589 :ひゅうが:2013/12/17(火) 20:42:43


大陸日本世界ネタSS――戦間期の大陸日本 間話「家を要塞化して引きこもる~経済編~」



――西暦1922年、世界は復興景気に沸いていた。
ことに欧州大戦(第1次世界大戦)の惨禍を直接受けなかった日米は大戦前と後でその国力を著しく増大させていた。
アメリカ合衆国は欧州の直近であることから主として食料品の輸出で富を蓄積し、さらには自国の中華民国「支援」に伴って開拓に成功した巨大な市場へありとあらゆるものを売り払っていた。
中立法という盾があったために欧州へ直接軍需物資を売り払えなかったことは残念であったが、自国軍が消費した軍需物資分でその埋め合わせは十分できたと彼らは考えていた。

日本帝国は、日露戦争後の内需拡大策に大戦によって発生した船舶需要や兵器需要、そして豊かな資源地帯を域内に抱え込むがために「連合軍の兵器工廠」としての役割を存分に果たすことができた。
何しろ大英帝国は日露戦争の戦訓を受けた火力戦を試みており、インドの現地生産や英本土の工業力では足りないものの方が多い。
そしてフランスはとりあえずなんでもまとめ買いをするという具合で水雷艇50隻まとめ買いや輸送船団4編成発注など大物買いを繰り返していた。
さらには欧州にとっての食糧基地であった北米のような存在が中国大陸にとっての日本となっていたのである。
外交的には対立を深めていった日米であったが、経済的にはそれほどでもなかったといってもいいだろう。
ただし列強資本の集積地となっていた満州やのちの極東合衆国が成長するにしたがって南方の中華民国は潜在的な敵国となっていくのであるが当時は誰もが「幸福な経済的蜜月」を過ごしていたのだった。
この結果、日本経済は第一次高度経済成長期の中でも最大の黄金時代を迎える。
末期に50万人の大兵力を派遣したことから生じた若干の労働力不足もあって、統計上はほぼ完全雇用が達成されたとさえいわれるほどにその勢いはすさまじく、1915年から1918年までの3年間の日本経済は経済成長率30パーセントを突破すらしている(註:史実1950年のアメリカ合衆国の成長率に開発景気が複合し想定)。

大戦が終結したとき日本経済は1910年の10.2倍(年率19パーセント以上)に拡大しており、アメリカ合衆国にほぼ匹敵する巨大な経済大国へと変貌を遂げていたのである。一人あたりのGDPこそ北米の4割ほどであるのだがそれでも巨大であることに変わりはない。
そして、総面積では成立したばかりの中華民国に匹敵するといわれる広大な国土はさらなる開発と発展の余地が十分にあるとされていた。
ことに、大戦後に需要が拡大しつつあった原油を筆頭に、国内における資源開発はまず自国が必要とするものを先に行わねば追いつかぬほどだった。
よく言及される日本の「八八八艦隊計画」の最終案(通称40隻艦隊案)が現代からみても異常であるのはこうした時代の風潮をよく示しているといえるだろう。

だが、戦後になるとこれらの需要は大きくトーンダウンし、日本の財務当局者たちはその投資先を国内へと変えていく。例外は、英独経済圏(ポンド・マルクブロック)内で大戦の打撃を受けた企業群への出資や合弁企業の設立であったがそれでも勢いが大きく鈍ったことは間違いない。
これは、海外進出を急ぐアメリカの諸企業体や、食糧輸出で大きく発展した南米ABC三カ国とは大きな違いである。
それでも開発途上であることを示すかのように年率一割近辺を維持し続ける日本経済はと当時の帝銀(日銀)総裁の名をとって「石橋経済」とアメリカ紙から揶揄された。
だが、時の元老や日本政府の意思は強固だった。

「大戦という大きな無駄は終わった。引き締めすぎない程度に経済は引き締め、急増した楼閣を堅固な要塞と為さねばらなない。」

この大方針は議会で大きな議論を呼んだものの、最終的には枢府から漏れ聞こえた「天からの一声」というある種の禁じ手を使ってまで野放図な海外進出は抑え込まれることになる。
元来が「家の四方を要塞化して引きこもる」とたとえられる日本人の特性は気が大きくなっても変わらなかったといえるだろう。

この動きに列強諸国は安堵した。
東洋の新たな列強は火事場泥棒をたくらむようなことはしないということに彼らは安心感を覚えたのだ。
そのため、1920年代は英独両国が欧州やアジアへ進出を深めようとする米国の「自由放任経済」に日本の後方支援を借りて対抗していくという構図が出現することになるのである。

――歴史家は語る。
もしもこの時点で列強諸国が安全保障上だけでなく、経済上でも協調主義を選ぶことができていたのなら、合衆国を発端としたあの世界恐慌後の世界はまた違った展開となったのだろうと。

590 :ひゅうが:2013/12/17(火) 20:45:49
【あとがき】――というわけで一本。
ジュネーヴ体制ネタを投下しようとしたらなぜか経済ネタに…
ちなみにこの頃、世界経済の3割×2を日米が占めるという恐ろしい状況に(汗

史実ではこの頃米国は大戦需要の消滅により停滞気味ですが、中国大陸および極東合衆国進出需要があるので比較的好調です。
というか戦後のアメリカ様の経済成長率おかしい(汗

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最終更新:2014年05月21日 23:17