486 :ライスイン:2015/07/02(木) 02:25:25
1916年11月20日 東京 夢幻会会合場所


「それにしても嶋田君が無事でよかったですな。」

「しかも撃墜したゲーリングを救助しているとは。これで彼も本物の英雄になりましたな。」

この日の会合では改めて嶋田の無事とその業績が確認されていた。何しろ帝国軍始って以来の大戦果であり新聞を通して
国内に広まると国民は熱狂し軍への志願が増大した。また嶋田のプライベートなどを掻き立てて契約増大を狙うマスゴミ
や帰国した嶋田を取り込もうと考える政党や政治家が出てきていたが夢幻会はそういった動きを徹底的に潰していた。

「まあ馬鹿共への対処はおいておいて捕虜への対応はどうなっている?」

「外人規格の居住区に入浴施設に病棟に教会にレストランなど快適さは他国の収容所とは比べ物になりませんよ。」

「まあ捕虜から”俺の家より快適だ”とか”捕虜になってからの方が豊かに暮らせてる”なんて言葉が出るくらいですし」

捕虜の取り扱いに細心の注意を払っていた日本は東京の奥多摩、北海道の函館、遼東半島の大連、任那半島の釜山を始めとして
複数の捕虜収容所を設けていたが軽作業や生活労働はやらせるものの扱いは至って丁重であった。前述の快適な設備に加えて
帝国華○団などによる慰問公演や文化交流なども行われ殺気立った雰囲気を和らげていた。もっとも警備は過剰なほど厳重で
近場には航空隊まで展開していて脱走者は容赦なく射殺されるか裁判にかけられ重刑に処されていた。

「それとドイツ語に翻訳した同人誌や萌え本に各種小説を配布しています。定期的に日本料理や日本酒も与えています。」

「・・・・・確か日本文化に親しみを持って貰う為だったな。」

同時に捕虜対策としてドイツ語に翻訳された同人誌などが自由に読めるようにされていた。また定期的に日本各地の料理や酒が
供され日本文化(笑)に親しみを持って貰う(MMJ信徒を増やす目的もあり)工作も行われていたのだ。

「報告ではゲーリングはヴァ○キリープロファイル・レ○スとシル○リアが好みの様です。」

「ゲーリング・・・モルヒネデブじゃなくて萌え豚になったりしないだろうな。」

頭の痛い問題であったがなんとか話題を切り上げ次に移った。

「遣欧軍は現時点でハノーファーまで占領。現在は補給と整備の為に進撃を停止しています。」

「フランスから撤退中のドイツ軍に後背を突かれない為、空爆を徹底してます。」

次いでドイツ本土に進撃中の遣欧軍の状況が説明される。
現在遣欧軍はハノーファーまで占領した所で進撃を停止。補給と増援を受けつつ再編成を行っていた。
また野戦飛行場を建設し、進出してきた航空隊によるベルリン空爆も実施していたのだ。
そしてフランス国内から撤退しつつあるドイツ軍に背後を突かれない為、徹底した空爆の他に列車砲や大口径野砲(203㎜)による
砲撃や挺身部隊による司令部襲撃など化学兵器以外の実行可能な攻撃を全て行っていた。

「連合軍・・・特に英仏は反撃の機会に大いに張り切って熾烈な追撃を行っています。」

「包囲軍を蹴散らしたヴェルダン要塞のフランス軍(※1)が増援と合流しドイツ軍の後方に回り込もうとしています。」

「イタリア軍もドイツの攻勢失敗で動揺しているオーストリアを押し戻しています。」

成される報告は明るい物ばかりであった。今まで苦戦を強いられてきた連合軍は漸く到来した反撃の機会に歓喜し、第666軍団を先頭に
猛烈な追撃を行い士気が崩壊しかけているドイツ軍西部戦線方面軍に多大な損害を与えていた。また包囲軍をほぼ独力で撃破した
ペタン中将率いるヴェルダン要塞軍が南部から進撃してきた連合軍と合流しドイツ軍の背後に機動。包囲状態を形成することに成功していた。
またイタリアも先月初めに購入していた日本領リビアの工廠で製造された40式戦車20両と倉崎重工リビア支社で製造された
69式軽戦車伊型 30両(※2)を使用して攻勢を行いオーストリア軍にかなりの損害を与え、遂にジェノヴァの日本軍と合流することに成功していた。
もっとも今回のドイツ軍の攻撃を跳ね返す活躍を見せたアメリカ軍はパリ方面に配属された20個師団中10個師団が壊滅した為に追撃には少数しか
参加できなかった(それも英軍の指揮下で)。

