41 :ライスイン:2015/04/21(火) 14:58:57
1916年8月5日 東京 夢幻会会合場所

「まさか・・・本当にインコンパラブルを竣工させるとは・・・。」

「それもマスコミ公開の元に竣工式を行い、”世界最強の超戦艦”と宣伝していますしね・・・。」

会合の場の空気は白けきっていた。イギリスが8月2日に竣工させた巡洋戦艦インコンパラブルの詳細な情報が入ってきていたからだ。

「50.8㎝とはいえ短砲身に巡戦としては低速、しかも紙装甲。金剛型でも単艦で撃破できるぞ。」

「関ヶ原型巡洋艦2隻でも可能だろう。」

あまりの廃スペックぶりに同情すら湧き起こる。

「それと大型軽巡も竣工しています。それに・・・どうやらジョンブルは本気でバルト海侵攻作戦を行うようです。」

「正気か奴らは。」

まさかの報告に驚愕する会合参加者達。如何に戦艦を全て損失したからとはいえバルト海への侵入は危険が大きすぎる。
本当に実行するのかと疑う者も多くいた。

「何を焦っているのだ・・っ、まさか我が軍のにたいして自国軍が活躍してないからなのか?」

「そのようです。それに数少ない勝利も我が国の助力のお蔭という事もあって連合・・・特にイギリス軍は国民の信頼を失いつつあります。」

「だからか・・・我々に内密で実行しようとしているのは。」

「そうです、彼らは我が国やアメリカから購入した戦艦を囮に使い、その隙に突入させるようです。自国製の残存戦艦は温存するようです。」

確かにイギリスは戦争開始以来、単独で碌な戦果を挙げていなかった。先のパリ攻防戦でも日本軍の加勢が無ければパリ陥落の可能性が
非常に大きかった。それに引き替え日本軍はほぼ単独でドイツ本土に侵攻し大都市を陥落させている。イギリスが焦る理由は理解できるが
いくらなんでも無謀すぎる。この作戦に干渉するかしないか・・・そう議論が始まったその時、慌しく扉が開き情報部関係者が入室してきた。

