884 :ルルブ:2015/01/18(日) 22:35:14
ネタ「戦後憂鬱・ジパング」

第一話 「邂逅」


2020年代。格差・高齢化社会に加え、経済成長の鈍化に悩む中華人民共和国は極秘裡に中東情勢へ軍事顧問団を派遣。
対米・対日・対欧関係を悪化させていく。
かたや、米国・欧州・穏健イスラム諸国を中心とした反イスラム過激派連合も「テロリスト掃討作戦」「自由の守護」を旗印に東インド洋、地中海沿岸、アラビア半島にて大規模な軍事作戦を展開。
米中の暗闘が激化し、それが地球規模で対立を招いている中、世界第二位から凋落しつつある日本。
極東に配備されて、動員が行われている中華人民共和国海軍。
その象徴が2018年に竣工したイージス艦「鎮遠」。
中国軍が独自にアメリカ海軍機動艦隊迎撃のイージス艦を実用化し建造した事を引き金に、尖閣諸島問題から沖縄帰属問題、対馬海峡対立と日本近海でありとあらゆる対立を抱えた日本も先端技術の結晶として4隻の次世代イージス艦を建艦する。
ネームシップに「せつな」、二番艦に「とわ」、三番艦に「はるか」と、刻を題材にした異例の命名基準を持つ新造イージス艦達。
そして、最後の一隻が米軍主体のインド洋大規模演習に参加する事で物語は始まる。

全ての始まりになる艦の名前。

その名を、「みらい」

と、言う。



2021年の元旦・インド洋

「角松二佐、嫌な天気ですね~」

水雷科と航海科の連中が陽気に声をかける。
日中韓三カ国の関係悪化に加え、ロシアの極東進出政策見直し、北朝鮮の独裁強化と日朝関係の複雑化が原因で陸上自衛隊は選抜徴兵を導入した。
対馬に普通科二個連隊、沖縄離島に特殊作戦群で鍛えられた部隊が各島々に中隊単位で空自と共に展開中。
空自は新型機F-35と攻撃部隊F-2を更新中。
さらに小松、那覇、北九州の基地は拡大。佐世保と舞鶴にも新型防空システムが導入され、JAXAの予算は10年前の10倍に増額。
気象観測を名目とした、対中国監視衛星の打ち上げも半年に一度のペースで始まり、米軍との交流も例年になく活発化している。

(俺たちの祖国は今や戦前と同じというわけだ。
上は中国とやりあうことを考えている・・・・その為にアメリカたちのご機嫌を取っておくということだが)

そこまで現在の情勢を思って角松洋介二佐は思った。
だが、だから?

(いいや、イスラム国を中心とした過激派に海上艦隊を攻撃する手段はない。中国海軍や空軍とは違って。
そう考えれば昨今稀に見る高級ボーナスがでる気楽な任務。
世界最強の艦隊のお供をするだけで名誉も金も履歴書の自己PR欄も埋められる、か)

そう思った。
知らずに笑い声がでる。

「やっぱり二佐もそうおもいますよね」

非番の士官食堂での些細な会話。
昼行灯と言われている梅津一佐が聞いているが・・・・まあ、文句を言わない事を見ると許容範囲なのだろう。
そして、それは今日変わらぬ明日、昨日と変わらぬ今日が訪れる事を誰ひとりも疑っていなかった証左でもある。
人は慣れる。良くも悪くも。
人は変わる。良くも悪くも。
そして、人の想像は大概が夢幻から覚めて、現実になっていると言える。
この時、「みらい」の中でそれに思い至った者はいない。

2025年8月15日

日本政府に一通の通達が突きつけられた。

「中国政府は貴国が不当に占領する領土の返還を48時間以内に実行する事を要求する」

「上記内容が受け入れられない場合は、対日政策の一環として日本製品の関税を2割から5割まで引き上げる」

「なお、誠意の証として在日中国大使に日本国の各軍事施設の無条件査察を要求する」

外交問題による周辺諸国恫喝で国威を高め、国家を纏めていた中国だった。
日本=敵国、日本=弱腰、日本=倭人という考えがおよそ半世紀以上の長きに渡り浸透した中国で発表された談話。
それは両国の関係を極度に緊張かさせた。
そして、この日、正午の定時連絡が途絶えた自衛艦がある。

「みらい」

それは現し世から夢幻の世への旅路であった事に気が付いた者はいない。
ただひとつ言えることは、これを互いに日本・中国の謀略であると論じる強硬論者により両国はある歴史的決断を求めらた。

後に、第二次日中戦争。
そして、第三次世界大戦へと繋がる八・一五事件である

885 :ルルブ:2015/01/18(日) 22:36:47
1945年8月15日

「なにが?」

突然の横揺れ。
津波。そして確かに船は横転した。
それは覚えている。
排水量18000tの日本海上自衛隊最大級の護衛艦も大自然の猛威の前には意味がない。
人類の総力を挙げた海洋支配のための技術も意味はなかった・・・・・筈だ。
菊池は今の自分が夢でも見ているのか思っていた。
確か、インド洋にて何の前触れもなく突発的に発生したサイクロンと地震(らしきもの)の影響を受けた。

