619 :ライスイン:2014/12/17(水) 17:47:13
1907年8月末  東京 夢幻会会合場所


「アメリカのルーズベルト大統領から講和の勧告がきたらしいが。」

「ああ、同盟の損害に驚愕したイギリスが自分の植民地統治に影響が出ると拙いからと泣きついたらしいな。」

「アメリカも”日本に仲介料を要求しない”事と”同盟に加担した工作の即時中止”を条件に仲介を引き受けたらしいな。」

「それとドレッドノートの設計資料譲渡と艦内見学も条件にいれたそうだ。」

この時の会合ではアメリカからの講和の仲介の件について話し合われていた。
名目としては”これ以上戦火が広がり全世界規模での大戦に発展するのを防ぐため”とされていた。開催場予定場所はワシントンDC。

「わが国を納得させる事の出来る条件を向こうが出してくるとは思えんな。精々白紙和平程度だろう。」

「それとイギリスの事ですから新型艦艇の情報公開や軍縮も求めてくるかもしれませんね。」

イギリスに対する不信感で一杯の会合参加者。

「では大まかな条件としてはこんなところでしょうか?」

1:欧州同盟各国はアジアにおける植民地を放棄し我が国に譲渡する。保障占領中のドイツ領も同様。

2:同盟各国は我が国に対して謝罪し賠償金を支払う。

3:ロシア帝国はハバロフスク以東の極東全域を我が国に割譲する。清国は我が国に遼東半島全域を割譲する。

4:同盟各国は市場を全面的に開放する。

5:我が国は譲渡された植民地に対しては10年をめどに復興した後に住民投票を行い独立の可否を問う。

6:同盟各国はタイ王国に対して侵略を謝罪し保障を行う。

「そうだな、まあ受け入れるとは思えんが。」

なおも会合は条件を巡って話し合われた・・・そんな時

「失礼します、北海にてドイツの防護巡洋艦がイギリス商船を砲撃し大破させたとの連絡が入りました。」

急な知らせに動揺する会合参加者。

「なぜそんなことが起こったんだ?」

「ドイツは我が国の通商破壊艦と誤認したと言っています。また同船には複数の豪州人も乗船していたらしく英豪ともドイツに抗議しています。」

「確か豪州はドイツ植民地を保障占領中だったな、何か匂うぞ。」

620 :ライスイン:2014/12/17(水) 17:48:46
孤立大陸 第6話「講和会議再び」


 1907年9月、現在の戦況であるが欧州同盟各国はほぼアジアから叩き出されていた。フランス領インドシナは日本軍と現地独立派勢力により制圧。
タイ王国でも日本軍が上陸を開始するとイタリア軍は早々に降伏した。ただしバンコク付近で交戦中の部隊は撤退が間に合わず、全土から
兵力を集中したタイ王国軍によって撲滅された。なお取り残されたモンテネグロ軍は仲間が収容されているバンコク市内の病院に立て篭もり、
壮絶な籠城戦の末に全滅した(※1)。オランダ領インドネシアでは現地独立派が完全に優勢となり、そこへ日本軍も加わってオランダ軍は完全に崩壊。
同時に長きに渡る植民地支配の恨みから一般のオランダ市民に対する虐殺や暴行が相次ぎ、日本軍が止めるまでに各地からの避難民も合わせて
1万人以上が犠牲になっていた。また青島のドイツ植民地に至っては住民暴動や海上封鎖による飢餓から自ら日本に降伏していた。
また占領したスマトラ島北東部のメダンに簡易ながらも補給拠点を建設しインド洋においても通商破壊を開始。なかでも金剛型など速力・航続距離共に
長い戦艦は補給艦を伴い、イタリア領東アフリカやフランス領のジブチ・マダガスカルに艦砲射撃まで加えていた。

