567 :弥次郎@帰省中:2016/08/01(月) 16:50:22
大日本企業連合が史実世界にログインしたようです 幕間 -3月14日の蹂躙-


『ウォッチ1よりHQ。反乱兵と思われる歩兵団を捕捉。情報を送る』
『HQよりウォッチ1。ロケーションを確認。戦力を派遣し対応に当たる』
『ウォッチ1了解』
『HQよりタケミカヅチへ。敵性勢力を確認。これの鎮圧にあたられたし』
『タケミカヅチ了解』

無線での要請に応え、皇居を守るように配置されたACが起動する。

「畜生……頼むから大人しくしてくれよ。システム起動、蹴散らすぞ」
『AMSコンタクト』

ガション、という音と独特の感覚が脊髄を走り、頭にまで走る。
日企連所属のリンクス『タケミカヅチ』は先行量産された『Vシリーズ』の一つ『UCR-10』ベースのAC 名称レッドライダーの
コクピット内部で呟く。夢幻会メンバーでもある彼は、AMS対応型の試験も兼ねてこの史実側の世界に派遣された。
AMS対応型でもネクストと酷似するコクピットブロックを採用したこの『レッドライダー』は、リンクス向けの商品として
着々と製造が進められている。やがて、タケミカヅチの体をコクピットブロック内に注ぎこまれた液体が電気的な刺激を
受けて急速に凝固していき、まるで液体の中に閉じ込められたかのようになる。

『対Gゲル、凝固完了』
『HQ、こちらタケミカヅチ。これより侵入してきた反乱勢力を駆逐する』
『HQ了解。敵勢力は九五式軽戦車が主力と推測される』
「やれやれ……懲りない馬鹿はいるもんだな」

口を覆うマスクの下で呟く。
本来ならば戦車など動員できないはずだった。しかし、日企連が意図的に見逃していたのだ。
というか、わざと渡した。ついでのように、国内に潜り込んでいたスパイから没収した火器を流してやった。
ノーマルACによるデモンストレーションを見せつけられても反抗する精神性は評価できるが、合理的な判断とは言えない。
あるいは、何者かにそそのかされ、情報収集のための手駒とされたのか。英国かアメリカか、あるいは、ソ連か。

568 :弥次郎@帰省中:2016/08/01(月) 16:51:15
いずれにせよ、それは一介のリンクスが気にすることではない。
それは上層部(うえ)が判断することであるし、必要に応じて自分が前線に出る。
リンクスと企業は、もともとそういう関係だった。

『HQよりタケミカヅチへ。戦車3両を捕捉』

複合センサーが歩兵と戦車を捕捉する。
AMS接続によって、脳の視覚野に情報が送り込まれることで、一々モニターなどを確認するまでもなく情報を理解できる。
もはや脊髄反射のレベルでその速度と数、随伴する歩兵の数と配置を把握した。

『迎撃する。歩兵を下げろ』
『了解。健闘を』

健闘するまでもない、とタケミカヅチは思う。
第一、MTの方がよほど脅威だ。ネクストに対して数と絶え間のない攻撃でPAを破りダメージを与えてくるのは
ミッションによっては非常に脅威だ。特にPAが減衰する領域での戦闘は平時と同じ感覚で被弾すると修理費が高くつく。
それらに比べれば、この時代の戦車などブーストチャージすることもなく普通にぶつかれば撃破できるかもしれない。
とはいえ、オーバーキルをするのも気分はあまり良くない。

『かかってこい、とは胸を張って言えないな』

レッドライダーのライトグリーンのカメラアイが光り、戦闘態勢に入った。

『メインシステム、戦闘モードを起動します』

コンピューターの音声が、無感情にコクピットに響いた。

569 :弥次郎@帰省中:2016/08/01(月) 16:51:48
「『人型』を確認……!」

先頭からの報告に歩兵たちの表情が強張る。
2.26事件の際に暴れた『人型』の噂は伝え聞いている。戦車を一撃で破壊する、恐ろしい巨人。
1両でダメならば3両で。何とか手に入れた戦車をうまく擬装して運び込んだ彼らは、それを押し立てて前進する。

「行くぞ!」

号令のもとで前進する。
しかし、その動きはACにとってはのろまそのもの。亀のような鈍足だ。
レッドライダーの、人間で言えば肩に当たる部分に取り付けられた箱が開き、何かが飛び出す。
それに歩兵が反応する前に目の前に着弾した『フラッシュロケット』は鋭い閃光を規定通りに発する。
ACのカメラさえも狂わせる閃光は、人間が見てよいものではない。たまたま影になった歩兵はともかく、直視した
歩兵は眩しさと耳を襲う不快な音に苦悶の声を上げ、倒れる。