487 :ライスイン:2015/07/02(木) 02:25:59
「アメリカ軍も意外に活躍しましたね。」

「遣欧軍に帯同しているマッカーサーもな。」

練度不足で装備に劣る米軍の意外な活躍に驚きつつも称賛する会合参加者達。更にレインボー師団を率いて遣欧軍に帯同し、ドイツ国内で
暴れ回るマッカーサー准将の功績もついでに称賛する(※3)。その後は戦後の行動計画について話が及んだその時・・・

「外務省より緊急報告です。中華民国が枢軸国に宣戦布告を行い、併せて連合国入りも表明しました。」

「「「「「・・・・・・・・」」」」」

突然の、そして斜め上の報告に唖然とする参加者達。更に

「続いて報告です。中華民国が我が国に対して占領した山東省・江蘇省からの退去若しくは共同占領を要求してきました。」

「「「「「ふ・・・ふさけんなっ!!馬鹿野郎っ」」」」」



                     孤立大陸 第20話「日本軍、ベルリン突入」


1916年11月も終わりになると枢軸国の敗北は最早確定したも同然であった。東欧を制圧し、ロシア・ソ連との講和により自由になった東部の
戦力を注込んでまで行った最後の攻勢に失敗。盟主ドイツは皇太子が戦死した挙句、撤退中の西部戦線方面軍が連合軍に包囲され本国に
徹底不可能な状態になっていた。更に日本軍(米英仏各1個師団含む)に国内深くまで攻め込まれている有様だった。オーストリアも
度重なる消耗で兵力を損失しておりイタリアを押し戻すことが出来ず、本国に後退を繰り返していた。残るブルガリアは唯一国内に戦火が及んで
いなかったがセルビアやルーマニアでの治安維持やゲリラへの対応で疲弊しきっていた。
枢軸国・・・特にドイツ首脳部は勝利の可能性が完全に潰えたと悟り、いかに有利な条件で講和出来るかを至上命題にして考えた。そして
その為の最低条件を本国保持と定め、国内に侵攻した日本軍の撲滅を最優先としていたのだ。もっとも当てにしていた西部戦線方面軍が本国に
帰還不可能になり日本軍撲滅は極めて困難になってはいたが・・・。そんな中、ロンドンで英仏による極秘の階段が開かれていた。


 1916年11月21日 大英帝国首都ロンドン  某屋敷

「中国人共め、余計な真似を・・・。」

イギリスのグレイ外相が忌々しげに言い放つ。

「我らの勝ちが決まった途端に参戦・加入表明か。しかも図々しく褒賞を要求してくるとは。」

フランスのブリアン外相も怒り心頭であった。
この2人は翌日に行われる連合国の総会前に各種問題の利害調整の為、極秘で会談していた。

「中華民国の加盟を認めたのは失敗だったか?」

英仏は多数の国を迎え入れることで連合の正当性をアピールできると判断しギリシアやオーストラリア(※4)の賛成もあり、日本が占領した
大陸の枢軸領土には立ち入らず、共同占領も認めない等の条件を付けることで日本の反対を抑えて加入を認めていた。これには日本と対立する勢力を
迎え入れることで日本の台頭を抑える意図もあった。

「今更言っても仕方ない、だが戦局に寄与できるのか?」

488 :ライスイン:2015/07/02(木) 02:26:39
「一応奴らは欧州在住の中国人で編成した部隊を投入するそうだが・・・僅か1個中隊だそうだ。本土から兵力を送ろうとも間に合わんし船も無い」

「役立たずだな。その癖に恩賞を貰おうとは。」

中華民国は連合加盟の際、英仏に密に参戦と戦勝の際の報酬として以下の要望を伝えていた。それは

1:日本が占領中の大陸の枢軸領土の返還。 2:賠償兵器の優先割り当て。 3:可能であるならば日本が有する大陸利権・領土の返還

無謀かつ現実が見えていないとしか言えない程のばかげた要望。しかし中華民国は要望が叶えられた場合、英仏などに同地を含めた大陸での
更なる利権の提供を申し出ることで揺さ振りをかけていた(ロシア領は中国人の大半が駆逐されていた為、現状では不可能と判断)。

