892 :わかる?のひと:2013/12/05(木) 23:53:12
【ネタ】戦略的劣勢下におけるアメリカ空母マフィアの苦難(2)

――悪い空母じゃないんだ。少なくともステイツでは最良の空母だ。
ウィリアム・ハルゼー・ジュニア海軍大佐は空母エンタープライズの艦橋で、飛行甲板を見下ろしながらしみじみ思った。
飛行甲板の長さはアメリカ空母としては最大の170mあまり。艦載機の発着も、アメリカ最大の航空機運用艦であるアンティータム型航空戦艦と比べると正に別次元の良好さである。

まぁ、発艦を誤ると飛行甲板直前にある第二砲塔天蓋にバウンドして砲術科から大ブーイングをくらうだとか、着陸直前に主砲が射撃された衝撃でバランスを崩し墜落した機体がいたとか、主砲斉射の衝撃で駐機中の艦載機が飛行甲板から転げ落ちただとか、煙突直後にある航空艦橋は時に煤煙が直撃するため窓掃除が大変だとか、煙突の熱が真後ろに当たるので冬でも暖房いらず(夏は地獄)だとか、煙突のせいで航空艦橋からの前方視界が最悪だとか、固定翼航空機の運用が出来る戦艦扱いのため航空派ポストは飛行長止まりだとか、その影響もあって艦載機初艦時の進路変更を『要請』するのに苦労するだとか、そんな訳の分からない癖だらけの航空機運用艦と比べられたら、このリトル・Eも気を悪くするかもしれないが。

とはいえ基準排水量9,000トンあまりの小型空母であるからして、格納庫の規模、弾薬庫の容積、空母にしては速度が微妙に遅いこと、打たれ強さなどなど、不満そのものは少なくないが。
――まあ、それはいい。今のところ、問題は、あれだな…
飛行甲板に鎮座する新鋭機に視線をやった。

20対10。
日英とアメリカの戦艦保有枠の比率である。このためにアンティータム型航空戦艦などという、いろんな意味でエポックメーキングな軍艦が産まれた。
そしてこれは、日英とアメリカの空母保有枠の比率でもあった。
ただでさえ、排水量の割に搭載機数の少ないアンティータム型航空戦艦の存在のせいで洋上で運用できる艦載機数が激減しているアメリカ海軍である。
そのような現状があるから、20対10の比率がもたらすインパクトは、戦艦枠のそれよりもさらに厳しいものがあったのだ。
この劣勢下の条件に対して、アメリカ海軍航空派(もちろんハルゼーもその一員ではある)はどのように埋め合わせるか考えたかというと、そのひとまずの結論はハルゼーが見下ろしている新型機に結実していた。

893 :わかる?のひと:2013/12/05(木) 23:55:33
ブリュースター・ダグラス FBN戦闘爆撃機。

艦載機メーカーとして名高い両社がそれぞれのノウハウを持ち寄って作り上げた兼用戦闘機…もとい汎用戦闘機であった。雷撃能力こそないが、それはエンジンのパワーがまだ足りないと思われたためであり、次期主力汎用機では雷撃能力も要求される予定だ。

「我々が持てる航空機運用能力は低く、艦載機は少ない。そして日英の艦載機は我々を圧倒する量となるだろう…ならば、複数の任務を果たせるような航空機を開発して埋め合わせるのだ。戦闘爆撃機とか、戦闘雷撃爆撃機とか。格納庫をこのような万能機で埋め尽くせば、量に勝る日英に対してであっても、局地的には優位に立てるはずだ」

曲がりなりにもウィングマークをもったハルゼーがその場にいたら『そんなに都合良くいくわけがないだろう!』と怒鳴ったであろう発想ではあった。
――ああ、太平洋の向こうや、大西洋の向こうの同業者が羨ましいなぁ…
近頃、日英空母の識別写真集を見ながらため息をつく癖がついたハルゼーである。

実際のところ、この戦略的劣勢が招いた歪みは、空母や艦載機開発だけに寄せられているわけではなかった。(一番しわ寄せを食っていることは事実ではあるが)
小型艦艇はトップヘビー化を受容しつつ重武装を指向し続けていた。これには英国の前庭たる北大西洋や日本の前庭たるベーリング海といったかなり荒れやすい海域を想定作戦域から半ば外しているという現実もあった。

これらはまだよいほうである。いささか空想的な計画に目をやると、マーチンやボーイング等に雷撃が可能で2000マイル先を攻撃可能で戦闘機を振り切る高速重攻撃機の要求仕様が持ち込まれて開発が炎上するわ、東西海岸の沿岸に対艦列車砲を大量配備しようという計画が持ち上がるわ、平時は豪華客船等の大型民間船として運行しつつ、戦時に戦艦または重巡洋艦に急速改装するような船は実現可能かとの研究が持ち上がるわ、水上機母艦と大型飛行艇を組み合わせた大規模渡洋攻撃の研究が持ち上がるわと、アメリカの海防はまさに狂騒的な状況にありつづけた。

後の視点からすると、この戦略的劣勢下で模索され続けた様々な発想の多くは、あまりに奇抜かつ風変わりであったといえるかもしれない。しかしながら、当時のアメリカ軍人が必死に努力していたのもまた事実なのである。

おはり


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最終更新:2014年05月22日 21:30