698 :ルルブ:2015/02/02(月) 11:41:30
「第十三話 羅針盤」



1945年9月27日 横須賀基地

みらいが入渠しているドックを横須賀第13号ドックという。
彼らがこの国に来訪した、或いは帰還したのか、どういって良いのか未だ議論は尽きないがそれでも彼らの軍艦は今、この日本列島にある。
明治幕末時代から始まり、この後進国、発展途上国を世界最先端を歩く列強筆頭に育てた夢幻会と彼らの理解者。
彼らが異物であると知っていながら、劇薬だと分かっていながら、副作用を覚悟して飲み込んだ者たち。
彼らの多くが若者ではなくなり、老人でさえなくなった。
既に「歴史」として語られている存在達。
そして。
今、新たなる「戦後」が始まりつつある。
切っ掛けは一隻の軍艦。
ここ横須賀に来た、本来の「未来」であり、最早有り得ないだろう「みらい」、それを知る者はない。
しかし、確実に「みらい」は「現在」に確固として存在している。
誰に望まれたのか、願われたのかは別にして。

「なあ、聞いたか?」

何人かの兵士たちが兵舎でくつろぎながら噂話をしている。
どこにでもありそうな話だ。
誰でも一度は食いついて、それですぐ忘れそうな事だ。

「なんだい?」

「補給の連中が愚痴ってたんだ。ここのところやけに軽油の消費量が多いなぁ、て」

ああ、軽油をドラム缶で運んでいた連中な。
何故か知らないが大型の連結ポンプは機能停止中だとも言っていたか。
酒の力って怖いねぇ。
それじゃあ俺も言うか。
日本酒もうまいしな。

「ああ、それは俺も聞いたよ。
軽油以外にもあの第51大隊が完全武装している半円の内側には身体検査を受けてそこで用意された服に着替えないと入れないんだってな」

「出ることもできない、らしいぜ」

「俺たちは周りから見るだけだが、見えるのは鉄とコンクリートの壁だけだし」

大型トラック搬入用の道、その周囲を高さ3mで囲ってあるコンクリートの壁。
それに各地に設けられた鉄条網とフェンスに検問所。
突貫作業で8月15日の夜から20日間使って仕上げた。
上には有刺鉄線に電流を流し、入口は古代中国やローマ、イスラム帝国の諸都市のような城壁の城門構造になっている。
サーチライトに狙撃用の部隊、鎮圧のための重機関銃は全て実弾が装填されている。
物々しい警戒態勢だ。

「そう言えばそうだな。
ここの警備はすごいよ。
俺の友人が呉の造船所で働いているが、そこにも同じようなドッグがあって、噂じゃあ何でも世界最強最大の戦艦を建造しているとか」

そこも似たような状況だ、と付け加える。
それと。

「尾栗大尉に聞いたんだが、あの中からの外出が結構大変らしい。
作業服にスーツに国民服のどれかを支給されててそれに着替えるんだとさ」

風呂場に服が用意されていて、洗濯はこちらが責任をもってやるから着替えろ、だって。
げ、そこまでするのか?

「へぇ。徹底しているなぁ。あんなかで一体何してんのかねぇ」

「さあ?」

知りたいと思うのは仕方ない。
この世界情勢。
まして、彼らは徴兵されいるとは言え軍人だ。
気になるだろう。

699 :ルルブ:2015/02/02(月) 11:45:58
談笑は続く。
隠れ酒を飲むほどの緊迫してない日常。

「きっと英独に対抗する新型戦艦か新型空母を建造中なんだよ」

「お、ありそうだ」

というか、それくらいしか考えられない。
まあ、疾風のけんがあるから飛行機という線もあるかもしれない。

「その噂、乗った!」

誰かが財布を出す。

「賭けるか!?」

乗る男たち。

「何を?」

「戦艦か空母かどっちかに、だ」

「いいね」

「俺は戦艦だ」

「じゃあ俺は空母」

「大穴狙いで潜水艦」

笑い声が木霊する。
平和な軍事基地。
史実の昭和20年9月とは異なり爆弾一つ落なかった日本本土だからこその空気。
草加拓海や夢幻会が望んでいた日本人の平和な日本列島がいまここにある。