「駐露大使館より緊急の報告、ロシアにて革命が勃発し首都サンクトペテルブルクが陥落したとのことです。」

「なんだとっ!!動きが速すぎるぞ。皇帝や政府首脳部はどうなった?」

「皇帝以下政府・軍首脳部は忠実な軍部隊と共に東方領土方面へ移動中の模様です。」

遂に勃発したロシア革命。しかし史実とは違い皇帝以下の首脳部が忠実な軍部隊と共に健在な為、いまいち纏りに欠けていた。

「切欠はなんなのだ?確かに以前の会議でも要因は示されていたが・・・」

「いろいろありますが直接の切っ掛けは暴動の鎮圧にアジア人突撃兵を動員した事のようです。」

「あの連中を暴動鎮圧にか・・・、そりゃ市民も切れるだろうよ。」

自国民の暴動に劣等民族と蔑んでいる使い捨ての突撃兵を使用するロシア政府の愚かさに呆れる会合参加者一同。

「連中による鎮圧の最中に駆け付けた首都警察や軍部隊が暴徒ではなく突撃兵へ攻撃。軍司令部の中止命令も無視したようです。」

「それを切欠に政府や議会内の反政府勢力が一部軍部と手を組んで革命を実行。ケレンスキーを首班とする臨時政府が成立しています。」

「今の所、臨時政府は戦争続行を宣言して連合国に支援を要請していますが戦火はほぼ止んでいます。」



                  孤立大陸 第18話「バルト海侵攻とロシア革命、そして米国参戦」

42 :ライスイン:2015/04/21(火) 14:59:34
ロシア帝国にて革命勃発。この出来事は半ば予想されていた事とはいえ世界を驚愕させた。
枢軸側は東部戦線消滅の可能性が現実味を帯びてきた事に喜び、停戦条件を良くするために攻勢を強め、そして外交を活発化させた。
対する連合側は多大な支援を行うことを発表し、離脱を食い止めるのに必死だった。
東部戦線では中立国トルコの領土に阻まれてギリシアが遊兵化(陸軍部隊を少数イタリアに派遣している)。セルビアは制圧され、
ルーマニアも首都ブカレストより西(つまり国土の大半)を制圧されほぼ無力化。イタリア戦線も逆襲に転じたとはいえ未だ国土から
枢軸軍を叩き出すに至っておらず、主戦線である西部ではパリ防衛に成功したとはいえ未だにドイツ軍の大軍が居座っている。救いと言えば
日本軍がベルギーが解放し、ヴィルヘルムスハーフェン軍港を壊滅させ、ドイツ本土の大都市アーヘンを占領した事ぐらいであった。


 1916年8月15日 大英帝国首都ロンドン 首相官邸


「不味いぞ、このままでは確実にロシアが脱落する。」

官邸内の会議室にてアスキス首相が悪態をついた。現在この会議室内には閣僚や軍首脳部が集結していた。

「現在ロシアは臨時政府側と皇帝派の間で壮絶な内戦が行われています。しかも臨時政府側の共産主義勢力が活動を活発化させています。」

「忌々しい共産主義者共め。このままでは共産主義革命が発生するぞ。現在のロシア国内の状況は?」

臨時政府の陰で共産主義勢力が活動を拡大させていることに忌々しく思いながら状況を尋ねる首相。

「東方領土を含めたロシア東部、具体的には東経70度より東部分を皇帝派が保持していますが首都やモスクワ等は臨時政府が掌握しています。」

「・・・っ!!、外務省より緊急連絡。皇帝派が枢軸側と白紙講和したとの事です。同時に連合国からの脱退を通行してきました。」

電話に張り付いていた職員からの言葉に愕然とする一同。

「「クソ野郎どもめ。」」

首相の隣でチャーチル海軍大臣とキッチナー陸軍大臣が悪態をつく。

「至急連合各国に緊急会議の開催を要請するんだ。それと海相に第1海軍卿、バルト海侵攻作戦の繰り上げ実施を検討してくれ。」

首相の言葉に外相は慌しく退出し、チャーチルとフィッシャーは頷くと同じく退出していった。それから8日後・・・。


1916年8月23日 大英帝国首都ロンドン 連合国本部


「不味いことになりましたな。」

駐英フランス大使(首相が外相兼務の為、代理出席)が困ったように呟いた。

「ロシアへの対処は如何しますかな?」

日本の本野外相(試作双発飛行艇を乗り継いで渡英)がアスキス首相に尋ねる。

43 :ライスイン:2015/04/21(火) 15:00:08
「臨時政府は戦争継続を宣言しているが防衛以外では動いていない。おまけに戦争継続の為の非常措置と称して勢力圏内にある連合各国の資産の
 接収を通告してきた。後で返却すると言い訳しながらな。皇帝派は連合を離脱した癖に各種支援と祖国奪還?の為の軍部隊の派遣を要請してきた。
 まったく図々しい白熊だ。」

本野外相の質問に憤慨しながら答えるアスキス首相。

「では両勢力に内戦の即時停止と和平会談及び連合国への復帰・接収資産の即時返還を勧告。それを受け入れるまでの間、在外資産の凍結を実施
  というのはいかがですかな?無論拒否すれば資産を接収する方向で。」

フランス大使の発した言葉に注目が集まる。資産を接収する暴挙を犯した臨時政府や離脱した癖に図々しく支援を要求する皇帝派に対する牽制にもなる。
また万が一要求を受け入れなくても資産を接収すれば損失は補填できる。この意見に各国は賛意を示した。

「ではフランス大使の意見を採用するという事で。」

アスキス首相が宣言し方針が決定した。そして次の議題に移ろうとした時にギリシャ大使が発言を求め、許可された。

「わがギリシアはバルカン半島救援の為に自治領マケドニアを含めた半島のトルコ領保障占領を提案する。」

突然のギリシャ大使の提案に場が騒然とした。言い分を纏めるとルーマニアやセルビア等のバルカン半島の連合各国の領土奪還の為に必要な
拠点や大兵力の展開する策源地を確保する為にはどうしてもバルカン半島のトルコ領の保障占領が必要・・・そう力説していたが狙いが領土拡大にある事は
明白だった。このギリシャの意見にセルビアとルーマニアが熱烈に賛成した。しかし・・・