「日本の参戦条件を破る事になる。しかし魅力的だな・・・大陸での権益拡大は」

「わが国では嶋田大尉撃墜の件で日本の反仏感情は高まっている。これ以上、日本を刺激したくは無いが権益拡大の機会だな」

中華民国からの申し出は大陸での権益拡大を図る良い機会でもあった。しかし・・・

「日本をどう納得させるのだ?下手したら日本と戦争だぞ。」

権益は拡大したい、しかし日本の参戦条件を破る事になり下手をすれば日本と戦争になる。
おまけに自分達の大陸領土を返還しない癖に日本には返還を求める矛盾も生じてしまう。
それに権益を手に入れたとしても敵対化した日本がすぐ近くに存在する・・・ハッキリ言って日本を敵に回してまで手に入れる価値はない。
少しばかり揉めたが結論は”貢献度に応じた褒賞を与える”。この意見で一致した英仏外相は翌日の総会に臨むことになった。


 1916年11月22日 大英帝国首都ロンドン  某ホテル

「フランスに侵攻したドイツ軍は包囲撲滅しつつあり、イタリアでも占領地の大半を奪還。そしてドイツ国内深く進攻しつつあります。」

某ホテルを貸し切って行われている連合国総会では最初に現在の戦況についての説明が行われていた。日本からは再び本野外相、そして軍からは
遣欧総軍副司令官秋山好古大将(海軍側副司令官を兼ねる遣欧艦隊司令は欠席)が参加していた。

「我が遣欧軍は本日未明に帯同する連合軍と共にハノーファーを出発しました。一週間以内にベルリンに到達する見込みです。」

自分達の番が回ってきた秋山大将がハノーファーを出発した遣欧軍の状況を説明する。その説明は的確であり参加者一同は日本軍(+連合軍)による
ベルリン陥落は最早確定したと判断。当初の講和でなくドイツ降伏による終戦が現実の物となろうとしていた。
但しそれが気に食わない一部の国からは異論や反論が飛び出した。

「ベルリン攻略よりも我らが本土の奪還を優先すべきです。占領状態のままの停戦は認めがたい」 セルビア&ルーマニア

「機会は均等に、わが軍の到着を待って攻勢を行うべきです」 中華民国&ポルトガル&ベルギー

「トルコを連合国に加入させ、彼の領土から占領された国々の奪還を図るべきだ。」 ギリシャ

それらの意見に対して秋山大将は明確に拒絶する。

「ドイツが降伏すれば領土は回復します、それにベルリン侵攻は現有兵力で十分で足手纏いを待つ必要はありません。
  それにトルコの勧誘は以前の会議で否決されています。そして彼の国の義勇軍は貴国以上に貢献しています。」

この明確な拒絶の言葉に先に意見を述べた国々は怒り心頭といった感じで顔を紅潮させる。しかし英米仏伊の冷たい視線に晒せれ結局は取り下げることになった。
英米仏は本音では自国主導によるベルリン侵攻を行いたかった。だが現状でその余裕はなく帯同する自国の部隊がそれなりに活躍していたので一応は満足していた。

「では当初の予定通りフランス国内のドイツ軍の本国帰還阻止と撲滅、イタリア戦線の押し上げ、そしてベルリン侵攻で宜しいですな。」

489 :ライスイン:2015/07/02(木) 02:27:09
議長役を務めるイギリスのアスキス首相が確認を取る。参加者一同が賛意を示し会議が終了しようとしたその時・・・

「お待ちください、我が中華民国は山東省・江蘇省からの日本軍の撤退を要求します。我が国が連合に参加した以上、我が国が占領すべきです。
  中華の大地を正当なる持ち主の元へ返るように連合各国に協力を求めます。」

英仏からクギを刺されていたにも関わらず中華民国大使が大声で山東省・江蘇省からの日本軍撤退を訴える。
流石に過去に敗戦により割譲した満州や遼東半島まで要求するのは無理と判断したようだがそれを聞いて場は一気に静まり返った。

