36 :ライスイン:2015/06/08(月) 18:21:19
1916年10月5日 東京 夢幻会会合場所


「早すぎる、この時期にアカ共が革命だとっ。」

会合の席は予想を超える速さで発生・成立した共産革命への対応で荒れていた。

「原因は様々ですが直接の切欠は以前の報告の通りアジア人突撃兵による民衆デモ鎮圧が原因です。」

情報関係者より詳細な報告がなされる。
それによると首都サンクトペテルブルクやモスクワ等の複数の大都市で市民による戦争終結や食料を求める大規模デモがほぼ同時に発生。
しかも本来なら鎮圧にあたる兵士も一部同調して参加していたのだった。新たに兵を派遣すればそいつ等も同調してしまうかもしれない。
そう不安に駆られた政府は移動中であったアジア人突撃兵5万をデモ鎮圧に投入したのであった・・・しかしこれが過ちであった。
故郷を奪われた挙句に強制的に徴兵され、粗末な食事と旧式装備で最前線に送り込まれ死ぬ。この様な状況で心が荒みきっていたアジア人突撃兵達は
支配階層であるロシア人を思いっきり甚振れるとあって無駄に戦闘力を発揮し非武装市民の平和デモに襲い掛かった。
略奪・暴行・虐殺・・・ありとあらゆる災厄が突撃兵が投入された都市に降り注ぎ、デモは鎮圧されたが都市や人心も荒廃し、政府や皇帝への支持を
失わせた。

「それで・・・見るに見かねた警察や軍部隊が政府の命令を無視して離反、アジア人突撃兵の撲滅に出動したわけか。」

「はい。そしてその動きが前線にも伝播し大規模な反乱に発展。好機と見た反政府派が革命を起こしたのです。」

離反した部隊らは突撃兵の処理を終えると反政府派の扇動に乗せられて革命軍を形成。未だ皇帝や政府に忠実な部隊と交戦の末に首都などを奪取し
皇帝らを東部に追いやり臨時政府の成立を宣言。しかし無政府主義者や共産主義者など多数の派閥の寄り合い所帯で派閥争いが激化した上にドイツ
との停戦交渉を有利に進めようとして実行したバルト海艦隊残存部隊による東プロイセン上陸作戦が失敗。更に連合国の支援を得るために形だけとはいえ
戦争続行を宣言していた事が民主を幻滅させ、共産主義勢力の支持拡大に繋がり、好機と判断したレーニンの指示で赤色革命が実行に移され臨時政府は
崩壊し、共産党政府・・・ソビエト連邦が成立したのだった。

「ソ連政府はドイツとの間に史実のブレスト=リトフスク条約とほぼ同じ内容の条約を結んで講和したとの事です。」

「東部に逃げた皇帝派との決着をさっさとつけたいというわけか。」

皇帝派を始めとしたロシア政府は欧州側では支持を失っていたが勢力の境目となっている東経70度以東では清より得た東方領土開発やそれに伴う
各種優遇政策によって未だに支持は高く、革命細胞を送り込んでの扇動も効果がないと判断したレーニン等は力を蓄えるために早急に戦争を終わらせる
必要に迫られ、不利な内容と承知の上でドイツと講和したのだった。

「ソ連の事はわかった。では東部に逃げたロシアはどうなのだ?厚かましくもハバロフスク以東の割譲地の返還を要求してきているが。」

東に逃れたロシア帝国は国土奪還の為と称してドイツと講和(※1)した上で連合国からの離脱を一方的に通告。更に前にも述べたが非常措置として
勢力圏内の連合各国の資産を接収。おまけに連合国に各種支援(※2)を要求し、日本に対しては先の戦争での割譲地の返還を要求していたのだ。

