896 :ルルブ:2015/01/19(月) 11:40:05
「第二話 予兆」

サウジアラビアは米国崩壊後に産油施設を全て国有化。更にイギリスに対してその利権をある程度譲渡することで自国の安泰を図る。
サウジアラビアの埋蔵量が莫大な事を知る夢幻会は即座に外交団を宗主国の英国と当事国サウジアラビアへ派遣。
日本石油などの油田会社を現地入りさせ、なんとしても中東原油利権確保に動き出す。
日英はお互いに笑いながらも壮絶な駆け引きを行っているのが現状だ。
一方、ドイツを宗主国としたイランだが問題はある。彼らのナチズムでは自分たちは絶対に対等ではなく、ましてイスラム教は忌避される宗教扱いなのだ。
ソビエト連邦やイギリスへの不信感から表立って反発してないから良いがいつ暴発するか分からない。
だが、ドイツとは陸続きであり、日本軍が如何に精強といえどもドイツ本土に近い中東へ大規模な軍を展開するのは容易ではない。
まして、だ。ドイツはソビエト軍を壊滅に追い込んだ実績がある。
この事とドイツの国策から早めに手を挙げて慈悲を乞う事がイランの安泰に繋がると判断した。
そう、あのイラン大演習までは。



1945年初夏。イラン帝国。宮殿。

「ドイツ空軍がああも簡単に壊滅するとは思いもしなかった」

「ドイツと手を切るのは論外だが、日本と対立するのも不味い」

「イギリスに仲介でも頼みますか?」

「それは冗談にしては出来すぎているし、本気ならもっと笑える」

「裏切り上等のイギリスはともかく・・・・・それとなくサウジアラビアに接触してはどうでしょう?
ドイツへの対外向け理由はサウジアラビアの持つメッカへの聖地巡礼です。下手に世界に数億人いるムスリムを敵にする事は・・・・・」

「今はなさそうだな」

「ユダヤ教徒への対応を見ていると一概に言えん。で、何を目論む?」

「我々がスパイになって日本の行おうとしている国際会議の情報を収集します、そう伝えたい。
もちろん後ろ指さされないように日本政府にもオブザーバーの地位を求めます」

「代価はペルシャ湾の安全と・・・・・ああ、だからサウジアラビアか」

「ええ、我らイランと彼らサウジアラビアの持つ原油。
これの採掘権を開放する用意がある。ただし、日独英の三軸のバランスを崩さないように。
伝えるのです。極秘裡に日本政府へ。表向きはドイツの派遣したスパイとして」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「陛下?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「日独の対立は今のところ政治的なものであります。北米とは違い軍事対立はありません。
今ならばまだこの手は使えると思いますが・・・・・どうされますか?」

イラン帝国はキャラバンに偽装した使節団をサウジアラビア王国に派遣するのだが、それはこの日から僅か2日後のこと。
とにかく、イラン政府としては最悪の選択をしない為に、いくらかマシな選択をしようとしていた。
ドイツのスパイという名目で日本政府に接触するのだ。無論、ドイツを刺激するのは不味い事からかなりの譲歩を先にドイツにしているが。
この点は国境や国内に英軍が駐留するサウジアラビアも・・・・・いや、日英独の支配下・影響下にある全ての国において当然の帰結である。

897 :ルルブ:2015/01/19(月) 11:42:09

インド洋に半ば漂流しつつあったイラン大使たちにとって、救助に現れた艦艇を見た第一印象とこれに基づく第一報は当然「大日本帝国海軍」である。
故に日本国海上自衛隊所属のみらいにも大日本帝国の一員と考えて信号を送ったのだ。

夢幻会が不本意ながらも支配している(少なくとも太平洋全域+α)憂鬱世界。

この世界で日本海軍といえば有色人種にもかかわらず白色人種の強力無比の無敵艦隊を全て打ち破ってきた、しかも殆どがパーフェクト・ゲームによる圧勝を積み重ねる伝説の存在。
彼らの中、つまり有色人種の大半は露骨な階級制度・奴隷制度・人種差別政策を敷くソビエト連邦やドイツ第三帝国、凋落著しい癖に気位だけは高い大英帝国よりもよほど応援したくなる。
それが極東の帝国。太陽神が治めてきたと謳われた世界最強の覇権国家。

「しかし、あれはなんだろうなぁ」

(あれほど大きな日本の軍艦ならばかの国の皇帝家の家紋を付けるのが慣わしのはずだが・・・・・ソレがないと言う事は日本船ではないのか?
しかし、信号の解読が間違いなければ日本国所属のはず。こんな東南アジア近郊でイギリス海軍の仮装巡洋艦とも思えんし・・・・ましてドイツなど欧州があれほどの新鋭艦をこんな日本のテリトリーに送れるだけの余力はない筈)