「でも既に出来てたりして・・・・げ、時間か」

と召集ラッパが鳴り響く。

「じゃあお前ら、今日の仕事だ。そういやぁ、今日の視察は誰だっけ?」

情報通が答える。

「何でも帝国大学の有名教授らしい。
あの空母大鳳の技術を国内向けに発表する噂が議会から出てからそんな人ばかりだ」

「大鳳型空母量産化計画を衆議院の過激派が訴えだしてからだよね、それ。
そう言う人らの護衛と監視の仕事が増えたよなぁ」

「ぼやくなよ、仕事があるってことは良いことさ。
第一だ、考えろよ、俺たちは安全な後方勤務。
戦場にいる部隊に比べれば天国じゃないか」

「おう、内地だし」

「女も酒もある、しかも危険なアメリカ風邪は海の向こう。だろ?」

「「「はははは」」」

「じゃあ行くぞ」

皆の顔は明るかった。
壁の向こう側にすむ日本人らとは比較できないほど。

700 :ルルブ:2015/02/02(月) 11:46:33
完全密閉されたドッグ。
第13号ドッグの周囲からは兵士たちの笑い声が聞こえる。
それをみらいの音響探知機は的確、ではないが、少しだけ探知していた。
このドックは開口部分のみが半分ほど光が入るように建設されている。
開いた隙間は大きく、声は風に乗ってみらいの艦内にある程度聞こえるのだ。
これは小さい、しかし、確実に外への関心をみらい乗組員らにもたらしている。
変化だ。
変質だ。
小さくない化学変化をみらいに引き起こしている。
彼らは思っているのだ。
願ってしまったのだ。既に漂流者として。

『外に出たい』

『人に会いたい』

『新しい場所を見てみたい』

『自分の目で感じたい』

『自分の手で触りたい』

『自分の頭に焼き付けたい』

『自分で知りたい』

ただ純粋に、好奇心で、欲望で、欲求で。

故に不満が高まる。
故に不安がなくなる。
故に気分が高揚する。

違うだろう、不安をあえて押し殺しているのだ。
そうすれば世界が輝いて見えると信じている。
信じたい。
だからこそ、付け込む隙ができてくる。
既にひと月以上。
草加が巧みだったのは情報を最初に受け取る人物を限定してくること。
わずか四名。菊池であり、梅津であり、尾栗であり、角松だった。
加えて、彼らから知れ渡るようにそれとなく手を打っていた。
ヘリで「みらい」の後部甲板に乗り付けたり、単身で武器なき身分でみらいへと戻ったり、絶えず大日本帝国の使者として振舞ったりと。
その甲斐あってか、みらいの内部を案内される夢幻会の選抜した技術者メンバー。
代表使節団の纏め役は新城直衛少佐。彼の副官に津田大尉。
内務省管轄の阿部大臣らから派遣されている者の中には竹中という人物もいた。
彼らは、特に何故か首相お気に入り海軍派遣将校になってしまった津田大尉は例のごとく手錠付きのトランクケースを持ってみらいに戻ってきた。
嬉々として艦内を捜索する面々を尻目に、部屋に閉じこもり拳銃で書類を守っている津田。

「やれやれ、大尉は生真面目ですなぁ」

「任務ご苦労。だが、気の張りすぎは良くないのではないか?」

珍しく竹中と新城がねぎらうくらいに。
傍から見ていてわかる。
ああ、緊張しているな、こいつは、と。

「津田大尉、任務ご苦労。これからそれを梅津大佐らに渡してくる」

その言葉を待っていた。
事実、脂汗をたらしながら、ずっと待っていた彼。
なんとか崩れ落ちずに、手の震えを意識で止めて敬礼する。

「は、草加中佐。お願いします」

ケースを草加に手渡す瞬間まで津田は絵に書いた将校のように生真面目だった。
同席していた竹中警部は笑っていたし、新城少佐もタバコを吸っている。

「分かっている。貴様、少し部屋で休め。
この調子では命令したほうが良さそうだな」

そして彼は、草加拓海はみらいの艦長室に向おうとする。
みらい側の提示した案件に関する嶋田首相らの回答を持って。

「私はこの軍艦の最高責任者に会ってくる。
君らは各々の任務を全うしてくれ。ただし、みらいの人間が暴走するような行為は厳禁だという事だけは忘れないように、な」

部屋を去る。それを契機にメンバー全員がそれぞれの得意分野に分かれて見聞を広めるべく行動を開始する。
だいたい10名前後みらい滞在メンバー。
彼らは海上自衛隊のみらい乗組員に監視されながら興味津々という形で艦内を案内されている。
今日も、昨日も、そして予定では明日と明後日まで。

701 :ルルブ:2015/02/02(月) 11:47:39
1945年9月27日 「みらい」士官室

またもや4対1。だが草加はなお余裕を崩さない。
みらいの代表らとは正反対に。

「角松中佐、君らの案を見せてもらった」

先ずは礼。
次に本題。

「案内役を買って出た菊池少佐には敬意を評する。
梅津艦長にも礼を述べてほしい。それで、君らの拠点だが・・・・ここはどうかな?」

草加は部屋で帝都・東京の地図を広げる。
指差す場所は新宿区歌舞伎町の小さな診療所。
隣にあるのは「キャッツ・アイ」という喫茶店。
診療所は一階にあり、建物自体は三階建てで駐車場もある、公園と喫茶店が目印になりやすいのが特長だった。

「ここの建物ならば近くに喫茶店がある。
この国は24時間営業の施設は少ないが、ここは朝の7時から夜の10時まで営業している。
アルコール類も提供されるし、食事もできる。仕事帰りに、或いは休日には賑わっている点と大人が何人集まっても、何時に集っても怪しまれないという地の利。
中佐らが情報を収集し、照らし合わせて帝国に協力するかどうか判断する、そんなみらいの会合にも使い勝手が良いだろう?」