「領域内での支持は高いですし配備されている軍の大半が装備優良の精鋭で皇帝に忠誠を誓っていますがソ連を倒すほどの力はありません。」

「それにハバロフスク以東が返還されなければ自分達に付いた海軍艦艇の根拠地も得られませんから。」

37 :ライスイン:2015/06/08(月) 18:21:54
如何に開発が進み、新領土の軍民の支持が高いとはいえロシア帝国の現状は非常に厳しかった。僅かな規模の連合資産の接収を実行した為に報復として
ロシア政府の対外資産を接収され(皇族資産のみ凍結措置)、厚かましい要求をしたが為に連合各国からだけでなく中立国の支持すら得られていなかった。
おまけに先の戦争でハバロフスク以東(東経135度より東)の広大な土地を日本に割譲していた為、冬にはほぼ凍りつく北部の北極海沿岸地域以外に
艦艇を停泊させる事の出来る場所を失っていた(※3)。つまりほぼ内陸国状態に陥っていた為、何とか領土を返還させようと必死であった。

「ロシアの要求は完全に無視だな。念の為に北海道や樺太の部隊を緊急派遣できる準備を整えておこう。」

「そうですね。それよりも今はドイツが行おうとしている大規模攻勢への対処が重要ですし。」

話題を変えて近い内に行われるであろうドイツ軍の大攻勢について対策を練ろうとする会合参加者達。そんな中。凶報が舞い込んだ。

「駐トルコ大使館より緊急報告です。ルーマニアが枢軸軍に制圧され国王以下政府・軍首脳部および一部部隊は海路でギリシアに脱出したとの事。」

「ルーマニアが陥落か・・・。これで東部戦線は消滅。イタリアはオーストリアに任せ、ドイツは西部戦線に集中できる・・・か。」



                     孤立大陸 第19話「カイザーシュラハト」    


 1916年後半、ドイツを盟主とする枢軸国は危機に陥っていた。海軍はほぼ消滅しイギリス海軍によるバルト海侵攻作戦「別名:フィッシャー・チャージ」により
造船所も破壊され艦艇の建造もUボートや水雷艇以外はほぼ不可能になり海上交通はマヒ。3度のパリ攻撃は失敗しヴェルダン要塞も未だ攻め落とせず、
挙句に失策からアメリカの参戦を招くという実に悲惨な状態に陥っていた。しかしここで一筋の光が差し込む。
ソ連との講和及びルーマニアの陥落により東部戦線が消滅したことにより西部戦線に全力を注げるようになった。これによりドイツはオーストリアと共同で
東部地域に最低限の守備・治安維持置き、イタリア戦線へはオーストリアへ兵器の供与を行いつつジェノヴァの日本軍を牽制するために3個師団程度を派遣。
そして西部戦線ではアーヘンを占領中の日本軍を10個師団(+民兵部隊 ※4)を持って拘束。ヴェルダン要塞を攻撃中の部隊へはそのまま包囲と攻撃を
継続するように命令。そして掻き集められるだけ集めた戦力を未だ保持するパリ西方50㎞地点に移動させた。その内訳は

○ドイツ軍西部戦線方面軍(総司令官ヒンデンブルク元帥・・・ファルケンハイン上級大将が空襲により負傷の為)

 本隊:130個師団、A7V×20両、LK-1×30両 パリ砲×5門、ディッケ・ベルタ×6門、シュコダ30.5cm臼砲×4門

 戦車集団(本隊先鋒):A7V×40両、A7V-U×20両、LK-1×60両、LK-2×50両、LK-3×20輌(※5)、Kワーゲン×12両(※6)

            A7V輸送型×50両(1個機械化歩兵大隊搭乗)、電撃戦部隊 3個師団

 航空戦力:ツェッペリンR.VI×20機、ゴータ G.IV×40機、ツェッペリン飛行船×12隻、他各種航空機 900機 

○北部方面軍:10個師団、義勇兵 1個連隊、A7V×20両、LK-1×12両、LK-2×20両、Kワーゲン×2両、ディッケ・ベルタ×2門、42cmガンマ臼砲×4門

  シュコダ30.5cm臼砲×4門、各種列車砲×10両、各種航空機 100機 (アーヘン及びベルギーの日本軍の足止め)