イラン大使の言葉に「たまたまお忍びの外遊」として同乗していたザイード王太子が受け答える。
この二人、同じスンニ派なので割と仲が良い。
事実、イラン政府はドイツの、サウジアラビアはイギリスの勢力圏だがあの広大な国境線と砂漠を封鎖する事などどこの国も(それこそ史実アメリカや最盛期のソビエトを含み)不可能なので隠密りに交渉を重ねてきている。
いわば、裏のパイプである。

「船体の大きさから見たところ最新鋭の巡洋戦艦ですかね。例のフジ級巡洋戦艦ほど大きくはありませんが戦前や大津波前の条約型巡洋艦の二倍はある。
おそらく中型空母を母体にした実験艦、或いは別の何か、かと」

「最新の実験艦を惜しみなく公開ですか・・・・・では王太子殿下にお尋ねしよう。我々は信頼されていると?
英独にそれぞれ尻尾を振っているのに、ですかな?」

「信頼?
あはははは、はっはははは。そうですか、そう、失礼。いやそうですな。
日本は信用が置ける数少ない列強だ。そう、少なくともあのドイツやあのイギリスよりは。
そして彼らも我らに利用価値を見ているでしょうよ。インド洋を横断し、本国に帰るだけでどれだけの重油を使うのか?
そしてイラン演習でどれだけの物資を消費しているのか。特に彼らの工業を支える化石燃料を供給していたアメリカ合衆国という国の滅亡。
彼らも好き嫌いで相手を選んだりはしないでしょう。どこぞの裏切り紳士や演説大好き伍長閣下、北の没落妄想家達とは違って」

その皮肉と言葉に艦橋中から苦笑いが起きる。
中近東出身者にとってはまさにその通りの言葉だったから。
宗主国の人間がいれば絶対に言えない言葉だが・・・・幸か不幸かここにはお互いに弱みを握り合ったが故に信用できる人間同士しかいなかった。

「まさにまさに、太陽の帝国ですな。太平洋を遍く照らすは我らなり、でしょうか?」

「いえいえ、師匠殿から受け継いだ世界。七つの海、その全てでは?」

「海賊が侍に領地を奪われる、ですね?」

「東方の蛮族相手に戦っているうちに、ですよ」

「いずれにせよ紳士の時代は終わったのですかな?」

「少なくとも、アジアの曙では?」

「大使殿も侍従長どのもそのあたりで・・・・うん?」

「ははは、これは良いですな。噂をすればなんとやら・・・・・」

その言葉に全員が空を見た。急に聞こえてきたな上空に、轟音のする方向に視線を送る。
数機の疾風が見事な編隊行動とりつつ二隻の上空を何度も旋回しているのが見えた。
綺麗な4つの行機雲が彼らの上空で交差する。

898 :ルルブ:2015/01/19(月) 11:42:53
時計の針は若干巻き戻る。

例の奇天烈な電報のやりとりを受け取ったのはマラッカ海峡に侵入していた空母大鳳。
とりあえず、現地の陸軍航空隊が調査に向かっている。
これは海上護衛隊の二式飛空艇も同様である。
彼らにはそれしかできないのだらか。正規軍の軍艦への対抗手段を複数もつのは海軍なのだ。
が、故に海軍はどうするべきか迷っている。
この間に「遣印艦隊ならびシンガポール駐留艦隊を含む各艦隊の出稿準備並び待機命令」が、続けて3日後に本国からの追加の「特務任務を帯びた出撃命令」を持った将校の着任。
後、各艦隊はシンガポール軍港から即座に出港。
続いて、接近中の二隻の状況を確認すべく山口中将らはすぐに更なる偵察部隊を出撃させる事と戦艦部隊を分派させ臨検する事を決断。。
結果、速度を重視した為に通常の流星ではなく、試作型でもある一機の偵察使用の疾風が大鳳から離艦しようとしていた。
日本軍最新鋭にして世界最高に位置する飛行機「疾風」の誉ジェットエンジン。
それ特有の轟音が飛行甲板に鳴り響く。