こいつの微笑みだ。また皮肉かと思ったが、まあ贅沢は言えない。
角松は建物を見る。地図も見る。図面も見る。
平成のマンスリーマンションの一室。
一階は小さなテナントで調剤薬局だ。入口は二箇所。
外側の非常階段と中央階段のみ。

(うん、ここは薬剤師の他に医療従事者の募集している、らしい。
本当かどうかわからないが、後で新聞を調べてみるか)

懸念はある。
当然だった。しかし、時間的に見て、みらいの価値を知り、それを扱える自分たち。
だからみらいの自分たちが思うにこの大日本帝国の政府首脳部は焦っているのかもしれない。
俺たちがなにかしでかしてしまうのを。
実力行使に出ることを。

(地理に全く明るくなく、現金も換金できる貴金属も公的な証明書もないみらい。だから俺たちには草加の案しか道はない。
罠の可能性も高い。確実にビル内部では盗聴器や盗撮されるだろうな。
だが、交通の便は非常に良い。周囲から狙撃するにも人目につきすぎて、隠れて逃げる道は少ない。襲撃もない。
市電、地下鉄、バス路線を考えれば尾行も巻きやすい。草加の言うとおり密談には最適かもしれん)

ただ、それは自分たちにも当てはまるのだが、そこは海上自衛隊だ。
情報員としての訓練や警察の捜査方法、陸上自衛隊の陸戦訓練・市街地戦闘訓練など受けてない彼らには想像できなかった。
まあ、想像できる方がおかしいのだが。
角松は海上自衛隊自衛官。海の男である。決して陸の男ではない。そこは決定的な差。
止めに漂流者にして外国人のような日本人。
海軍中佐でありながら、この帝国最大=世界最大級の影響力を持つ結社たる夢幻会の全面的な補佐を受けている草加とは前提条件が違っている。

(個人経営の喫茶店、それ以外には目星い建物は無い上、警察署や派出所らも遠い。
大通りに面していることと、月極駐車場がある事から車の出入りも楽。
市電も路面バスもある。高速バスがある新宿駅まで徒歩10分前後というこちらの要求も満たしている。
それに二階、三階はアパートだ。人が新たに入っていても問題はない・・・・・草加の言葉を鵜呑みにするならばだが)

草加は実は交渉開始前に誠意の証としてまずこの案件を独断で先に角松だけに見せていた。
草加は首相が用意したみらい宛の親書や要求されたみらいの乗組員上陸時の住居も確保している。彼の権限で。
場所も新宿区歌舞伎町。この国で最大級の繁華街であることから情報収集には最適な場所。

「そうか、梅津艦長らと改めて相談したい。
時間はどれくらい必要だ?」

草加と一体一の状況。
彼は軍帽を被り直すと言った。

「30分だけだ。それ以外の場所を用意して欲しいなら我々の要求を新たに飲んでもらう」

「随分と時間がないな・・・・・・・お前、何を焦っている?
で、どんな要求だ?」

草加は角松に静かに告げた。
彼も少し焦りがある。多くの意味で。

「みらい、つまり君らの軍艦の引渡しだ。
私の進言で政府の意思を左右出来ると言うことも、その結果が先の妥協案であり、その書類なのだ」

702 :ルルブ:2015/02/02(月) 11:53:05
角松中佐、この件は忘れないでもらいたい。
特に胸に刻んで欲しい。
これは友人としての頼みだ。
君の理想を曲げてでも覚えておいてくれ。

「私は大日本帝国政府の全権委任を受けている。内閣の閣僚会議で全会一致した事だ。
それは貴方方の平成でアメリカ合衆国大統領の特別命令で動いている人間と同じ権限がある、という事だ」

付け加えるならば。

「それと、例の要請は受諾してもらえたかな?」

兵器らの輸送。
その為の政府特務機関機関員らの乗艦許可。
指揮は草加ではなく、新城直衛と情報局の人間が取る。

「信管を抜いて構わない、電子回路というモノさえ無事なら基本データを初期化してくれても問題はない。
燃料も火薬もなくて良い。
が、この軍艦の主要兵器、我々が欲しており要請しているトマホーク、ハープーン、スタンダードというミサイルにアスロック。
これらを2発ずつ我が軍に引き渡してもらおう」

それは追加の命令。
既に艦内各地に乗組員が大日本帝国のメンバーらと接触してる。
加速する歯車。

「俺は副長だ。艦の最高責任者は梅津艦長であり俺じゃない。
勝手な判断はできん。
だが、要請は伝える、それは受け入れる」

その時、珍しく草加が声を荒げた。
静かに、だが、確実に。

「そうか・・・・・・この後に及んでまだ現実を見ようとしないのだな。
この世界はあなたの平成に至る世界ではないことをまだ認めない。
あなたには失望したよ、角松洋介」

なん、だと?