○ヴェルダン攻撃軍:15個師団、A7V×10両、LK-1×10両、ディッケ・ベルタ×4門、42cmガンマ臼砲×8門  各種航空機 50機

○イタリア方面軍:3個師団、マーク1雄型×12両(鹵獲車両)、雌型×8両(鹵獲車両) 各種戦闘機 20機(ジェノヴァの日本軍の牽制)

無理に無理を重ね、工業力の限界まで生産した多数の兵器を配備。兵員も実戦経験豊富な兵員の殆どを集めて編成された最終決戦兵団であった。
他にもイタリア方面ではオーストリア軍が60個師団とライセンス生産したLK-1 30両や鹵獲後供与されたマーク1 20両で攻勢に出る予定になっていた。

38 :ライスイン:2015/06/08(月) 18:22:29
1916年11月1日 05:30 パリ西方50㎞地点 ドイツ軍西部戦線方面軍司令部

「帝国の興廃はこの一戦にあり。各員一層祖国と陛下の為、奮励努力せよ。」

総司令官ヒンデンブルク元帥の命令が下り、ヴィルヘルム皇太子率いる戦車集団を先頭に西部戦線方面軍がパリに向かって進撃を開始する。
同時にパリ砲や飛行船・重爆撃機がパリに対して砲爆撃を行い、同時に重砲や攻城砲が連合軍部隊を砲撃し、全身を援護する。

「今度こそパリを制圧するぞ。」

指揮戦車型のKワーゲンの中で戦車集団司令官ヴィルヘルム皇太子も檄を飛ばす。前回パリ中枢部まで侵攻し、あと少しで陥落させられる所まで迫っただけに
今度こそはと意気軒昂であった。

「最新鋭のLK-3とKワーゲンがあれば日本軍戦車も十分撃破できるはずだ。数が揃えられなかったのが残念だが。」

前回の戦闘で日本軍の戦車の圧倒的な性能を見せつけられた彼は本国に帰還するや否や皇帝や軍首脳部に新型戦車の開発を強く迫った。彼らも皇太子のあまりの
熱心さや収集された情報(※7)により必要性を認識。その結果、Kワーゲンの早期生産やLK-3の実用化に至っていた。

「先鋒部隊よりフランス軍新型戦車と遭遇したとの連絡が入りました。同時にアメリカ軍の姿も確認との事です。」

先鋒部隊より交戦開始との連絡が入った。しかし数も少なく練度も低かったため、短時間の交戦で撃破・後退させた。

「単一回転砲塔の2人乗り戦車か・・・、武装は機銃か短砲身の37㎜なのか。」

「はい、ですがアメリカ軍にまで行渡っているとなると相当数が量産されているかと。」

数分後、先鋒部隊から敵撃破の報告と共に新型戦車についての報告もあった。機銃型についてはLK-1とほぼ同性能だが他国軍にまで行渡っているとなると
かなりの数が量産されているとみて間違いなかった。

「まあいい、このまま前進する。速度を緩めず一気に行くぞ。」

数はあっても性能は高くない、航空部隊と連携すれば容易に撃破可能である。そう判断した皇太子は再度前進を命じた。


1916年11月1日 07:00  パリ 連合軍司令部

「ドイツ軍が再度のパリ攻撃か・・・、こちらが攻勢をかけようとしていた時に。」

ジョッフル将軍が吐き捨てるように悪態をついた。

「まったくだ。兵力の集積が完了していただけマシだがな。」

フレンチ元帥も忌々しげに呟いた。此方から攻勢をかけようとした矢先に再度ドイツ軍がパリを目指して攻撃してきたからだ。
現在もパリ市内には長距離砲の砲弾が降り注ぎ、上空では連合軍戦闘機が防空戦闘に当っている。

