333 :ひゅうが:2016/07/11(月) 02:22:53
艦こ○ 神崎島ネタSS――幕間「大統領の憂鬱」



――1937(昭和12)年1月12日 アメリカ合衆国 ワシントンD.C


「どうもジャパニーズに先を越されたようだね。」

フランクリン・D・ルーズベルト大統領は苦笑とともにコーヒーを飲んだ。
彼は珍しくホワイトハウスで朝食をとっていた。
いつもは、控えめに言って革新的な妻のエレノアと共に公邸で朝食をとるのが彼の日課だったが、今日は違ったようだった。

「マップルームで徹夜ですか?」

「すまないね。どうも海軍が動くとなるとこういうところに籠りたくなるのだ。」

彼は本当にすまなさそうに、海軍作戦本部長ウィリアム・リーヒ大将に頭を下げた。

ここはマップルーム。
ルーズベルトの趣味と実益を兼ねて、世界各地の地図が集積され、さらには各所につながる電話機がいくつも設置されている場所だ。
はじまりは南北戦争時にリンカーン大統領が設置したものだったが、十数年前にポリオにかかって以来スポーツができなくなってしまったルーズベルトは大統領就任と同時に忘れ去られていたこの部屋を復活させていた。
ここが彼の夢の王国、そういうわけだった。

もちろんそれは、ルーズベルトの20年来の友人でもあるリーヒ提督も知っている。
だからこそ彼は頭を下げたのだった。

「アジア艦隊のヤーネル提督からです。長文の報告ですが、ここに概略が。」

「ありがとう。ああ、君もやってくれ。うまいぞ。ジャマイカ産だ。」

手ずからコーヒーを淹れられたリーヒは、封筒に入れた電文を手渡し、入れ替わりにソーサーごとティーカップを手にとった。
もちろん5メートル四方の大きな海図台を介して。
この友人が、わざわざ腰を落として目線を合わせられることを嫌っているのをリーヒは知っていた。

口をつける。
確かにうまい。

「ビル。君はこれを読んだのかね?」

目を通したルーズベルトに問われ、彼ははいと答えた。

「ヤーネル提督によると、あそこにある島は新たに出現したのではないそうだ。
確かに都市や照葉樹林を有する島が一夜で生まれたなどとは思えないからね。逆ならあり得るのだが。」

「ムー大陸とやらですか。」

「そうだな。ああいうのは好きだよ。チベットのシャングリラとかね。
だが問題はこの我らが逆アトランティスが強大な軍事力を有することだ。」

「報告によれば、戦艦少なくとも8を確認しています。いずれも日本戦艦に酷似していますが、名称の重複など疑問点も多くあります。」

「IJN(日本帝国海軍)に匹敵するな。さて、我々が進めているヴィンソン案では足りなくなる。」

334 :ひゅうが:2016/07/11(月) 02:23:26
「カンザキトウチンジュフを名乗る現地勢力は、自称ですが日本人とのこと。そのわりには欧州系の人材も散見されましたが、漂流者の子孫との話からすれば大航海時代の生き残りでしょう。」

「うむ。まぁそういわれればそうなのだろうと返すしかないだろう。あのあたりは前世紀以来頻繁に調査されていた海域だ。そこになかった島がまるで数千年前からあったような顔をして出現したのだ。
説明しろといっても向こうも説明できまいよ。どこかから飛んできたわけでもあるまいに。」

「案外、そうかもしれませんよ。」

リーヒは、緊急報告として打電されたテレタイプのうち何枚かを新たに手渡した。

「ふむ…」

ルーズベルトはそれを素早く読み、少しだけ目を見開いてから海図台へそれを置いた。

「これは本当かね?わが海軍艦艇によく似た艦があるというのは。」

「我々が設計をまとめたばかりの新型戦艦(ノースカロライナ級)の拡大版と思われるとのことです。彼らの説明によれば、『深海棲艦(Deep Sea Ships)』と呼ばれる敵対勢力との大戦争に際して配備されたとのこと。」

「その敵対勢力とは?」

「勝利に伴い講和が成立。その後『海域封鎖が解けた』との由。
戦力ならびに経緯は不明です。」

「わからないことづくしか。」

「しかし、報告の通り日本帝国への帰属の意思を明確にしてはおります。
わが駐在武官の報告によれば、トウキョウでは海軍と共にエンペラーの周囲が慌ただしくなっているようです。」

