707 :弥次郎@帰省中:2016/08/15(月) 19:30:22
大日本企業連合が史実世界にログインしたようです 幕間 -アナトリア防衛-
リンクス戦争終盤。レイレナード陣営の敗退が明確となりつつある世界と打って変わって、アナトリアは平穏そのものだった。
アナトリアを拠点とする日企連のリンクス『アナトリアの傭兵』が外貨を稼ぎ、アナトリアという立地を生かして
勢力争いを続けるGAと日企連の支援によって他のコロニーを超える環境が構築されていた。
AMS関連技術は日企連とGAにとっても重要であったし、特に低負荷なAMS技術は両者が共通して求める物であった。
史実と異なり、鬼才イェルネフェルト教授の死後は技術者が一部アスピナなどに流れはしたが、専門性は維持したままだった。
ここに日企連の意思や援助があったことは言うまでもない。
そして、その日。アナトリアを襲う者がいた。
「何があった!?」
「所属不明のネクストがアナトリアに接近中。MT隊によるインターセプト、突破されました!」
コロニー行政庁舎に駆け込んだエミール・グスタフは、悲痛なオペレーターの声を聴く。
モニターを見れば、ネクストの表示は急速にアナトリアにめがけて接近している。用意していた複数の防衛線も、
ネクストという超常兵器に対しては効果があまりない。精々が足止めばかり。
「ノーマル部隊は?」
「展開していますが、OBで突破されています!」
「最終防衛ライン突破されました!コジマ粒子阻止線までおよそ10km!」
日企連の支援のおかげで、アナトリアは何重にも及ぶ防衛線を構築できた。
しかし、ネクストが相手となれば流石に分が悪い。しかも明らかにアナトリアが狙いだ。
「くそ……せめて彼がいてくれれば」
今ここアナトリアに『レイヴン』はいない。いや、むしろいないタイミングを見計らって襲撃を仕掛けてきたのか?
アナトリアは確かに巨大なコロニーだ、入り込む隙がどこかしらに存在していても気が付けないこともある。
「これは……日企連大使館からです。正面にだします」
『エミール、緊急事態と聞いた』
「ええ。所属不明ネクストが急速接近中です。すぐに避難の用意を!」
『問題ありません。日企連のリンクスがいますので』
そういえば、とエミールは思い出す。
日企連リンクスがたしかアナトリアに来ていたはずだ。だが直接はあってはいない。
向こうが顔を隠しておきたいのは理解できた。しかし聞いたところによれば、リンクスになったばかりという。
「しかし、あのリンクスは……」
『いえ、大丈夫ですよ』
落ち着き払った声。焦るエミールやアナトリア行政を担う閣僚たちと異なり、異常なほど落ち着いている。
『セロなど相手にはなりませんよ。おそらく、この地上に負ける相手はいないでしょう。
私もそちらに向かいます。結果が出るまで待ちましょうか』
「それは一体……」
エミールの言葉が終わる前に、通信が向こう側から切られた。
「所属不明ネクスト、日企連のネクストと会敵しました!」
708 :弥次郎@帰省中:2016/08/15(月) 19:31:12
アナトリア防衛隊のノーマル部隊とMT隊を振り切った不明ネクストはアナトリアまであとわずかに迫っていた。
ばら撒かれるコジマ粒子のことを考えれば、それ以上先に進むことは是が非でも阻止しなければならなかった。
そして、その前に立ちふさがるネクストがいた。
『へぇ、アナトリアの傭兵じゃないのか』
相対したネクスト『テスタメント』のコクピットでナンバー6『セロ』は事前の情報とは違うネクストが出てきたことに
驚くこともなく、入念に敵を観察した。事前の情報では『アナトリアの傭兵』はアナトリアに不在。中量二脚機を使っていた
『アナトリアの傭兵』ではなく、軽量二脚。アナトリアが日企連の支援を受けていたことを考えれば、日企連のリンクスだろうか。
一瞬、名うての剣豪である『一目連』かと警戒したセロだったが、機体をよく見て安心をした。
『そんな機体で挑むつもり?舐められたものだね』
セロは相手の武器を見て取った。背中に武装はなく、手にしているのはハンドガン。
記憶が正しければGA系列が卸している格納可能なハンドガンで、総弾数が多いことが特徴だった。
しかし、セロのAC『テスタメント』はライフルとレーザーライフル、PMミサイル、レーザーキャノンを装備しているので
一方的に攻撃可能だ。というか、相手はネクストを相手にするどころか通常戦力さえ相手にするのは難しいだろう。
機体そのものはアルゼブラとオーメルの混成のようだった。