「あれだけの事をシンガポールで、そして近衛閣下が乗艦した時に言ったのに、その態度とは。同じ軍艦乗りとして、君は私を失望させているのにまだ気がつかないか?
私と同じ存在、未知の未来を知っている男、角松洋介という日本人は信頼出来ると思っていたのだが・・・・見込み違いか?」

何故だろうか、角松は怖気がした。
目の前の自分と同じくらいの年齢で、同じくらいの背格好で、同じように海の男である筈の、単なる人間だと思っていた。
それが今は違う。
全く別の何かだ。
そう、それ以上に存在に見えてしまった。
見間違いだと思いたい。しかし、それを赦さな雰囲気が草加拓海から角松洋介に放たれている。

「・・・・・・・・分かった。俺が責任をもって乗艦を許可するように頼む。
が、貴様の要求をのむかわりに俺たちにも自由をもらおう」

ほう?

「それは何名ほどで、何の為に必要で、何が目的だ?」

先程までとは違う、草加。
威圧されている角松。
だが、それだけでは終われない。

「俺を含んだ10名程度。場所は言えん。目的も言えん。
しかし、時間は2週間で良い。
上陸を許可してもらおう。お前なら、この政府中枢に巨大なコネを持っている草加拓海という海軍中佐なら可能のはずだ」

潮だ。
そう、ここがみらいの譲歩。
少なくとも角松にはそう思える。
彼には比較できる情報が少なすぎる。
それにこの第13号ドッグは傍目から見ても、素人でもわかるような対空襲防御用の防爆装備で分厚いコンクリートと鉛に囲まれていた。
昼でも一方の方向からしか日は差し込まず、昼夜の区別もほとんど付けられない現実。
レーダーも使えず、ドッグ内部には海水は全くないため、「みらい」を動かすことはできない。
艦載ミサイルを発射すれば自爆の可能性が高い。
かなり早い段階でこのドッグを選んでいたのだ。こうなる様に仕向けるために。
みらいの足をなくし、手を縛るために。

「ふ、ならば私からも頼むかな?」

草加に先ほどの微笑みが戻ってきた。だが、彼の声はどこか温かみを欠いている。
先程までとは大きく異なり。

「?」

「私もその席に同席しよう。1時間後に艦長室を訪れる。
ああ、案内は不要だ。
みらい艦内の配置は把握している。伊達に海軍軍人として帝国に生きてきた訳ではない」

断ることはあるまい?
同じ疑心暗鬼に駆られているという意味では我々は同士であろう?
ならばこれくらいは飲んでくれても問題ないはず。
角松は震える声と血が滴る握りこぶしで草加睨む。
草加もにらみ返す。飄々としていた雰囲気はない。
彼も激情渦巻く胸の中を押し殺している。

「よくもぬけぬけと」

「角松中佐、あなたのその台詞は私の台詞でもあるのだ」

二人の意志が交錯する。

703 :ルルブ:2015/02/02(月) 11:53:49
同日・帝都・宮城・御所

「駒城貴族議院議長ならび碇侯爵ら120名の貴族議院ら連名の奏上を御上はご拝見された」

参内した嶋田総理。
今後の情勢を報告し、ドイツとのイラン演習、そしてその大勝利がもたらした現実面での変化を首相自らがこの国の帝へと伝える。
儀礼的なやりとりだが、だからこそ必要不可欠なのだ。
この立憲君主制を守るために。
何より、天皇家を守るために。
大日本帝国ではない、この日本列島の過去、現在、未来。それら全てを守る為。
いざと言う時に天皇家の身代わり、つまり、日本人すべての罪を自らの業として背負うためのスケープゴートになる、全責任を押し付けられる個人ないし組織が必要だった。
史実の日米戦争、太平洋戦争と極東軍事裁判の被告席に座った者たちのように。
未知の未来で発生する問題、それに対処するための前例を用意しておかなければならなかった。
だからこそ、夢幻会は嶋田を独裁者に仕立てて、玉音放送までして彼に全権を与えてアメリカとの戦争を遂行させた。
結果と結末、そして新しい道は不明で今後どう判断できるか不明だが、それがいいのだ。

「はい、牧野侍従長。
それで陛下はその奏上に対してなんとお答えに?」

ここは大日本帝国の最深部。帝都で最も安全であり難所でもある。
外国人は絶対に入れない場所だ。
盗聴も盗撮も気にしなくていい。というか、ここでそんな事をした人間は冗談抜きに殺されるだろうし、国家だった場合は戦争になるだろう。
イギリスのバッキンガム宮殿やドイツのヒトラーお気に入り「狼の巣」、ロシア皇帝ご自慢のクレムリン宮殿などを空爆で完全に爆砕するか、彼らの眼前で燃やす並みのインパクトを日本人全員に与えてしまう。

(つまり、大戦争だ。一心不乱の大戦争だ。
三千世界の鴉を殺す糞のような大戦争の引き金になる)

