦長に任じられたわけだが…」
「ははは。しかしまあ、艦長の人選がそれでいいんですかね?飛行機とアレじゃあ、違いすぎやしませんかね」
「俺もそう思う。だがそれは、まったく新しい種別の艦だからこそ、方針が固まっていないともいえる。つまりこれからの俺たちが、この艦種の未来をきめるってわけだ…たぶんな」
「…ものは言い様という気もしますが、それは」
「…うん。今のは俺も無理があると思った」

20対10という、日英海軍との圧倒的なまでな差がつけられた主力艦排水量枠。
それは、世界三大海軍の一角を占める栄光あるアメリカ合衆国海軍の軍備計画を様々な意味で歪めていた。
もしも日英との戦端が開かれた場合、圧倒的といえるまでの正面戦力比に対して、どのようにして戦うのか?
日英同盟陣営との全面総力戦争を想定したレッド・オレンジ計画の概略はこうだ。
当面の間は防戦一方として日英海軍をなんとしてでも押しとどめ、それによって稼いだ時間をもって、アメリカが潜在的に持っている高い工業力により建造された新造艦艇の群れをもって反攻する。
後者については大きな齟齬はない。(アメリカ当局による日本の生産力見積もりが、大幅に甘いものだったことはさておくが)
しかし前者の、日英海軍主力をどうやって押しとどめ、アメリカ本土近海の安全を保つかというのは大きな問題であった。
これについては、アメリカ海軍だけでなく陸軍まで巻き込んで、正に百家争鳴な状況であった。
そもそもこの当時、シーパワーというものは、洋上において活動可能な兵器プラットホームの数と質によって要約されうる。
その最たるものは戦艦・重巡洋艦によって代表される砲戦軍艦であり、また駆逐艦や軽巡洋艦によって代表される水雷戦軍艦であった。
しかし、海軍軍縮条約によってそれらの保有枠が制限されている現実が、アメリカ海軍を悩ませ続けていた。

なお、海軍軍縮条約に於いてそれぞれの艦種の分類は、主に備砲の口径と排水量によって規定されている。
ここでアメリカ海軍の一部秀才は考えた。
『砲でもない魚雷でもない強力な兵器を主兵装として搭載した艦なら、軍縮条約にかからないんじゃないか?』と。
またもや頓知である。
人間、追い詰められると何を考えるか分からないという好例であった。
アメリカ海軍の正気はだんだん失われているようである。

413 :わかる?のひと:2013/12/23(月) 00:56:31
その結果、産まれたのが、このベインブリッジ型ロケット投射艦であった。
まごう事なき珍艦である。
主兵装は、発射するのが『砲でも魚雷でもない』ことを示すため、GunでもCannonでもTubeでもなくロケット投射機(Rocket Projecter)と呼ばれている。
確かに、ある意味で画期的な艦種であった。
「しかし、我が海軍はどっちに行きたいんだ?」
そのハルゼーのつぶやきが意味する方向的な意味で。


ベインブリッジ型ロケット投射艦『ベインブリッジ』『トラクスタン』『マシュー・ペリー』『ヘンリー・ベル』『アイザック・ハル』『スティーヴン・ディケーター』

基準排水量 6,800トン
全長 169.4m
全幅 16.9m
機関 重油専焼水管缶八基、ギヤード・タービン四基、四軸推進
最大出力 90,000馬力
最大速力 35ノット
兵装 Mk.1 12インチロケット弾投射機単装五基

概略
例によって、戦略的劣勢下で正気をどこかにやってしまったアメリカ海軍戦艦マフィアが思いついた『砲門数で負けているなら、砲じゃない強力な兵器を載せた軍艦で穴埋めすればいいじゃない』から産まれた、大口径ロケットを主兵装とする軍艦。
船体はオマハ型巡洋艦を元にしており、排水量枠では巡洋艦に分類される。主兵装は口径12インチではあるが、砲ではなくロケットである。故に軍縮条約に違反しない。いいね?

使用されるMk.1ロケット弾は、この時代としては先進的なフィードバック機構のため、一応ながら姿勢安定が取られており、命中しさえすればその炸薬量もあって大型艦ですら大打撃を与えられると考えられていた。命中しさえすれば。
搭載した推進薬を(砲と比べて)徐々に燃焼させその反作用を推進力と為すというロケットの原理上、砲弾と比べても弾体が大型化したため、艦に搭載できる数も限られていた。また砲弾と比べても風の影響を受けやすいなどの要因で弾道がそれほど安定しないこともあって、その命中率は対艦兵器としては燦々たるものであった。
なお、ロケット弾の弾体が大口径であるため、弾薬庫から個別に揚弾してきた弾頭部と推進部を投射機上でボルト結合する方式を採用している。このために投射間隔の基準値は1発/3.5分程度となっている。
このような微妙な軍艦を思わず6隻も建造してしまったアメリカ海軍であったが、この当時の技術の限界からくる極めて低い実用性の前に屈し、早々に本型を雷装巡洋艦へと改装している。

おはり

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最終更新:2014年05月21日 22:21