『ま、いいさ。楽な相手だ』
セロのAMS適性は同時期に存在したリンクスの中でもズバ抜けている。
イメージしたままに機体を操ることができ、操縦センスにかけては紛れもない天才だった。
ライフルとレーザーライフルを構え、テスタメントは飛翔。最適な姿勢で、コンピューターの補正を受けた最適な状態で発砲した。
弾丸とレーザーは、命じられるままに距離をむさぼり、標的に命中しようとして、外れた。
『は?』
消えた。敵ネクストの姿は動くそぶりも見せずにいた状態から、いきなり消えた。
数瞬遅れて上に逃げられたとセロは気が付いた。セロは知らないことだったが、人間は横への移動よりも上下に動くと
発見が追いつかないことがある。というのも、人間の視野は左右の方が広く、上下がそれぞれ60度前後しかとらえられない。
そしてネクストにのっていると、リンクスは知らずのうちにカメラがとらえた映像を取捨選択して理解してしまう。
AMSの一種の弊害というべきだろうか。だが、セロはまだ慌てていなかった。躱されるのは想定内。
次を当てればいいと、落ち着いて狙いを定めようとする。飛び回るネクストにロックオンサイトが追いつき、連動して
コンピューターがテスタメントの腕の動きを促す。捉えた。
だが、発砲の瞬間に敵ネクストは消えた。弾丸はどちらも空を切り、
立て続けにPAに被弾し、一気に減衰していく。慌てて横方向へとQB。しかし、銃撃が続いた。
ぴったりと後ろ張り付いている。ライフルを向けて発砲するが向けた瞬間に相手は消えている。
『え?』
709 :弥次郎@帰省中:2016/08/15(月) 19:32:02
慌てて敵を探す。いない、というか死角に回り込まれ、ハンドガンを浴びせていることだけがわかる。
レーダーの情報がAMSを通じて脳内に通達され、敵機の位置を捕捉。しかし、すぐにQBが連発されて逃げられる。
軽やかな動きで、こちらに狙いを定めさせないようにしていた。
『くそ!』
何度かQBをして、振り切ろうとした。
だが、視界に収めることすらできない。クイックターンやQBを何度やっても、常に死角に回り込まれ続けている。
そして相手の腕武器であるハンドガンが叩き込まれる。PAがそれを受け止めているが、それでも貫通してくるものもある。
また後ろ側に回り込まれた。クイックターンしようとするが、その間に敵は視界から逃れる。連続でクイックターンで、
時にはQBで振り切ろうとするが、振り払えない。そして、ずっと銃撃は続いていた。ハンドガンはリロードを逐次
挟みながらもずっと弾丸を吐き出し続け、着実にダメージを与えていた。
『舐めているのかよ!』
そしてセロは気が付いた。自分は手加減をされていると。
ハンドガンは、ネクストの武器の中でも最低限の火力しか持たない。格納武器として弾が切れた際のフェイルセーフとしての
用途が殆どであり、積極的に使っていくような武器ではない。それがハンドガン。もし、武器が別な武器、例えば
アサルトライフルだったら?もっとテスタメントはダメージを受けているだろう。つまり、セロはそのような武器を使うことが
必要ではない、その程度の脅威としかとらえられていない。
『ふざけるなぁ!』
セロの声が、オープン回線で響いた。
「なんということだ……」
エミールはその目を疑っていた。
日企連から送られてきた、『レイヴン』不在の間のアナトリア防衛を預かるリンクス。
大した戦果のない、数合わせのリンクス。聞けばリンクス戦争開戦直後にようやくリンクスになったばかりという、新人。
「何者なんだ、彼は……」
戦闘領域がアナトリアに近いためか、PAを展開せずに、ハンドガンだけで戦っている。そして戦闘開始から5分が過ぎても、
10分が過ぎても一発たりとも被弾していない。テスタメントの照準は確かにネクストを捉えているが発射すると外れている。
まるで、テスタメントがわざと外しているかのようにも見えて滑稽ですらある。
「セロも焦ってきましたな」
日企連の担当者の言う通り、徐々にテスタメントの動きが稚拙になっている様にエミールは感じた。
最初はキレのある動きだったが、攻撃を回避され続けるにつれて精彩を欠いている。
710 :弥次郎@帰省中:2016/08/15(月) 19:32:48
蝶のように舞い、蜂のように刺す。かつてそのように称賛されたボクサーがいた。
例えるならば、ネクストの動きはそれだった。軽やかなステップで回避をし、人型ゆえの柔軟な回避運動で翻弄し、
