876 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11:05:08
大日本企業連合が史実世界にログインしたようです 幕間 -ハイダ工廠強襲-


GAEハイダ工廠は、ネクストの接近を知らせるアラート音が響き渡っていた。
GAはついにグループ盟主の意に反したアクアビットとの取引を続けるGAEの粛正に乗り出したのだ。
標的となったのは、アクアビットと提携して建造が進められている大型兵器『ソルディオス』。
いくらかは完成状態の物を無事に送り出すことに成功しているが、まだ工廠内部には製造中で残っている。
何とかそれを運び出すか、あるいは技術者を逃がすか。いずれにせよ時間稼ぎが必要だった。

「いそげ!GAの戦力が接近中だ!」
「まだ作業員が……」
「最優先で離脱させろ!警備部門は白兵戦用意!」

工廠の警護のための部隊が次々に展開されていく。アラート音には兵員が動いたり、兵器が起動する音が混じっていく。
MT、ノーマルAC、ガードメカ、あるいはパワードスーツなどなど。それらは一つの工廠を守るにしては過剰過ぎた。
無論、過去にテロリストによって襲撃を受けたことがあるハイダ工廠はその警護を増強していた。その際はGAの紹介で
アナトリアの傭兵がテロリストを排除したが、それでも工廠の持ち主であるGAEは油断なく戦力を配置した。
否、見方によっては、GAEがGAA(グローバル・アーマメンツ・アメリカ)に警戒を強めたと言えるかもしれない。
そこについては、GAE上層部しか知りえない。ノーマルACやガードメカは通路にも展開し、外部に設けられた砲台などがレーダーの情報に従い順次砲の向きを変える。しかし、そのうち一つがいきなり弾け、爆発した。

「!?」

発砲音が遅れて届く。
遠距離からの狙撃で、大型砲が撃破された。続くようにミサイル砲台や対空砲が破壊される。
展開していた警備部隊が敵影を探す。いた。しかし、その位置ははるか遠くだった。

『狙撃だ!狙い撃ちにされてる!稜線に隠れろ!』
『迎撃用意!ネクストが突っ込んでくるぞ!』

悲痛な声で通信が交わされ、絶望的な戦闘が始まった。

877 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11:06:21
『命中。左4度、大型ミサイル搭載車両』
『ラジャー』

発砲音と、数瞬遅れた着弾。
スポッターとスナイパーのコンビネーションで2機のネクストは敵陣に穴を穿っていた。片方のネクストはスナイパーライフルを持ち、片方のネクストは左の背部武装に観測機器を積み込んでいる。それによって、一定速度に維持しながらとは言え、時速500kmもの速度でOBで飛行しながら標的を狙撃してのける仕組みだった。十数発の発砲が行われGAEハイダ工廠の入り口を固める戦力が減少していく。
的確に、ネクストの進行を妨げるような大型火器やノーマルACが優先的に狙われる。

『ハイダ工廠入口を捕捉した、このまま突入する』
『了解。俺はここで時間稼ぎをする。GAEのリンクスだとミセス・テレジアがいるが……まあ、何とかする』
『任せた』

ハイダ工廠へと突入していくのは、白いカラーリングのSUSANOWO-01に黒い鴉のエンブレムを刻む『白鴉』だった。
『アナトリアの傭兵』あるいは『レイヴン』と呼ばれる彼は、ここからが本番だ。彼がこの工廠で建造している大型兵器を見せしめを兼ねて破壊する。背中に背負っていた観測装置はパージしていく。ここからは不要だ。
他方で、SUSANOWO-01にBFFの4脚パーツをアセンブルしたネクストは防衛線を強行突破するために続けていたOBを緩めて、徐々に速度を落としていく。そのネクストの名前は『水破兵破』。日企連のオリジナルリンクス『虎鶫』の愛機だった。
スナイパーライフルとアサルトライフル、垂直ミサイル、レーザーキャノンという重武装のアセンブルだ。
そのようなアセンブルをした理由はすぐにわかる。ノーマルACやMTがあちらこちらからわらわらと湧いてきたのだ。