「また我が軍がドイツ軍と戦える様に日本に対して最新兵器の提供(無償か安価で)を求めます。同時に必要な物資と移動の為の船舶も
  提供して戴きたい、」

更に最新兵器と物資、そして移動に必要な船の提供まで厚かましく要求する。

「中華の大地を正当なる持ち主へですか、それは同じく大陸に領土を有するイギリス・フランス・イタリアにも申し入れたんでしょうな?
  それに山東省・江蘇省は連合参加の対価として我が国が領有することが決まっています。また物資等の提供は拒否する。」

本野外相が冷めた声で言い放つ。

「・・・くっ」

中華民国大使は悔しそうに口を噛み締める。彼らはあくまで”日本から領土を取り戻す”事を目的としていて英仏に対しては更なる利益を提供することで
奪還に対する支援を得ようとしていたからだ。

「無駄な主張はそこまでにされよ。実際に血を流したのは日本であるし価値が決まってから参加した・・・何の貢献も無い者に権利など無い。」

アメリカ代表として参加していたロバート国務長官が断罪する様に言い放った。同様に各国も中華民国を避難する。そして最後に

「どうしても取り戻したければ連合を脱退した上で攻めてくることですな。」

秋山大将の言葉で無駄な議論は終了した。

「不味いですな外相、連中なにかやらかしそうですぞ。」

会議終了後の控室で秋山大将が本野外相に話しかける。一旦は引いた中華民国だが碌でもない事を企んでいるのは明らかだからだ。

「分かりました大将、至急政府へ連絡して対策をとるように致しましょう。」


1916年11月25日 マクデブルク近郊 アメリカ軍レインボー師団


「ヒャッハー、どんどん進めぇ。日本軍に後れを取るなよ。」

レインボー師団戦車隊(大隊規模 ※5)を率いるジョージ・パットン少佐は搭乗する69式中戦車(※6)からノリノリで命令を下す。
師団本隊はマクデブルク前面の防衛線で日本軍と共に戦闘中であったが彼が率いる戦車隊は防衛線を大規模な迂回機動で躱し、
マクデブルクに到着しようとしていた。

「少佐、このまま突入しますか?」

突入準備の為一時停止し陣形を整えている最中に副長が確認の為、話しかけてきた。

「歩兵が居ないのが厳しいが愚図愚図してたら増援が来てしまうな。」

戦車隊単独での都市攻撃は危険を伴うがこのまま待機してたら防衛線から駆け付けたドイツ軍に挟み撃ちにされるかもしれない。
パットンが攻撃命令を出そうとした時、右後方より連隊規模の部隊の接近が確認された。

490 :ライスイン:2015/07/02(木) 02:27:41
「少佐、友軍です。あれはトルコ義勇軍です。」

「ケマル大佐の機械化連隊(通称ケマル連隊)か、俺達と同じことを考えていたか。だがこれで都市を落とせるぞ。」

連隊規模の機械化歩兵の出現で都市攻略の確率は大幅に向上した。それまでの偵察で都市本体に立て篭もるドイツ軍は1個連隊にも満たないことが
判明していたからだ。そうしている内にケマル連隊は戦車隊の横に布陣し、ケマル大佐搭乗の69式中戦車がパットンの所へ寄ってきた。
互いに礼を交した後、2人は幕僚と共に作戦を練り始めた。

「ではマクデブルク内に立て篭もるドイツ軍は連隊以下という事か。」

「ええ。ですけど戦車隊単独では厳しかったので大佐の来援は正直心強いですぜ。」

人種は違えど互いに実力を認め合っている為、険悪な雰囲気は一切なかった。

「ならば態々戦力を分散する必要はないな。正面から突入し。司令部となっている市庁舎を占領するとしよう。」

「では我が戦車隊が前衛を務めましょう。」

こうしてレインボー師団戦車隊を先頭に市内へと突入したアメリカ軍とトルコ義勇軍は僅か1時間の戦闘で市内を制圧し、マクデブルク防衛軍司令官の
マクシミリアン・フォン・プリトヴィッツ大将(東部戦線での失態により降格左遷)を捕虜にした。そしてマクデブルク陥落の報を聞いた防衛軍主力は
戦意を喪失し降伏。都市を含めた周辺全域の占領に成功した。