隙を逃すことなく銃撃を浴びせる。クイックターンやQBも正確に、必要な分だけ行う。
『畜生、こいつ、こいつ!』
他方のセロはもはや限界だった。
必死にライフルを発射するが、全てが外れる。
『この!この!この!』
背中の武装が立ち上がりミサイルが2発放たれるが、ハンドガンで両方迎撃された。
そうセロが認識した時には、すでに敵ネクストの姿は視界から消えている。左斜め上だ。さらに銃撃。
すぐさまそちらにクイックターンするが、そこからさらにQBしたためカメラが振り切られた。
『なんなんだよ、おまえぇー!』
子供のように泣き叫んでいた。というか、実際にセロはコクピット内部で泣き叫んでいる。
訓練と違う、シミュレーションと違う。これまでこんな場面に居合わせた経験など、セロにはなかった。
確かにセロは天才だった。だが、それは実験施設や競技での天才。射撃競技のエリートが必ずしも優秀なスナイパーと
ならとは限らないのと同様に、優秀な敵性を持つリンクスが戦闘にも適合するとは限らなかった。
マインドセットという点においては、むしろセロは他のリンクスよりも大きく劣っていた。
『……』
通信回線を通じて、馬鹿にしたような吐息が聞こえた。
それにますます激昂したセロは両手のライフルを必死に連射する。
だが、当たらない。滑らかなQBの連続でこちらのロックオンを綺麗に振り切っている。
またピタリと後ろに張り付かれ、ハンドガンの連続射撃を受けた。ハンドガンの弾丸が乱れていたPAの隙間をくぐり、
ミサイルポットを直撃。セロの咄嗟の判断でパージ。その誘爆から逃れるためにQBで前進する。レーダーは更新待ち。
敵はどこに、とセロは必死に探す。
『なぁっ!?』
次の瞬間、敵ネクストは目の前に迫っていた。何時の間に回り込んだのか。
直感的に左に逃れようとQBをしようとするが、噴射の前にサイドブースターが打ち抜かれた。
爆発が起こり、機体のバランスが失われる。テスタメントは脚部パーツにまで損害が及んでいた。
AMSによって下半身に激痛が走るのを何とか堪え、セロは機体を立て直す。サイドブースターの片方が完全に死んだために
メインブースターの出力を高める。下半身を先に割り込ませ、脚部のスラスターがコジマ粒子を適切な量だけ噴射し、
機体のバランスがいったんは安定した。それを逃さず、追撃が来た。
『ぎゃっ!』
まるで蹴られたかのような衝撃が走る。
実際、ネクストはその脚部でテスタメントの肩のあたりを蹴り飛ばしていた。
711 :弥次郎@帰省中:2016/08/15(月) 19:33:33
その衝撃によってレーザーライフルがテスタメントの手から零れ落ちる。が、ネクストがそれをむんずとつかむ。
『……』
そして、あろうことかそれをテスタメントへと叩きつけた。
何度も何度もたたきつける。テスタメントは、逃げられない。敵ネクストの手ががっしりとテスタメントのコアを掴んでおり、
断続的な攻撃がセロの意識の集中を許さないのだ。AMS適性が高いということは、逆に言えばそれだけ意識が悪い方向へも
ネクストに反映されてしまうということ。ただでさえ精神の安定が保てていないセロは、普段ならば離脱できる状況に囚われていた。
やがて、レーザーライフルがへし折れる。しかしその時にはテスタメントは甚大な被害を受けていた。
ネクストの耐久性は確かに高いが、それはPAを含めての物。攻撃のダメージを減衰できるからこその防御性であり、
本体の耐久性はノーマルACと大して変わらない。GAや日企連の有澤などのネクストは例外的だが、その点でテスタメントは柔らかい。
(今!)
セロは、その瞬間に相手の腕を振りほどいた。
そして最も原始的な衝動に従い、オーバードブースターを起動させた。
その衝動は『恐怖』。選ばれた選択は『逃避』だった。
『うわああああああああああああああああああああああああああ』
叫び声をあげ、セロは一目散に離脱しようと全力で飛ばす。武器も、全てパージしている。
テスタメントの生きている機能全てが、戦場からの離脱を第一にして動かされる。
オペレーターの声も無視し、逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。
アレから逃げなくては!
アレはなんだ!?
あんなものが、同じリンクスなのか!?
嘘つき!楽な任務と聞いていたのに!
何が楽な任務だ!あんなやつがいるなんて!
嘘つき!嘘つき!嘘つき!嘘つき!嘘つき!嘘つき!嘘つき!嘘つき!嘘つき!嘘つき!嘘つき!