『数だけは立派ってか?』

しかし、虎鶫はおびえない。この程度の数ならば、国家解体戦争時に経験してきた。
数百の敵を圧倒的な質で覆す、まさに一騎当千の古強者。それがアーマードコア・ネクストであり、リンクスだ。

『さて、お仕事お仕事』

優先するのは大型兵器やノーマルAC。スナイパーライフルの弾丸は的確に砲塔やコア部位を貫いていく。
並行して、アサルトライフルがMTを撃破していき、硬い敵はレーザーキャノンで消し飛ばす。
彼の役目はアナトリアの傭兵をハイダ工廠に送り込み、ことをなし終えるまで包囲網を排除し、撤退できるようにすること。
その為にこそ、このような重武装。無論殲滅力ではアックスブロウも適しているのだが、迅速の撤退には自分の方が有利だ。

878 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11:07:10
「さて、来るかな……」

虎鶫はAC4のシナリオを知っている。それがアックスブロウではなく自分が派遣された理由。
ハイダ工廠の粛正は、アナトリアの傭兵が工廠内部で製造中の大型兵器の破壊を目的として行われた。
しかし、ハードモードにおいてはなぜかGAのリンクス『メノ・ルー』が操るプリミティブ・ライトが増援として表れる。
何故GAの戦力がGAEの工廠へと救援に訪れたのか。何故アナトリアの傭兵という、GAに協力的な戦力を攻撃するのか。
GAEが偽の情報で彼女をだましたという説もあるが、真実は分からない。
ただ一つ言えることは、彼女がここに現れる可能性があるということ。

(まぁ……レイレナードを通じて手を回しているんだろうがなぁ)

ハイダ工廠ではGAEとアクアビットの製造しているソルディオスがあるのだろう。
そして、完成しているソルディオスは襲撃の前にいくらか運び出されている。そして技術者もすでに逃げ出している。
アクアビットの親企業はレイレナード社だ。そして、密かに日企連はレイレナード社との伝手を持っている。
GAの依頼とはいえ、GAEの粛正に日企連のオリジナルリンクスが投入され、そして襲撃の前になぜか襲撃が露見した。

(まあ、はっきり言えばやらせの開戦理由だよなぁ)

果たして運び出されたソルディオスがすべて無事にレイレナード陣営の元に届けられるか。
あるいは、技術者たちは本当にレイレナード陣営の所に逃げ込めたのか。
その技術者たちが本当にGAEとアクアビットに殉じるのか。
この粛正のタイミングは誰かの意思によって決まったのか。
この粛正で連鎖的に発生するであろう戦争は、本当に自然な企業間闘争なのか。

(おお、エグイエグイ……)

盛大なマッチポンプ。
レイレナードと日企連が、オーメルらが密かにレイレナードを潰そうとする動きを利用した、壮大なモノ。
一体どこの誰が、自社の崩壊さえも計算の上で戦争を起こすと考えるだろうか。

879 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11:08:08
白鴉が突入してから10分余り。水破兵破の正確な射撃は、一定距離より内側に防衛部隊を近寄らせずにいた。
追加弾倉を格納している水破兵破の弾薬には余裕があった。元々そういう役目と割り切っていれば、このようなアセンブルも可能だ。

『退屈だな……流石に無駄に突撃はしてこないか』

その時、水破兵破のレーダーに反応があった。ネクストの運搬に使われる高速飛行輸送機。所属はGAE。
このタイミングでとなれば、おのずと候補は絞られる。

『ネクストの反応、急速接近。GA社のプリミティブ・ライトです!』
『おいでなすったか……って、反対側かよ!』

出現位置が予想外だった。工廠の反対側まで追いかけなければならない。ハイダ工廠は大きい。
元々は虎鶫が何とかプリミティブ・ライトを足止めして「GAによるソルディオス破壊」という事実を成立させるはずだった。
しかし残念なことに日企連は「プリミティブ・ライトがハイダ工廠に現れる」ことは知っていても、どのようにして現れたかまでは知らない。
あっという間にプリミティブ・ライトはハイダ工廠内部へと突入していく。追いかけたいところだが、あいにくと
水破兵破の装備は大型で工廠内部で使うには不向きだ。それに、白鴉が出てくるための退路を確保し続けなければならない。