「藤堂守少尉、せっかくイランでエースになったのにここで愛機を壊さないでくださいよ!! そんなことしたら整備班全員でカチコミですからな!!!」

「わかっています!!! 傷一つなしで持って帰りますよ!!!」

「はは。初めての一人でお使いで疾風ごと遭難とかはやめてくださいね!!」

「少尉は海水浴してもいいですが、疾風はちゃんと返してくださいよ!!」

「おいおい・・・・いい加減に無駄話はやめろ!!! 鷹01、準備はいいのか!?」

「は!! いつでも!!」

「よろしい・・・・全作業員は下がれ・・・・・・・進路問題なし、蒸気圧正常値。鷹01、発艦せよ!!! 繰り返す、鷹01発艦せよ!!!」

「了解・・・・・藤堂守機、鷹01、発艦します!!」

大空に駆け上がる愛機を藤堂守が水平飛行行動まで上昇させていく。
規定高度に達した後、誘導にのり目的地を目指す中、ふと腕時計の一部に小さく貼ってある二枚の写真を見る。
ひとつは家族。現在、呉軍港の第13号ドックにて建造中だと言われる「戦艦の中の戦艦」、噂の新造戦艦の艤装長である父親の藤堂明、弟の藤堂進ら家族の写真。
そして、この間の満州で知り合った亡命ロシア人の兄妹と一緒に写った写真。
兄は海援隊経由で日本軍の特殊空挺部隊に参加したとか、今度北海道にある白系ロシア人のキリスト教正教会のミサで歌うとか手紙に書いてあった。
雲一つない蒼穹。

「空はいいな。今度はお前たちも連れてきてやりたいよ。サーシャ、進」

(進には今度は東南アジアのお菓子を送ってやろう)

ふと、バックミラーに機影が見えた。後方からは護衛の疾風3機が編隊を組んでいる。
藤堂守少尉の束の間の黄昏は終わった。

899 :ルルブ:2015/01/19(月) 11:44:37
1945年8月16日 帝都・東京

首相官邸に入った報告は驚くべきものだ。
この世のものとは思えない軍艦が一隻、イラン船籍の船とともにシンガポールに向かっている。
指示を請う。
嶋田は即座に詳細を知らせるよう命令。しかも大至急という言葉をいれる。
彼にはその船の名前に嫌な予感がしたのだ。報告のもたらした名とは正反対の事を。

『詳細報告。マラッカ海峡近郊にて発見セリ軍艦の名前は「みらい」。
日章旗を艦尾に掲げており、言語も日本語の模様。偵察機の写真分析の結果、艦首に海上自衛隊護衛艦の文字を確認。
現在、イラン船を曳航中。尚、イラン大使ならびに客人として乗船中のサウジアラビア王太子も我が国への来訪を表明中』

嶋田は最初の報告を聞いたとき心臓を鷲掴みにされた気分だった。
続けて詳細が入ると、今度は自分達がしてきた事の恐ろしさを思い知らされた気がした。

(神の悪戯? 悪魔の微笑み? どちらにせよロクなことではない)

時空の狭間から漂流したと直感した軍艦の名前。

「みらい」。

何たる皮肉か。
なんとも因果に満ちた名前だろうか。

(自分たちがずたずたに崩した「みらい」、もはや御伽噺となった世界で、さらにその架空の世界からの使者ではないのか?
もしもみらいが、あの「みらい」なら・・・・・本当にあのイージス艦「みらい」だとしたら?
だとすると不味い。どんな事をしても彼らを日本に帰属させなければならない。なんとしても、なにがあっても、だ!!)

嶋田にはある焦りがある。
日本人陰謀論が白人社会を席巻し、反日感情が高まる地域は10や20ではきかない。
この情勢下でイージス艦の持つ装備が独英に、或いはソビエトや分裂している北米各国に渡れば日本は終わりだ。
明治維新から脈々と築き上げてきた、そして奪い続けてきた技術的優位という砂上の楼閣が今度こそなくなる。
無残に、容赦なく、一切合切、無慈悲に洗い流される。それは夢幻会転生者全員の結論。

(軍事技術だけなら何とかなるかもしれない・・・・・だが、最悪なのはあの歴史書をはじめとした書物。あれらが流出すれば・・・・・それは・・・・・・この国の破滅だ。
我々が何をしてきたのかがわかってしまう。世界を知っていた、その事実が暴かれてしまう。
世界を知っていた、世界の流れを知りそれを利用し、何億人も殺して自分達だけ繁栄をしていると思われる・・・・いや、確実に恨まれ断言される。
あれが、発見されたフネが、想像通りのあの「みらい」なら。
会合での皆の予感が正しければ・・・・・「みらい」の持つ情報はすぐにこの帝国を史実の第二次世界大戦末期以上の孤立化へと導くだろう・・・・・それは絶対に・・・・・絶対に避けなければ!!)

