775 :taka:2014/07/13(日) 14:38:14
どんどん戦局が悪化するフィリピンもいいけど、末期具合が特濃な沖縄戦はやはり負け戦スキーには堪えられない……


沖縄戦、末期

数機の彗星が炎上する北飛行場を通過し全速で退避していく。
闇夜に幾筋もの猛烈な対空機関砲、対空砲が打ち上げられまるでカーニバルの夜の如く明るく照らし上げていく。

「おい、落伍は無いか!!」
「ありません!」

三式一番二八号爆弾(ロケット弾)を北飛行場に撃ち込んだ彗星隊の1番機の大尉はそうかと呟いた。
対地用(本来は空戦用、地上用に炸薬の量を増やしている)に改造されたロケット弾は、慣れれば下手な爆弾よりもずっとよく命中した。
今も先発の偵察隊が投下した照明弾により視認した燃料集積場に撃ち込んだロケット弾は見事狙い通り命中し大爆発を引き起こしている。

後は尻をまくって逃げるのみ。
長々と滞在するには、今の沖縄は危険過ぎる。
戦線が首里の半ばまで押し込まれているこの空域には米軍機しか存在しないのだから。

「四番機、銃撃を受けています。ヤンキーの夜間戦闘機です!」
「単発機じゃない、双発だ!」
「ちっ、例の夜の未亡人か!!」

先月、九州南部で夜間哨戒していた月光が襲撃され、斜銃で返り討ちにしたという双発機の夜間戦闘機だ
頻繁に襲撃や追撃してくるのは夜間戦闘仕様のF6F-5Nだが、時折この新鋭機も姿を現すようになった。

「とにかく離脱する。振りきれ、かまっていれば他の夜間戦闘機がよってくるぞ!」

大尉は舌打ちをしつつ、どう執拗な追撃を振り切るか思考を巡らせる。
最近はこの夜襲部隊は米軍に脅威として認識されているらしく、襲撃を行えばすぐさま夜間戦闘機が飛んでくるようになった。
革新的な部隊長の促成教育とヴェテランの派遣、戦術に理解を示した軍上層部の一部の支援で戦力は増強・維持されている。
だが、同時に未帰還機や撃墜機が増えているのも事実だ。

彼らの部隊は、沖縄戦が始まってから数十に渡る夜間・黎明襲撃を行ってきた。
まだ正式に導入されて間もない三式一番二八号爆弾や光電管爆弾で飛行場や艦艇に対し多大な損害を与えてきた。
だが、それでも米軍は止まらない。どれだけ損害が出ようとも、以前よりも数を増やし、こちらを磨り潰そうと攻撃を加えてくる。

「敵、夜間戦闘機撃墜、味方の彗星夜戦が助けに来てくれました!」

追撃が止み、味方の機体は再び編隊を組んで九州を目指し始めた。
夜間戦闘機を撃ち落とした夜戦彗星が先導するように前に出ていく。
薄暮と、白んでいく洋上を眺めつつ、大尉はこれから更に苦しくなるであろう戦いに思いをはせた。

「大尉殿、鹿児島が見えました。もう少しですね」

陸地が見えた。後は、我らが基地に戻るだけだ。
後に日本軍最強の夜戦襲撃部隊として歴史に名を残す事になる、芙蓉部隊へ。

おわり

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最終更新:2014年10月27日 15:27