『クソ!今の水破兵破じゃ工廠内部に突っ込めない!オペレーター!レイヴンに注意を飛ばせ!多分GAEの馬鹿に騙されてる!』
『すでに通達してあります……あ!白鴉、プリミティブ・ライトと会敵!戦闘を開始しました!』
『遅かったか……!』

工廠内部はそれなりに広いとはいえ、ネクストが通過するのはギリギリだろう。
白鴉も突入用装備の為、そこまで火力があるわけではない。狭い空間なら互いが回避ができないままにダメージレースとなり、重量二脚型ネクストのプリミティブ・ライトの方が有利となる。負けるとは思えないが、殺してしまうのは寝覚めが悪い。
そう思ったとき、水破兵破の周囲に大口径弾が着弾する。

『ぐぉっ……!?まだいたのかよ!』

クエーサー。PAも展開可能で大型砲や機銃などを搭載した巨大兵器。
ネクストほどではないにしろ、厄介な戦力だ。倒せなくはないが、面倒なことに変わりがない。

『敵増援を確認。どうやら続々と到着しつつあるようです!』
『展開が速過ぎるな……やはりGAE側に漏れていたか。
 こっちで可能な限り通常兵力を排除する。最悪プリミティブ・ライトを撃破して回収、そのまま離脱させろ!』
『了解しました!ご健闘を!』

白鴉のオペレーターのフィオナの声に、水破兵破のスナイパーライフルの銃声が答える。
祈るような銃撃は、着実に敵機を吹き飛ばしていく。大量のMTはミサイルやレーザーキャノンで塵に変え、生き残りをライフルが打ち抜く。

『早く済ませてくれよ……!』

レーダーが感知する敵の数はじわじわと増えている。
というか、地形や配置によって包囲を構築しつつあった。その包囲網を破るべく、虎鶫は攻撃を続行した。

880 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11:08:48
この事態を俯瞰的に見れば、GAEの意図が見えてくる。メノ・ルーはGAにとっては貴重な戦力であることは間違いない。
GAはメノ・ルー ローディー エンリケ・エルカーノ ユナイト・モス マタドール・フェザーなどの
リンクスを戦力として抱えている。しかし、後続のリンクスの養成は順調とは言い難く、アナトリアの傭兵が国家解体戦争以来、屋台骨の一人として雇用され続けているのも、使い勝手の良い戦力が不足していることに由来する。

だが、ここでそのGAのリンクスを日企連リンクスが、ほぼGAに出向しているアナトリアの傭兵かBFFと関係の深い
虎鶫が撃破すれば、確実にGAと日企連の関係はこじれ、さらにBFFとGAの関係まで連鎖的にこじれる。
そうすればGAEはGAからの離脱の状況を生み出しつつ、GAの戦力を削ることができる。
そもそもメノ・ルーが欧州にいたこと自体、GAEの要望によるものだった。確かにアナトリアの傭兵は使い勝手の良い戦力だが、結局体は一つしかない。そして、プリミティブ・ライトはGAE工廠の救援要請にこたえて駆けつけ、戦闘を開始した。