「安心されよ、我等アメリカ軍が到着したからにはドイツ軍の攻撃など粉砕して御覧に入れましょう。」

一方自信満々に言い放つのはアメリカ欧州派遣軍司令官のパーシング大将であった。この時までアメリカ軍は30個師団が欧州入りしており、ほぼ全てが
パリ前面に配備され、後続は残りは装備の受領と訓練に当っていた。連合軍も期待していた為、完成したばかりのルノーFT17戦車(※8)500両の内、50両を供与
していた。因みに少し前にドイツ軍に撃破されたのは訓練が終わって前線に配備された10両を含んだ歩兵大隊であった。
ただし碌に実戦経験がなく、装備の質も劣るアメリカ軍に不安を抱いた連合軍・・・特に英仏は最初は自分達の指揮下で運用しようとしていたが
パーシング大将の強硬な主張により独自に運用される事になっていた。因みに連合軍の兵力は

兵員:180個師団(英:本国20個、植民地・連邦30個 仏:本国70個、植民地20個 米:30個 ポルトガル:3個 ベルギー:5個 セルビア:1個 ギリシャ:1個)

戦車:マーク1雄型×80両 雌型×40両、マーク3雄型×30両 雌型×20両、マーク4雄型×120両 雌型×70輌、ホイペット×20両、J1中戦車×30輌、J2支援戦車×50両、

   J3軽戦車×100両、J4重戦車×120両、シュナイダーCA1×40両、サン・シャモン×30両、ルノーFT17/8×300両 FT17/37×200両、フォード3t×90両(米)、

   M1915中戦車×30両(米 ※9)、M1916軽戦車×50両(米 ※10)

航空機:1500機以上

またこれとは別に日本軍の大洗戦車教導団や航空隊(陸上展開した艦載機含む)もパリ防衛についていた。

39 :ライスイン:2015/06/08(月) 18:23:00
「では私は指揮を執らねばならぬので失礼させていただく。」

パーシング大将はそう言って司令部を出て行った。

「だ・・・大丈夫なのだろうか。」

「まあ損害を受ければそれを理由に指揮下に居れれば良いだろう」

不安に駆られつつも英仏両司令官は指揮を執り続けるのだった。


1916年11月1日 09:00  パリ西方30㎞地点上空  蒼き鋼(鳳翔航空隊)

「地上では相変わらずの激戦か。山本の攻撃隊は補充の為に帰還、暫くは戦闘機隊のみで抑えなければならんか。」

最新鋭の75式艦上戦闘機の操縦席で鳳翔航空隊隊長の嶋田繁太郎大尉は呟いた。
前のパリ攻防戦の様に奇襲とはいかなかったが新型戦車多数を揃え、総力を挙げたドイツ軍の勢いは凄まじかった。
しかし連合軍も攻勢を企図して大兵力を集結させていたおかげで一進一退の凄まじい激戦となっていたのだ。
日本の空母航空隊も支援の為の制空権確保と対地攻撃を行っていて、嶋田が率いる戦闘機隊(他の空母航空隊含む)も小型爆弾の投下を終え、上空を哨戒していた。

「全戦闘機隊へ警告、ドイツ軍航空隊が接近中。なお先頭の敵機は全身赤塗装。繰り返す・・・。」

無線機から味方偵察機によるドイツ軍航空隊接近の報告が聞こえてきた。しかも先頭の機体は全身赤という特徴的な物だ。

「よりによってレッドバロンかよ。畜生・・・、やってやろうじゃないか。」

半ば自棄になった嶋田は指揮下の戦闘機隊に命令を下すとドイツ軍航空隊へ攻撃を開始した。


ほぼ同時刻同場所 ドイツ軍戦闘機隊

「こいつらが蒼き鋼・・・日本海軍のエース部隊か。」

赤く塗られたフォッカー Dr.Iの操縦席で戦闘機隊長のリヒトホーフェン大尉は呟いた。
今まで戦ってきた英仏の戦闘機とは比べ物にならないほどの機体性能、ほぼ同数でそして操縦士の技量にドイツ軍は苦戦していた。

