休日ギアスユフィルートorユフィルートしげちー






辻「まだ寝る時間ではないのですよ」




各種の案件に関する報告書に目を通しながらふと気になり時間を確認してみると 時刻は既に一般的な終業のときからして大きく後ろへずれ込んだ午後九時前。

「ん もうこんな時間ですか」

今時珍しいとの指摘を受ける懐中時計を内ポケットに仕舞い込みつつ部屋を出る。
向う先は一足先に公務を終わらせていた同僚の部屋。
正しくは同僚と同僚の婚約者の部屋でしょうか?

おとずれた部屋の前には屈強な騎士が二人門番のようにして張り付いています。

「ごくろうさまです お変わりはありませんか?」

「はっ 特に異変などはございません」

異変があったら大問題なのですがね。

「失礼します 私です辻ですが宜しいですか?」

扉に向けて声を掛けます。
いきなり入るような失礼なことはしませんよ?

中からはなにやら「ちょっと待ってくれ」と返事がありましたがずいぶんバタバタされているようで 重厚な扉がすぐさま開くことはありません。
時刻は午後九時に差し掛かっていましたが はて? 就寝中だったのでしょうか?




「お お待たせして申し訳ありません」

衛士の方々とお話しをしながら待つこと五分ほど。
鍵の開く音と共に扉が開かれ顔を出したのは柔和な雰囲気の老年に差し掛かったくらいの日本人男性。
夢幻会での同僚 嶋田繁太郎さんです。

「す 少し取り込んでいるところでしたので」

そういって嶋田さんの隣に立っていたのは十代後半の年若く麗しいブリタニア人女性。
我が日本の盟邦神聖ブリタニア帝国の第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア殿下です。

ふむ 嶋田さんはスーツでユーフェミア殿下は公務服。
パジャマでも部屋着でもありませんので就寝中ではなかったと?

嶋田さんについては焦り気味以外には普通な装いでしたのでふとユーフェミア殿下を注視してみました。

「はぁ・・・・ はぁ・・・・」

額が汗ばみ両頬は朱く上気。
左手を胸に当てながらの運動後のような過呼吸気味の息遣い。
大きな留め具で纏められた髪は少し乱れ気味。

(なるほどそういうことですか)

合点がいきました。
就寝中ではないほうの「寝ていた」だったのですね。
おおかた大慌てで服を着替えたというところですか。

このお二人は近く婚姻関係を結び夫婦となる間柄なのです。
歴史が異なるとはいえコードギアスという名のこの世界。
予期される悲劇を我々夢幻会が一丸となって回避した先で 原作におけるスザク君ではなく嶋田さんと出会ったユーフェミア殿下。
奇しくも原作のスザク君と似通った経緯でユーフェミア殿下と出会った嶋田さん。
惚れた腫れたの経緯をたどり相思相愛となったお二人の背中を押したのはなにを隠そうこの私なのですが まさか僅かな期間でここまで深い仲になるとは予想外でした。
お二人の幸せを願う私は個人的にも押してはおりますが 我が国としてみた場合もまたお二人の婚姻はとても有益なのですよ。
太平洋戦争という断絶後 友好関係の再構築から続く我々の代で同盟関係にまで到達させた日ブ関係は現時点においても家族と呼べるほどにまで進化していましたが このお二人の婚姻をもち名実共に親族関係となります。
大日本帝国嶋田伯爵家当主嶋田繁太郎伯爵と神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア殿下の結婚は両国関係をより強固なものとするのは疑う余地もありませんので。
さらには日本の皇室からは皇女皇神楽耶殿下 皇族分家筋の枢木スザク君と続く日本皇室とブリタニア皇室との婚約が後押しとなりやがては連合帝国へと至る道筋まで見え始めるという良い意味での大誤算まで。

(安定した良好なる日本の未来は嶋田さんとユーフェミア殿下の結婚によって確定的)