『か、艦橋が倒れます』

『慌てるな!! 持ち場を離れるな!!!』

『震度7!!!』

『緊急命令!! 傾斜回復の為にバラストタンク注水!! 急げ!!!』

『津波接近!! 第二波です!!! 高さ計測中!!!』

『だめだ!!!! 20mはあるぞ!!!』

『総員対ショック防御!! 甲板員は艦内に至急退避せよ!!!』

『津波到達まで後二分弱!!!』

『間に合いません!!!』

『こちら甲板長、全員退避しま・・・・・うぁ~~』

『角松二佐!?』

『艦長より総員に告ぐ。何かにしがみつけ。以上』


そんなやりとりがあった。
視界が暗転し、そして気がついたら何事もなく俺は艦橋に・・・・『立っていた』のだ。

そう、あれだけの傾斜、映画の豪華客船の様な横転沈没もありえた。
否、確実に横転していた。それは長年の経験でわかる。

(なのに・・・・・何故?)

ふと周りを見ると更に違和感を感じる。
何か違う。
そう、何かが。

(なんだ?
何なんだ・・・・この違和感は?)

そう思って誰かが空を指した。
バカみたいな顔をして。
呆けた表情で空を見ている。

(?)

そして自分も愕然とする。

「た、太陽?」

「なん・・・・で?」

そう、ありえない。
あの時間は夜中。
現地時刻で20時半だった。
少なくとも時計ではそうなっ・・・・・ちがう!?

「艦長・・・・・これは一体?」

唖然とした士官にあるまじき行為だがこの時の誰もが、そう、梅津艦長も含め皆が思考を停止していた。

886 :ルルブ:2015/01/18(日) 22:46:27
違和感の正体は簡単で、明快で、そして疑いようのないもの。
自分たちの艦内時計は明らかに12時00分を「指して」いた。
慌てて確認した自分の機械式時計も同じ。12時01分に、「なった」。
明らかに陽光を浴び、何もかも穏やかなインド洋。
それから数分たったのか、航海科がGPSが使えないと報告したのを切っ掛けに次々と連絡が入る。
最大の特徴はスマート・フォンをはじめとした全電子機器でインターネットを始めとするグローバルスタンダートな衛星通信が途絶していたことだ。
幸いにも目測で現在地は確認できた。できたのだが。

「一体どういうことですか!? 予定航路よりも250海里は東。まもなくマラッカ海峡ですよ!?」

星図と海図で確認した奴が大声を上げえる。
そのくせ、コンピューターへの緊急チェックは3回全てオールグリーン。
ただ年と時間だけが違った。2025年ではなくどの計器も1945年8月15日12時を指す。
どうしたものだろうか・・・・そう呟いた角松。
それに何かを言おうとして。
観測班の一人がレシーバで連絡を入れてくる。

「前方に艦影確認。1万トン級の客船、現状を見るに半ば漂流中と思われます・・・・・どうやら本艦に対して通信を送っているようですが・・・・どうしますか?」

艦長席に座る梅津一佐はすぐに頷く。
ただ、その望遠レンズに映し出された船の姿を見て呻き声をあげたのだが。

「発光信号用意。国籍を教えられたし。本艦は日本国海上自衛隊インド洋派遣部隊所属、イージス護衛艦みらい。
それと総員第一警戒態勢へ。ただ、砲塔は回すな。ロックオンも許さん」

「艦長、仮に相手が中国艦隊であれば?」

俺は冷静に聞く。
攻撃の指揮を取るのは俺なのだから。だが。

「相手が分からぬ以上、むやみに対立する事はない。それに・・・・・撃つ気があるならもう攻撃してきている」

すぐにその所属不明船は速度を落とす。なんとか落とす、そんな感触だ。
それだけではなかった。あえて横腹を見せたのだ。しかも船長と民間人の要人らしき人間がえらくクラシックなスーツで甲板に出てくるのを双眼鏡で確認する。

「所属不明船より旗上がります・・・・つづいて・・・・電信? モールス信号受信中・・・・え?」

同期の角松がその不明瞭な言葉に苛立つが我慢した。
代わりに尾栗が叱責する。

「報告は正確に、そしてちゃんと、な」

続けて。

「も、申し訳ありません!! 読みます」

『本船はイラン帝国所属「アゼルバイジャン」号。有名轟く大日本帝国海軍先遣部隊との合流できた事に心より感謝する。
本船は只今機関に異常アリ、航行不能。巡洋戦艦ミライの回航を求む』

ここまでなら誤認で済んでしまっただろう。現実逃避も許されるかもしれない。
だが、次の一言は衝撃だった。
これは防諜の為か手旗信号である。

『本船には我がイラン帝国の特務大使の他、サウジアラビア王家のザイード王太子が乗船中。
先の日独イラン演習の疾風の活躍御見事なり。
これについて大日本帝国直轄領シンガポールに入港、大日本帝国が主催する予定の環太平洋諸国会議へのオブザーバーとして参加を希望。
ついては大日本帝国海軍インド洋派遣艦隊本隊との合流を切に願う』

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最終更新:2022年11月13日 11:10