「検討するにも値しない愚策だ。トルコが中立国だからこそバルカン半島での枢軸国の侵攻が抑えられているのだ。貴国は理解できんのかね?」

大声でギリシャ大使を蔑みながら本野外相が発言する。東部戦線がロシアの混乱で終結に向かっている状況下でトルコ領を占領すればロシアに
向けられていた枢軸の大兵力がそのまま南下してくることは確実でそうなれば劣勢なルーマニアや貧弱なギリシア軍では対抗できず、またトルコを枢軸側に
追いやる事になり、余計に不利になるだけである。それにトルコは日本軍指揮下で戦艦2隻や1個機械化連隊規模の義勇軍を派遣して戦功をあげており、
対するギリシャは初戦で海軍を壊滅させらた事と小規模の陸軍(1個大隊)をイタリア戦線に派遣しているだけで碌に連合に貢献していない。
要するに碌に貢献していないバルカン半島諸国の救援や領土的野望の為にトルコを敵に回し、連合を不利に追いやるような事は容認できない。
本野外相はそう告げた上で

「もしギリシャの案が採用されるなら我が国は連合を離脱した上でトルコと共同でギリシャを叩き潰す。」

本野外相の言葉に場は凍りついた。何せ現状で日本に脱退されると敗北は確実な状態である。また日本とトルコ、最悪枢軸も同時に敵に回す事態になり、
幾つかの国は地図上から消滅する。この事態に英仏は慌てて仲介に乗り出した。

「発言を慎まれよギリシャ大使殿。貴国の提案は領土欲にまみれ、かつ明白な利敵行為であり容認できない。」

「義勇軍を派遣しているトルコの方がよほど連合に貢献している。支援を打ち切られたくなければ余計なことは言うな。」

など英仏の強硬な警告にギリシャ大使は沈黙し、後に賛意を示したルーマニアやセルビアと共に案を取り下げた。後日、この提案はギリシャ外相が独断で
大使に命じて提案させたことが発覚。ギリシャ国王が謝罪する事態に発展し、外相と大使は更迭された。
そして次の議題の検討を開始しようとしていたその時、驚愕すべき報告が入ってきた。

”アメリカがロシアからの自国民脱出の為に派遣した船団がバルト海にてドイツ海軍の襲撃を受け壊滅”  と。

44 :ライスイン:2015/04/21(火) 15:00:39
時は遡り 1916年8月22日05:00 バルト海 東プロイセン沖 アメリカ避難民脱出船団”ジャスティス船団” (※1)

「船団右舷よりドイツ駆逐艦多数接近!!。」

「撃ち返せ、接近を阻止しろ。」

船団護衛部隊旗艦のコロンビア級防護巡洋艦コロンビアの艦橋で船団司令官が大声で命令する。この船団はロシア革命の混乱による混乱から在ロシアアメリカ人を
救うべく、アメリカが派遣したものであり、

防護巡洋艦がコロンビア級2隻、モンゴメリー級3隻、駆逐艦がオブライエン級6隻、エールウィン級4隻という規模の護衛の元に1万トン以上の優良客船20隻で構成されていた。
中でも目を引くのはオリンピック級客船を元に設計された5万t級客船ジャスティスの存在でその存在から船団は”ジャスティス船団”と呼称されていた。

「いくら霧が濃いとはいえ、国旗を掲げているし無電も撃ち続けている。何より近距離まで接近しているのだから国籍が分る筈だろう。」

「予めドイツには通達済で行は普通に航行できたのに・・・畜生、何が航海の無事を祈る・・・だ。」

コロンビアの艦橋では様々な悲鳴や悪態が聞こえてくるが一致しているのは何故ドイツが攻撃を仕掛けてくるのだの一つであった。
だが今は撃退するしかない。

「全船団に通達、家事を北方に切り中立国スウェーデンに避難する。」

最早バルト海を突破して連合国の勢力圏内に退避することが不可能と判断した船団司令は止むを得ずスウェーデンに避難することを決めた。同じ中立国であるし
民間人救助の為であるから悪い扱いは受けないはず。そう判断した船団司令であったがそれは少し遅かった。