「ぐああっ!」
「目がぁ、目がぁ……!あぁぁー!」

戦車がその砲塔を向けようとするが、その動きより先にレッドライダーの右手に保持されたHEAT弾頭を発射する
バトルライフルの方が速い。連射された3発が的確に前部装甲をぶち抜き、一気に破壊せしめた。確認するまでもなく、
搭乗員は死亡である。一瞬遅れて、火薬に引火したのか爆発が起こり、炎上した。

「突撃!突撃ぃ!」

その光景に一瞬呆然とした将校が、狂ったように叫ぶ。
そして、自分も叫びながら突撃する。その瞳には狂気しかなかった。
散発的に発砲され、動かないレッドライダーに吸い込まれていく。
しかし、意味がない。金属音と共に悉くが弾かれていく。歩兵の携行可能な火力でACの装甲を抜くのは至難の業だ。
後の時代に生まれるRPG-7やパンツァーファウストなどを以てすれば何とかなるかもしれないが、それでもかすり傷だろう。
ましてや、この時代の大日本帝国陸軍が制式採用している小銃では豆鉄砲もいいところだ。

『システム、スキャンモード』

跳弾しているのを確認しながら、周囲の状況を精査させる。
遥か未来の精査システムは、この非常事態に紛れてこそこそのぞき見をしている連中を炙り出す。

『タケミカヅチからHQへ。ピーピング・トム(覗きのトム)をマークした。捕縛を頼む』
『HQ了解。直ちに戦力を派遣する』

HQからの返答を聞きながら、レッドライダーは前進した。

570 :弥次郎@帰省中:2016/08/01(月) 16:52:37
会敵したACと歩兵たちであるが、勝負にさえなっていなかった。
発砲音や投擲される爆弾が爆発する音が響くが、煙をかき分けてACはのっそりと前進する。

『頼むから、恨むなよ』

聞こえてきた声に何を、と思う間もなくその歩兵は体を襲う衝撃にうめき声を上げた。
その歩兵の体をバトルライフルの砲身が捉え、吹っ飛ばす。軽々と、10mは吹き飛ばされた歩兵はゴロゴロと面白いように転がり、
糸が切れた人形のように倒れ伏した。手足は明らかに通常ではありえない方向にねじ曲がっている。

「貴様ー!」

逆上した別な歩兵が抜刀して突き立てる。
しかし、KE防御に特化したアセンブルのレッドライダーに高々人の振るう刀が通用するはずもない。逆にへし折れた。
めんどくさそうに振るわれた足がその歩兵を文字通り一蹴。こふっと奇妙な息を漏らし、地面に落ちて絶命する。

『抵抗すれば殺す。大人しく降伏しろ』

催涙弾を装填したハンドガンから今度は実弾を装填したライフルに切り替える。
警告はした。タケミカヅチとしてはこのまま虐殺をしてもいいのだが、精神衛生上の観点から問題がある。
えげつない任務はいくつも経験してきたが、これはそのえげつなさの度合いを超えている。時代遅れの兵器で、
歩兵ばかりで、この暴徒鎮圧なども意識に置いて設計されたVシリーズを用いていて、尚且つ自分はリンクス。
この戦間期において実戦経験を経た歩兵などほとんどいないだろう。

「黙r……」

なおも抵抗しようとした将校が消える。
文字通り吹き飛ばされ、「将校だったもの」が打ち抜かれて炎上している戦車の所まで転がる。

『昨日の今日でよくも反乱を起こせるものだ。錦の御旗が出てくる前に降伏しろ』

大体、ここは皇居のすぐそば。
この時代の神の領域。そこでの流血沙汰を起こすのは史実の人間としても気が引けた。
地面に向けてライフルを発砲する。150mmという頭のおかしい弾丸を吐き出すライフルは期待通りに地面を抉る。
その発砲音と威力を見た歩兵たちが、漸く我に返る。そのライフルの銃口が、自分たちに向いていることも。
因みにだが、バトルライフルの弾丸は240mmもある。

『いい加減にしろ。貴様らの行動は無意味だ』

動きが止まったことに安心しつつ、外部スピーカーを通じてタケミカヅチは脅す。

『玉音放送で陛下は意思を示された。降伏し、従う様にと。お前たちはその意志に背いている。
 国賊や売国奴にまで落ちぶれるか』

言葉を選んで、相手の心を抉る。
見るからに動揺が広まり、表情が強張っているのが分かる。

571 :弥次郎@帰省中:2016/08/01(月) 16:53:32
『各所で攻撃を同時に仕掛けることで混乱を誘うつもりだったようだが、そんなことは想定済みだ。
 第一、ここまで戦車を連れてこれたことに疑問すら覚えない時点で、お前たちの限界はそんなものだ。
 あきらめろ、ここで終わりだ』