セロは上司や研究員たちを口汚く罵った。
712 :弥次郎@帰省中:2016/08/15(月) 19:34:19
テスタメントは飛行を続けた。
蹴散らしたアナトリア防衛隊の残骸の上を飛び越え、警戒線を飛び越え、飛んだ。
アナトリアの殆どが見えなくなるほどまで飛行してから、漸くセロは安堵の息を吐いた。
これで振り切ったはずだ。怖いものは遠くに行った。安心した。
『ちっ……』
そこでようやくセロは回線にオペレーターからの呼び出しがかかっていることに気が付いた。
『なんだよ、うるさいな!』
『敵です!敵ネクストが!』
オペレーターが必死に叫ぶ声は、今のセロにとっては騒がしい騒音に過ぎなかった。
コイツも嘘つきだ。最初は甘いことを言っていたくせに、途中から何も言わなくなって、今になって騒いでいる。
上に言いつけて首にしてやると、セロは心に誓っていた。
『はぁ?敵なら振り切っているはずだよ!うるさいんだよ!さっきから!』
『真後ろです!』
『え?』
いっそ間抜けと言える声をセロは出していた。
『敵ネクストが、真後ろにつけています!回避を!』
暫く、セロの思考は飽和し、真っ白になった。
テスタメントの真後ろをカメラで見る。
そこに、いた。
『嘘だ……!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁーーーーーーーーー!』
テスタメントの真後ろに、あのネクストがぴったり張り付いていた。
不気味にカメラアイが発光する。やあ、と挨拶するかのように。
そして、おもむろにその右手が手にしたハンドガンをテスタメントに向けた。
『ひぃぃぃ!やめ…』
意味もない制止の言葉は途中で途切れる。
弾丸を受けたオーバードブースターが爆発し、テスタメントはOBの勢いのままに、時速600kmもの速度で地面に叩きつけられた。
激しい土埃と、レーザーライフルで殴られたことで生じていた破損が拡大したことでパーツが粉々になりながら散らばる。
713 :弥次郎@帰省中:2016/08/15(月) 19:35:07
それでも、セロは生きていた。コクピットに内蔵されたリンクスの保護機構が、対Gゲルがセロを守り切った。
コクピットブロックは激しく損傷し、セロの体は激しくシェイクされた。コアパーツも外部からの損傷と
あわせてすでにボロボロ。PAも消失していた。次にまともに攻撃を食らえば即死だ。
『う……ぁ……』
辛うじて接続しているAMSを通じて、外の光景が見えた。
格納から新しいハンドガンを出したネクストは、それを機械的にテスタメントに向けて引き金を引く。
『うああああああああああああああああああああああああああ』
たかがハンドガン、されどハンドガン。PAがないネクストにとっては高いダメージを受けることもある。
そして動いてかわすという設計思想のホロフェロスをベースとするテスタメントは、実弾防御が高いとは言えない。
面白いように弾丸が食い込んでいき、テスタメントは穴だらけになっていく。ハンドガンゆえに致命傷とはならない。
だが、それはセロにASMを通じて痛みを与え続けている。分かりやすく言えば、縛り付けられた状態で切れ味の悪いナイフで
何度も何度も刺されているのだ。精神的に幼いセロには、到底耐えきれるものではない。
セロは泣き叫びながら、逃げようとする。だができない。精々転がるくらいで、逃げるには程遠い動きだ。
ただ弾丸を浴びるしかない。銃撃は2分余り、ハンドガンのマガジンが全て切れるまで続いた。
テスタメントは、もはや原形をとどめないほどに穴だらけになっている。
『あははは、ひゃはははははひゃ!うひゃひゃひゃ……!』
そして、その2分という時間でセロの精神は振り切れてしまった。
長く続く銃撃という恐怖に対してセロの精神が選べたのは、夢の中へと逃げ込むことだけ。
その方法しか、セロは自分を守る方法を持たなかった。
『あ、ハはハははハ……何がてン才だ……こイつの事じゃナいか……』
そして、コアパーツに格納ブレードEB-O600の刃が突きたてられた。
視界を覆い尽くす鮮やかなブルーの光を見ながら、セロは呟いた。
膨大な熱量が彼の意識を刈り取った。
714 :弥次郎@帰省中:2016/08/15(月) 19:36:09
「テスタメント、沈黙しました」
テスタメントの沈黙を確認したエミールはほっと一息ついた。
ありあわせの機体。レイヴンが取り寄せて、しかし使わなかったパーツや予備パーツをアセンブルしただけの、非力なネクスト。