「ジャスティスに多数の魚雷が命中・・・轟沈します。」

悲鳴のような声が聞こえ、ジャスティス方を向くと10本を超える水柱が立ち上り、それが晴れるとジャスティスの船体が消滅した。

「くそっ、装甲巡洋艦で殿を務める。駆逐艦は残存船団を護衛してスウェーデン領内へ逃げ込め。」

船団の壊滅は免れないと判断した船団司令は装甲巡洋艦で足止めしつつ宣伝に対してスウェーデンへ逃げ込むように命令する。
その後も戦闘は続き、スウェーデン領内へ逃げ込めたのは駆逐艦3隻と貨客船が10隻。残りはすべてバルト海に沈んでしまった。しかもドイツ海軍は救助活動を行うことなく
港へ帰還。先の戦闘と合わせると2万人以上が犠牲となった(※2)。
この事態にアメリカ政府は激怒しドイツに対して真相究明と謝罪、そして責任者の処罰と賠償を要求した。これに対してドイツ側も早速調査を開始したが主な原因はなんと

      ”ロシアの揚陸部隊と誤認した事”

であった。実は戦闘勃発の3日前に臨時政府が停戦条件を良くしようと残存する海軍艦艇に輸送船を用いた東プロイセン攻撃作戦を発動し返り討ちにあっていた。
その事からドイツ海軍部隊はロシアの再攻撃と判断したのだった。霧が深くまた見張り員の質の低下から国旗が判断できずにロシア艦隊と誤認し攻撃。
司令部が漸くアメリカの船団と確認し攻撃停止を命じるも混乱から中々伝わらずにこの結果となっていた。
ドイツ側から調査結果を受け取ったアメリカは先の要求を飲ませるべく、資産凍結や連合側での参戦も示唆し対応を迫った・・・しかしドイツは判断を誤った。
真相は先に究明し謝罪も首相の名前で行った(皇帝が拒否した為)。しかし責任者の処罰と賠償については連合との戦争中であることを理由に拒否。
戦争終了後に改めて協議した上で応じるとアメリカ側に通達した。これに対してアメリカ市民は激高。

 ”リメンバージャスティス(正義を忘れるな)”

の文字が各紙の一面を飾り、ドイツへの懲罰・・・具体的には連合側での参戦を求め、議会も賛意を示して大統領に権限を一任した。
アメリカ政府はドイツ領内の自国民に対して中立国へ避難するように通達。それが完了したと判断した9月15日にドイツに対して宣戦布告。その上で
連合国への参加を表明した。これに対して連合各国は大歓迎したがイギリスはひどく焦った。確かに強大なアメリカ軍が参戦すれば勝利はより確実になるが
自国軍が活躍しないまま戦争が終われば威信と国民からの信頼は回復できない。この事からイギリスは繰り上げでバルト海侵攻作戦を発動した。

45 :ライスイン:2015/04/21(火) 15:01:18
1916年9月20日 09:00 キール運河付近 イギリス海軍バルト海侵攻艦隊本隊 旗艦インコンパラブル

「これより艦隊はキール運河へ突入する。目標はロストクだ、途中目に入る軍事施設はすべて破壊しろ。」

旗艦である超巡洋戦艦インコンパラブルの艦橋で侵攻艦隊司令官を務めるフィッシャー大将(※3)は命令を下した。
艦隊は本隊と運河周辺のドイツ艦隊を引き付ける陽動艦隊に分かれていて編成は

○侵攻艦隊本隊(フィッシャー大将指揮)

巡洋戦艦:インコンパラブル(旗艦)