心情を知ってか知らずか牧野は続ける。
嶋田へ。

「明治大帝陛下が日露戦争時にお読みになれた句を・・・・今生陛下もまた心苦しくお読みになられた。
私が言っている意味は・・・・・総理ほどの御仁ならお分かりだろう」

決して、争いを望まない、という事。
四方は海、全て同胞と思えば。
ええ、理解しております。陛下らが如何に平和を愛しその努力をしておられるか。
それは私の二度の人生でよく知っている。
だからこそ、我々がいるのですよ、牧野侍従長殿。

「分かっております。この件はあくまで極秘裡に処理しておきます。
ただ、どうしても木戸宮内大臣と牧野侍従長の許可、そして陛下の勅許が必要だったのです。
それで・・・・あれはよろしいですか?」

ため息一つ。
こっちもしたいが、それはできない。
俺はこの国の独裁者だ。弱みを見せて陛下の御身を危険にされせない。

「総理、あなたの提案と奏上を読まれた陛下は暫し無言であっても、最終的にはご裁可下さった。総理ら政府と駒城、碇らの正当な華族の要望にお答えする。
国家元首としてではなく、あくまで皇室の家長として、ではある、とのお言葉ではあるが、な」

だから責任は貴様らと私で取るのだ。
そう言っていた。

「それで十分であります」

「では、今から陛下にその旨を伝える。
時が来たら教えてもらうが、それで、総理ら会合の動きと計画実行はいつごろになりそうだ?」

嶋田はその問に明確に答えた。
そこだけは自信があった。何故かはわからない、だが、あの男の述べた通りの自負が彼にも出来ていた。

『嶋田総理、それは確実です、それは』

「それは、牧野侍従長。半月以内にお願いするでしょう」

と。

704 :ルルブ:2015/02/02(月) 11:54:26
同日・神戸市・テルマエ・ロマエ VIP専用ルーム 「薔薇水晶」

女二人。
肌の色から彼女らは白人。
湯船に浸かっている。気持ちよさそうに。
海からの風が若干冷たいのだが、これこそそれが逆に良い。
因みに、先に風呂にいた女、そのスタイルは欧州女性の典型的な良さを誇っている。

「アルトリアお姉さま、お渡した資料はどうでしか?」

あの程度で良いのか、もっと重要な事を調べなければ自分の目的は達成されないのではないか、そう思っている。
だが、返答は意外だった。
寛容であると言い換えても良いかもしれない。

「アンネローゼ。あなたが怪しまれては意味がないのだ。
あなたは生きる為にあなたの道を歩んでいる。決して死ぬためではない、そうであろう?」

出会って10日あまり。
アルトリアという偽名の女はカリスマ性を持っていた。
兵士に死んでこいといっても、それを兵士達が喜び勇んで実行するようなカリスマ性を持っているだろう。
だが、それ以上に慈愛に満ちていた。
何故かは知らない。だが、とても慈愛に満ちている。

「そう仰せなら、わたくしとしては何も言いません」

「結構です、アンネローゼ」

少し間があく。
彼女は肢体を湯船から出るとサウナに入るよう誘う。
まずは持ち込んだ水筒の水を半分ほど飲みきる。

「アルトリアお姉さま、私は正しいのでしょうか・・・・少し怖いです」

アンネローゼという偽名の女。
彼女の本心。少しの筈がない。全てにおいて恐ろしい。
だが、やるなら今しかないのだ。

「アンネローゼ、覚えておくが良い。お前の恐怖がお前を生かせる原動力となる。
お前の恐れはお前に道を示す篝火となる。
お前が今感じている感情が、お前が最期の瞬間を迎える時に納得できたか否かを決める最後の鍵となるのだ。
そうだな、奏者よ。
お前は私のマスターか? 私はお前のマスターか? お前は魔法か何かで召喚された誰かのサーヴァントなのか?」

にくい笑みだ。
心の底から答えによっては嘲りと変わる微笑みだった。
だからアンネローゼは思う。
それだけは違う。
そこだけは譲れない。
譲れない。
誰にも、誰にも、誰にも、だった。

「いいえ、アルトリア。それは違う」

お姉さま、という単語を忘れたことにもアンネローゼは気がつかなった。
だが、平手打ちの一つもない。
むしろ、大胆不敵にアルトリアは笑う。

「そうだ、お前は私の主人ではない
私もお前の主人ではない。
誰もお前の意思を束縛するものはない。死さえも強要できる命令もこの道を選んだ瞬間から無いのだ」

アルトリアは言う。
アンネローゼに深く静かに、しかし、慈愛を込めて。

「お前がお前自身の主人なのだ、それは忘れない事だ。何があっても、何であろうとも、何に阻まれようとも」

頷くのみ。
アンネローゼ・フォン・グリューネワルトに与えた指令は単純。
最初に与えれた指令は書かれた相手の使用する頻度の高い電話番号を書いてよこすこと。
そして、男どもの会話を日記に記載してその日記をロッカーに入れておくこと。
与えらたのは何処にでも売っている日記と鉛筆、消しゴム。そして自決用の青酸カリ。

「安心しろ、私は頼ってきた雛鳥を殺す真似はしない。我が家名に賭けてそれは誓おう」

705 :ルルブ:2015/02/02(月) 11:57:00
頷くアンネローゼ。
優雅にサウナの椅子に腰掛けるアルトリア。
家名、か。そういう事を真顔で確信に満ちた表情で言えると言う事はこの女性は高貴な存在なのだろうか?

