239 :ライスイン:2015/07/17(金) 21:52:03
1940年1月22日04:00  北大西洋・オークニー諸島沖  イギリス北大西洋艦隊


「フランス人共も情けない、オランダ相手に戦艦を3隻も失うとは。」

イギリス北大西洋艦隊旗艦ヴァリアントの艦橋で司令長官のブルース・フレーザー中将は失態を演じたフランス艦隊に対して
悪態をついていた。だがそれは自分達に対してもだった。
アムステルダム沖を封鎖中だった北大西洋艦隊は本国からの命令で房をフランス艦隊に任せて北上、輸送船団と合流しフェロー諸島
攻略を命じられていた。しかし攻撃位置に到達する寸前にアメリカが保障占領を宣言。偵察機を飛ばした結果、戦艦・空母を含む
有力な艦隊の存在を確認し攻略を断念(※1)。そしてこのタイミングでフランス艦隊壊滅の知らせを受け取った。

「潜水艦や機雷にここまで悩まされるとはな。」

「大破した駆逐艦2隻はスカパフローに退避する様に指示を出しました。レナウンは24ktまで速度が低下したものの戦闘は可能だそうです。」

更にイランだ艦隊撲滅の為に南下中に複数の潜水艦(※2)の襲撃を受け、おまけに潜水艦がばら撒いた機雷にも引っかかってしまった。
これにより駆逐艦2隻が大破して戦線離脱し、重巡洋艦ヨークが小破。極めつけはレナウンが中破し速度が24ktまで低下した事だった。
幸い戦闘は可能だが痛い損害である事には変わりない。

「オランダ女王と政府がどの様な手段で脱出したか分からない以上、早急にオランダ艦隊を撃破しなければ。」

「本国では残留の艦隊や航空機を総動員して行方を捜索中です。」

飛行艇や潜水艦で脱出したかもしれないし中立国の船に乗っているかもしれない。もしかしてオランダ艦隊の中にいるかもしれない。
兎に角確実に捜索を行うためにはオランダ艦隊を早急に撲滅する必要があった。



                     「日米露三国同盟外伝01 アムステルダム作戦」 後編



1940年1月22日12:00 北海中央部 オランダ本国艦隊


「艦隊進路前方にイギリス艦隊発見、距離およそ50000。」

「遂に見つかってしまったか。」

イギリス艦隊発見の報告にフルストナー大将は一瞬残念な表情を見せた。昨日のフランス艦隊撲滅後、脱出船団から目を逸らさせる為に
暴れ回り、小規模な哨戒部隊や輸送船団を複数叩き潰していたがそれが原因で見つかってしまった様であった。

「敵艦隊は戦艦3、重巡・軽巡が各1隻、駆逐艦が6隻。戦艦はQE級が2隻とレナウン級の様です。」

「ファン・スペイクを失ったのが痛いな・・・だがやる事は一つだ、敵艦隊に向かって突撃せよ。」

1隻でも多く敵艦を沈める為、そして1秒でも多く時間を稼ぐためフルストナー大将はイギリス艦隊に砲戦を仕掛けるべく突撃を開始した。

240 :ライスイン:2015/07/17(金) 21:52:39
1940年1月22日15:40 北海中央部 イギリス北大西洋艦隊


「以外に粘るな。」

「この不利な状況で素晴らしい敢闘です、ですがそろそろ決着を付けませんと。」

ヴァリアントの艦橋でフレーザー中将や参謀らはオランダ艦隊の意外なほどの粘り強い戦闘に対し素直に称賛していた。
昼過ぎに開始された戦闘はオランダ艦隊が時間稼ぎの回避行動に終始した結果、双方ともに命中弾が発生しなかった。
しかし戦闘の連続で砲弾・燃料共に激減していたオランダ艦隊は徐々に動きが鈍り始め、14:00を過ぎる頃には撃沈が出始めた。
そして現時点で残っているのは中破状態の旗艦ウィレム3世(砲戦能力は維持)と大破状態のゼーゴイセン(3~6番砲塔使用不能)だけであった。
だがオランダ艦隊の勢いは衰えず、未だに抵抗を続けていた。そんな時・・・

「敵戦艦に命中弾、轟沈します。」

マレーヤの放った15インチ砲弾2発がゼーゴイセンに命中、使用不能になっていた3番砲塔及び崩れかけていた後部艦橋に命中た。
既に大破していたゼーゴイセンはこれに耐え切れず、数秒後には勢いよく沈み始めた。