大型軽巡:カレイジャス級2隻 フューリアス

軽巡洋艦:アリシューザ級8隻

駆逐艦:14隻

輸送船:5隻

潜水艦:M級2隻(※4)

○陽動艦隊

戦艦:ドレーク級2隻 ヴィクトリア級2隻 ウォーリア級2隻

巡洋戦艦:ランスロット級4隻

軽巡洋艦:カロライン級6隻 カライアピ級2隻 カンブリアン級4隻

駆逐艦:20隻

輸送船:10隻

作戦としては陽動艦隊によってドイツ軍の注意を引き付けると同時に隙を見て上陸を仕掛け閘門を占拠。それから本隊が運河に侵入する手筈になっていた。
その為に日米から購入した戦艦を全て動員し、陸兵もスコットランド・ハイランダーズ連隊やグルカ・ライフル連隊等の精鋭を動員していた。
本隊は運河を突破しながら造船所や軍事施設を破壊。突破後は輸送船の1個旅団(正規兵)を使ってロストクに上陸作戦を仕掛けて拠点を確保。後に
増援を送り込んで直接ベルリンを目指すというぶっ飛んだ内容であったがそれを実行しなければならないほど色々な意味で追い詰められていた。
因みに増援部隊の輸送や作戦失敗時の撤退路はデンマーク領海を強引に通過することにしていて、その為デンマークに様々な圧力を加えていた(※5)。

「提督、陽動部隊より閘門の確保に成功したとの連絡です。」

陽動艦隊による欺瞞行動によりドイツ艦隊(※6)は見事に釣り出され、ヴィクトリア級2隻の艦砲射撃により上陸はあっさりと成功。大した抵抗もなく
閘門を確保していた。

「よろしい、では全艦隊突入開始。」

フィッシャーの号令に従い本隊が次々と運河に突入を開始した。

46 :ライスイン:2015/04/21(火) 15:01:54
1916年9月20日 12:30 ベルリン王宮

「何だと、イギリス艦隊がキール運河に突入しただとぉ!!」

王宮で報告を受けたヴィルヘルム2世は大声で叫んだ。
数日前には対応の不味さでアメリカの参戦を招いてしまったばかりで心労が重なっていた時にこの驚愕すべき報告が舞い込んできた。

「イギリス艦隊は運河周辺の軍事施設を破壊しながら航行しています。報告によると少数ですが輸送船を伴っているとの事です。」

「奴らはベルリンを直接攻めるつもりか。」

ヴィルヘルム2世はそう考えた。勿論少数の輸送船に積める兵力では内陸部に攻めることは出来ないだろうが上陸地点を確保するぐらいは出来る。
そしてデンマークの中立を無視して輸送船団を送り込めばベルリンへの直接攻撃も可能になるだろう。

「陛下、運河内には駆逐艦どころか魚雷艇すらありません。機銃か小口径砲装備の警備艇だけです。」

ティルピッツ海相の報告により更に愕然とさせられる。主力艦隊が壊滅し戦艦全てを失ってからは使える戦力は殆ど前線に展開させていて後方地域たる運河内には
警備艇以外展開させてなかったのだ。

「ではどうするのだ?」

「運河の突破は最早阻止できません。出口側にUボートと駆逐艦・魚雷艇を可能な限り展開して飽和雷撃を仕掛けます。それとバイエルン級1番艦(※7)が主砲の取り付けが
  完了していますので緊急出航させて支援します。」

ヴィルヘルム2世の問いに海相が答える。イギリス艦隊の戦力と勢いから運河内での阻止は不可能と判断し、出て来た所を袋叩きにするという苦渋の決断。
しかも未完成のバイエルンまで投入するという。