「まったく・・・パットンめ、まあ戦果を挙げただけ良しとしよう。」

報告を受けた師団長のマッカーサー准将は苦笑しつつ喜んでいた。同時に上原大将も友好国が派遣した義勇軍の活躍に対し称賛する電文を送ったという。
その後も日本軍+αは快進撃を続け11月29日にはブランデンブルクを占領し、12月3日にはポツダムを占領した。
またこの時期になると新たに編成された英仏の師団や到着したアメリカ軍がベルギー経由でドイツ国内に侵入し占領地の拡大等に励んでいた。


1916年12月7日  東京 夢幻会会合場所


「遣欧総軍の上原大将から連絡が入った、本日昼頃にベルリンを包囲したとの事だ。」

遣欧総軍よりベルリン包囲の知らせが会合に舞い込む。現在ベルリンを包囲している戦力は

○大日本帝国遣欧総軍

 戦車師団×3 機械化歩兵師団×5 自動車化歩兵師団×8 砲兵師団×1 重砲兵旅団×2 機動砲兵旅団×1 捜索連隊×4

 挺身連隊×2(分遣隊をパリ方面へ派遣中) 戦車大隊×4 機械化陸戦旅団×1 トルコ義勇軍機械化連隊

 航空機多数(複数の臨時野戦飛行場に分散配置)   他の部隊は補給路や重要地域の警戒・治安維持中

○アメリカ軍  レインボー師団

○イギリス軍  歩兵師団×1

○フランス軍  歩兵師団×1

対するドイツ帝国ベルリン防衛軍は

近衛師団 歩兵師団×6(内3は欠員・傷病者多数) 民兵部隊×6個師団相当  各種航空機約100機

戦力差は圧倒的で例え東部の残存部隊が駆け付けてきても火力の差で返り討ちは確定的であった。

491 :ライスイン:2015/07/02(木) 02:28:15
「目標はベルリン全域を占領し皇帝以下政府要人を確保することだ。間違っても他国に手柄を取られるわけにはいかん。」

多額の予算を出して異例の大軍を地球の反対側まで送り出した以上、それに見合う戦果を上げなくてはならない。それにここで他国に手柄を取られては
勝者の権利を主張できず、他国に侮られる事になる。それ故に必ず自分たちの手でベルリンを攻略する。皆固く決意していた。

「ベルリンからは一般市民の脱出も相次いでます。戦闘力を損失したドイツ軍部隊の投降も同様に発生しています。」

「投降の呼びかけや反戦ビラの空中散布が効いていたようだな。」

ベルリンを包囲した後、上原大将は民間人の犠牲を抑えるべく盛んに投降の呼びかけを行っていた。そして航空機による反戦ビラや反戦萌えビラ(※7)
の投下により多くの市民がベルリンを脱出。同時にベルリン救援に赴いたものの、負傷者続出や物資の欠乏等により戦意を喪失したドイツ軍が
投降してくる光景が多く見られていた。

「それと駐仏大使館より報告です。ルアーブルでインフルエンザが、トゥーロンでペストが再び流行し始めているとのことです。」

思っても見なかった報告に唖然とする一同。

「ルアーブルのインフルエンザはイギリスがアフリカから連れて来た第666軍団の朝鮮兵が、トゥーロンのペストは前回と同じくアフリカ駐屯の
   部隊や植民地兵が原因との報告です。すでにパリにおいても流行し始めていると・・・。」

「兵力の補填を急ぐあまり防疫検査を碌にしなかったのか、以前の教訓を忘れたか・・・。」

日本との戦争時と全く同じケースでの疫病流行に唖然とする一同。
万が一に備えて防疫等の準備をしていた遣欧総軍は流行の兆しが見られた時点で現地に調査員を派遣し詳細に調査。本国に報告を送ると同時に
リビアやカナリア諸島にある理化学研究所の支部や製薬会社(※8)に対してペストワクチンやインフルエンザ治療薬の生産を依頼。
数日以内に義勇軍を含めた遣欧総軍及び在欧州邦人分が生産できる見通しであった。