『くっ……』

SUSANOWO-01をベースとする白鴉の機体表面にガトリングガンの弾丸が命中する。
基礎的な防御が堅いことが幸いとなったのか、弾丸は弾かれる。しかし、ダメージを受けたことに変わりはない。
レイヴンは正直状況の悪さを呪っていた。遮蔽物が多く、おまけに地形として引っかかりやすいハイダ工廠内部は、白鴉の機動力が逆に足かせとなっていた。動いてかわせない。向こうはこちらの攻撃を躱さない。重量二脚型の機体は、防御において遥かにこちらより優れている。ガシャンと機体が工廠の隔壁にぶつかる。それ無理やり押しのけてバズーカの一撃を回避する。
今度は天井から釣り下がるクレーンにぶつかった。ワイヤーが背部武装に絡まるが、無理やりちぎった。

『諦めて、お願い!』

メノ・ルーの声が届く。だが、諦めてやるわけにはいかない。
スウッと息を吸う。そして、ゆっくり吐き出す。意識が冴え、焦りを追い出す。

『おい、聞け!プリミティブ・ライト!』

反応なし。オープン回線で呼びかけるが、攻撃の手は緩んでいない。

『話さえ聞かないか……!』

いや、無線が妨害されているのか。それとも、機体そのものに細工がなされているのか。
だとするならば、プリミティブ・ライトは間違いなく捨て駒として利用されている。
自分が撃破すればGAEと敵対することになるし、GAと日企連の関係にもひびが入る。
もしプリミティブ・ライトが自分を倒せるならばそれもよし。その時は『処理』をすればいい話だろう。
その時、虎鶫から通信が入る。

『レイヴン、悪い知らせだ。GAE所属と思われる重爆撃機を近くで捕捉した。とっとと片付けないと丸ごと焼かれる。
 こっちで足止めするが何時増援が来るかわからん!』
『了解した……!』

予感は的中。
虎鶫が爆撃機を迎撃しているが、何時まで持つだろうか。
10分という制限時間を、レイヴンは自分へと課した。それがおそらく限界。
AMS接続状態での最大戦闘時間はおよそ1時間程度。敵性が低いことで、一目連のように長い時間は戦えない。
直感がその数字を導き出した。離脱のことを考えれば、あまり負荷のかかる戦闘はしない方がいい。
短く、簡潔にしなければならない。

881 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11:09:41
白鴉は、巨大兵器の製造ドックに飛び込んだ。
ハイダ工廠でも比較的広い空間が確保されている場所で、今も巨大兵器の残骸が煙を上げている。
ようやくガトリングガンやバズーカから逃れる空間を得た白鴉は、機敏に飛び回って回避する。
だが、同時にプリミティブ・ライトも背中の大型ミサイルを使える空間を得た。狭い空間なので爆風が拡散せず、逆に反響することで機体にダメージを与えやすくなっているだろう。事実、プリミティブ・ライトはミサイルを発射し始めた。

『被弾も考慮せず……!』

だが、理にかなったミサイルの使用だ。そもそもサンシャインは重装甲で防御しながら戦う設計思想を持っている。
リンクスの技量をネクスト本体でカバーするというGAの方針が、その重装甲を作らせた。咄嗟に右手のマシンガンで破壊する。
爆風が工廠内部を破壊するが、構わない。

(ジリ貧か……どうする!?)

白鴉の武装は軽装だ。狭い空間でも取り回しの良いマシンガンと大型兵器用のレーザーブレード。
右の背部武装には軽量レーザーキャノン。だが、どれも弾数が通常兵器との戦闘で減っている。
爆風で機体が揺れる。辛うじてミサイルの直撃を避けたが、爆風は確実にダメージを与えている。

バズーカを反射で回避。天井にぶつかって、慌てて下方へとQB。そこにガトリングガンが追いかけてくる。
戦闘を継続しながらもレイヴンはコンピューターのライブラリーを呼び出す。GA社のネクストサンシャインについての情報は日企連もつかんでいる。コクピットの配置や内装関連については戦闘を行う際に必要となる情報としてコンピューターに登録されているのだ。
並行して、自分が荒らした工廠のドック内構造を精査する。AMSを通じて頭の中に鈍痛が走る。歯を食いしばり、堪える。
そして、必要な情報がもたらされる。

(ええい、南無三!)