深夜に夢幻会のごく一部にして現在の大日本帝国の事実上の脳髄にて議論される未来。
誰もが沈痛な表情で、しかし、険しい表情で結論を下す。
ほかの国々には絶対に悟られる事がないように、と。

後年、情報公開法による機密文章公開にいおいてだが、1945年8月16日の首相官邸の定例閣僚会議と総研の報告は特に特筆すべき事項はない、そう記されている。
が、あえて特筆すべき事項があるならばひとつだけ。
この日の閣議は定時18時よりも早く、そう、16時には全閣僚が首相官邸を退去したことと、一人の海軍中佐が23時半時前後に首相らの密命で横須賀軍港から海軍省から呼ばれたことくらいだろう。
まあ、件の海軍中佐はハワイ沖海戦で活躍した誘導兵器、米本土攻撃の切り札である三式弾道弾開発、新型防空システムの提唱者であり実行者であり企画者であったから誰も不信には思わなかったが。

類まれな先見性を持つ情報参謀の草加拓海中佐は夢幻会の一員として特命を受ける。

『漂流軍艦・みらいに対して接触、これを日本帝国の保護下におくべし』

『本作戦における権限として、シンガポール駐留部隊の第11航空艦隊ならび「隼鷹」「飛鷹」の第四艦隊、「伊吹」、「鞍馬」、「大鳳」らインド洋派遣艦隊に対する特務発言権を付与する』

『最短の方法を使用し、シンガポールに寄港している遣印艦隊司令部に着任せよ。尚、極秘任務の為、羽田空港より民間の直行便を用意してある旨、それを使用せよ』

その命令書を首相官邸首相執務室で拝読した男、中佐は数分黙りこんだあと、惚れ惚れするような敬礼を残して羽田空港に向かう。
まるで懐かしいものにあったような、そんな表情をしていると、副官職を拝命した津田大尉は述べている。

900 :ルルブ:2015/01/19(月) 11:45:37
1945年8月18日

「ミッドウェイ級らしき大型空母1、大和型の量産型らしき戦艦2、巡洋艦6、中型空母2、艦隊随伴の駆逐艦多数を視認」

みらいのレーダーと索敵はマラッカ海峡を北上し、アンダマン海に展開する大日本帝国海軍と接触しつつある。

「艦長」

尾栗が少し不安げに聞く。
彼らは、私たちの祖先にあたる日本海軍は史実では配備できなかった筈のジェット戦闘機を実戦配備していた。
それ以外に特筆すべき事。それは外交船であるイラン船がこちらの要請に唯々諾々として「みらい」との接触を殆ど行って無い事だろうか。
梅津艦長はイラン側に対して軍事機密を盾に乗船許可を突っぱねる。
その言葉は外交官に対しては無礼であるはずだし、米国との同盟国(つまり日本とも準同盟国関係)であるサウジアラビア王族の機嫌を損ねても可笑しくない。

(向こうには石油がある。それを盾にすれば結局従うしかないだろう)

角松はそう思っていた。実際それは梅津も菊池も同じである。
が、彼らは「本艦は軍艦であり、日本国の最新鋭艦の為民間人の乗船は拒否する」という言葉で簡単に納得した。
しかも敬意を払っているのか、向こうの船には最低限の監視員以外は甲板におらず、向こう側からはみらいに全てを委ねる旨の通信まで入っており、事実、イランの船も乗組員も不平不満の一言も漏らさない。
まるで、教科書に乗るような列強に従う弱小国のようにである。
菊池三佐の言葉を借りるならば、だ。
誰もが思わないようしていた、それこそが実はこの世界の真実であるのではないかということを。

(私の知る限り、ではだが。通信傍受による情報分析と彼らの持っていた新聞。
英独停戦、大西洋大津波、アメリカ崩壊、その後の北米分割、サンタモニカ会談、カリフォルニア共和国らの盟主にして太平洋の覇者である大日本帝国。
かたや第二次世界大戦を勝利したもう一カ国、新たなるローマ帝国にして奴隷制度を持つアドルフ・ヒトラーが健在なナチス・ドイツだと?
ソビエト連邦はヨーロッパ地域の半分以上を失い、史実のような中華人民共和国は無論、満州国ですら存在すらしてない。
まして原爆を持ち、メキシコでそれを行使した日本。何なんだ・・・・・この世界は)