 そんな中、イギリスがアメリカに仲介料(※2)を前払いしてまで開催にこぎつけた講和会議が10月3日にワシントンDCで開催された。

「もはや戦争の行方ははっきりしております。世界大戦に発展させないためにも双方建設的な議論を期待します。」

若干うんざりした表情でルーズベルト大統領が言葉を発した。

「清国による上海襲撃や清国とロシアの紛争への対応は別の機会に設けます。そして我が国は双方に賠償なしの白紙和平を提案します。」

続いてイギリスのグレイ外相が白紙和平を提案した。この提案に同盟各国は賠償や権益は得られないものの、制圧された植民地が戻ってくる事に
賛成の意を示した。これ以上戦ってもアメリカやイギリスが自分たちの側で参戦しない限り勝ち目はほぼ無いからだ。
同盟側が賛成の意を示した事で注目は日本(&タイ)に集まった。しかしグレイ外相が余計な言葉を発した。これが最初の過ちになる。

「和平後は双方ともに軍縮を行うべきです。特に日本の巨大戦艦群は世界にとって脅威です。情報公開後に破棄を求めます。」

自国及び欧州同盟にとって何所までも都合の良い意見。白紙和平はともかく新型戦艦・・・おそらく金剛型以降の情報公開、場合によっては
現物を提供し調査終了後に破棄または譲渡しろという。中立国を標榜する敵性国家のふざけた言葉に日本側は激高する。
代表の小村外相は静かに立ち上がり発言する。

「戦況は最早我が国が決定的に優位であります。同盟各国は敗北の、そして数々の暴挙に対する代償を支払わなければなりません。」

小村外相の言葉が広まるにつれて怒り始める同盟側代表団。更に

「また英国は中立国でありながら同盟側に加担して数々の工作を我が国に行い被害を与えています。」

この小村外相の言葉に気分を害するグレイ外相(※3)、反対にルーズベルト大統領以下米国スタッフはグレイ外相を睨み付ける。

「わが国は以下の要求をします。」

そして小村外相は会合で決まった内容に加えて英国に対して数々の工作に対する謝罪と責任者の処罰に賠償を要求した。

「ふざけるなっ!!黄色人種の分際で我々の慈悲を無視しおって、そればかりか要求するなど言語道断だ。」

小村が意見を表明し終えた途端、ドイツ代表(※4)が激昂して立ち上がり、日本側を罵り始めた。これに勇気づけられたのか

「お前たちが我々に対して賠償を申し出るべきだろう」フランス

「わが国の植民地を奪いオランダ市民を殺害した罪は重い」オランダ

「健闘むなしくタイで散った我が国の兵士に対する補償を行え」モンテネグロ

「神聖なるロシアの大地から立ち去り、汚した責任をとれ」ロシア

「対馬と隠岐を差し出すニダ」朝鮮王国(※5)

など各国は一斉に側に罵詈雑言を浴びせる。ただトルコ代表だけは黙ったままだった(※6)

621 :ライスイン:2014/12/17(水) 17:49:19
「皆さん落ち着いて。現実を見てください、不利なのは貴方方ですよ。」

ルーズベルト大統領が同盟側を落ち着かせようとするも

「アメリカが技術協力したからあんな戦艦が作れたんだろう。黄色人種が巨大戦艦を自力で作れるはずがない。」

「アメリカは中立国でありながら日本に技術協力した、謝罪と賠償を要求する」

「海軍艦艇に関する全ての情報を公開しろ。」

など矛先はアメリカに向き始めた。当然の事ながらルーズベルト大統領は激怒。またこの時の様子は取材していたマスコミにより驚くべき速さで
全米に伝わり、米国民は欧州(&清国・朝鮮)への嫌悪感をより一層強めた。
当然会議は纏まる筈もなく、ルーズベルト大統領は激情を押し隠しつつ休憩を宣言した。


「どこまでも強欲な奴らだ、現実が見えておらん。」  「裏切り者のジョンブルめ、白々しく白紙和平だと。」

日本側に割り当てられた休憩室で小村外相以下代表団の面々が先ほどの会議内容について話し合っていた。
白紙和平・・・即ち同盟側に占領地を返還しろである。更に和平後に新型艦艇の情報公開や一方的な軍縮。

