352 :ライスイン:2014/12/13(土) 23:13:57
1906年7月某日 大英帝国 首都ロンドン 首相官邸

「まさかこうも一方的に同盟が敗れるとは・・・。」

バルフォア首相が報告書を読みながら唖然としていた。

「観戦武官の乗艦こそ拒否されましたがその後の調査で以下のことが判明しました。」

フィッシャー第1海軍卿が追加の報告書を差し出した。

「3万t前後の戦艦が複数、それも連装砲4基を背負い式で搭載か。一部には3連装もあるのか。」

「主砲のサイズも12インチを超えていたそうです。おそらく13~14インチに達するかと。」

これらの会話を聞いていた閣僚たちは皆驚いていた。日本人にそんな戦艦が作れたのかと。

「海軍はこれらに対抗できそうかね?」

「無理です、建造中のベレロフォン級はおろか設計段階のセントヴィンセント級でも不可能でしょう。」

首相の問いにきっぱりと不可能と答えるフィッシャー。

「同盟を破棄したのは失敗だったか?このままでは同盟各国がアジアの植民地を喪失する。そうなる前に戦争を止められないか?」

「最早無理です。有利になった日本は徹底的にやるようですし仲介できそうなアメリカも前回の会議で同盟の態度に愛想を尽かしています。」

自分たちでは仲介できない。一方的に同盟を破棄した上に厚かましく仲介料まで要求したのだから。その自覚があるのかバルフォアは

「同盟が決定的に不利になったらもう一度アメリカを説得して仲介してもらおう。そこで日本の要求を可能な限り抑えるしかない。」

自分たちの植民地統治に影響する・・・バルフォアはそう判断した。

「ですがそれだと日本が受け入れないのでは?日本は債務を発行しておりませんし軍備でも我が国を上回りつつあります」

「経済的・軍事的な脅しは不可能か・・・。」

「それとオーストラリアが保障占領中のドイツ植民地を購入したいので仲介と資金援助を要請してきました。」

外相が報告する。

「それも良いかもな。ただし我々と分割してだな。」

日本の進出を抑えられドイツの領土も削れる良い提案だと判断したバルフォアは閣僚たちと具体的な案を検討し始めた。
その行動が英国を更なる苦境に陥れることになるとも知らずに。


                    孤立大陸 第5話「燃える大陸、燃え尽きる半島」


 1906年7月、欧州同盟艦隊を全滅させた日本は東南アジア・南太平洋で攻勢に出ていた。
損害の少ない第1、第3艦隊を優先的に整備・補給させフランス領インドシナ攻略、タイ救援、オランダ領インドネシア攻略に
陸軍と共同して大規模な艦隊・輸送船団を編成し送り出したのだ。同時に通商破壊も強化し同盟の物流を麻痺させていた。
偶に同盟の艦艇や植民地に物資を供給する某国(※1)の商船を発見し拿捕・撃沈することもあった。

 その頃大陸では・・・。

353 :ライスイン:2014/12/13(土) 23:15:23
「来ませんね・・・ロシア軍。」  「そうだな、何所行ったんだ?」

ハバロフスクにある第3軍司令部で乃木司令官と伊地知参謀長がそんな会話を交わしていた。
一度は後退命令が出たが大本営の方針転換により大量の資材が送られてきて現在では強固な防衛陣地が完成していた。
また住民に対する懐柔策も実施されており、そのせいもあってハバロフスク住民は日本軍に協力的(※2)になっていた。

「そういえば6月の後半頃から大陸や朝鮮半島で”日本軍が海戦で大敗北した”という噂が広まっていたな。」

「噂を広めていたと思われる英国人(※3)は処理しましたが・・・。」

「真に受けて攻めてきた清国は本当に愚かだった。黒木さんも数だけは多くて大変だったらしいな。」

 清国の攻撃、それは上記の噂を真に受けた結果、西太后の命令で急遽行われたものだった。
袁世凱を総司令官にして各地からかき集めた40万にも及ぶ大兵力(※4)で満州や遼東などを奪還して清国の武威を世界に示そうとしたものだった。
もっともこの時の清国は上海租界での件で欧州同盟から賠償を求められており、日本の領域を略奪して賠償の財源を確保するのも目的であった。
だが・・・彼らは消滅した。

