900 :ひゅうが:2016/07/24(日) 16:38:48
神崎島ネタ――「連合航空艦隊演習」その3
――1937(昭和12)年3月8日 午前7時 神崎島鎮守府「中央指揮所」
「SIF照合。該当なし。トラックナンバー060-11-60をアンノウン(未確認機)と認定。
以後ノヴェンバー-3群(敵北方第3群)と呼称。
スクランブル(緊急発進)をかけます。」
『ヘカトンケイル1(空中早期警戒機1号)よりポセイドン(中央指揮所)。こちらもノヴェンバー-3群を確認した。誘導を引き継ぐ。』
「ポセイドン了解。サジタリウス(陸上高射砲群)に順次位置情報を配信。オクレ。」
『サジタリウス・センター(神崎軍港防空統括指揮所)了解。位置情報は順次送信を確認した。』
「エリア・エコー4キロ1(東部空域第1警戒区域)に新たな反応。トラックナンバー110-12-20と呼称。SIF照合、該当なし。以後エコー-4群と呼称。」
「空中待機サザンクロス3群(味方の南部空域空中待機戦闘機第3群)をエリア・エコーへ移動。空中待機機を40から60へ上げます。」
「各エリアの防空戦闘指揮はヘカトンケイル1から3に委任。これよりポセイドンは、各エリア1および2の防空管制へ移る。オクレ。」
『ヘカトンケイル1了解。』
『ヘカトンケイル2了解。』
『ヘカトンケイル3了解。』
「エリア・シエラ1(神崎軍港)に空襲警報発令。サジタリウス1および2(神崎軍港要塞地帯防空砲台)、チェックリストに従い対応せよ。」
『サジタリウス1了解。』
『サジタリウス2了解。』
「アーカディア1群(味方邀撃戦闘機隊第1群)、ノヴェンバー2群にエンゲージ(接敵)。」
「これは…」
米内光政GF長官をはじめ、堀中将や山下中将らの観戦武官の表情が引きつった。
まるで映画館のような場所にあって、客席にあたる部分でブラウン管のようなモニタを見つめる管制官たちが次々に指示を出している。
スクリーンにあたる部分はいくつかに分割されており、それぞれ神崎島の輪郭や各主要部の地図らしきものが白い線で描かれ、その上を光点と線、そして数字が刻々と動いていた。
「これが、21世紀の防空戦闘か。」
「いいえ。これは今から20年で実現される『冷戦下の』戦闘です。」
彼らを案内することになった士官――彼らも「妖精」だという――があっさり述べた。
「これが?」
堀が、夜道でふいに幽霊に出くわしたような表情でいう。
901 :ひゅうが:2016/07/24(日) 16:39:19
「ええ。もとは冷戦下日本のBADGEシステムを再現したものですね。北米のNORADを再現するには資料が足りませんでしたが、SAGE(半自動式防空管制組織)とのいいとこどりです。」
竹中と名乗った禿頭の上級士官は、いわゆる「現代」の記憶を持つ妖精の一人だった。
「誘導に関しては空中の早期警戒機と地上の遠距離早期警戒線からの情報をあわせてこの中央指揮所地下の高速電算機で処理を行っています。」
「それでこれだけのことができるのか…」
私は地図上に駒を置いて戦闘機隊の指揮をするのかと思っていたよ。と米内がいった。
「バトルオブブリテン――第二次大戦における英本土航空戦ではその方法がとられましたが、航空機の高速化が進みましたので順次自動化されました。」
と竹中。
「なにしろ、1機逃せば大都市に大威力核反応弾頭が落ちますので。」
「なるほど。核反応弾の実用化は、今こうして起こっているような大編隊に対する邀撃から逃れる術ということか。」
納得顔で山下が返した。
「それに、従来型の通信のみによる誘導だと、五月雨式に多数の方向から侵入されたときに指揮能力が飽和してしまいます。
海軍的にいえば、夜戦のさなかで無線電話でがなりあっていると想像してください。」
「混乱の極みだろうな。それは。」
「まるで欧州大戦のようですな。多数の攻勢を発起することにより敵の指揮能力を飽和させ、前線での突破を企図する。」
「21世紀の科学技術でも実現が難しい弾道ミサイル迎撃という要素を除けば、まさにそうなります。」
竹中はそういった。
「戦闘機を連れないでの爆撃行は…もはや無謀か。空は電子の目でくまなく見はられることになったのだから。」
冒険飛行の時代の残照が消え去るのを感じ、堀は軽く息を吐いた。
902 :ひゅうが:2016/07/24(日) 16:39:59
【あとがき】――空中戦を見るよりも、こうして後方で淡々と処理されるのを見るとこたえると思うの。
『ヘカトンケイル3了解。』を追加
最終更新:2023年11月12日 15:40