「本当に我が国が受け入れると思っているのか?」

「戦争を長引かせて同盟に兵器を売りつつ我が国を弱体化させて自分たちに依存させるつもりなんだろうよ。」

そんな会話が続いていると護衛よりグレイ外相が来訪した事が伝えられる。

「今更何をしに来たんだ、まあ会ってみよう。」

小村外相が入室を許可するよう伝えると暫くしてグレイ外相が入ってきた。
社交辞令の挨拶を交わし双方椅子に座る。そして話し合いが始まった。

「単刀直入に言いましょう、白紙和平を受け入れていただきたい。」

グレイ外相がそう切り出してきた。反論しようとする小村外相を制しながら彼は経緯を語り始めた。
それによると日本の鮮やか勝つ圧倒的な勝利によって白人優位が崩れ、その影響で英国だけでなく欧州諸国の植民地でストライキや暴動が多発し
抵抗組織によるゲリラ戦すらも発生しているという。

「このままでは欧州各国の力の均衡が崩れて未曾有の混乱が発生します。是非とも世界平和のために白紙和平に応じて頂きたい。」

「自業自得でしょう、我が国が感知することではありません。それに土壇場で我が国を裏切り、様々な敵対工作を行った貴国は信用できない」

神妙そうな面持ちで話すグレイ外相の言葉を一蹴する小村外相。

「それについては申し訳なく思っています。それに受け入れてくれるならば軍縮については骨抜きにできますし艦艇も提供ではなく購入という形に出来ます。」

恐ろしく自分勝手かつ日本側に名誉と利益を与えたくない言葉、しかも受け入れることが前提での。

「話になりませんな、現在の戦況を見てください。我が国に利益のない停戦は受け入れる事は出来ませんな。」

「どうしてですか?欧州同盟を打ち破ったではないですか、有色人種が白人を打ち破ったのです。それで十分ではありませんか。」

小村外相の拒絶の言葉を聞いたグレイ外相は思わず本音を漏らしてしまった。

「お引き取りください。再度申しますが利益のない停戦は受け入れられません。」

これ以上の会話は無駄と判断した小村外相は会談を終わりにしようとする。

「わかりました・・・ですが後悔しない事ですな。」

その言葉を聴いたグレイ外相は捨て台詞を残して立ち去った。

「何かいやな予感がしますな。」

随行員の一人が呟いた。

「そうだな・・・まだ時間はあるな、ルーズベルト大統領に面会許可を取り付けてくれ。」

小村外相は時間があることを確認し、行動を起こした。

622 :ライスイン:2014/12/17(水) 17:49:52
休憩時間が終了し、各代表が再び席に着いた。ルーズベルト大統領が再開を宣言しようとした時、ドイツ代表が立ち上がり発言し始めた。

「再開の前に申し上げます。我が国は先のイギリス商船攻撃の賠償として豪州が保障占領中のアジア植民地を格安で譲渡いたします。」

この爆弾発言に日本側だけでなくアメリカ側も目を剥いた。
これはどうせ日本に獲られるなら売れるうちに売ってしまえと皇帝や政府が判断し水面下でイギリスと交渉した結果だった。格安とは言いつつも
実際は適正価格である(ニューギニア島東部やソロモン諸島がイギリス。その他の島がオーストラリア)。
また公開されてはいないが密に戦艦を譲渡する契約も含まれていた(※7)。
これだけでも十分すぎる挑発・戦争加担行為であり中立を損ねるものであった。更に