「妨害するかね?たとえば『わが海軍からの情報流出によって建造された新型艦を引き渡すべし』とでもいって。」

「そもそも建造開始予定は8月ですから。無茶苦茶なことと返されるだけでしょう。
しかし、なぜあんなものが…」

「ビル。君はこの項目を読み飛ばしていないかね?」

ルーズベルトは、特記事項とされた末尾の部分をとんとんと指でさした。

「これですか。いやいくらなんでもアメイジング紙のようなパルプフィクションのような話は…」

そこにはこう書かれていた。
――なお、同海域において昼と夜を幾度も繰り返すが如く明暗が幾度も訪れる。天候などの原因は不明。

「こう考えられぬかね?
この何者かが住んでいたのはどこか…そう、紙の表と裏のように隣り合ったどこかで、そこでは米日はその謎の敵対勢力に対するために手を結んでいた…と。」

「ネバーランドですか?ピーターパンのような。」

「タイム・マシンかもしれぬな。しかしそうなると事は重大だぞ。いずれにせよあの島は高度な軍事力を保有する。
当然それを支える先端技術も。」

「それをジャパニーズ・ネイビーは手にしました。」

「直接にではないがね。厄介なことだよ。ただしこちらにそれを隠す気がないこと、ジャパニーズ側もこれが青天の霹靂だったのは確かなようだな。」

いっそ、隠れてこそこそ強大な軍事力を整備していたというのだったらそれを非難するだけで済んだのだが。とルーズベルトは嘆息する。
一夜にしてニューファンドランドの3分の2もの大きさを持つ緑豊かな島が出現するという非現実的な事態はまっとうな反論を封じてしまうだろう。
だいたい、艦艇に重複命名をわざわざしたり、わざわざアメリカ海軍がまだ建造していない軍艦の発展型に似せて軍艦を建造するなどという面倒くさいことをするわけがないではないか。

335 :ひゅうが:2016/07/11(月) 02:27:50
「どうされますか?」

「放置はしないさ。極東情勢があのマンチュリア以来不安定な今、手を放すのはまずい。
それにあの島はわが国とチャイナ、そしてフィリピンとの間に位置する。
幸い、島の首長たるアドミラルカンザキはヒトラーと取引しはじめたあの国の軍部とは一線を画すつもりらしいからな。
今は握手をする時期だろう。」

「背後に短剣を隠しつつ?」

「その通り。だが、早くしなければヒトラーがチャイナに地歩を固めてしまうからな。知っているかね?あの国は今や蒋介石の軍事顧問団を通してあらゆる面でチャイナへ進出しつつあるのだぞ。」

リーヒは頷いた。
門戸開放という国是を連呼する間に、事態はそこまで進行していたのだった。

「昨年のラインラント進駐、エチオピア戦争、そして激化するスペイン内戦。
今はあの極東の島国がおとなしくしている限りだが、笑顔で握手せざるを得まいよ。
財界は事実上、マンチュリアという新たなフロンティアを安定化させた上でそこに入りたがっているからね。
もっとも――」

ルーズベルトは深淵を覗き込んだような目で続けた。

「ジャパニーズがマンチュリアだけで満足していなければ、別だが。」




【あとがき】――とうとうあの人に登場していただきました。
ぶっちゃけ接触の驚きとかは何度書いても一緒なのでスルーしました。ごめんよヤーネル提督。
そして日本側に比べて傑物度の高い大統領閣下。
満州事変後であり日独伊防共協定締結後なので不信感は持っていてもまだ差別語を使うほど憎んではいない状態であります。

337 :ひゅうが:2016/07/11(月) 05:53:39 >>334
おっと…ノースカロライナ級と固有名詞を出すには時期が早すぎますね。
「我々がやっと設計をまとめた新型戦艦(ノースカロライナ級)」と修正しておきます。
336
ありがとうございます。
帝国海軍は昔から艦船を擬人化するのが好きだったようですので、実体化されてさらに愛着が増しているかと思います。
あとこのあと史実ではルーズベルト氏は、官僚たちの声におされて増税に踏み切り、せっかく脱そうとした不況の二番底を招いてしまいますので、そこで暗黒化したと妄想…
ただしこの頃すでにハリー・ホブキンス氏らが側近について経済政策で辣腕を振るってましたから、きっちりアカい人たちが取り巻いていますね。
本人が傑物なだけで。

我々がやっと設計をまとめたノースカロライナ級戦艦を、我々がやっと設計をまとめた新型戦艦(ノースカロライナ級)に修正

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最終更新:2023年11月05日 16:45