二二三氏の貧乏ひげ子爵
ルイ・スズキ106世「第5世代機じゃあかんのか~い」
ブリタニア帝国の子爵ルイ・スズキ106世は不満だった。
不満で悩みすぎてただでさえ太っていた体がついに100キロの大台を超えてしまった。
ストレスによる暴飲暴食が原因と思われたが最近では執事のヤグチくんに食べることさえも制限を掛けられてしまい はけ口を探すためとして夜な夜な屋敷を抜け出しては夜の街を歩いていた。
「なぜにいかんのか~い!」
独特の喋り方でユーモア溢れるスズキは貴族のお漫才と称して貴族平民分け隔て無く接することもあって領民に人気がある。
目を盗んで街に繰り出すときは捜索にきた屋敷の騎士たちから匿われたりすることが屡々あり 一種の友達感覚みたいな民が領内には点在しているのだ。
トレードマークのシルクハットと燕尾服を脱ぎ捨て日本文化の萌キャラ刺繍入りのTシャツに着替えたスズキは弛んだ腹を振るわせながら匿ってくれた酒屋の主人に絡んでいた。
「我が輩はなにも防衛予算に組み込むといったわけでも誰かの財布を当てにしたわけでもないのだぞっ!我が輩は我が輩のポケットマネーを上積みして購入しようと考えていただけなのにわからず屋のヤグチくんの強硬な反対で流されてしまった!」
荒れた原因はKMFの購入に関する事項についての執事のヤグチくんとの口論。
グロースターがほしいというスズキにグラスゴーにするというヤグチくん。
それならサザーランドでといえばやっぱりグラスゴーというヤグチくん。
予算が足りないなら現在の防衛予算に自分のポケットマネーを上積みするから最低でも第5世代をというスズキに だがグラスゴーだというヤグチくん。
「モニカ・クルシェフスキー卿の専用機は日本開発の最新鋭第9世代機だぞ そんな時代に旧型も旧型の古ぼけた骨董品である第4世代のグラスゴーなど購入しては我がスズキ領の治安対策は不完全な物となってしまう!」
「お言葉で御座いますがクルシェフスキー卿と比較なされるのは」
天下のナイトオブラウンズと辺境のいち下級貴族ではお話にならないという酒屋の主人。
「それにクルシェフスキー卿はご自身が駐日武官も務め日ブ友好に多大な貢献を果たしているだけでなく 日本のシマダ元宰相閣下と昵懇の間柄なのですから」
「ふ~むいわれてみればそうであるねぇ~」
これには納得したスズキはではと前置くとまた無理な比較を持ち出した。
「ではクルシェフスキー騎士団とではどうかね?」
「子爵子爵 クルシェフスキー侯爵家は一般的な諸侯領ではありませんよ」
こちらも天下のを付けていい相手だ。
クルシェフスキー騎士団の兵力は10万に達し 中小国の国軍に匹敵する陣容で騎士団だけでもスズキ子爵領の全人口を遙かに上回っている。
整備される兵器も戦闘機に戦車に海上艦艇まで KMFもヴィンセントやグロースターが配備されるほど。
兵力1000に満たないスズキ領騎士団が比べていい相手ではない。
「うぬ~ では100歩譲ってヴェルガモン騎士団でさえ配備されているサザーランド」
「ヴェルガモン伯爵を前にいえますか?不敬罪で縛り首ですよ? スズキ領騎士団がヴェルガモン騎士団を相手に演習して1時間もちこたえられますか?10分で壊滅しますよ?」
「・・・・・るねっさ~んす」
爵位が1級上なだけのヴェルガモン伯爵家だがその権威は2級上の辺境伯級でついでに領地持ちの辺境伯級。
所領として治める領地は広く領民の人口はやはり数百万の大台で騎士団の規模もこれに準じた戦力となっている。
スズキ子爵など鼻息で吹き飛ばされる。
「うわ~ん我が輩はっ!我が輩はどうしても第5世代機以降の機体がほしいのだよ~!5機購入のうちせめて旗機の1機だけでも5世代にしたいのだよ~!どうしていまさら骨董品のグラスゴーなどで固めねばならんのだねーーーっ!」
無理に無理を言い続けてはや数年。
貧乏だからと断られ続けた末ようやくのことでKMF導入が決定したというのになんでグラスゴーなんだ。
このことがスズキの体重増加と10円ハゲに繋がったわけだ。
「それは財政を預かるヤグチ様がお決めになられたことなので私ではなにも申せませんし」
ひげもじゃの太ったおっさんが駄々をこねる姿はまことに見苦しいと思わないでもない店主はピンとひらめいたことを提案してみた。
「ではこういうのはいかがでしょう」
「1度に5機も購入とは我ながら思いきったことをしたものでございますね」
スズキ子爵家執事ヤグチ男爵はKMF導入の予算を計上しながら関連書類に目を通していた。
「ん? なんですかこれは?」
各種の装備品と武装の項目の下に見慣れない項目がある。
「旗機における特別擬装?」
個別に予算が付いた項目だが自分はこんなもの与り知らない。
細かいところまで視ていたしグラスゴーを注文したときには付いていなかったはずだ。
「契約内容が勝手に改ざんされましたか オプションとして必要な物を担当者が忘れていましたか」
あってはいけないことだが人間誰しも間違いはある。
しかし妙に気になったのはその特別擬装の価格だ。
「擬装だけでこんなにも価格差が出る物なのでございましょうか」
騎士団の旗機といえばマントだ角だとごてごてした擬装を付けて余計に割り増しとなるのは常識の範疇だが 2機分近く割り増しなのは幾らなんでも高すぎる。
これならサザーランド1機を購入するほうがまだ安上がりだ。
ただでさえスズキ子爵領の経営は火の車でグラスゴー5機の購入も選定の剣カリバーンを引き抜くくらいの苦慮の末に絞り出したのだ。
スズキがポケットマネーを出すからと馬鹿なことを宣っていたがそんなはした金を積まれたところで焼け石に水 サザーランドの購入など整備面を考えても費用が掛かりすぎる。
第一運用ノウハウもないのに5世代機など購入してどうするつもりなのかと叱責し諦めさせたというのにこれでは意味が無い。
「発注はまだのはず これは調べてみなければなりません」
調査の結果グラスゴーに扮したサザーランド 外装をグラスゴーにした中身サザーランドという スーパーグラスゴーとでもいうべき特注品が注文されていたと知ったヤグチくんがヤグチカッターを繰り出したのは言うまでもない。
最終更新:2015年06月14日 16:03