「仕方ない、ただし必ずイギリス艦隊を潰せ」

止むを得ず承認するヴィルヘルム2世に対し、海相は静かに頷いた。


1916年9月21日 05:00 キール運河バルト海側出口付近  イギリス海軍バルト海侵攻艦隊本隊 旗艦インコンパラブル

「もう少しでバルト海に突入できるな。」

インコンパラブルの艦橋にてフィッシャー大将は安堵しながら呟いた。
途中、開きすぎた艦の間隔を調整するために速度を緩めなければならず航行が多少遅れてしまった。しかし運河内では警備艇や陸軍の野砲による砲撃位しか抵抗にあわず、
順調に周辺の軍事施設を破壊しながら進んでいた。最大の戦果はキールの造船所をほぼ完全に破壊したことだろう。これによって同地で建造されていたバイエルン級の
2~4番艦が修復不可能な位に破壊され、またUボートの建造が不可能になった(別の場所でも建造されているが)。
しかし無傷とはいかず、最後尾を航行していたM級潜水艦2隻が臼砲の直撃を受けて沈没。また駆逐艦2隻と巡洋艦1隻が小破していた。

「そろそろ前衛のフューリアスが運河を抜けてバルト海に入る頃ですな。」

参謀の一人が確認する様に呟く。

「フューリアスより入電、運河を突破しバルト海に侵入したとの事です。」

「よし、我等も続くぞ。」

フューリアスによるバルト海への突入成功の知らせを受けて後続の艦も次々と運河を抜けていく。そして30分後には全艦がバルト海に侵入した。

「よし、このままロストクを目指すぞ。」

47 :ライスイン:2015/04/21(火) 15:02:25
フィッシャー大将が命令を下す。しかし・・・

「う・・艦隊右舷左舷後方より魚雷多数接近っ!!」

「バルト海方方面より巡洋艦・駆逐艦・水雷艇多数接近・・・戦艦が居ます、戦艦1」

待ち構えていたドイツ海軍に絡め捕られてしまう。イギリス艦隊が運河を抜けた所で多数のUボートが左右と背後に回り込んで魚雷を発射。更に運河の出h口からは
見えない位置に待機していた水上艦が一斉に突撃してきたのだ。

「反撃しろっ」

フィッシャー大将が命令を飛ばす。しかし混乱状態に陥り統制された動きが取れず、大型軽巡は主砲が2~4門と少ない為に有効な命中弾を得ることが出来なかった。
更にインコンパラブルも突貫工事が祟った為、砲塔の旋回速度が遅く発射速度も低く、同様に命中弾が得られなかった。

「フューリアスが爆沈します。」  「輸送船団に被害が出始めました。」  

次々に舞い込む被害報告。最早作戦の失敗は明らかだった。

「本国へ作戦失敗を打電しろ。これより艦隊はカテガット海峡方面へ撤退する。不可能な艦はデンマークに逃げ込め。ドイツに捕まるよりはマシだ」

フィッシャー大将は作戦失敗を悟って撤退を命令した。更に追随不可能になった艦は中立国デンマークへ逃げ込むように指示。
本国が圧力をかけているからそう悪い扱いにはならないだろうと。

「本艦が殿を務める。各艦は直ちに行動を開始せよ。」

フィッシャー大将の命令に従い侵攻艦隊本隊はカテガット海峡方向へ撤退を開始。ただドイツ軍もそれを黙って見てはいなかった。

「カレイジャスに魚雷命中、沈みます。」  「グローリアスに砲撃が集中・・・ああ、敵戦艦の砲弾が命中。」

次々と舞い込んでくる悲報。だが幸運は唐突に舞い降りた。

「本艦の砲撃が敵戦艦に命中。爆沈・・・爆沈です。」

インコンパラブルの放った6発の50.8㎝砲弾の内、2発がバイエルンに命中。しかも命中箇所が装甲が完全に配置されていなかった場所でそこを食い破って艦内で爆発。
瞬く間にドイツ海軍最後の戦艦はバルト海に沈んでいった。しかも海軍最後の戦艦の呆気ない爆沈に動揺したのかドイツ艦艇の動きが目に見えて悪くなった。