「ワクチン生産は継続するとしてこのままでは不味いぞ、トチ狂った蛙食いが世論に押されて講和しかねない。」

「極端に走って赤色革命や反日政権誕生とかになったらヤバイ。攻勢を急がせましょう。」

英仏の国民が疫病の流行で弱気になれば政府・・・特にフランスが世論に迎合し講和という選択を取りかねない。更にこの事態を好機と見た
共産主義者による赤色革命や反日勢力による政権奪取といった悪夢が現実となりかねない。

「上原大将は本日深夜から砲撃と空爆を行い、8日の明け方に突入を開始するとの事です。」

「今は彼らに期待するしかないか。」

492 :ライスイン:2015/07/02(木) 02:29:22
1916年12月8日 05:00 ベルリン市シュパンダウ区  遣欧総軍


「この攻撃が大戦を終幕に導く事を切に願う。全軍、突入せよ。」

上原大将から命令が下り、ベルリンを包囲していた遣欧総軍は一斉に突入を開始する。
対するドイツ軍は懸命に防ごうとしたもののそれまでの砲撃や空爆で重砲をほぼ全て損失していた為、あっけなく突入を許していた。
それでも首都防衛だけあって頑強に抵抗した。

「防げ、連合軍をベルリンに入れるな!!」  「邪悪なる黄色人種に神の裁きを」  「皇帝陛下万歳。」

兵士や民兵だけでなく民間人すらも払い下げの旧式火器や猟銃で戦い、中には武装した女性達(※9)まで立ち向かってきた。
そして極一部ではあるが日本軍に捕まったら酷い目に合うという噂を信じ、身投げや集団自決が発生していた。

「不味いですな、残った民間人の一部が狂信的に抵抗してきます。兵士の中にはノイローゼになる者が出始めています。」

「その兆候が出始めた兵は直ちに後送して受診させろ。あともう少しだ、手を抜かずに行くぞ。」

余りの戦闘の激しさや一部民間人の狂信的な抵抗そして集団自決といった極限状態。ノイローゼになる者が出始めたという報告に上原大将は
直ちに対応策を指示する。確かに狂信じみた抵抗は脅威ではあるがそれでも火力・兵力共に圧倒している為、進撃を止めるまでには至らない。

「これなら明日の昼頃にはベルリン王宮を包囲できるな。」

ある程度攻略の目途がついたことを確信する上原大将。しかしそれをぶち壊しかねない事態が遥か後方で進んでいた。


1916年12月8日 13:00  パリ


 現在パリではインフルエンザとペストが猛威を振るっていた。ルアーブルやトゥーロンで発生したこれらの疫病は兵力の移動に伴いフランス
国内各地に拡散。特に防衛の為、兵力が集結していたパリでは特に酷く、都市機能どころか政府機能までマヒしていた。

「・・・お亡くなりになりました。」  「アスキス首相・・・急いで本国へ連絡しろ。」

 そして疫病は要人にまで及び、戦後の対応について協議する為に数日前からパリを訪れていたイギリスのアスキス首相がインフルエンザと
ペストに二重感染し、容体が急変し今しがた死亡した。急遽ロイド・ジョージが首相に昇格したが事態把握に手間取っていた。
それはフランスも同じでポアンカレ大統領がインフルエンザで倒れ、首相に権限を委譲できたものの、混乱は収まらなかった。
おまけに市内では疫病が蔓延する中でも反戦デモが行われていて

「さっさと戦争を止めて被災者を救援しろ。」  「もううんざりだ。」  「日本人に功績を上げさせるな。」

など殆どは戦争を早く止めろという声だが一部では反日的な内容も含まれ始めてきた。

「不味いですぞ、一刻も早く戦争を止めないとこの国が持ちません。」

フランスの臨時閣議では閣僚からの悲観的な報告にブリアン首相が頭を抱えていた。
フランス国内に蔓延しつつある疫病は包囲下にあるドイツ西部戦線方面軍を攻撃中の部隊にまで感染し始め、連合軍は戦闘能力を失い始めていた(※10)。
もっとも包囲下にあるドイツ軍の方が遥かに悲惨で疫病に加えて餓えや乾き、そして負傷も加わり戦闘能力をほぼ損失。遂にはヒンデンブルク元帥の
独断で連合軍に降伏していた。