「青い血」

「アンネローゼ」

無自覚に話した言葉に冷たい声が返ってくる。

「あ、あの?」

冷静を装えないのはその冷たい視線と冷たい言葉。
さっきまでの自信と慈愛、矜持を持った女性は存在してなかった。
目の前にいたのは恐ろしい、まるでゲシュタポの捜査官、あの日、私の家に来たナチス・ドイツ一般親衛隊の治安部門の責任者の声と変わらない。

「余計な身の詮索は我が身を滅ぼす、そうだな?」

こくこくと頷く。
暑いはずなのに寒い。

「アンネローゼ、そなたは舞台のマスターになりたいのか?
それとも指揮者や舞台監督、主演女優がお望みか?
オペラの主人公が如く舞台に着飾って躍り出て、何万もの拍手に迎えられたい、そう願うか?」

「そん、な、それは、ちが、」

違う、そう言いたかった。
だが、アルトリアが放つ殺気に満ちたこの密室ではそこまでが限界。
視線をそらしたアンネローゼの顔を、頬を両手でアルトリアは向かせた。
そのま口づけする。舌を絡ませて。
いつの間にかアンネローゼはバスタオルを広げられた状態で生まれたままのアルトリアという美女に覆われていた。
視界には彼女の金髪。白い肌、白い肢体。
見えるのは自分の肌。

一瞬?
永遠?

胸の鼓動が高まる。
女の自分が見ても欲情するような肢体を見せつけるアルトリア。

(私よりおおきい)

何が、とは言わない。
言ったら何か負ける気がするから。
尤も、今はそれどころではない。
この情勢を打開しなければならない。
この状態から逃げなければならない。

「私、私は・・・・・」

だから、
だから。

706 :ルルブ:2015/02/02(月) 12:01:45
「!?」

再度の口づけ。
朦朧とする意識。
だが、女は唇を離す。

「アルトリアお姉さま・・・・あの・・・・・これは?」

「儀式よ、ローゼンメイデンの、ね」

儀式?

「私のけじめ、ひとつの契約。
まだローマ帝国が神様ではなく人間に誓っていた信義、それを精一杯私なりに表している」

それだけ。
それが終わったとき、彼女は囁いた。
小さな声なのに。傲岸不遜に、強力な言葉で、まるで百獣の王である獅子の咆哮の如く。
彼女の強い意志が感じられる。
この同世代にしか見えない女は自分と同じかそれ以上の修羅場を潜っているのだと言う事を思い知らされるほどの強い眼光。
そして、強力な力。

「私からの経験だ、アンネローゼ。
奏者でありたければ己の得意とする楽器以外に手を出さぬこと。
一流であらんとするならばなおのことだ」

アンネローゼの沈黙にアルトリアは微笑んでいる。
それが一層の緊迫感を増す。

「舞台から強制的に下ろされるという事態は望むまい? ならば余計な詮索はするな。
自らが降りたいと思ったときが仮に来るならばその時は一番初めに渡したはずの薬を使えば良い。
ワインに混ぜれば痛みも何も感じずに眠るように死ねる、という。本当かどうか試したことは無いからわからんが、な」

ああ、初日に渡されたあれか。

「アンネローゼ、私アルトリアが貴族かどうか、青い血を持つか、それとも同性愛思考のイエス・キルストへの背教者かどうかは今は全く関係ないだろう。
私と私の属する組織にはアンネローゼの望みを達成するだけの力があり、アンネローゼが私の望みを聞くならば、我らは約束を違える事だけはしない。
それが誰であっても、何であっても。
仮に裏切り者でも、旧敵対国であっても、対立する敵国や隣国の盗賊集団であっても、契約相手が信義をもって約束を守る限り、だ
それ以外の何が必要なのだ? 今のお前にはそれ以上の何を背負うことができるのだ?」

アンネローゼは無言。
アルトリアも無言。
二人の間に置いてある砂時計が二度回転する。
そのまま、二人は水風呂に入る。
そして、アンネローゼだけが先に体の水分をバスタオルで拭き着替えだす。
湯船に戻るアルトリアは背を向けたまま言う。

「道中、気をつけて。指令書は読んだらここで燃やしておきなさい。
それが身のためになる。
誰も頭の中を知る事だけは全てを知る事などできないのだから」

そう、その通り。

「分かりました、アルトリアお姉さま。
 ……これは?」

最後に渡されたのは数枚の通貨。
そして、引換券に防水袋に入れてある封が閉じられている封筒。

「お土産、貴女宛の大切なもの。
それで指令にあるモノを買って帰りなさい。ここの販売店で売っている。
男に言えばいいわ、もう飽き飽きした、少しは自由にしてよ、と。
泣きながらベッドの上で言えばきっと許してくれる。
そして、指令通りに写真を何枚か収めて置きなさい」