「あれが隊長機か。。。、ならばあいつを撃墜すればっ!!」

嶋田機を発見したリヒトホーフェンは戦いを挑む。しかし倍近い速度差により格闘戦に持ち込めず、嶋田の一撃離脱に翻弄されてしまう。

「くそぉ、弾切れか。」

更に銃撃し過ぎたせいで機銃の弾が切れてしまい動揺する・・・その隙を突かれた。

「ぐぁ!!・・・くそっ」

嶋田機から放たれた12.7㎜機銃弾により操縦席ごと体を粉砕された彼はその短い生涯を終えたのだった。


1916年11月1日 09:20 同場所  山本五十六

「やるな嶋田。」

愛機の75式艦上攻撃機の席から彼は同僚の機体を見詰めていた。
報告によりレッドバロンを撃墜していた事は知っていたが自身が到着してからもエースと思わしき機体を撃墜していたからだ。

「よし、安全が確保されたぞ。これより敵地上部隊の攻撃に向かう。」

山本が指揮下の攻撃隊に命令を下したとき、増援のフランス軍機が戦場に到着した。

「蛙食い共め、今頃か。」

遅い到着に温厚な山本も吐き捨てるように罵る。しかしその内の1機が不審な動きを見せながら嶋田機へ接近する。
そして至近距離に近づいた時・・・いきなり銃撃した。

「なぁっ!!」

山本は絶句した。なぜなら(一応)友軍のはずのフランス軍機がまるで敵機を攻撃するかのごとく嶋田を攻撃したからだ。
そして激戦の連続で損傷していた嶋田機は回避が出来ず、翼に大穴を開け煙を吐きながら地上へと落下していった。

「嶋田ぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!」

山本が絶叫を上げ、周囲の日本機も混乱する。そんな中、嶋田を銃撃したフランス軍機はまるで凱旋将軍の如く、誇らしげに仲間の元へと
向かっていった。

40 :ライスイン:2015/06/08(月) 18:23:49
1916年11月1日 13:00 東京 夢幻会会合場所

「嶋田君が撃墜されただとっ!!」

「はい、山本君君からの報告で友軍のはずのフランス軍機に撃墜されたとの事です。」

会合は嶋田が撃墜された事で混乱に陥っていた。その後しばらくすると次第に報告が送られてきた。

「駐仏大使館からの報告です。フランス軍からの連絡で拘束した操縦士を取り調べた結果、最初から日本機を撃墜するつもりだったようです。」

日本軍からの連絡を受けたフランス軍は帰還した操縦士を拘束して取り調べた結果、国際的に名の知れた日本軍人を殺害するつもりであったことが判明した。
この事件は短時間の内に世界中に拡散しフランス政府・軍は内外から途轍もない非難を浴びた。同時に日本からの報復を恐れた彼らは異例ともいうべき速さで
取り調べを行い、内容を全て日本側に伝えていた。

「連絡によりますとその操縦士は我が国との戦争で家族を全て失っていて、我が国を酷く恨んでいたとの事です。」

報告書によれば海軍軍人だった父と叔父が海南島沖海戦で戦死。年の離れた兄2人の内一人(陸軍)は同海戦中に乗っていた輸送船が撃沈され戦死。
もう一人の兄(海軍)も紅海海戦にて戦死。更に故郷トゥーロンに対して行われた半島戦士放出作戦で母と姉と妹と叔母が死亡。当時士官学校に
に在学中だった彼だけが助かったという有様であった。

「フランス国内では一部の反日系新聞社が操縦士の経歴を記載し無罪放免を呼びかける特集を組んでいますが政府・軍は断固とした措置をとるようです。」

「当然だな。」

フランス国内では操縦士の経歴が知れ渡るや一部国民(主に戦火に晒されていないパリ以西)が同情して無罪放免を呼びかけてはいたが何度も日本に助けられ
多大な借りを作ってしまっている状況で無罪放免などにしてしまったらどうなるか理解しているフランス政府は早々に法に基づいた措置を行うことを
宣言していた。

