285 :ひゅうが:2016/07/10(日) 22:00:20
艦こ○ 神崎島ネタ――「接触」その5


「おい…こりゃぁ…」

「大都会じゃないか。誰だ?艦隊が立派でも島は立派とは限らないとかいった奴は?」

「そりゃお前だよ。」

「ああ俺か。そりゃすまん。」

兵たちがわいわい声を上げている。
士官たちも同様だったが、一時期の緊張が嘘のように艦隊の雰囲気は和らいでいた。

「見目麗しい娘さんたちが操る艦が相手となると、戦艦の乗組員でもほほが緩むものですな。」

「本来は困るのだが、ああも手をふってこられてはなぁ…」

米内GF長官は苦笑をもって接触3日目の朝を迎えていた。
連合艦隊司令部の参謀たちや、艦長たちも同様である。
昨日、演習と称して艦隊運動や砲戦演習を行った艦隊は、いずれも18ノットで南下。
艦隊の案内で、神崎島鎮守府の首府への入港を許されることになっていた。

彼らが接触したのが、地図によれば蓬莱諸島沖。
そこから本島沿いに南下し、兜率島の沖合で2日目を過ごしたのちに神崎島西南の池間岬をまわり、朝早くに補陀落湾の奥に位置する神崎市へと達したのが、日本標準時において午前6時30分だった。

なんでも、フィリピンのマニラ湾からアジア艦隊の出動が確認されており、英国海軍の中国艦隊も抜錨したという。
一昼夜飛ばせば、南波照間諸島沖に達すると予想されており、現地で警戒中の神崎島鎮守府第二艦隊が接触後こちらへ案内することになっているという。
やはり、見せつけるつもりであるらしい。

そして、見せつけられようとしているのは…

「先導の駆逐艦『夕雲』より発光信号!
針路そのまま。神崎市港湾管制へ誘導を引き継ぐ。」

「了解。返信、『先導感謝す。』」

先頭を進む大型の駆逐艦の艦橋上からは、妙に大人びた少女の笑みが米内たちに向けられ、やがて手をふりつつ先導から離れていった。
兵どもは歓声を上げてそれを見送る。

「やれやれ。女が云々といっていたプライドの高い奴らが鼻の下を伸ばしているな。」

「申し訳ありません。」

「いやいや、健全なことだと思うし私も他人の事をいえぬ。それにあの様子を見せつけられてしまってはなぁ。」

「あれは、なんというか反則でしょう。」

長門艦長の言葉に、参謀どもも頷いた。

確かに反則だった。
昨日実施された「演習」において、神崎島側の妙に甲高い声の艦長率いる軽巡「阿武隈」と第一水雷戦隊は、連合艦隊の前で一糸乱れぬ艦隊行動を披露。
こちらよりもひとまわりも大きな大型駆逐艦群が距離10以下ですれ違い、速度35ノットで標的艦に突っ込んでいく様子は連合艦隊側を瞠目させていた。
さらに、主力戦艦部隊の砲撃もまた反則級の命中率だった。
演習時の命中率において連合艦隊は実に15%近い高い命中率を誇ったが、彼ら――いや彼女らは少なく見積もって3割を超えていた。
しかも標的戦艦(無線操縦らしい)は回避運動を機敏にしている中で。
おまけに水柱の高さは見慣れた三年式41糎砲よりさらに高い。

こんなものを見せつけられては、「女の海軍」と陰口をたたきはじめかけていた行儀の悪い古参の特務士官たちも手のひらを返さざるを得ない。
彼らは、訓練で死者が続出するというこの時期の帝国海軍特有の狂った状況に適応していた。
すなわち、実力がある奴には素直に従う。
そうでもしないと、やっていられないのだった。

286 :ひゅうが:2016/07/10(日) 22:00:52 それに――と米内は思う。

本土の基準より発育がやたらいいとはいえ、艦長…いや、艦を一人で統括制御する「艦娘」という存在は見るからに善良そうで、かつ見目麗しいのだ。
男所帯であるからにはその効果は絶大。

訓練終了後に、ある艦長や元艦長たちに「会いに」きた艦娘たちがまとわりつく姿…
というよりも父に甘える娘のような姿や、お嫁にいった娘が久しぶりに里帰りしたような姿は、彼らの父性本能を大いに刺激していたのだ。

そして、おそるおそる尋ねた艦長らに伝えられる、彼女らの悲劇。

慌てて止めようとしたGF司令部の動きも無駄に終わり(何しろ彼女らは海の上を「歩いて」きたのだ)、彼女らの「正体」は少なくともこの艦隊に浸透しつつあった。

「うちの艦には、あんないい娘たちが宿っていたのですねぇ。」

「しかも、一度沈んでからも再び誰かのために海に出るとは、鶴の恩返しみたいですなぁ。」

そんなことを、日頃厳しいことばかりを言う士官たちが言ってしまうのだからまったくもって男というものは…


「港湾管制より通信!12番錨泊地と埠頭のいずこを希望されるや?」

「泊地につけよう。この開放感のままに町に繰り出すと羽目を外しすぎる奴が出るだろう。
むろん、交代で上陸はさせる。」

「了解しました。空母はどうされます?」

「空母もだな。島側が飛行場と埠頭を貸してくれるらしい。飛行艇をつければ本土への物資運搬は間に合うだろう。」

しかし…と米内は、島の中心都市を観察しながらいった。

「とんだ未来都市だな。」

その通りだった。
神崎提督いわく、「気づいたらなぜかここにいた」というこの島の首府は、横須賀のような赤レンガ施設の外側を妙に機械じみた高層ビルヂングが取り囲み、さらに外縁部に要塞地帯が構築された軍港だった。

米国へいったことのある連中なら、ニューヨークの摩天楼をゴシック教会じみた装飾で満たしたようなと形容するかもしれない。
あるいは、どこかの平行世界の存在なら「大砲の町」とか「択捉経済特区」と評したかもしれない。
ある意味雑多なこの光景は、欧米列強が築いた植民都市のようであり、また上海のような奇妙なアジア的混合を示す都市のようだった。


「人口は30万ほどだとか。」

「彼らの説明によれば『ここで暮らしていた記憶もあれば、また別の場所で過ごした記憶もある』か。」

「まったく何を信じればいいのかわからない、というのはどういう感覚なのでしょうね?」

「ジキル博士とハイド氏が常に表に出ているような感覚かな?」

「ぞっとしないな。」

まったくだった。
特に、米内たちにとっては未来の事項に属する悪夢のような大戦争を人間に操られて過ごしことごとくが沈んだというあの娘たちは…

「閣下!神崎島鎮守府旗艦『大和』より入電。
『わが鎮守府第二艦隊は、南波照間諸島沖において米アジア艦隊と会同。これより神崎市へ誘導す。』」

「おいでなすったな。」

「これも、神崎提督からの圧力でしょうか?」

「早く何らかの地位確定を行わなければ米国側にも飴を見せるというのだろうな。
やれやれ。あの若い提督、とんでもないタヌキだぞ。
まぁこちらに配慮しているのは分かるが。」


――この日、連合艦隊司令長官名義で神崎島鎮守府との相互不可侵協定が締結。
このときをもって、世界史に「カンザキトウチンジュフ」という存在が登場する。

287 :ひゅうが:2016/07/10(日) 22:01:45
【あとがき】――帝国海軍士官の皆さん「駆逐艦は天使。はっきりわかんだね」
おかしい…なんかほのぼのした話になってしまった。

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最終更新:2023年11月05日 16:45