何を言っているのか、とタケミカヅチは自嘲する。まるで悪役だ。
いや、覚悟はしていた。AC4を前世でプレイした時も、企業の搾取に立ち向かう英雄アマジーグを殺害するために
輸送途中に奇襲を仕掛けるという『外道』をしてきた。コジマライフルで一撃で楽にしてやったこともあるし、ガチで
タイマンを張った時もある。だが、そのいずれもが自分が有利だった。事前情報にあまりにも差があったのだから。
所詮は傭兵、目の前の正規兵のような『綺麗さ』は持ち合わせていない。
しかし、その期待は発砲によって裏切られる。

「な……」
「くたばれ、国賊!」

生き残っていた歩兵が、無駄と分かっているはずなのに必死に発砲し、銃剣を突き刺そうとする。
当然、効かない。しかし、AMSを通じてその衝撃を感じるタケミカヅチは衝撃を受けていた。

「君側の奸め!」
「天誅!」
(忘れていた。こいつらは、俺たち以上に『日本人』だった)

安寧の時代を生きていた自分たち以上に、この国に、暴力的にあるいは乱心的に報いようとする意志。
あるいは、天皇のためには暴力さえも辞さない覚悟。それを暴走と一括りにするのは簡単であるが、かといって、
それが悪意ではないから性質が悪い。

(クソが……!)

胸中に起こるのは、嫉妬だ。
自分たち以上にこの国に殉じようとする意志を持つ彼らに、醜い嫉妬を覚えている。
そしてなにより、そんな彼らを撃つことしかできない自分が許せない。

(ボーナスは弾んでもらわないとやってらんねー……)

ライフルに群がる歩兵へとレッドライダーの手を伸ばしながらタケミカヅチは呟いた。

『警告はした。容赦はしないぞ……!』

572 :弥次郎@帰省中:2016/08/01(月) 16:54:19
ライフルに群がっていた歩兵が、軽い腕の一振りで吹っ飛ぶ。
ハンガーに武器を預けたレッドライダーの手が拳を作ると、立ち上がろうとする歩兵たちの体を叩く。
鋼鉄の拳によって、あっけなく骨が砕ける。ふっ飛ばされて腰が砕けたのか、立ち上がろうとして失敗している歩兵も見受けられる。
そんな歩兵は無視し、レッドライダーは次々と抵抗を続ける歩兵を打ち倒していく。そこに車が数台飛び出してくる。
どうやら機関銃まで装備しているようで、レッドライダーの装甲に弾が当たって金属音が響く。
カメラがとらえたのは九二式重機関銃だった。独特の発射音が外部カメラに捕捉される。

『出てくるとはよほど死にたいらしいな』

カメラが運転手の表情を捉える。そこには明らかな恐怖が浮かんでいる。
叫び声をあげ、がむしゃらに突っ込んできている。ヤケクソか、あるいは覚悟の上か。

『そうだ、俺は恐ろしいモノだぞ(Now,I'm scary)……!』

タケミカヅチが唸るようにして脅す。
フラッシュロケットが再度発射され、爆発。コントロールを失った装甲車が次々とひっくり返ったり増速して突っ込んでくる。
しかし、無感情に向けられたライフルが正確にそれらを打ち抜く。この距離ならば外しもしない。

「カフ……」

奇妙な息を吐き出し、最後の歩兵が腹にデコピンを受けてノックアウトされる。

『タケミカヅチよりHQへ。敵性勢力の鎮圧を完了した』
『HQ、了解。負傷者の収容はこちらで行う』
『タケミカヅチ、了解。ほかに敵性勢力は?』
『現状のところ確認されている分はほぼ鎮圧されている』
『ならこのまま警戒しておく。飛行機が突っ込んでくるなんてのは歩兵じゃきついだろうしな』
『HQ了解。通信終わり』

