135 :ひゅうが@風邪薬補充完了:2014/07/09(水) 20:06:35



戦後夢幻会ネタSS――その0.98「生き残ったものたち 1950年」


喧騒、そして轟音。
うめき声と、驚愕の叫び。
私はそれらのごった煮の中にいる。これは何だ?
現実感が感じられない。
そうだ確かあのとき――

「どういうことだ!キンケイドの第7艦隊は何をしている!」

ああ、ウィロビー参謀長だ。
隊内無線にどなっている。

「壊滅した模様です!リー提督の第35任務部隊も!」

「バカな。なぜその報告が届かない!」

「このあたりは地磁気が乱れていて…それに敵味方あわせて数百の艦船と数千の航空機が入り乱れているんです!」

「無線の飽和か!海軍め、マリアナの教訓はどこへ行ったんだ!」

ああ、走っている。
私は走り出している。
そう、ここはフィリピン。
仮設の住宅…いや幕営だ。

マックが、マッカーサーが走り出している。

「元帥!危険です!退避してください!」

熱帯特有の豪雨が去った直後の肌に張り付くような空気と、熱帯林を抜けた小高いそこからは、湾が見える。
そこにはつい数時間前まで300隻もの船団が集結し、夜の最中にも関わらず明るい灯火をまたたかせていたはずだった。
「私は帰ってきた」
そう、アメリカはここへ帰ってきたのだと世界に叫んでいたのだ。

そこへ…


「ああ、神よ。嘘だろう?」

これは誰の声?
そう、私の声だ。

「彼らは来た、か。」

誰の声?
マックだ。
あの自信家、傲岸不遜、世界に自分以上のものを認めていないような男だ。
この朝早くの光の中、彼はサングラスもなしに目の前で相対しているものを睨みつけていた。

そう。「彼らはきた」。
ノルマンディーを伝える特派員の言葉。
その言葉が「彼ら」にも適用されないと誰が決めていたのだ?


太陽が二つあった。

ひとつは水平線上に、そしてもうひとつはあの「艦」の上に。


「バトルシップ ヤマト・タイプ…!!」

うねるように主砲の鎌首をもたげた戦艦「大和」は、「武蔵」「長門」「陸奥」「扶桑」「山城」「金剛」「比叡」「榛名」以下、日本海軍が誇る主力戦艦部隊とともにレイテ湾の輸送船団におそいかかった。

136 :ひゅうが@風邪薬補充完了:2014/07/09(水) 20:07:07

6年後――




「主砲、弾種榴弾、一斉撃ち方へ移行!」

「グアム、撃ち方はじめました。照準同調良好!」

「弾着観測機より報告、『トラ・トラ・トラ』!」

「はっはっは!はじめて打つがこういうのはいいものだね!」

「ありがとうございますスプルーアンス閣下!」

戦艦「長門」は、彼の前で砲撃を続けていた。
日本人たちらしい努力の末に維持されている砲撃錬度はこの艦から20秒あまりに1斉射といった速度でウラジオストクへ向けて巨弾を送り出し続けている。

本来は増設されたCICから行われるべき砲撃指揮を、男たちは艦橋から見つめていた。
極東米海軍司令官としてこの朝鮮戦争を戦っているレイモンド・スプルーアンス大将。
ややこしいが、国連軍としてこの海上警備隊第一艦隊を指揮する立場にある。
そして、海上警備隊 第一艦隊司令長官 森下信衛 一等警備監。
この男たちは、いかにも当然という風に、かつて山本五十六が立っていた床を踏みしめて地平線をみつめている。
小高い半島。
極東の金角湾と呼ばれる海を有する天然の要害を飛び越えて、戦艦たちは巨弾を放っていた。

そして、その周囲では大型巡洋艦「アラスカ」「グアム」とオレゴン・シティ級重巡洋艦三姉妹の「オレゴン・シティ」「オールバニ」「ロチェスター」が同様に主砲を放っている。

そして――

「ああ、これが原因か、白昼夢は。」

私は艦の左舷を進む「なによりも大きな」艦影を認めてそうこぼした。
航空母艦「信濃」。
旧海軍時代から引きつれている軽巡「酒匂」と、駆逐艦「島風」を筆頭とした12隻の艦隊型駆逐艦を周囲に置いた「ヤマト・タイプ」の末娘。
世界最大の航空母艦。
彼女は、このウラジオストク攻撃艦隊のエアカバーを引き受けてここにいる。


「Japan Navy is never die…」

そうだ、出航前に軍港に集まった人たちの中で彼はいっていた。

「ヤマトは蘇る。何度でも。」

世界が戦艦を必要としなくなっても、その姿を変えて。


従軍記者にして、ネイビー・タイムズの日本特派員であるアーニー・パイルは自然にカメラをとった。

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最終更新:2014年07月12日 00:46