レイヴンは己の戦闘経験に全てを委ねた。
一気に加速。プリミティブ・ライトへの接近を選択したのだ。

882 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11:10:12
(おかしいわ)

白鴉との戦闘を続行しながらも、メノは疑問を感じていた。
相手のネクストは日企連のSUSANOWO-01をベースとしていた。そしてエンブレムはアナトリアの傭兵のそれだ。
GAEの工廠を所属不明ネクストが襲撃しているとの情報を受けて出撃してきたが、なぜアナトリアの傭兵が?
先程からジャミングによって自分の機体とオペレーターの通信は途絶している。相手の通信もこちらに届いていない。
とりあえず攻撃をしてきているから反撃しているが、当初の目的がずれているのを感じていた。

所属は分かり切っている。しかし、彼の所属を考えれば日企連かGAの依頼で動いているはず。
それはつまり、GAか日企連がGAEを攻撃する理由があったということ。

(どういうことなの?)

メノ・ルーはGAの最高戦力。それ相応に情報は得ていた。
確かにGAEは独自路線をとっているところがあったが、GAそのものとの関係は悪くはなかった。
日企連との関係も悪くはないはずとメノは理解していた。
しかし、残念なことにそれは一介のリンクスが知ることができる範疇の知識。
根底には旧大陸と新大陸という、陸地を隔てることで生まれていた確執故の不和が確かに存在していた。

ともかく話を聞かなければと思いながらも、攻撃を続ける。
メノ・ルーは認識していないが、彼女のゆがみはそこにあった。
争うことを口では忌み嫌いながらも、しかし体には争いの為の力しかない。
そして戦うことに抵抗を覚えていない。そういうところで、彼女は歪んでいた。

メノ・ルーは見た。白いネクストが、自分への接近を選んだのを。
相手の武装で警戒すべきだったのは、左手のレーザーブレード。
軽装備の敵ネクストの中で、唯一プリミティブ・ライトの重厚な防御を破って、致命的な一撃を与え得る武装だった。
だが、接近はこちらにとってもバズーカやガトリングガンの命中率が上がることにつながる。
軽量二脚型よりましとはいえ、中量二脚型ネクストの防御ではバズーカの一撃には耐えられない。

(来た!)

接近してきた。
落ち着いてバズーカを放つ。それは紙一重で回避される。PAをかすめながらも、ネクストそのものには当たっていない。
ガトリングガンのトリガーを引こうとした瞬間、頭を突然殴られた。頭部に損傷。真上からの攻撃。どうやって?
どうして?と思う間もなく体が、機体がバランスを失う。手からバズーカが離れてしまう。首が真上から叩かれ、
ネクストの頭部パーツとコアパーツをつなぐ部位に予想外の衝撃が加わり、一瞬不具合が発生。首が回らなくなる。

883 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11:10:52
その時、メノは見た。
敵ネクストのマシンガンを投げ捨てた右手が真上に挙げられ、何かをしっかりとつかんでいるのを。

『作業用クレーンのフック……!?』

力任せに引っ張られたそれは、巨大兵器の製造時にパーツを釣り上げるために使われていた。
そしてそれは、巨大兵器が破壊された際に損傷していた。それをネクストの力によって無理やり引っ張ればどうなるのか。
巨大なパーツを持ち上げることができるクレーンがそっくり落ちてくる。プリミティブ・ライトは、その巨大な鉄骨に殴られていたのだ。

『あっ!?』

そして、白鴉の左手に残ったレーザーブレードが一閃される。
PAが鉄骨の打撃で消失していたプリミティブ・ライトは、コクピットの内蔵されたコアパーツの前面装甲を一気に破られた。
AMSを通じてメノの頭に激痛が走る。疑似的に胸を斬られたようなものだ。すぐさまコンピューターが痛覚を遮断する。
しかし、続けて何かを引きずり出されるような感覚が走った。接続が無理やり解除されていく。