「よしっ、残りは旗艦だけだぞ。」

フレーザー中将は喜びのあまり飛び上がった。しかし・・・それに水を差す出来事が轟音と共に発生した。

「レナウンに命中弾、轟沈です。」

ウィレム3世の放った36㎝砲弾12発の内、なんと半数の6発が命中。元々装甲が薄い上に中破して速度が低下していたレナウンは命中弾全てが装甲を
食い破って艦内に到達し爆発し瞬時に轟沈。生存者は誰もいなかった。

「くそっ、何たる失態だ。何としてでも沈めるのだ。」

瀕死の相手からの逆襲で貴重な快速の巡洋戦艦を失うという失態を犯したイギリス艦隊は僅か1隻残った戦艦に対して猛攻撃を開始。
それでも検討するオランダ戦艦だが遂に最後が訪れようとしていた。


1940年1月22日16:00 北海中央部 オランダ本国艦隊


「最早・・・これまでか・・・。」

大破したウィレム3世の艦橋で瀕死の重傷状態のフルストナー大将は無念そうに呟いた。主砲は既に沈黙し副砲もほぼ全滅、艦の傾斜も激しくなって
いたが闘志は衰えないのか一部の高角砲と機銃がイギリス艦隊への射撃を続けていた。

「無念です。ですがこれ以上の抗戦は不可能です、退艦命令を出します。」

これ以上の戦闘が不可能と判断した艦長は退艦命令を出すことを進言し、フルストナー大将もそれを認める。そしていざ命令を出そうとした時・・・

「敵戦艦発砲、敵駆逐艦も魚雷を発射しました。」

重傷を負いながらも任務を続けていた見張り員からの報告が入る。戦艦2隻が主砲を斉射し接近してきた駆逐艦3隻が魚雷を一斉に発射したのだ。
15インチ砲弾16発と53.3㎝魚雷24本がウィレム3世に襲い掛かる。これにフルストナー大将は自らの運命を悟った。

「我等は敗れた、しかし祖国は・・・オランダは敗れんぞ。」

フルストナー大将がそう呟いた瞬間、ウィレム3世は猛烈な衝撃と共に水柱に包まれた。そして水柱が晴れた後、そこにウィレム3世の姿は無かった。
勝利したイギリス北大西洋艦隊は敵味方問わず漂流者の救助を行った(※3)後、損傷が多く疲労も濃いことからスカパフローへと帰還していった。
そしてこれら一連の海戦は”アムステルダム沖海戦” 及び ”北海中部海戦”と呼ばれるようになり、英仏海軍の失態とオランダ海軍の勇猛さを
世に知らしめる事となった。

241 :ライスイン:2015/07/17(金) 21:53:12
1940年1月24日09:20 アムステルダム市前 オランダ陸軍

「閣下、南部のヴィンケルマン中将より入電 ”我これより最後の攻撃を敢行す” です。」

「西部のヴォースト中将からも ”義務を果たすべく行動す” との入電です。」

「くそっ!」

両方面軍からの決別電に総司令官ラーイマーカース大将は思わず悪態をついた。
南部の対ベルギー戦線では順調にベルギー軍を撃破していたがドイツ装甲師団の増援が加わった事で形勢が逆転。撤退しつつ遅滞戦闘を繰り返していた。
西部の対フランス戦線では物量差から攻勢に出ず、事前に構築した簡易ながらも重厚な陣地に籠って戦闘をしていたが、痺れを切らしたフランス軍の
圧倒的な兵力(※4)による攻勢により壊滅状態に陥っていた。そしてラーイマーカース大将が直卒する東部軍もドイツ軍の大規模攻勢により
アムステルダム市の前まで追い詰められていた。残存戦力は歩兵2個大隊程度にマウリッツ戦車2両とM3中戦車が1両、そして航空隊はアメリカから
緊急輸入したP-36が3機と試作機のフォッカーD.23の計4機が上空に居るだけだった。

「閣下、ドイツ軍の攻勢が始まりました。」

参謀からの報告が入る。偵察によれば2個装甲師団を含む8個師団以上の大兵力で空からも数えるのが面倒な位の敵機が迫ってきており、またドイツ軍砲兵も
猛烈な砲撃を行ってきた。

