187 :ひゅうが:2016/08/11(木) 19:07:33
神崎島ネタSS――「1937年6月」



――1937(昭和12)年6月23日 神崎島鎮守府 作戦室(中央指揮所隣接)


「今次作戦の要綱を説明する。」

神崎提督は、ずらりとならんだ幕僚および現場指揮官たちを見渡しながらいった。
長卓の左右にタフブックとともに多くの書類を持った幕僚(妖精さん)と、各艦隊を統べる指揮「艦」たち、そして基地航空隊の妖精さんたちがならぶ。
長卓とは別の「島」には、帝国高等弁務官府からのオブザーバーとして参謀級将校をしたがえた二人の高等弁務官――堀と山下の両中将――が着席。
提督の席となる上座に準じる形で会議を見守る態勢をとっていた。

この作戦室は中央指揮所とガラスごしに隣接しており、いわば劇場の三階席といったところだった。
そのために指揮所のモニターに描かれた神崎島や日本列島の地図、そしてその上に描かれたいくつもの光点がここからも一目のもとに確認できる。
先の連合航空艦隊演習(秘匿名『シラトリ』)においてはGFだけでなく見学の参謀たちや文官もここから推移を見守っていた。

「今次作戦は、米国による陸上機を用いた太平洋横断航路の作成にあたって日本帝国がいかなる影響と干渉を行えるか、それを米政府に対し示すことにある。」

「すでに水上機による横断航路はできていると思うが?」

「いい質問だ。長門。」

神崎はいった。

「我々は史実の太平洋戦争の記憶を持つために陸上機による本土空襲を所与のものとして想定を行える。だが、今現在のことを考えるなら、それはほとんど不可能なのだ。」

「飛行艇は不時着水という手段が使える上に、滑走路の整備が必要ないために給油拠点さえあれば航路の整備は容易だからな。」

実際、我が国も南洋航路をそうして展開・拡張させている、と山下。

「そのかわり、離着水という衝撃に艇体が耐えられるように機体は頑丈。
引き込み脚のようにフロートを格納できないことなどもろもろの無理があるため、速度や搭載量において陸上機に大幅に劣る。」

「ゆえに、陸上機が大洋の間を横断するようになれば、それはすなわち大量航空輸送の時代が幕を開けることにもなる。まぁB747ジャンボジェットを見ればこれは自明だな。」

そして今回、あの女流冒険飛行家はこの太平洋間を陸上機を用いて横断しようとしている。
しかも赤道上を使って。
つまりはアメリカ・オーストラリア・フィリピンが一本の航空路で繋がるのだ。
そのど真ん中に位置する帝国の委任統治領南洋諸島を無視してフィリピン、そして中国大陸へと道はのびる。
この戦略的な意味を理解できない人間はここにはいなかった。

「しかし、この試みは史実においては失敗した。おそらくは米国政府か軍の息のかかった装置を搭載したがゆえに。」

女流冒険飛行家であるアメリア・イアハートはこの7月にも南太平洋上において遭難。
70年以上たった21世紀になってようやく機体の残骸らしきものが発見された後も遺体は回収されていない。
その原因として考えられているのが航法ミス。
最新の電波式航法装置がうまく誘導電波を拾えずにマーシャル諸島へ向かう途中で力尽きたのだ。
そしてそこに搭載されていた装置は、当時の最新鋭のものよりもさらに一歩進んだ代物であったらしい。
それこそ、電波情報を収集・記録できるような…
そのため、遭難後は日本による撃墜説がささやかれたりもしており、伝説化に拍車をかけていた。

真相は明らかにはなっていないが、彼女が最後に残した交信記録で指定した周波数は当時のいかなる市販の装置とも異なるものを示していたことは確かである。
冒険飛行には多額の資金が必要であるし、そのために軍あたりからの「ちょっとしたお願い」を聞いたというのは十分あり得る可能性なのだ。

188 :ひゅうが:2016/08/11(木) 19:08:35
「しかし、今回は我々がいる。」

神崎はいった。

「我々が連合航空艦隊演習で長距離渡洋爆撃なんてものを行ったおかげで、日本帝国の航空航路整備は史実よりも大幅に進んでいる。
手始めに進められたのが――」

「辺境地域での電波灯台設置。内南洋はもはや電探の巣と化しているからなぁ。これもおたくが大量にばらまいたためですよ。」

堀が揶揄するようにいう。
その手続きのためにだいぶ苦労していたのが彼だったためだ。

「技術的には量産はともかく、今の日本でも十分作れる代物ですよ。あれは。」

「だからです。おかげで技術者たちが悲鳴を上げていますが――まぁこれはここ数ヶ月いつものことですね。」

「陸軍の方も同じですな。交換部品が大量にあったからよかったものの、下手をすれば一気に全土へ配備なんて地獄を見るところでした。」

要するに、もったいない精神を発揮した軍は技術者のキャパシティを超える配備を行って一気にコワしてしまうところだったのだ。
それをおしとどめたのが堀と山下。昨日まで闇夜の提灯だのなんだのといっていた連中が、電探電探と変な薬でもきめたような様子で連呼するのはいささか精神衛生に悪い光景だった。

「つまり、遭難しようがありません。すでに英連邦を通じて民間用電波灯台の設置は通知済みですから。」

「豪州がうるさいからなぁ…」

「大日本航空と満州航空が使えるのだからうちも、といわれると軍機で突っぱねるのは厳しいですからね。」

そういうことだった。
豪州は伝統的な白豪主義から太平洋上唯一の列強である日本を警戒(というよりは嫌悪)していたし、国内の飛行艇航路用に電波灯台を設置したとなれば同じく英国海外航空もそれを使いたがるのは道理だった。
まして、日英は現在接近中。新京には大英帝国の公使館が設置され、満州国の広義の承認を内外に示していたし、それに負けじとアメリカも領事館を設置するなど雪解けムードが演出されていた。
そこでこの申し出を断る選択はないのだった。

「そして、アメリア・イアハート女史はわが神崎島を表敬訪問するとのことだ。おそらくはルーズベルト大統領の親書をたずさえて。」

「米国の立場ではそうするでしょうなぁ。」

参ったと首を振る堀。うなる山下。

「まだ超大国の業に染まっていない頃ですから、なかなかかの国はしたたかですからね。」

と大淀。

「それでも真珠湾への艦艇出入りが加速していますからねー。」

と、はっちゃんこと伊8。


「話を戻そう。吉田さんからも先方が『よろしく』と礼を尽くしていることは伝えられている。こちらとしても受けざるを得ない。」

「まぁ平和の使者ならいいんじゃないですか?」

と、千代田。姉が本土へいっているため少々投げやりである。

「平時における情報収集は、まぁ公開情報が大半だから」

と加賀。ただし相当不快だったらしく眉がわずかによっている。

「ゆえに――わが島は全力で『歓迎』しようと思う。」

「本土でも同様ですね。北京と上海でかすかですが不穏な動きがありますから。」

山下がいった。

「わが軍をのぞき見しにきたのです。しかもルーズベルト大統領に直接報告できるような女流飛行家が。ならば、わが国の正当性をつぶさに見ていただきましょう。」

「防空識別圏侵入と同時にエスコート、歓迎晩餐会、そして本土へ。本作戦を『竜宮作戦』と呼称します。」

「え?草案の頃はおもてな――」

「それいじょうはいけない。」

189 :ひゅうが:2016/08/11(木) 19:09:09
【あとがき】――というわけで、歓迎!アメリア・イアハート御一行様!!
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最終更新:2023年11月23日 13:15