206 :弥次郎@帰省中:2016/08/25(木) 21:10:06
大日本企業連合が史実世界にログインしたようです 『国防は軍人の……』3-千里の道も一歩より-


日企連の250m級輸送艦『穂高』型4隻は、護衛艦2隻と共には20ノットという快速で針路を北に取っていた。
史実世界から見れば、日企連では標準的なそれも、とてつもない輸送艦だった。積載量も、速力も、大きさも、全てが。

「昨日の今日でこれか……」

壮観と呼べる光景が広がっている。穂高型の格納庫にはジープや軽トラと呼ばれる自動車が並んでいた。他にもオート三輪や四輪トラック、あるいは4車軸以上の特大車というカテゴリーのトラックまで揃えられている。全て日企連か日企連傘下の新三菱や川崎などのマークが描かれている。いずれも、生産されてテスト以外ではまだ使われていないものばかり。新品の車の臭いが漂い、空間に充満していた。その匂いに思わず史実側の陸軍担当者は顔をしかめていた。

「これはほんの一部です。現在アシハラナカツクニの支援工廠艦『トヨアシハラ』では現在三菱 ヤマハ発動機などの企業の技術者を集め、技術指導を兼ねて製造が進められています。即日に必要な分はこちらで何とか揃えていますので、あとは教導の為でね」

日企連の担当官の言い方はまるで気軽な買い物をしたかのようなものだった。

「いや、これだけの規模を即用意できるって……」

しかし、それは史実側から見れば異常だった。
北海道に向かっている穂高型は合計で4隻。後続にはパナマックスサイズのタンカーが4隻も到着する予定である。
搭載しているのはガソリンではなく日企連が製造したバイオ燃料である。しかし、史実側にしてみれば自国の消費量の
倍以上をポンと提供できる日企連に白目をむいていたりする。これによって日企連が中東からの輸入に依存していた
石油などがほぼ置換され、石油関連企業が軒並み日企連に尻尾を振らざるを得なくなったのだが、ご愛敬である。
燃料の自給は、それこそ日本の悲願であり、それこそ錬金術まがいの詐欺まで起こったほど。それゆえに、多くの企業が
日企連に大きすぎるほどの借りを作っていた。

「燃料までいただけるとは……なんとお礼を言ったら」
「いえ、あれは自前で精製したものですので。いずれ燃料もこちら側で自前で何とかなるようにします。ただまあ、
あと30年は日企連の指導を受けなければ実現不可能でしょう。技術的な習熟には時間がかかりますし、いろいろと問題もありますからな」
「30年……」
「そうです。30年後、一体どうなっているのかを想像しなくてはいけない。そして、それに向けて動かなくてはならない。
国家百年の計と口で言うのは簡単でも、実行するのは難しいのですよ」

日企連担当者の言葉に、史実側の担当者は頷くしかなかった。
彼らと自分達には、とてつもない差があるのだと、改めて教えられてしまった。

(恐ろしいな、日企連は)

そんな彼が、北海道に整備され始めた大規模な空港を見せつけられて白目をむくまで、あと少しであった。

207 :弥次郎@帰省中:2016/08/25(木) 21:10:56
所変わって、小笠原諸島沖 AF『アシハラナカツクニ』 上部甲板。
装甲甲板であり、パッケージ化された武装の設置を可能とするアシハラナカツクニの上部甲板は、多目的な運用が可能だった。
そして現在、上部甲板にはガードレールやコーン、信号機や踏切の模型が置かれて簡易のコースが作られており、
大小さまざまな車両がたくさん走り回っていた。あるいは、持ち込まれた土や砂利などをドーザーで掬ったり慣らしたりと工事で行う基本動作の練習を行っている。

日企連指導下で始まった陸軍総機械化計画。その第一陣は、運転免許の取得と自動車の普及であった。
インフラについては日企連が急速に整えつつあるため、史実側の問題事項はただ一つ、免許取得者を増やすこと。
これまで運転を任せてきた将校や将官はもちろん、下士官も例外なく教習を受けることが命じられた。合わせるようにして、陸軍や海軍でも必要な施設(飛行場 港湾 陣地など)の敷設に必要となる重機の指導が始まった。このアシハラナカツクニ以外にも、日企連の命令で重機の運用が導入され始め、各地に教習を行う人員や必要資材が運び込まれて、教習所が各地で整備された。

「くっ……」
「もう少し量は少なく土をとってください。焦って大量に掬い取れば、機械に負荷がかかります」

「わはー!」
「うわぁー!桜子やめろー!」
「ドリフトだぁ!」
「嘘だろ……」

「で、サスペンションがこうなっています」
「なるほど……」
「ここまで複雑化した機構は不要ですが、似たものは必要になるかもしれません」

「で、衝突するとここからクッションが飛び出します。民間用ならこれは必須ですね」
「うむむ……事故が起こった時の事など考えたこともなかったな」
「まだ技術的な問題がありますから、まだこれは搭載せずに行きましょう。まずはシートベルトです」