マイクを持った状態で考え込み、しかもどうやら不安げな様子が顔に出ていた。
慌てて軍帽をかぶり直すと乗組員に艦内放送をする。

「これより、日本海軍らしき有力な艦隊と・・・・・接触する。各員は軽挙妄動をさける事。
なお、日本海軍らしき艦隊であるが、諸君らも知っての通り我々の全てがこの世界では異質である。
各々の対応が世界を変えることを肝に銘じ行動せよ。以上」

続けて。

「続けて艦長より艦橋へ。発光信号。
イラン船ならび外交官殿と王太子殿下宛に連絡。貴殿らの航海の無事を祈る」

「アイ・サー。艦長、発光信号確認しました。」

「読みます。
イラン船より返信。誉れある日本海軍の出迎えに心より感謝を。
神の加護が我らと帝国海軍の同胞らにあらんことを・・・・・連中、俺たちを本気で帝国海軍と思い込んでるのか・・・・・以上です」

尾栗の呟きはCIC中に広がった。
それは菊池も角松も同じ想いだった。

901 :ルルブ:2015/01/19(月) 11:51:05
同時刻・戦艦伊吹

「やれやれ、一隻の所属不明艦相手に連合艦隊最強の戦艦が二隻もお出迎えとは・・・・・どう思うかね?」

艦長の愚痴だ。

(無理もない。本来ならばインド洋演習とイラン演習の帰りで帰国を待つだけという将兵ばかり。
かく言う私も旅行気分がある。
さながら東南アジアの遠洋航海実習という感じだ。それが一転して・・・・戦闘配置とは)

見えないように津田大尉が溜息をする。
何人かの参謀たちもやる気が見えない。少なくとも第二次世界大戦の時と比べて士気が下がっている。
だからと言っても致命的な程ではないのが帝国海軍だ。

そう、この艦隊は本来ならばシンガポール鎮守府で半舷休息だったのに政府の特命かつ厳命で慌てて駆り出された。
しかも第一戦闘配備で、だ。
世界最大の空母大鳳以外にも隼鷹、飛鷹、海鳳、翔鳳。これに加えてシンガポールに展開している第11航空艦隊にも警戒態勢が敷かれている。
たった一隻、それもせいぜい一昔前の巡洋戦艦程度の相手に、イギリス海軍東洋艦隊を一方的かつ一撃で壊滅させられるだけの戦力が動いていた。
一介の中佐の意見で。だからこそ懐疑的な意見が出るのは仕方ない。

「艦長、あれは異質だと政府上層部は判断しております。それも、帝国を変えてしまうほどに」

「?」

「ほう?」

津田大尉と伊吹艦長が不思議そうな顔をする。
だが、中佐の表情は固く険しい。
艦長は思い出した。この情報参謀は先の北満洲掃討作戦にも海軍から派遣された一員。
情報局とも繋がりがあると言う。

(私のような純粋な武人には見えない何かが見えるという事かな?)

「少し大げさではないかな?」

敢えて軽い口調で聞く。
だが、中佐はよどみなく、しかし確信に満ちて答えた。

「いえ、大袈裟でもなく法螺話でもなく本当のことです。
あの軍艦、「みらい」という名前は文字通り帝国と日本人の「未来」を変化させるでしょう。
それは確実です。では艦長。当初の予定通りに回転翼機の準備をお願いします。
我々が害されたと確認するまでは間違っても砲火を開かないようにお願いします。
それでは津田大尉、乗船準備を行う。用意は?」

「できております・・・・・・・・しかし中佐、あれはそれ程までに重要なのですか?」

彼らから見ればたった一隻の漂流船でしかない。
そう、艦隊乗組員にも知らされている。
艦隊上層部とシンガポール鎮守府司令部、派遣されてくる役人でも夢幻会メンバー以外にはそれしか知らされてない。
それ以上に例の艦へ追求する人物は、巧妙な手口で現場の東南アジアや政府中枢からハワイ鎮守府、不安定なフィリピン大使館辺りに左遷すると暗に脅されたので大半が口をつぐんだ。
まして救国の英雄である首相の嶋田に加えて、予算を握る大蔵省の辻蔵相と内務大臣の阿部ら3名が連名で命令書を作成したのだから。
もちろん、陸海軍大臣も参加している。これで手を出すのはよほどの大馬鹿者か大物のどちらかだろう。

「重要なのだ、大尉。この上なく重要であり日本に変化をもたらす。確実に」

それだけを言い残し、新たに設置された飛行甲板に向かう両名。
中佐は敢えて口にしなかった。
だが。
確かに彼は、草加拓海海軍中佐は思っている。

(・・・・・・・・・・・そう、かつてのように)

第二話 終

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最終更新:2015年02月05日 22:55