『流石GAのコア。頑丈だな』

接触回線で、アナトリアの傭兵の声が届く。
白鴉はプリミティブ・ライトからコクピットブロックをごっそりと引き抜いていた。前面装甲を綺麗に破り、
尚且つコクピットに傷をつけないようにブレードを振るう。それは単なる適性だとか計算でできるものではない。
数千数万もの訓練を重ね、長年戦場に身を置いたからこそできる芸当だ。
ほっとしたような声。だが、次の瞬間焦ったような声が届けられる。

『今すぐ出ろ!』

促されるままにコクピットから脱出する。イジェクションレバーを引き、対Gゲルを廃棄。ハッチを開いて飛び出す。
自分の体は白鴉の右手に掴まれた。白鴉の左手はプリミティブ・ライトのコクピットブロックを投げ捨てた。
直後、爆発。それは明らかにコクピットが破壊されたことに由来するものではなく、コクピットに仕込まれていたモノが
起動して爆発した結果だった。

「そんな……」

ここに来る直前、プリミティブ・ライトはGAEスタッフによって調整を受けてた。
それはネクストという機動兵器を扱う上では当然の事。しかし、あまりにも状況が悪すぎた。

『PAはカットした。急いで白鴉のコクピットに入れ……このまま離脱する』

呆然としたままの彼女は、鉄骨の下で力尽きているプリミティブ・ライトを、ただ眺める事しかできなかった。
斯くして、アナトリアの傭兵および虎鶫はGAEハイダ工廠への粛正を遂行し終えた。
残酷なむなしさが、任務完了時だというのに漂っていた。

884 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11:11:40
ハイダ工廠は嘗てのポーランド クヤヴィ=ポモージェ県南部にある。
そこから陸路、あるいは海路を通じてソルディオスは逃がされていた。一部はインテリオルの手によってアフリカへ。
あるいはBFFの艦隊に護衛されて北欧へ。そして現在、北海を航行する巨大兵器『ソルディオス』を搭載したGAEの輸送艦隊は事前の打ち合わせ通りにアクアビット本社のある北欧を目指していた。そう、事前の打ち合わせ通りに。
護衛についているのはBFFの主力艦隊で北海を担当とする第3艦隊。リスクを避けるために分散させるということで数は多くはない。
現在この輸送艦隊が運んでいるソルディオスはおよそ3機分。1機は組み上がった状態で、残りはパーツ単位で分解されて搭載されている。

「これだ、ソルディオスがあれば企業戦力の差はひっくり返せる」

GAE重役の男は、輸送スペースにある巨大兵器を思う。レイレナード陣営の企業は新興企業が中心であり、GAのように企業体力に優れているわけではない。GAEとてGAグループであるが、あくまでヨーロッパにおいている出先企業に過ぎない。
アクアビットは技術性に特化した企業であるし、レイレナードもネクスト戦力は優秀だがそれ以外はいまいち。
残るのはBFFとなるのだが、海上企業としてはGAと良好な関係にある日企連がいるために安心はできない。

だが、ついに企業の技術力はネクスト以外の方法で体力差を引くり返すことができる兵器を開発した。
それがソルディオス。ネクストさえ浴びれば危険なコジマキャノンを搭載し、PAも展開可能。通常の火器も搭載しているため、これが戦場に出るだけで大きく変わってしまう。多少変わった兵器を投入しょうが、力でねじ伏せるのだ。

「しかし、殺風景な船だな……」

BFFが急遽用意した船舶は人員が少ない。タンカーだったものを改修して何とか積み込んでいるとの話だが、
VIPルームはあまり整備されているとはいえなかった。まあ、それでも快適な船旅が出来ているので不満はないのだが。

「ん?」

その時、水平線の彼方にぽつりと何かが現れた。
最初は船かあるいは鳥かと思った。しかし、それは見る見るうちに大きくなってく。
それは、人型をしていて、翼もないのに飛行をしている。つまり、飛行型ノーマルACなどではない。