確かにあの男らなら。
認めたくないが私は彼の弱みを知っている。
彼は私に対して強く出れない。
そう、私に対して。

「できそうでなければ?」

「しなくて良い。さっきも言ったけど、貴女を切り捨てる気はない」

話は終わった、そう彼女が言う。
アンネローゼが一礼して退出する。
それを見たアルトリアは心の中で付け加える。

(まだ、今のところ、という助詞があるけどね)

誰に似てきたのか。
それはきっと彼女の家族だろう。

「アンネローゼ、しっかりしなさい。あなたが望む未来でしょう」

アルトリアの励ましは誰にも聞こえない。
アルトリア・ペンドラゴンを名乗っている女、その彼女自身にしか。

707 :ルルブ:2015/02/02(月) 12:03:01
1945年9月27日 午後4時 みらい 士官室

大日本帝国の出席者は草加、新城、竹中の三名。
みらいの代表は梅津、菊池、角松の三名。
お互いに談笑しながら腹の探り合いがもう10分は続いてた。
それも終わり。
竹中が切り出す。

「それで皆さんはこれ以上何を望むんですかぃ?」

妙な方言を組み合わせて。
わざとそういう事で相手の油断を、慢心を誘う彼の常套手段。
公安委員会として自分が敵になり、他のメンバーへの警戒心を弱めるなどする。
最近流行りの心理学、北風と太陽作戦という。

「私達の独自行動の自由を保証して欲しい、そう述べている」

独自行動。
こいつは頭がいかれているのか?
仮にも「みらい」という軍艦の最高責任者であり、大佐の階級を持つ人生経験豊富な艦長だろうに。
呆れてものも言えない。
尤も、竹中はそれを表に出さない。碇部長からも黙って草加に従え、余計な詮索はするな、彼のサポートに徹しろと言われている。

「はぁ・・・・・まあ、2週間くらいなら。
一応監視はつけますよ。下手なことを国内で言ってくれると警察のお世話になりますから。
やばいことを考えたり実行すれば懲役で20年くらい豚箱にぶち込みますんで、そのつもりでお願いしますよ、艦長さん」

笑顔で物騒なことを平然という。
流石は公安委員会の叩き上げ。
草加の内心は感動で満ちていた。
彼ほどの優秀で、自分が手足であるということを自覚しているならばこれから先も彼とは共闘関係を結べるだろう。
あの碇玄道という情報局部長とも。
そして、津田が持ってきた密書。
駒城、碇、ロマノフ王朝の遺児の動き、奏上。
つまりは新城直衛も最早後戻りしない、できない、という事だ。

「新宿区でよろしいですね?」

確認する竹中。
肯定するしか術はないのにまだ迷っているみらい。
まさに、

「愚か者だ」

新城が呟く。
聞こえていたのかみらい側の視線と表情がこちらに、正確に言えば新城直衛に突き刺さる。
だが、新城の心はそんな事など顧みないだろう。
彼にとってはこの時間の両者の関係、「みらい」と「大日本帝国」は戦争状態、つまり今もなお戦時下であり、彼自身は交渉という戦場で指揮官として振舞っていると自覚しているのだ。
だからこそ、彼は思ってしまったのだ。

「これ以上の虚構に満ちた話し合いで何が解決するのだ?
既に我々は最大限の譲歩をした。これ以上わがままをいう気か?」

口に出さない。
だが、心からそう思っている。
いい加減にしろ、と。

「草加中佐」

「何でしょうか、梅津艦長」

本題に入る。

「みらいへの乗艦と君らの望むなにかを譲渡する。
代わりに兵器類は使用不可能にしておくが、よろしいか?」

裏を知っているのは自分だけ。
新城も竹中も心の底では何たる都合の良い言い草だと思った。
だが、それで良いのだ。

「分かりました、では3日後に物資の引渡しと受け渡しの為に部隊を送ります。
それと、梅津艦長、角松副長、菊池少佐、尾栗少佐。
みらい幹部宛に食事会への誘いの手紙を持ってまいりました。拝見していただけますか?」

取り出したのは政府公認の封筒。
大日本帝国内閣総理大臣嶋田繁太郎という差出人の名前。

「これ・・・・は」

「全員、とは言いませんが最低でも梅津艦長と後一人程度は一緒に参加してもらいたいですね。
大日本帝国の帝国政府、その友好の証であり日本国に所属する「みらい」との対話の第一歩になると私は信じておりますから」

708 :ルルブ:2015/02/02(月) 12:08:59
大日本帝国の首相主催の晩餐会。
場所は首相官邸。ここに来いと言うのだ。
「みらい」から離れて、梅津三郎に。

「虎口に入らずば、虎子を得ず、という訳か」

菊池の言葉がそれを物語る。
だが、最大級のチャンスであった。
退役している米内大将と現役として政府・政権を握る嶋田元帥。
対立していた二人から過去と現在の情報をそれぞれ聞き出す事ができればより一層正確な情報と判断を下せるだろう。
だが、梅津はその思考にある落とし穴に気がついてないのではないか?
判断とは人間が下すものであり、情報とは必ず誰かの都合によって誰かの利益のために歪められる。
ああ、そうだろう。
誰も彼も、そう、唯一神が誕生するまでの多神教の神話の世界の神々でさえ人間を許さず、神々同士でも相争いお互いを理解できなかったのだ。
なのに、何故、宗教家の言う神の「創造物」である人間がお互いを理解できるのだ?
新城直衛にとってそれは最大級の疑問だ。

(神が完全なら、なぜ不完全な人間を創造した?)