「今がチャンスだ、全艦隊最大戦速。」

この好機を生かすべく、フィッシャー大将は再度命令を下す。その結果、艦隊は夜になる頃には北海側に脱出。連絡を受けた別動隊(※7)や要請を受けた日本艦隊と
合流。ダンケルク沖に日本軍が用意していた浮きドックや工作艦で簡易修理や燃料の補給を受けた後、9月25日には英本土ポーツマス軍港に帰還した。
しかし本隊の遺骸は甚大で主力艦で生き残ったのは大破したインコンパラブルのみ。巡洋艦も8隻中5隻が沈没、1隻が帰還を断念してデンマーク領へ逃げ込んで抑留。
駆逐艦も14隻中9隻沈没、2隻が同じくデンマークへ逃げ込み抑留。輸送船も5隻中1隻が沈没し2隻がデンマークへ逃げ込んで抑留された。
この抑留された艦と人員についてはイギリス政府はデンマークに圧力をかけて即座に解放させようとしたが英国の圧力で領海通過を黙認させられていた
デンマーク政府の対英感情は更に悪化。またドイツ側がデンマーク国境に軍を終結させる動きを取った事から戦場になる事を恐れ、艦と人員は戦争終結まで
抑留することを改めて通達。イギリス側も止むを得ず承認せざるを得なかった。

 こうした事があったが侵攻艦隊本隊の上げた戦果は大きい物だった。主目的であるベルリン侵攻こそ失敗したものの、キール運河及び周辺の軍事施設・造船所を破壊。
最大に軍港であるキール軍港を破壊。これらにより大型艦を建造不可能にし、Uボートの建造に致命的な打撃を与えた。更に未完成状態のままの出港とはいえドイツ海軍
最後の戦艦であるバイエルンを撃沈した。以上の戦果が伝わるとイギリス政府は歓喜し、国民も自国海軍の上げた功績に熱狂した。そして帰還した艦隊は
盛大な歓声の中で迎えられ、司令官のフィッシャー大将は今回の功績により元帥に昇進することになった。
 そんな歓喜湧く状態の中で水を差す報告が舞い込んだ。

”ロシア臨時政府支配地域にて共産主義革命が勃発。臨時政府は崩壊し共産主義政権が誕生。そしてドイツと講和を結ぶ”

と。

48 :ライスイン:2015/04/21(火) 15:02:59
※1:在ロシア大使館からの報告を受けたアメリカ政府が自国民等を避難させるために急遽派遣した船団で旧式だが複数の戦闘艦を護衛に付けていた。
   予めドイツを含めた周辺国に航行と目的が通知され、その了解を得ていた。

※2:自国民以外にも避難を求める多数の人間をギリギリまで乗せた為、被害が大きくなった。

※3:自ら志願し、立案者であり作戦の細部まで知る事から指揮に最適であった事から第1海軍卿の身分のまま艦隊司令に就任が認められた。

※4:ロストク上陸時の砲撃支援の為、編成に加えられていた。

※5:領海の通過を認めさせるために経済制裁や保障占領等の鞭や戦争終了後の経済支援などの飴をチラつかせるなどしていた。

※6:北海側の戦力は日本海軍遣欧艦隊が暴れた為、巡洋艦すら失っていて駆逐艦や水雷艇にUボートで編成されていた。

※7:1番艦のバイエルンの事。主砲のみ取り付けが完了している状態で副砲や水中魚雷は未搭載。機関も全力を発揮できる状態にはなく、装甲も
   取り付けられていない個所があり、取り敢えず砲撃だけは出来る状態でしかなかった。


いかがでしょうか?
ロシアで遂に革命が勃発。更にドイツは愚行と不幸が重なってアメリカの参戦を招きました。そしてイギリスは本来の目的こそ果たせなかったものの
バルト海侵攻作戦を成功させ国民の信頼を取り戻せました。


~予告~

キール運河を使用不能にされ造船能力に壊滅的な打撃を受け挙句にアメリカの参戦を招いたドイツ。彼らはこの危機に東部戦線の消滅(対ルーマニア除く)で
浮いた戦力を西部に回し、アメリカ軍の到着までに決着を付けようと最後の大攻勢を実行に移す。そしてその中で日独の空の英雄が遂に対決する。

次回”カイザーシュラハト”

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最終更新:2015年06月13日 19:23