 6月の終わりに満州との境を越えた所で待ち受けていた黒木大将率いる第1軍(※5)の迎撃を受け一方的に壊滅した。
専用の線路まで引いて試作大口径列車砲(41㎝)を複数持ち込み、加えて試製20㎝・40㎝噴進砲(4式二〇・四〇糎噴進砲)や各種野砲の
熱烈な歓迎を受けた。多大な犠牲を出しつつも数に任せて日本軍陣地に接近するも、39式12.7㎜重機関銃(M2擬き)や38式12㎝迫撃砲、
39式4㎝擲弾銃(M79擬き)に地雷や火炎放射器、短機関銃の攻撃により追い払われた。
数日間の戦いの末に攻撃は失敗し、無事に清国まで戻れたのは後方に待機させていた袁世凱直属の2個師団を含めておよそ6万前後。34万の兵力が大地に溶けたのだった。
それ以降小競り合いが多発していたが全てにおいて清国側の敗北に終わっていた。

「半年前にノヴォシビルスクまで到達しているのは確認できたのですが。」

「何かトラブルでも起きて停滞しているのか?」

そんな会話をしていると伝令が近寄ってきて報告書を渡す。そこには

”ロシア軍、新疆方面から清国へ侵攻を開始” と書かれていた。


ロシア軍は今回の清国侵攻を”日本と内通し、上海で欧州人を虐殺した裏切り者に懲罰を与える”事を名目にしていた。
これには上海で自国民を殺された同盟各国も同意していて英国も密に指示していた。
対日戦用に編成された第2陣50万はノヴォシビルスクから南下し中央アジアの少数民族や移民していた清国人などを使い潰しながら道路や
鉄道を敷き、十分に準備した上で7月中旬にに侵攻を開始した(日本と戦っても勝算が低いと判断され、代わりとなる成果を欲した為もある)。
このロシア軍の侵攻に驚いた清国は直ちにロシアへと特使を派遣するとともに同盟各国や英国に仲介を依頼したが上海の賠償が先と断られる。
清国は抗戦しながらロシア含む同盟各国に懇願同然の必死の交渉を行うことになる。

「内ゲバか、まあ望むところだな。」  「潰し合って疲弊してくれると良いですね。」

ハバロフスクへロシア軍が来襲する可能性がほぼ亡くなった事に安堵する2人。しかしその頃半島では・・・・・

354 :ライスイン:2014/12/13(土) 23:15:55
~朝鮮半島 開城~


「突撃っ!!暴徒共を蹴散らせぇ」

閑院宮載仁親王少将が配下の第2騎兵旅団(宮様旅団)に命を下し、圧倒的数の暴徒に向けて短機関銃や擲弾銃を乱射しながら突撃を敢行。
更にサーベルを振り回して暴徒たちを蹴散らす。後続の歩兵部隊も味方を誤射しないように援護射撃を行いながら前進し、別の場所では
警官隊(※6)がローマ軍団の如く大盾を構えながら暴徒達を的確に鎮圧・処理していく。

「だいたい鎮圧したか、後は後続に任せて司令部へ戻る。今の内に装備を整えろ。」

暴徒をほぼ制圧したと判断した宮様は旅団に対して休憩と装備の点検を命じる。

「報告、開城郊外の○○村の暴動は警官隊の抜刀突撃により制圧。」

「平壌での住民蜂起は第1騎兵旅団(秋山好古少将)が海軍陸戦隊と共同して鎮圧したとの事。」

旅団司令部へ戻った宮様に各地からの詳細な状況が知らされる。
現在朝鮮半島では全域において大規模な暴動や反乱が発生していた。
これは前述の英国人が広めた噂を真に受けた清国が朝鮮王国に命じて起こさせたものだった。
工作員を派遣して噂が広まるのを助長し、大韓帝国内の反日派(※7)を主軸にして蜂起させたのだった。
これに大韓帝国軍や餓えた住民らが呼応して大規模な騒乱に発展。日本人多数が犠牲になり、中には慈善活動中に犠牲になった者もいた。
この事態に対して帝国政府は急きょ編成した第6軍(※8)を半島に派遣。そして戦艦富士・八島を中心にした予備の艦隊を持って沿岸部に対する
艦砲射撃を決定した。