僕にはわからん。
が、僕にも分かることがある。
隣の男だ。
隣の男の存在というもので朧げながらに見えている指針だ。羅針盤の方向だ。

(この草加拓海は決して神ではない。神ならぬ人間だ。それ以上でもそれ以下でもないだろう。
たとえ僕の想像しているような英雄像とは違う英雄となったとしても。
国家にって害をなさない理想の英雄ではなくとも、許容範囲に収まる英雄にはなるだろう。
ふん、その後の事など知るか。こいつもこいつらの思惑も纏めてそのへんの野良犬にでも食わせてしまえ)

角松らが話して合意に達した。
梅津は自分たちの行動指針を改めて表明し、釘を打った。
そのつもり。
草加と新城は苦笑いだけする。

「では、3日後に首相官邸の晩餐会に梅津大佐、菊池少佐を招待します。
それと、角松中佐と中佐が選抜する5名には上陸許可も明日中にもらいます。
用意したビルまでの案内は竹中警部、野上警部補と槇村警部補の3人がする予定です。
そして、明後日から3日間、みらい乗組員の希望者全員を一度横須賀の繁華街へとご案内するよう手配しましょう」

そうして会議は一旦終わった。

「私は一度外に行きます。
作業員の受け入れ準備をお願いする。尚、艦内であった人物には私たちから上陸外出許可を出せるように手配中の旨を伝えておきます。
それでは」

草加らが退出した。
あとに残されたみらいの面々はこれに悩む。
これは好機か? それとも大失態か?
そのいずれか。

「鴻上大尉、通信室を借りるぞ」

は。

ドッグの通信室に入る新城と草加。
通信を打つためにいる鴻上。

「内容は?」

にやり笑った凶相の陸軍近衛師団所属の少佐。
そう計画通りと感じている新城。

ああ、と嘆息をつく警察出身、公安委員会であり情報部の碇玄道の右手。
厄介事ばかりだと思う竹中。

遂に、と決意を固める大日本帝国を生きる「日本人」。
羅針盤が方針を指した、そう実感する草加。

「発、イスカンダル。
宛、テロン。
東京の首相官邸が必ず傍受できるように、な。
内容はこうだ」

緊張する鴻上に新城が笑いながら言う。
後に、アニメにも使われる有名な台詞を世界中に向けて。

709 :ルルブ:2015/02/02(月) 12:09:40
「馬鹿め、だ」

「え?」

「聞こえなかったか、それとも聞き間違いだと思い込みたいのか鴻上大尉?
馬鹿めだ、馬鹿めと言ってやれ」

何故か夢幻会のメンバーから推奨された暗号名。
確かに短いが、これはいいのだろうかと流石の草加も不安になる。
だが、命令だったから仕方ない。

「は、打ちます。宛首相官邸。
電文、バカメ、繰り返す、バカメ、です」

やれやれと首を振る竹中が部屋を出た直後だ。

「中佐、少佐。返信きました。
どうしますか?

早いな。
どうやら見越していたか。
発信者は誰かな?

「大尉、読んでくれ」

「天岩戸開く、以上です」

それだけだな?
それだけであります、中佐。

『艦内放送、艦長の梅津一佐より全乗員へ告ぐ。
明後日より3日間の上陸並び自由時間が確保できた。
宿泊費並び遊興費は大日本帝国政府が負担する、希望者は各課の責任者に自己申告せよ。
半舷上陸人数まで許可とする』

放送。彼なりの部下への思いやり。計算通り。
梅津艦長に菊池砲雷長は首相官邸。
角松副長は信頼できると自分が判断した部下と共に新宿へ行く。
みらいの乗組員もガス抜きに半分は下船する。
好機到来だな。

「では少佐、受け入れ準備を始めようか」

ええ、中佐。

「そうですな、そいつは楽しくなってくるでしょうなぁ」

みらいは気がついてないのだろう。
先ほどの通信を受け取った東京の首相官邸に集まっていた閣僚たちの前で嶋田総理がある決定を下したことを。

『当初の予定通り行動する。村中少将は防諜体制の強化を。
東京湾の東京港からあそこへの道のりは封鎖。自動車部隊と武装警察部隊を配置。
軍に命令を下せ、第4段階から第5段階へ以降する』

『全軍、全部隊に通達せよ。メ2号作戦、開始。目標は横須賀第13号ドッグ』

『それと、これより私は宮城へ参内する。
戻るまでは官房長官、あなたが指揮を取れ』



第十三話 完

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最終更新:2015年02月09日 19:51