エミールとて技術者であるからわかるのだが、本来ネクストはリンクスとミッションに合わせてアセンブルする。
だが、あのリンクスは、ありあわせの機体を初見なはずにもかかわらずあのような『レイヴン』並の、いやそれ以上の
凄まじい戦いを見せた。
「化け物か……」
思わずつぶやいてしまう。
回収班が大破したテスタメントとテスタメントを蹂躙したネクスト双方の回収に向かい、アナトリア内部の警報が解除される。
幸いアナトリアからは離れたところで戦闘が起こったことで、コジマ汚染はそこまでひどくはないだろう。
一応市民は暫くシェルターで生活してもらい、洗浄を行ったうえで生活を再開する必要があるだろう。
「エミール・グスタフ、このことはご内密に」
「このこと、か」
「セロを、天才をこんな方法で撃破できるほどの天災。オーメルは恐らく是が非でも事実を知ろうとするでしょう。
そして、何としても排除にかかるでしょう」
日企連担当者の言葉を聞き、確かにと思う。
日企連の紹介であの男『レイヴン』はコロニーアナトリアの商品として外貨獲得と防衛に役立ってくれたが、その
強さはエミール自身恐怖を覚えたし、その強さ故に疎まれるほどだった。おそらくオーメルあたりが日企連への警告も兼ねて
セロを送り込んできたのだろう。そして、セロは新人のリンクスにあっけなく敗北した。そうなればオーメルの名は堕ちたもの同然。
何が何でもそのリンクスを始末しようとするだろう。
「市民にはリンクスを雇って撃破した、とだけ伝えてください。
日企連の名を出さないことで、オーメルに敢えて悟らせます。この落とし前は高くつくことを、オーメルに警告しなくては」
「わ、わかった……」
日企連の報復は苛烈だ。
一定のラインを超えると企業同士の戦争さえも厭わずに報復してくる。
恐らくセロを撃退ではなく撃墜したのも、オーメルに警告をするためなのだろう。少数精鋭を是とするオーメルにとっては、
企業戦略の根底を揺るがされたも同義だ。これ以上にない警告だ。
その恐ろしさを振り払い、最低限の礼儀は、と思考をリセットする。
「彼の名は?せめて、彼に礼は言いたい」
「お教えできません。教えられるとすれば……そう、技量を彼岸の彼方まで極めた、名前のない怪物です」
さもありなん、とエミールはうなずいた。あんなことができるなど、下手な怪物より恐ろしい。
そんな怪物が味方であることを、心の底から感謝した。斯くしてリンクス戦争最期のネクスト同士の戦闘は、
アナトリア外縁部において発生し、セロの一方的な敗北で終わった。オーメルは切り札のセロを破った存在を
『ユダ』と暗に呼称。リンクス戦争後にも執拗に捜索を続けた。しかし、そのリンクスがよもや普通にカラードに
いるとは、オーメルもついぞ気が付くことはなかった。
715 :弥次郎@帰省中:2016/08/15(月) 19:36:51
そして、日企連のリンクスはそのまま立ち去った。
一体どのような人物であったのかは、結局のところ私も知らされなかった。
報酬として求められたのは、アナトリアのワインをボトルで2本と特産の絨毯を1枚。
私はその要求に戸惑いながらも応え、それ以上の報酬を求められることはなかった。
彼女やあの男に真実を告げることはなかった。
言っても信じてもらえないだろう。
私が口をつぐめば、それで終わる。
あれは、一種の夢のようなものだ。
これ以上はやめておこう。
私の語ることができるのは、それだけだ。
エミール・グスタフの口述
日企連傘下 コロニー・アナトリア アナトリア政務庁舎にて
716 :弥次郎@帰省中:2016/08/15(月) 19:38:42
以上となります。wiki転載はご自由に。
うん、これはひどい。セロは運が悪かったんですよね。
そう、まるで拳サイズの隕石が落っこちてきて直撃して即死してしまうような、そんな感じです。
何故ハンドガンオンリーで挑んだのかは不明です。
本人の言うように、動画の真似をしたかったのか。それとも敢えて屈辱的な方法で撃破することでセロを混乱させるためか。
あるいは、自分の技量をオーメルに見せつけて自慢するためか。それとも、義憤に駆られエグイ手段を敢えてとったのか。
全ては、UnKnownのみが知っています。
因みにジョシュアさんはアスピナで日企連のインターセプトによってアレサに乗る直前で救出されました。
オーメルとコロニーアスピナの上が組んでやらかそうとしたようです。流石オーメル汚い。
次こそ比叡改装の話にしたい。多分。
最終更新:2016年08月16日 09:31