~朝鮮半島南部  釜山港沖 戦艦富士~

「目標、港湾部を占拠中の暴徒。港の損害は気にするな、修理資材は大量に用意してあるぞ。・・・撃てぇ!!」

艦隊司令の命令と共に富士が30.5㎝の巨弾を港湾部を占拠している暴徒達に向けて放つ。それを合図に八島以下の艦船も砲撃を開始。
暴徒達を吹き飛ばしていく。

「港湾部は一掃できたか。陸戦隊を上陸させろ、内陸部の陸軍と共同して奴らを叩くぞ。」


~朝鮮半島北部 白頭山 とある陸軍部隊~

「連隊長殿、残党共は山間部の洞窟に逃げ込みました。」

伝令の報告を聞く連隊長。彼の連隊は撃破した大韓帝国軍の残党を追跡してここ白頭山の麓まで到着していた。

「連中は殆どの武器を失ったようだな。よし、火炎放射器隊前進、消毒を開始しろ。」

連隊長の命令に火炎放射器を装備した兵士とその護衛が前進を開始する。そして・・・

「ヒャッハー、汚物は消毒だァ~」  「焼き鳥の匂いがするぜ~」

と何処かのモヒカンやレイダーの様なセリフをはきつつ洞窟に籠った残党を消毒する兵士たち(連隊長である転生者の影響あり)。
時折反撃を受けて自ら松明になる兵士も出たが概ね1週間ほどで消毒は終了。
彼の連隊は補給を受けた後に半島内各地で消毒作業を行うことになる。


 この様に半島全域での蜂起は国内の予備部隊まで投入した日本軍の圧倒的な力の前に2週間ほどでほぼ鎮圧。
これにより半島内の人口600万(※9)の内、およそ150万人が死亡(巻き込まれた非蜂起参加者含む)。
更に政府の決定で半島の住民を平安北道・平安南道に隔離することが決まり、移送中や移送後の飢餓や病気により更に50万人が死亡した。
同時に政府や夢幻会は朝鮮人という存在に愛想を尽かし(元々無かったが)、戦後を見据えてある計画を策定し始めるのだった。

355 :ライスイン:2014/12/13(土) 23:16:27
※1:英国や豪州。英国船は食料や医療物資だけだったが豪州船は少数だが武器弾薬を積んでいた。また一部の豪州船は逃走した為に撃沈。
   余談だが押収した英国製糧食を捕虜に与えた所、「虐待である」と抗議されたという。

※2:食料や外貨を対価に仕事を与えたり、工兵隊が教会や道路などの修理を行い巡回医療も積極的に行っていた。その為にロシア統治時より
   暮らしが豊かになり住民の殆どを親日にさせていた。

※3:英国情報部員。表向きは”商社の調査員”として活動。目的は日本の足を引っ張って不利にさせることで自分達に靡かせる事。

※4:真面な兵力は北洋軍閥系の2万程度で大半は流民や難民を強制徴募して武器を与えた兵士モドキ。

※5:当時の第1軍は本土からの増援を受けて15万人以上の兵力を抱えていた。また新兵器を試す良い機会とばかりに試作・実験兵器や
   トンデモ兵器が数多く送られていた。

※6:高宗が清国へ脱出した後に治安の悪化を懸念した政府が邦人警備の為に急遽派遣した警官隊。正式名称は「外地派遣特別機動隊」
   金属製のヘルメットや大盾に胸当て、散弾銃や短機関銃などを装備し大都市に配備された。

※7:日本によって地位を追われた両班や軍・政府高官に地元有力者など。朝鮮王国を通して清国から支援を受けていて度々住民を扇動して
   暴動を起こしていた。

※8:予備師団や新規編成師団を中心に試作自動車を装備した「実験自動車化歩兵大隊」など新機軸の部隊も多く含まれていた。
   司令官は山縣有朋大将

※9:1904年初頭には710万程であったが凶作や失政に両班の過酷な収奪が重なり1906年7月の時点で600万人まで人口が減っていた。


 如何でしょうか?
あまり燃えたり燃え尽きたりしてないかもしれませんが大陸や半島での出来事を書いてみました。
ロシアは日本軍には勝ち目が薄いと判断し少数民族を使い潰して道を作り清国へ侵攻。一方の清国や朝鮮は噂を真に受けて暴走。
そのおかげで大量の死者が発生しました。

~予告~

 アジア地域の同盟植民地は日本軍の手に落ちた。同盟各国では責任追及の嵐が吹き荒れ国民の政府不信は高まりを見せる。
そんな中、英国が再び動き、米国や中立国に働きかけて双方に講和を勧告する。

         次回”講和会議再び”

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最終更新:2015年01月31日 19:42