前世からずっとですが嶋田さんには本当に物事の中心点がよく似合う。

「いえいえ構いませんよ 明日以降の日程の確認をするだけなので」

私は現在リ家の離宮を訪問しているのですが 明日よりラプラタ戦争戦勝記念式典に参列するためアラウカニア・パタゴニア王国王都ペルケンコに向う予定なのです。
嶋田さんもですが今回嶋田さんには夢幻会とも日本とも異なる別のお仕事の都合上 ペルケンコでの式典の後もリ家に留まることになっているので今後の調整もしなければいけないのですよ。
留まる理由はもちろん嶋田さんのリ家入り後に備えた各方面との協議や顔合わせ。
そうです 嶋田さんはユーフェミア殿下との婚姻をもち日本を離れ入り婿としてリ家に入るのです。
日本とブリタニアでは多少違いますが皇族と伯爵家では格式として皇族のほうが上位となりますので ユーフェミア殿下が皇族として仕事を続ける以上は嶋田さんがリ家に入らなければなりません。
これは両国両家ともに合意済みのこと。
つまり嶋田さんは私の手から離れてしまう これは正直寂しいものです。
なにをするにも一蓮托生でやってきましたからね。
夢幻会所属は変わらなくともリ家入りとなればブリタニア皇族としての仕事に追われて会合に出られる回数も減りますし 嶋田さんのポストを埋められる人材も発掘しなくてはならないと忙しくなります。

「はぁ・・ ふぅ・・・」

ユーフェミア殿下はまだ呼吸が整わないようですね。

お二人の秘め事もリ家の分家としての大切な世継ぎをもうける必要な公務の一環ともいえますか。
これは早々に退散したほうがよさそうです。

「おや ユーフェミア殿下大丈夫なのですか? 顔が朱く息も苦しい御様子ですがご体調がよろしくないのでは?」

「いいっ?!」

まずいところを指摘されたとでもいう顔。
ふふふ嶋田さん ナイスな反応ですよ。
ユーフェミア殿下も赤らんだ顔から火が出そうになっています。

「い いいえっ わたくしはっ べつに体調が悪いというわけではございませんっ わたくしはただシゲタロウと」

秘め事を行っていたなどというわけもなくされども体調を崩しているわけでない殿下はどう二の句を継ぐおつもりなのでしょうか。
と思いきや頼りがいのある旦那さんがテンパる彼女を止めに入りました。

「ユフィっ!」

「もがっ!」

否定しかけた殿下を羽交い締めにして口を塞ぐ嶋田さんでしたが しかしそれ一歩間違えると暴漢ですよ?

「むぅぅーっ ムーーっ」

〈しーッ!頼むから暴れないでくれっ〉

嶋田さんあなた小声でおっしゃってますがまる聴こえなのです。
といいますか 美少女を手篭めにしようとする怪しいおじさんにみえます。
婚約者でなければ通報ものですよ。
いずれ夫婦となるお二人なのですから秘めたる行為をおこなっていることについて知る私を前にそこまで焦らずともよいものであると思われるのですがどうなのでしょう。
そもそもお二人の初行為を促したのは他ならぬこの私なのですよ?
水臭いといいますか疎外感を覚えてしまいます。

「そ そうなんですよっ 実をいうとユフィはどうも先程より熱があるようでして顔が朱くなり息切れをしてましてねっ ですから早々に休ませてあげないと明日に差し障りますので申し訳ありませんが今夜のところはお引取りくださると助かりますっ」

口を押さえられてもがくユーフェミア殿下を背後から抱き締めたまま私のボールを投げ返してきた嶋田さんは 明日の早朝に今後の予定の調整を話し合おうとこちらの思惑通りに動いてくれました。

「そうですね 殿下の身になにかあってはよろしくありませんので それではまた明日の早朝にお訪ねします」

「すみません」

「いいえ おやすみなさい」


部屋を後にし衛士の方々に挨拶した後再び懐中時計を取り出します。

「九時一〇分」

まだ寝る時間ではない。
これから嶋田さんとユーフェミア殿下はお世継ぎをもうけるために励むでしょうし私はどうしますかね?

「そうですね ここは一ついっくんの部屋でも訪ねてみましょう」


いまリ家には私と嶋田さん以外にもう一人日本から来た人間が泊まっています。
彼も元海軍大臣としてアラウカニア・パタゴニアのラプラタ戦争戦勝記念式典に出席するため私たちと来ているのですが。

「そういえば彼もユーフェミア殿下の警護員さんと深い仲でしたね」

私の情報網には彼と 殿下の警護員であるブリタニア帝国ヴェルガモン伯爵家のご息女の関係も引っ掛かっておりましてね。

「リ家の姫殿下あるユーフェミア殿下とその婚約者である嶋田さんのお二人ならいざ知らず 他人であるいっくんとユーフェミア殿下の臣下であるヴェルガモン家のご息女まで睦事を行っているということはさすがにないでしょう」

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最終更新:2015年06月14日 16:00