数百名以上の人間や車両が行き交うため、非常に賑やかであった。
技術者も軍人も民間人も技術者も、ここではすべて同じ位置にいた。

「機動化の実現といっても、まだ始まったばかりか……」

東条英機は悪戦苦闘している様子を視察しながら、落胆を隠さずに呟いた。
総機動化と決まったはいいのだが、ほぼ全軍が教育のやり直しをせざるを得なかった。
急ぎで済ませたのは偵察兵や伝令兵のバイクの普及であったが、自動車よりいくらか楽とは言え、教習には悪戦苦闘していた。
将校・将官レベルでも激変した軍の様相に合わせてドクトリンの変更と史実の戦術・戦略の研究で大わらわ。
それは陸軍に限らず海軍も同様であり、このアシハラナカツクニは一日中賑やかであった。一日中やらねばならない
ほど、やることは山積していた。東条自身も、勉強に追われていた。

208 :弥次郎@帰省中:2016/08/25(木) 21:11:35
「これでは戦争どころではないな……いや、できるかもしれないが、疲弊してお終いになる」

それに、と東条は隣に視線を送る。
熱心に日企連の用意した『テクスト』を読みふける男。石原莞爾。
満州事変の片棒を担ぎ、「五族協和」「王道楽土」の名のもとに満州国を設立させるために奔走し、世界最終戦論を唱えるなど、奇行が目立つ軍人。しかし、その才覚自体は稀有なものだった。航空機への着目や核兵器による相互確証破壊(MAD)を半ば予言していたともいえる。戦術・戦略レベルでも中華民国との戦線を拡大しないという事変不拡大方針を唱えるなど決して無能な人間ではなかった。事実、敵対関係にあった彼が日企連の指示もあったとはいえ呼び出されたのも、彼の才能を登場が必要としたが故だった。特にコジマ兵器や核兵器といった危険な兵器の誕生が予言されていることを教えられれば、否が応でも必要になる。多少素行が悪かろうと、それは関係なかった。

「最終戦争でもしてみるか?」

嫌がらせのように質問してみた。

「よせ……日企連の世界のような世界が生まれる最終戦争など、まっぴらごめんだ。
ヒトのみならず、この世に生きる全てが死に絶えさせるなど……こちらから願い下げだ。
アジア全てを解放するなど、それまでにどれだけの血が流れるか……」

石原はテクストから目を上げることもなく淡々と返事を返す。
テクストの表題は『太平洋海戦史』。陸軍なのに海軍の書を読むのか、と思ったのだが、よく考えてみれば
『史実』でもガ島などをめぐって陸軍は戦闘を行っていた。おそらく、南洋諸島の防衛についてあれこれと考えているのだろう。
『史実』においても南洋諸島防衛はアメリカの保有する重爆撃機の飛行距離的に守るべき配置にあり、それは陸海軍が
共同して行うべき重要な任務だった。すでに陸海軍での一般兵レベルでの交流は始まっているし、使用する砲の共通化なども真剣に検討が始まっている。これまでの古い砲などは日企連の提供してきた砲へと置換が始まり、砲弾の製造工場の
共通化や刷新も進んでいる。いずれは完全統一も可能だろう。そんなことを東条は思い出しながらも、石原の持論を聞いていた。

「相互確証破壊が成立したところで、結局核の引き金を引くのは個人の意思や感情に支配される。
 それに、その引き金を引く人間が悪意ある情報をつかまされるかもしれん。もしそれが誤りならば、
 つまらぬ失態や企みのためにすべての人間が死ぬ。その事を知れば、引き金を引く人間もより慎重になる」
「そういうことだな……」

核兵器の突き付けあいの均衡は、その国の指導者が使用を決断した瞬間に崩れる。
核攻撃を受けたとき、その報復のために核を使えば、その報復への報復でさらなる核兵器が投射される。
それは負の連鎖となるだろう。止まることなく互いが核兵器を投げつけ合い、双方だけでなく無関係の国々も等しく
核兵器の害を受けるか、流れ弾を受ける。そして核の被害で国力は一気に落ちていき、最悪国が崩壊する。
国土への被害を恐れて先に降伏を申しでるか、それとも降伏せずに攻撃を続けるのか。チキンゲームだ。
そもそもそのチキンゲーム自体、核兵器という兵器の害を考えると始まるかどうかも怪しい。