「それよりも嶋田君は?」

「山本君が不時着を確認しています。既に閑院宮大将が挺身部隊と教導団の一部を不時着地点へと向かわせています。」

既に嶋田救出の為の措置が取られていることに僅かながら安堵する参加者達。

「無事でいてくれよ嶋田君。」


1916年11月3日 05:00 パリ西方20㎞地点  遣欧軍嶋田捜索隊

「嶋田さんはまだ見つからないか。」

気編成された捜索部隊に所属する大洗戦車教導団第6中隊(通称レオポン中隊)中隊長の東条英機大尉が呟いた。彼は本来歩兵科へ進むはずが閑院宮大将の
少々強引な勧めで戦車科へと進んでいたのであった。
因みに捜索部隊は第6中隊の他に第7中隊(通称アリクイ中隊)と京都第1挺身連隊”新撰組”の分遣隊と機械化歩兵中隊で編成されていた。

「残骸も多い上に何所にドイツ兵が潜んでいるかわからんからな。難航も仕方ない。」

そう東条に話しかけるのは夢幻会のメンバーであり、捜索部隊の指揮を執る寺内寿一中佐であった。

「そうですね・・・幸いドイツ兵には殆ど遭遇しませんし。」

ドイツ軍の攻勢を連合軍が押し戻し始めた結果、彼らは殆ど敵兵と遭遇していなかった。稀に遭遇しても数名から小隊規模で上空援護もある事から簡単に排除
出来ていた。そうしている内に捜索隊はドイツ軍が作った簡易塹壕地帯に到達。周囲には破壊された戦車などが散乱していた。寺内は周囲を警戒しつつ休息を
とらせようと考えていた時・・・

41 :ライスイン:2015/06/08(月) 18:24:20
「動くなっ!!」

兵の一人が破壊された戦車の中から物音が聞こえるのを察知して短機関銃を向けると同時に警戒の声を出す。他の兵も集まりだし、戦車の残骸に向けて銃を
構える。

「撃つな・・・味方だ。」

戦車の中から負傷しつつも元気な様子の嶋田が両手を上げて出て来た。

「嶋田君、無事だったか。」  「嶋田さんっ」

寺内と東条は嶋田の無事を喜びつつ、衛生兵を呼び治療させようとするが嶋田はそれを制止する。

「待ってくれ、中に負傷者が居るんだ。」

そう言いつつ中から落下傘等で作った簡易担架を引っ張り出そうとする。その様子に寺内の指示を受けた捜索隊員も手伝い引っ張り出した。それは重傷を
負い気を失っているドイツ兵であった。

「嶋田さん・・・この男は。」

このドイツ兵が何者か嶋田に問いかける東条。それに対して嶋田は

「・・・・・ヘルマン・ゲーリングだ。」

「「なんだってぇぇぇぇぇぇぇ!!」

嶋田の答えに絶叫を上げる寺内と東条であった。
フランス軍機に攻撃された後、なんとか不時着に成功。機内からサバイバルキットを持ち出した後に周囲の墜落機体から燃料や弾薬を抜き取り、それらを
使用して乗機を念入りに破壊し友軍戦線の方へと向かい、その途中でゲーリングを拾ったのであった。見捨てることも出来ずに応急処置をした後に
簡易担架(車輪付)を急造して運ぼうとした時に偶然破壊されたA7Vを発見し休息を取っていた時に捜索隊と遭遇したのだった。

 無事が本国へ伝えられる中、嶋田はすぐさまゲーリングと共に後送され、万が一を考えてブレスト港に停泊中の遣欧艦隊所属の病院船へ搬送された。
同時に捜索部隊に同行していた従軍記者により嶋田の行動は世界中に広まり、人々はその戦果と勇気そして騎士道精神を称えた。
ヴィルヘルム2世すらもラジオの生放送で嶋田を称えた後に自国へ与えた損害の大きさ(※11)から

「嶋田繁太郎はドイツ臣民最大の敵である、討ち取った者には恩賞を授ける(※12)」

と名指しで非難され賞金を懸けられるに至ってその名前は世界中に知れ渡った。
また日本軍の捕虜になったゲーリングだが、この事が彼の運命を変える切っ掛けとなるのであった。

