992 :yukikaze:2013/12/14(土) 02:21:05
日清戦争第4章投下。なお、松島型装甲巡洋艦の設定をちょっと改編。

日清戦争史 第四章 黄海海戦

海軍とは何か?
この命題に対し、日本海軍の主張は首尾一貫していた。

「自国の商船が安全に航海できるようにする存在である」

後世、数多の海軍が、ややもすると「決戦」を主目的とする悪癖に捉われがちであったが、日本海軍においては「決戦」はあくまで「手段」であって「目的」ではなかった。
彼らの主目的はあくまで「自国商船の保護」であった。
故に彼らは巡洋艦の建造に熱心であった。
初の防護型巡洋艦というべき秋津洲型防護巡洋艦(史実新高型防護巡洋艦)の性能にほれ込んだ日本海軍は、破格と言っていい12隻もの量産を開始する。
当時の軍艦の常識からすれば、あまり強力でない武装であったが速力と航洋性能、そして何より堅牢で実用的な面は、通商路防衛を重要視する日本海軍にとって必要不可欠な艦であった。
無論、万が一決戦を行うための巡洋艦整備も怠りなく、高速巡洋艦といっていい吉野型防護巡洋艦(史実と同様)を4隻、更に世界初といっていい装甲巡洋艦である松島型巡洋艦(史実デュプレクス級装甲巡洋艦相当の艦。ただし連装砲塔形式が間に合わず、19.4cm単装砲2門である)も4隻というラインナップを整えている。
そして日本海軍は、可能な限り兵装と速力を統一し、艦隊運用がやりやすいように整えている。
そう。彼らは艦隊を「ユニット」として捉えており、艦隊を如何に有機的に運用できるかを重視していたのであった。
この日本海軍の整備計画は、日本海軍に講師として招かれた英国海軍の関係者も高く評価し(「サムライ達は海軍という物をよく理解している」)これが日英同盟を結ぶ際の有力な根拠になったとされている。

これと対極的なのが清国海軍であった。
確かに彼らは、当時アジアで最大の艦である定遠級を2隻配備することに成功したが、彼らは定遠級の強大さに幻惑され、「定遠級さえあれば無敵」という誤った価値観を信仰することになる。
結果的に彼らは、定遠級の幻想に胡坐をかき、「ユニット」としての海軍戦力の維持発展を取りやめてしまったため、日清戦争開戦時には、艦隊の実戦力において、日本海軍に大きく後塵を拝することになっていた。
もっとも、彼らは、日本海軍に定遠級を打ち破れる感が存在しなかったため、そうした事実に全く気付くことはなかった。
むしろ、定遠に匹敵する艦を建造せず、それほど攻防能力が高くない巡洋艦ばかり揃えていた日本海軍を馬鹿にし「定遠級の衝角で、奴らの泥船を引き裂いてくれる」と、豪語する程であった。
当然のことながら、黄海で日本海軍と接触した時、彼らの士気は高く、ややもすると慢心の域に達していた。

993 :yukikaze:2013/12/14(土) 02:21:39
だが、彼らの自信は、無残にも打ち砕かれることになる。
この時日本海軍は、本隊(松島型4隻、秋津洲型4隻)と遊撃隊(吉野型4隻、秋津洲型4隻)に分かれていたのだが、北洋艦隊は連合艦隊本隊に対して衝角戦に持ち込むべく接近を試みるが、速力で勝る日本海軍に取り付くことが出来ず、本隊と遊撃隊の連携による十字砲火を受け、砲撃開始から15分で、清国艦隊の右翼部隊は戦力を喪失することになる。
無論、この時点では定遠級は多数の被弾を受けながらも航行可能の状態であり、左翼部隊と連携し、連合艦隊本体への肉薄を試みるのだが、厳島から放たれた19.4cm砲弾が、定遠の艦橋に直撃し、丁汝昌提督を始めとして、艦隊の主要メンバーを負傷させることになる。
悪いことに、丁は、旗艦が指揮不能状態に陥った際の権限委譲の手順を決めていなかったため、北洋艦隊の各艦は、命令系統の喪失を受けて大混乱に陥り、統一した運用はほぼ不可能になる。
結果的に北洋艦隊は、連合艦隊によって各個撃破され、逃亡を図った部隊も吉野型の追撃を受けて海の底へと誘われることになる。
日本海軍の圧倒的な大勝利であった。

なお、清国側が多大な期待を抱いていた定遠型は、確かに砲撃によって沈むことはなかった。
しかしながら、日本海軍が逃走を始めた清国海軍残存艦隊を追撃し始めた時、両艦は機関が停止し、多数の被弾により、上部構造物や船体は廃墟と化し、燃え盛る炎によって、落城する間際の城といわんばかりの状況に陥っていた。
1部の海軍士官からは「火を消し止めて日本海軍の物にすれば」という意見も出されたが、連合艦隊司令長官である伊東祐亨中将は「あんなもの貰っても始末に困る」と一顧だにせず、連携機雷によって撃沈させるよう命令すると、後は追撃戦に集中するだけであった。
そう。日本海軍上層部にとっては、定遠級は「あんなもの」程度でしかなかったのだ。

個艦の強さを海軍の強さであると勘違いした清国海軍の悲劇を示すエピソードと言えるであろう。

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最終更新:2021年04月15日 11:38