209 :弥次郎@帰省中:2016/08/25(木) 21:12:36
そこら辺については、流石に核兵器が存在しないために何とも言えない。
一つ言えることは、核兵器の壮絶な威力と害を知ったことで、石原は自らの考えを改めたということ。
そして未来を知ったことで、ようやく東条側が譲歩して険悪な関係とはならなくなったことだ。
一通り石原が語り終えたところで、東条は話題を直近の物へと変える。

「だが、それは未来の話だ。今年シナと事を構えるかもしれない。軍備の急速な更新と並行して戦争など、まっぴらなのだが」
「なんとしてでも避けなければな。既に日本人租界からの退避は進んでいる。だが、民国が黙って見逃すかどうか……」
「現地はどうなっている?」
「きな臭い。一歩間違えば爆発するだろう。向こうは、こちらの態度の変化を好機とみている」

好機?と目で問うと石原はテクストを閉じ、自らの考えを述べた。

「つまり、我々がシナから引き上げるのは恐れをなしたためだと考える人間がいくらでもいるということだ。
それか、国民党と共産党は我々という敵がいなければ、身内で争うしかなくなる。それが都合が悪いと考える連中だっている」
「なるほどな……『史実』でも盧溝橋事件がきっかけとなって戦争が始まっている。結局のところ事実はうやむやだが、
火種が欲しい連中はいくらでもいる、か」
「アジア解放を訴える連中は、日企連に駆逐さられてはいるが、根絶はしていない。大陸浪人でも、少数で馬鹿をやりかねん……」
「そうすれば泥沼の戦争にもつれ込む」
「中華の市場が欲しいアメリカは、それを口実にして日本との戦争を始める。
国力からすれば日本はアメリカに勝てず、民国は戦勝国としてアメリカのおこぼれに与る。
アメリカの議会には民国のロビィストというのがいるらしい。そこからの入れ知恵だろうな」

東条は怒鳴りだしたくなるのを必死にこらえる。
中華の、外夷を以て外夷を制するやり口には憤りを覚えたし、それにうまく踊らされていた自分達にも腹が立つ。
日企連がいなければ、そのまま戦争へとなだれ込み、もくろみ通り負けていただろう。そして、アジアの盟主を気取る中華は肥大化する。
そしてその時、帝国は屈辱を堪え臣下のように膝をつくしかなくなるだろう。だが、東条には誇りがあった。
この国は、嘗てアメリカの圧力を受けて開国せざるを得ない状況に追い込まれながらも領土を奪われることなく、
不平等条約を改正させ、憲法を作り、近代国家として生まれ変わったのが大日本帝国なのだ。容易く負けるなど許さない。

「だが、そうはさせない。我々とて、学ぶことができるのだからな」
「ああ」

互いがいけ好かないのは重々承知。それを超えてでも協力すべき理由の方が圧倒的に大きい。
それくらいの思慮分別を、両者は持ち合わせていた。

「で、貴様はいつ動かすんだ?」
「やかましい。今やっているのだ」

運転席と助手席の会話は、発進を促す後続車両のクラクションに遮られたのであった。

210 :弥次郎@帰省中:2016/08/25(木) 21:13:35
以上です。wiki転載はご自由に。

日企連はバイオ燃料の実用化や水素燃料などの開発に成功しているんじゃないかなぁと思ったり。
たぶん相当な量の製造が可能じゃないかと推測しています。これをポイと市場に放り込んだら、世界恐慌再びですな(暗黒微笑
現在だと10%が目安になっていますが、将来的には技術的進歩で半分くらいまで割合を増やしてもいいと思われます。
つまり、単純に言えば日本国内の石油の量が2倍になるわけですな。なお生産にはGAも絡んでいる模様。
史実米帝以上の生産力を持つGAさんマジパナイ。石油の禁輸措置されても余裕で循環させることができますなw

メタルギアシリーズにも出てきましたが、核による抑止力とはかなり危ういものでもあります。
例えば、ホワイトハウス・ダウンという映画のように、核のトリガーを握る人間が無理やり発射を命令させられると
意に反した核攻撃が行われ、連鎖的に核戦争となります。なまじSLBMやICBMといった兵器が出来てしまったがために、
核兵器の脅威度は高まっていますからね。次は核兵器の拡散が懸念されていますし、ひやひやです…

この世界においては、現状日本のみですが、核兵器以上に危険なコジマ兵器の存在が明るみとなっています。
コジマ粒子は核ほど致命傷とはなりませんが、汚染が長期間残ってしまう『通常兵器以上核以下』と言えるかもしれません。
まあ、多用し続ければACfA世界のようになります。果たして各国の指導者はそれを我慢できるかどうか。
だからこそ、日企連が頑張らねばならないんですが……

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最終更新:2016年08月26日 12:09