42 :ライスイン:2015/06/08(月) 18:24:52
1916年11月8日 パリ西方40㎞地点 ドイツ戦車集団

「くそっ、攻勢は完全に失敗か。」

指揮戦車型Kワーゲンの中でヴィルヘルム皇太子が悔しげに呟いた。
攻勢開始当初はドイツ軍が大きく押し込み再びパリ突入かと思われた、しかし自分達を大きく上回る物量と急造とはいえ強固な防御陣地にぶつかり進撃が
ほぼ不可能になってしまう。更に高性能の戦車を集中運用する日本軍により次々と戦線に穴を開けられてしまう。おまけに双発の高速爆撃機に司令部などの
重要目標を爆撃されるに至り西部戦線方面軍全体で大規模な混乱が発生し後退を余儀なくされていた。

「それにしても忌々しいアメリカ軍め、雑魚の癖に数だけは多い。」

最終的にパリ攻撃を阻んだのはアメリカ軍であった。確かに練度は低く装備も劣り、単純な突撃しかしてこない。しかし犠牲を顧みない突撃(※13)に
よってドイツ軍の勢いは削がれ、増援の到着を許してしまっていたのだ。更にイタリア戦線でもオーストリア軍が押し返され始め、ヴェルダン要塞でも
包囲軍が逆襲を受け後退していた。そんな中、極めつけの凶報が舞い込んだ。

「なんだとっ!!アーヘンの日本軍が攻勢を開始していただとぉ!!」

「はい、既にケルンとデュッセルドルフが占領され日本軍はドルトムントに迫っています。」

連合軍より反攻作戦支援の為の”牽制攻撃”を要請された遣欧総軍は11月1日の作戦開始と同時に行動を開始。増援(※14)を受けていた事もあって
僅か半日程でドイツ北部方面軍を撃破。3日にはケルンを占領し8日、つい数時間前にはデュッセルドルフを占領しドルトムントへ向けて進撃した。
攻勢に全てを賭けていて国内には軽装備の2線級部隊や急造の民兵もしくは再編成中の部隊しか存在しておらず日本軍の侵攻を防ぐ手立ては無かった。

「ヒンデンブルク元帥より入電、遅滞戦闘を行いつつ後退せよとの事です。」

国内での防御陣地構築の為、時間稼ぎをしつつ後退せよという内容。攻勢失敗を悟ったベルリンでは連合軍を国内に引き込んで構築された重厚な
防衛線で消耗させつつ後退した主力と予備部隊を併せて決戦を挑んで撃破する方針に転換。その為、時間を稼ぎつつ後退という困難な任務が
課せられた。また日本軍への対処としては橋を落としたり建造物を破壊して道を塞ぐ等してで進撃を遅らせ、修理中の艦艇から外した砲や水兵から
なる海軍歩兵を進撃が予想されるハノーファーに配置して迎撃する方針であった。

「我等戦車集団が殿を務める。そう打電しろ。」

決意を新たにするヴィルヘルム皇太子。その時上空に日本軍機が襲来し攻撃を開始。そして山本機が投下した爆弾が指揮戦車型Kワーゲンを直撃し
皇太子は戦死。彼の死によってドイツ軍の士気は極度に低下したのであった。