「撃ち返せ。」

指揮官の命令が飛ぶ。しかしオランダ軍の残存砲兵は75㎜榴弾砲M1A1が4門と37㎜対戦車砲M3が2門にGPF155㎜カノン砲が1門だけで真面に対抗するのは不可能だった。
それでもオランダ軍はに戦い、質と量で圧倒されているにも拘らず1時間以上も粘ったがその抵抗も終わろうとしていた。

「閣下。残存勢力は僅か1個小隊にまで低下しました。」

生き残った参謀の絶望的な報告にラーイマーカース大将が覚悟を決めようとした。だがその時アムステルダム市内より伝令が向かってきた。

「閣下、アメリカ大使より連絡。”チューリップの花は咲いた”とのことです。」

伝令から告げられたオランダ駐在のアメリカ大使よりの連絡に生き残ったオランダ兵の表情が明るくなる。何せ自分達の目的が果たされたからだ。

「総員着剣、これより最後の攻撃に出る。」

自らもサーベルを抜いたラーイマーカース大将が宣言した。本来なら降伏するところだがドイツ軍は捕虜を取るつもりがないのか降伏勧告もせず攻撃を続けていた。

「諸君、祖国の未来の為に義務を果たせっ!!」

ラーイマーカース大将はそう叫ぶと自ら先頭に立ってドイツ軍へ突撃していった。
これより20分後、アムステルダム市長が降伏を宣言しオランダ本土での戦闘は終結した。しかし枢軸軍は目的であるオランダ女王・政府の身柄拘束が
達成出来なかった。なぜなら・・・。

242 :ライスイン:2015/07/17(金) 21:53:43
1940年1月24日08:40 大西洋  アメリカ大西洋艦隊 旗艦ノースダコタ

時刻を少し遡ったこの時、大西洋上のとある場所(アゾレス諸島西方約100㎞)、ここにアメリカ大西洋艦隊が展開していた。
名目は欧州から脱出してくる自国民や避難民を乗せた船団の保護及び欧州同盟各国を威嚇する為の演習の実施であった。

「潜水艦が浮上してきます。」

「うむ、例の船かどうか確認を急がせろ。」

見張りからの報告に大西洋艦隊司令長官アーネスト・キング大将は自分達の目的である潜水艦かどうか確認する様に指示を出した。
彼ら大西洋艦隊の任務は潜水艦で脱出してくるオランダ女王・政府首脳部の保護であったからだ。

「確認しました、潜水艦ユトレヒトです。他にもマッケレル級が2隻。」

確認した結果、目的の潜水艦であることが判明。そして甲板に出て来た人物によりそれは確実なものとなった。

「間違いありません、あれは女王陛下にディルク首相です。」

ノースダコタに同情していた駐米オランダ武官が叫ぶ。

「では艦載艇を用意してお迎えしろ、失礼の無い様にな。」


ほぼ同時刻 潜水艦ユトレヒト

「ご苦労様でした艦長、あなた方の献身のお蔭でここまで来ることが出来ました。」

浮上したユトレヒトの甲板では女王や政府首脳部がアメリカからの迎えを待ってた。
彼らは本国艦隊がアムステルダム沖や北海で暴れた隙を突いて夜間ドーバー海峡を突破するという離れ業を演じ、密にイタリアの潜水艦などから
補給を受けるなどしてここまで航行してきていた。

「貴方方はこれから?」

「我々はアメリカからここで補給を受けた後、欺瞞の為アイスランドを目指します。」

その後はアイスランドを拠点に通商破壊に従事するつもりだと艦長は語った。

「艦載艇が到着します。」

誰かが言った。そしてその方向を見ると数隻の艦載艇がユトレヒトに接舷していた。

「では皆様方、どうかご武運を。」

艦載艇に乗り込む女王や政府首脳部へ艦長は別れの言葉をかける。
こういてオランダ軍が全軍を上げて実施した王室・政府脱出作戦”アムステルダム作戦”は成功したのであった。

※1:保障占領したアメリカの戦力が弱体であったら”中立違反”など適当な題目を並べて強引に保障占領を実施するつもりであった。
   因みにアメリカの戦力は戦艦がニューメキシコ級3隻、空母がホーネットにワスプという強力な艦隊であった。

※2:オランダだけでなくデンマークやノルウェー、そしてイタリアの潜水艦も加わっていた。

※3:この時は同じ西欧白人であり、かつ同盟側に余裕があった事から理性が働いていた。

※4:装甲予備師団を含む装備優良な7個師団。

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最終更新:2015年09月09日 21:11