「わが国は譲渡された地域の治安を守るために東洋艦隊の増強と豪州海軍の強化を行います(※8)。」

続いたグレイ外相の言葉に日本側は怒りを隠せなかった。これは明白な圧力であり白紙和平を受け入れなければ背後から撃つかもしれないぞ・・・と。

「わが国は改めて白紙和平を提案します。双方納得いかないかもしれませんが世界平和の為に涙を呑んで受け入れてください。」

白々しく言い放つグレイ外相。対して小村外相は

「世界平和と言いながら同盟に加担し我が国の利益を損ねようとする貴国の勧告は受け入れられない。利益のない停戦はあり得ない。」

小村外相のはっきりとした言葉に欧州側は蒼褪めつつも罵詈雑言を浴びせる。

「残念です、日本側の強欲な主張により和平の機会は崩れ去りました。」

責任はあくまでも日本側にある、そう主張して会議を終わらせるグレイ外相。しかし・・・。

「わが国は欧州各国に科したタイ侵略への制裁(物資の大幅値上げ)を無期限延長する。」

突如発せられたルーズベルト大統領の言葉に同盟各国は唖然とする。

「そして債務の償還期限の延長には一切応じない、期限が守られない場合はあらゆる手段をもって取り立てる。」

続けられた言葉に更なる恐怖に陥る同盟各国。あらゆる手段・・・軍隊まで用いる可能性があるという事である。
最悪債務の代償に植民地を強制的に占領される恐れがある。
特にオランダはアジアの植民地を喪失してから多額の資金をアメリカから(通常より割高で)借り入れており国が破綻しかねない状態であった。
他の国も似たり寄ったりの状態である。

「お待ちください、我が国を破綻させるおつもりか。戦争加担行為ですぞ。」

オランダ代表が声を荒げて言い募る。

「別に現金でなくても物納・・・日本に占領されていない植民地でも良いですよ、他の皆さんもね。嫌なら英国から借りて返すんですね。」

冷たく突き放すルーズベルト大統領。グレイ外相も自分達が中立違反を多数行っていることや多少儲けたとはいえ海軍増強で資金が足りず、
各国に貸す余裕がない為、これ以上言えなかった。
こうして2回目の講和会議は欧州側の強欲さと英国の常識の無さが改めて示され、そしてアメリカの面子を潰しただけに終わった。

623 :ライスイン:2014/12/17(水) 17:50:25
※1:アラモ砦の如く激しい戦いになり最終的に全滅。ただし彼らは英雄にはなれず、病院後にはモンテネグロ軍全滅の記念碑が建立された。

※2:ドレッドノートの設計資料の譲渡や艦内見学。試作中の13.5インチ砲やタービン機関の部分的な情報など。

※3:彼はあくまでも自国が利益を得るための正当な行為と認識していた為に内心逆ギレしていた。

※4:この代表は黄禍論の熱心な信望者。

※5:本土が日本軍占領下にあるために亡命政権扱い。清国が嫌がらせの為に出席させた。

※6:この時オスマン帝国では”欲に目が眩んで仇敵ロシアと組み大恩ある日本を攻撃した”として反政府・反スルタン運動が激化し一部では
   暴動に発展していた。彼としてはさっさと停戦したかったが同盟各国に攻撃される恐れが有る為に出来なかった。唯一の救いは捕虜になった
   将兵が台湾の収容所で丁重な扱いを受けている事だけだった。

※7:マジェスティック級戦艦マジェスティック(イゼルローン)、マグニフィセント(ガイエスブルク)、ハンニバル(ガルミッシュ)
   プリンス・ジョージ(レンテンベルク)の4隻で以後イゼルローン級と称された。

※8:マジェスティック級戦艦ヴィクトリアス、ジュピター 2等戦艦レナウン、エドガー級防護巡洋艦エドガー、ホークその他支援艦艇の譲渡。


如何でしょうか?2回目の講和会議の様子を書きました。欧州同盟は負けを認めず逆ギレ、英国は世界平和の為と言いながらも自国利益の為に
中立違反上等な行動。そんな状態ですから会議なんか纏まりません。そして遂に・・・面子を潰されたアメリカが切れた。
因みに冒頭の講和条件は受け入れられないことを前提にしています。同盟が更に決定的に不利になってからもっとキツイ条件を突きつける
予定です。

~予告~

戦争は再開された。最早同盟にアジアへの侵攻能力は残っておらず、ロシアは只管清国を殴り続けるだけ。日本の魔の手は遂にアフリカや
その先にまで及びアメリカには借金のかたに植民地を接収される。そんな中、古き時代より欧州を苦しめた黒き悪魔が再び・・・。
次回”落ちる白・広まる黒”

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最終更新:2015年01月31日 19:41