「日本から供給されたワクチンを元にパストゥール研究所で治療薬を生産していますが供給量が足りません。」

「日本からも相当数が供給されていますがそれでもまだ不足しています。」

日本からのワクチン供給が始まり多少はマシな状況になったとはいえ、状況は未だ悪かった。現在のフランス政府の本音を言えば直にでも戦争を止めて
復興に取り掛かりたかった。

「日本軍に帯同する我が軍からの報告では現在ベルリンを順調に制圧しつつあり、明日の昼頃には王宮に突入できる見込みだそうです。」

「そうか・・・」

493 :ライスイン:2015/07/02(木) 02:29:55
軍部からの報告にブリアン首相は考え込んだ。上手く行けば数日以内に連合の勝利で終結する状況で独断で休戦を提案した場合、

              ”勝てる戦争を独断で講和に陥れた裏切り者”

などのレッテルを張られ国家の威信は完全に地に落ちてしまう。列強としての発言力を完全にに損失し最悪の場合、国家が崩壊してしまう。
当然決断した自分達は戦犯呼ばわりされ、吊るされるか民衆のリンチで命を失うかもしれない。それらへの恐怖が頭を過り、首相は遂に
決断する。

「数日以内にケリがつくのだ、講和は論外だ。国民へは私が呼びかけよう。」

閣議後、ブリアン首相は危険を顧みずパリ市内で演説。また戦争続行を訴えるビラを急遽作成し航空機を用いてその日の内に全土へばら撒いた。
その結果、国民は多少は落ち着きを取り戻し”もう数日我慢しよう”という状態になった。


1916年12月9日 12:30  ベルリン王宮前  遣欧総軍

「いよいよここまで来たか。」

上原大将は感傷に浸るように呟いた。現在遣欧総軍はベルリン市内をほぼ制圧し、ベルリン王宮を完全に包囲していた。
此処までの戦闘でベルリンは大きく荒廃。特にブランデンブルク門は一帯がドイツ軍の陣地と化していた為に攻撃対象となり、最終的には山本五十六大尉(※11)
搭乗の75式艦上攻撃機が投下した500㎏爆弾で倒壊するなど遺物にも被害が出ていた。

「各部隊突入準備完了しました。」

遣欧総軍各部隊及び連合軍・トルコ義勇軍から突入準備が完了したとの報告が入る。また王宮敷地内には敵の姿は見当たらないが内部に相当数が
立て篭もっていると推測された。

「よし、では全軍突・・・」

上原大将が突入命令を下そうとした時、王宮内部より轟音が響いてきた。


ほぼ同時刻 ベルリン王宮内  ヴィルヘルム2世

「ここまで追い詰められるとは・・・」

ヴィルヘルム2世は独り呟いていた。判断の誤りから日本を敵に回し、戦略の誤りから勝利を逃した。何度もパリを蹂躙し、3度目にはあと少しで陥落させられた所を  
結局は押し負けた。そして国内に侵攻され今まさに首都ベルリンが蹂躙され、我が家たる王宮も占領されようとしている。

「捕虜になる不名誉は耐えられん、ならばいっその事・・・余自らの手で終わらしてやる。」

ヴィルヘルム2世は既に生きる気力をなくしていた。息子は戦死し祖国は崩壊しようとしている。その上に憎き日本軍の手に捕らわれるなど我慢ならなかった。
既に政府首脳部は郊外の地下施設に退避させていて全てにケリがついた後、降伏する様に指示を出していた。この王宮には彼一人しかいない。

「ビスマルクよ・・・余が間違っていたのか。」

遠き昔に方針の違いから解任した、祖国を強国に導いた鉄血宰相の事が脳裏を過ぎる。

「だがもう遅いか・・・」

そう呟くとヴィルヘルム2世は謁見の間の中央に設置された大がかりなスイッチの前に立った。

「去らばだ・・・我が祖国よ。」

ヴィルヘルム2世がそう言いながらスイッチを押した瞬間、王宮内で激しい爆発が発生し瞬く間の内に王宮全体が崩壊した。
このヴィルヘルム2世による自爆から数分後、郊外の地下施設に避難していた政府首脳部が連合軍に降伏。その数時間後にオーストリアとブルガリアも連合軍と休戦。
世界中を巻き込んだ戦争は意外な形で終結したのだった。