43 :ライスイン:2015/06/08(月) 18:25:23
※1:内容はほぼ白紙和平。

※2:物資や資金の援助に加えて義勇軍や正規部隊の派遣(自軍指揮下での運用)を要求していた。

※3:北極海沿岸の臨時停泊地は夏場以外は凍結し、砕氷船以外は運用が非常に困難になる為。

※4:史実国民突撃隊と似た性格の部隊。退役兵や老人に子供も数多く在籍。武器はGew71・88やドライゼ等の旧式小銃が主力。

※5:LK-3 重量13t Sokol57㎜戦車砲×1、7.92㎜機銃×2 装甲厚10~20㎜ 乗員5名 速度:13㎞/h

      日本の戦車を参考にして作られたドイツ最後の戦車。開発短縮の為、主砲はLK-2と同じだが車体形状等が大幅に改められている。

※6:日本戦車の脅威にさらされ、開発速度が大幅に早まっていた。

※7:日本戦車は殆ど撃破できず(出来ても念入りに破壊措置が取られた)、英仏へのスパイ活動で大まかながら性能情報を仕入れていた。

※8:1917年の正式採用を予定してFT17と名付けられたが戦況逼迫により前倒しで生産され名称もそのままとされた。

※9:ライセンス生産した40式中戦車のアメリカ名。

※10:ライセンス生産した69式軽戦車のアメリカ名。

※11:この時点で嶋田がドイツ軍へ与えた主な損害は

 戦艦1隻・巡洋艦1隻・駆逐艦1隻・潜水艦1隻・魚雷艇2隻撃沈(巡洋艦は共同戦果)

 航空機38機撃墜(内エース2)、 戦車5両・その他車両12両・攻城砲1門・列車砲1門撃破など

※12:賞金86万マルク(ツェッペリン飛行船建造費掃討)に加え、勲章や特別年金など様々な特典を与えると宣言していた。

※13:パリの危機を救うという名目を得たパーシング元帥の命令によりドイツ軍に対して行われた軍団規模での突撃作戦。国威発揚及び
   名声を高めて自国が連合の主導権を握ろうと企むなど政治的目的と個人的野心が多く含まれていた。この突撃でドイツ軍の攻勢を
   止められたものの参加20個師団中10個師団が壊滅するなど大きすぎる損害を負っていた。

※14:戦車師団×1 機械化歩兵師団×1 自動車化歩兵師団×1 歩兵師団×3 重砲兵旅団×2 機動砲兵旅団×2 など

おまけ  日本軍新型航空機

75式戦闘機/艦上戦闘機    空冷:780馬力  最大速度:352Km/h  航続距離:900Km 12.7㎜機銃×2  搭載量:120㎏(ただし無理すれば250㎏)
               外見は史実九五式艦上戦闘機似。陸上型は着艦装備などを撤去している。

75式軽爆撃機/艦上攻撃機   空冷:890馬力  最大速度:277km/h  航続距離:1300Km 12.7㎜機銃×3(機首2 後部1) 
               搭載量:800㎏又は航空魚雷1  外見は史実九六式艦上攻撃機。陸上型は着艦装備などを撤去している。急降下爆撃可能。

試作双発飛行艇(18話)   PBYカタリナ擬き。後に77式飛行艇として採用。


76式爆撃機/陸上攻撃機   空冷:900馬力×2 最大速度:290㎞/h 航続距離:3000㎞ 12.7㎜機銃×6 搭載量:1500㎏又は航空魚雷1
              史実96式陸攻を速度と航続距離を低下させ、搭載量と防御力を強化した様な期待。

              日本軍最新鋭の爆撃機で生産開始が16年初旬の為、欧州へ派遣されたのは僅か20機程度。但し高速と重武装・重装甲で
              ドイツ軍機を寄せ付けず損失機は0。これを見せつけられた欧州各国では早期に戦闘機無用論や爆撃機至上主義が蔓延するなど
              航空行政に多大なる混乱が齎された。  



いかがでしょうか?
ドイツ軍が最後の力を振り絞って行った構成は失敗、皇太子は戦死し戦場は本格的にドイツ本土へと移ります。
そして我らが嶋田さんは英雄への階段を更に上ってしまうことに。
次回で漸く終戦になります。

~予告~

命運をかけた攻勢が失敗し本土を戦場にしてしまったドイツ。対する日本は首都を攻略すべく怒涛の進撃を行う。
しかし連合陣営では戦後を見据えて様々な策謀が始まっていた。

次回 ”日本軍、ベルリン突入”

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最終更新:2015年06月13日 19:23