『メインシステム、通常モードに移行します』

コンピューターボイスが機械的に戦闘の終了を告げる。
ぐったりと背中側の凝固した対Gゲルに身を預ける。精神的な疲労が戦闘の疲労よりもはるかに大きかった。

「SDR2じゃないんだぞ……」

前回の2.26事件時には参戦していなかったが、帰還した操縦者が暫く荒れていたのはこういう理由の為かと、今さら理解する。

「ああ、くそ」

憤りの声は、誰に向けられたものか。
自分か、上層部か、それともこの反乱を目論んだ首謀者か。
彼の一日は、まだまだ続いた。

573 :弥次郎@帰省中:2016/08/01(月) 16:55:17
警視庁。同時に襲撃が掛けられたそこでも、日企連による迎撃が行われていた。
投入されたのは、夢幻会メンバーのレイヴンが無理やりねじ込んだ『スティングバグ』。オリジナルとは若干異なり
堅い装甲と多様な火器をアタッチメント装備できるMTとなっていた。今は暴徒鎮圧のためにゴム弾を発射する機銃と
対人機関銃を装備している。単なる移動だけでも十分に歩兵には脅威だったし、ましてや
さらに、飛行可能なMT『スーパーシミター』が飛行しながら催涙弾や閃光弾を投下し、時にはゴム弾機銃を掃射して
それらの支援を行う。もとより反乱軍に航空機による支援がなく、逃げようとしても上空から発見されればすぐに追手がかかる。
ゲーム内においてはいい的であったり賞金稼ぎのために撃破されるこれらさえも、この時代では十分すぎる強敵となる。

「助けてくれ!化け物だ!」
「なんでこんなに……!」
「あ、あしが……」
「死にたくな…っ!」
「こんな奴ら、話が違うじゃねぇか!」

阿鼻叫喚の地獄絵図。一思いに殺さないのは、おそらくMTのパイロットたちの個人的な感情ゆえだろう。
こんな奴らを殺しても、何ら意味がない。寝覚めが悪くなる。温情というよりは、侮蔑さえ籠った対処だった。
そして、MTによる蹂躙の後に歩兵が一斉に襲い掛かる。訓練の度合いで言えばイーブンかもしれないが、如何せん
装備が違いすぎたし、反乱兵は負傷状態が多かった。また日企連の派遣した鎮圧部隊は鎮圧行動に慣れている。
実戦経験のない童貞などとは異なるのであった。

『ウォッチリーダーからHQへ。覗き魔は片付いた』
『HQよりウォッチリーダー。了解した。回収車両を回す。現状のまま警戒態勢を維持されたし』
『ウォッチリーダー了解』

通信を終えたウォッチリーダーは、捕縛された覗き魔を見下ろす。
殆どがパッと見は日本人に見えるが、恐らくはそう見える人材を選んで送り込まれた諜報員だろう。
イギリスかアメリカが主体だろう。あるいは、最近急速な方針変換に焦りを見せているドイツか。

「いずれにせよ、操り人形の主までたどり着かせてもらうぞ」

日企連の抱える尋問係は、そういったスパイの扱いに長けている。
碌な情報を持っていなかったとしても、見せしめになるだろう。日本が本気であると教えるには。

皇居前でのこの『公開戦闘』は、日企連の実力を改めて示す結果となった。
そしてなによりも、『国賊』には容赦はしないという日企連と御上の意思の強さを顕示した。
この『3.14蜂起』を最後に、日企連への組織的な反抗は表立っては途絶え、治安が安定した。
実行犯らの背景を洗ったところ国外と繋がる組織やスパイの存在が示唆され、何人かの民間人が国家反逆罪として
極刑が言い渡された。ほかにも、これらの蜂起には日企連を快く思わない地主や財閥なども関係しており、合わせて
逮捕若しくは社会的制裁が科された。多くが、何処へともなく消えていった。

斯くして、後に3.14蜂起と呼ばれる軍部の蜂起は失敗に終わり、日企連は大日本帝国の支配を盤石とすべく、行動を継続。
この後には目立った武力蜂起は見られなくなっていった。しかし、水面下の暗闘が長く続くことはだれもが理解していた。

574 :弥次郎@帰省中:2016/08/01(月) 16:56:05
以上となります。wiki転載はご自由に。
とりあえず3.14事変の模様を。

史実を冷徹に見つめる夢幻会メンバーと当時の日本の意識の差ですな。
悲しいことに、我々は『戦後』の人間で彼らは『戦前・戦中』の人間。
価値観が余りにも違います。悲しいことにこれが現実。同族嫌悪といいますかね……

そして、オーバーテクノロジーを使い、人間を蹂躙することの恐怖。
今回はゴルゴ13の『SDR2』を引き合いに出しましたが、まさにこの状態です。
寝覚めの作業ですよ。殺しても意味ないし、殺すとむしろ害しかない。
タケミカヅチさんは結構堪えてます。喜んでやれたらむしろやばいですな……

清涼剤としてあちこちにネタを入れました。
特に『そうだ、俺は恐ろしいモノだぞ』のセリフはrememberを聞いて思いついた意訳で、ぜひとも言わせたい台詞でした。
どうしようもないほどに『恐ろしい』存在。リンクスやレイヴンは、相手を蹂躙『してしまう』存在なんですよね。

是非とも『remember』や『remember』のアレンジ曲である『Mechanized Memories』を聞いてみてください。
〇マゾンなどでも販売しています(ダイマ)。
というかFreQuencyは良い曲ばかり出しています。是非ともお聞きあれ(ダイマ)。
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最終更新:2016年08月08日 17:32