494 :ライスイン:2015/07/02(木) 02:30:25
※1:ペタン中将率いる要塞防衛部隊。劣勢ながらも粘り強く戦い、連合軍の反攻に乗じて攻勢を仕掛け混乱する包囲軍をほぼ独力で撃破していた。

※2:参戦後に完成した倉崎重工初の海外大規模工場で生産された。もっともイタリア側が値下げを要求してきたため、色々とスペックが落とされている。

※3:奮闘への感謝として糧食(嗜好品)を多めに配給したほか、マッカーサーには日本産高級コーンパイプセットと日本製サングラスを贈呈。パットンには
   日本製大型回転式拳銃(象牙グリップ)と軍刀(刀鍛冶が制作した本格品)を贈呈している。

※4:憎き日本の足を引っ張る為なら何でもやるという心理的状態に陥っていた。

※5:アメリカからの要請で全てが日本から供与された戦車で構成されている。

※6:パットン用の指揮戦車を含めて12両が特別に貸与された。

※7:侍姿の撫子が憔悴しきったメイド服のドイツ娘を優しく抱きしめる絵と”貴女方は頑張りました、もう終わりにしましょう”という字が書かれている仕様。

※8:国が100%の株式を保有する国策製薬会社。社名は安武麗羅製薬(あんぶれらせいやく)。傘のマークのロゴが特徴で本社は日本だが満州やリビア、カナリア諸島に
   大規模な工場を持つ。

※9:上流階級に対する一般国民の不満や反発を和らげる為、貴族婦女子を中核にして編成された特別部隊で正式名称はワルキューレ中隊(人員は140名程度)。
   軍服の用意が間に合わなかった為、大量に在庫のあったメイド服に軍属腕章という恐ろしい恰好で相対した日本兵に多大な精神的打撃を与えた。
   もっとも装備は拳銃か騎兵銃程度で練度も低かった為、互いに死者を出すことなく全員捕縛された。日本側呼称:装甲○兵侍女中隊。

※10:ペストやインフルエンザが発覚する前に移動してきた感染済みの第666軍団兵やフランス植民地部隊により広範囲。発覚が遅れた為、その分被害が大きくなった。
    特にフランス軍は深刻で参加兵力の70%前後が戦闘不能になっていた。

※11:ヴィルヘルム皇太子搭乗の戦車を撃破した事と今までの功績が評価され昇進。


○おまけ  69式軽戦車伊型(イタリア名:CV-16軽戦車)

重量6t 37㎜21口径戦車砲×1、フィアット レベリM1914重機関銃(6.5㎜)×1 装甲厚6~14㎜ 乗員3名 速度:20㎞/h 生産数:30両

倉崎重工リビア工場で制作された69式軽戦車のイタリア仕様。イタリア側の執拗な値切り交渉に辟易した日本側が性能低下の容認と引き換えに生産を受諾。
主砲を軽量歩兵砲改造した物に変更し、エンジン出力も下げ装甲も薄くした。機銃はイタリア製。
因みに陸軍兵器廠リビア工廠で生産された40式戦車は在庫(中古)の部品で生産された為、特に性能を下げることなく要求額で購入された。

495 :ライスイン:2015/07/02(木) 02:30:59
いかがでしょうか?やっと第1次大戦が終了しました。
疫病の蔓延で発狂した蛙による独断での休戦にするか悩みましたがベルリン突入→ヴィルヘルム2世自爆という流れにしました。
そして大活躍した嶋田と山本ですが

嶋田:戦艦撃沈、エース2人撃墜、皇帝に名指しで最大の敵呼ばわりされ賞金を懸けられる。

山本:皇太子爆殺(搭乗戦車ごと撃破)、ブランデンブルク門破壊

などの戦果が原因でドイツで最も憎まれている日本人の1位と2位にランクインしています。
今回もネタが多数入っていますがどうかご容赦ください。


~予告~

未曽有の大戦は集結し、世界は一応は平穏を取り戻した。各国は疫病への対応を進めながら枢軸国への扱いを決めるべく講和会議を開催する。
しかし一部の国は自国の都合を優先するあまり、身勝手かつ不誠実な行動を執り始める。そして更に極東での地では新たな戦争が勃発する。

次回”怒りの講和会議、そして新たなる戦争”

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最終更新:2015年12月27日 18:51