885 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11:12:31
「ネクスト!?」

咄嗟に近くに置いてあった双眼鏡をとってのぞき込む。
目に飛び込んできたのは、三日月に雲と刀をあしらった、まるで武家の家紋のようなエンブレム。

「あ、あのエンブレムは……日企連のオリジナル、一目連!?ま、まさか……!」

そうGAEの重役が叫んだ時、その部屋めがけてレーザーブレードが突きさされた。
一瞬にして、重役の体は熱量により蒸発した。しかし、艦艇は動き続けていた。
いくつもの艦艇をQBを連発して飛び越え、標的の直前で艦の航行に影響が出ないように急停止しつつ、レーザーブレードをつかって定められた船室だけをピンポイントで貫く。高いAMS適性と技量がなした、とてつもない曲芸。

『流石は剣豪一目連。見事だ』
『お気に召していただけたようで光栄だ』

BFF第三艦隊の旗艦からの通信に、一目連は短く礼を述べる。
輸送艦内部では目撃者の処理が行われている。油断しきっていたし、輸送のための人員をBFFに任せきりにしていたことで、GAEはそれほど人を用意していなかった。GAEの重役がいたが、たったいま処理がなされた。いや、正確に言えば
『海に落ちてしまって遺体が回収できなくなった』。襲撃を受けたのだから、仕方がないことである。

ソルディオスはとかくコジマキャノンを搭載した兵器という点が注目されているが、本来注目すべきはその設計にある。
戦場では単独で強力なユニットとして運用可能で、対処するにはネクストを引っ張ってくるしかないような、企業にしか
開発・運用不可能な大型兵器。そう、ソルディオスはアームズフォートの草分けともいえる兵器なのである。
そして、このような大型兵器の中でも最先端と言えるこれは、非常に貴重なサンプルなのだ。そもそもこの兵器の製造には日企連がGAを介して提供した技術も盛り込まれていた。大型兵器建造は日企連もだいぶ重ねてきたが、やはりAFの
建造には技術的発達段階を踏む必要がある。

『救難信号を受信した船舶を発見した。BFF第三艦隊は別途任務があるため、日企連にこれの保護を要請する』
『承った。丁度良く母艦があるのでそちらから人員を移して、日企連が保護する』

白々しい会話がなされ、BFFはネクストによる奇襲を受けたとレイレナードに報告し、レイレナードもそれを受理する。
そして、『襲撃』した日企連と『襲撃』を受けたレイレナードの関係は言うまでもない。

短い奇襲が完了し、BFFの艦隊と日企連のネクスト搭載母艦は分かれていく。
これは記録には別な形で残る、ほんのわずかな出来事に過ぎなかった。

886 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11:13:35
斯くして、GAはアクアビットとのグループ盟主の意に反した取引を行っていたGAEの粛正を実施。
ハイダ工廠を皮切りに、各地の工廠や企業機能を持つ都市を襲撃した。特にGA最高戦力たるプリミティブ・ライトを
GAEが捨て駒として利用したことはGAの逆鱗に触れていた。

これに対し、アクアビットは提携先たるGAEへの攻撃は自らへの直接攻撃にあたるとして難癖をつけ、GAに対して報復攻撃を実施した。
GAEもまたプリミティブ・ライトがハイダ工廠攻撃の片棒を担いだと証言し、GAと袂を分かつかのように行動を開始。
同時に粛正を行ったリンクスの所属であるアナトリア及び日企連に対しても報復攻撃を開始した。

これは即日の内にパックス全体に波及し、歴史的背景も含む長年の対立関係を火薬として一気に爆発。
世界は、レイレナード陣営(レイレナード アクアビット BFF GAE インテリオル)とGA陣営(GA オーメル
ローゼンタール イクバール テクノクラート)に真っ二つに分断され、理念なき闘争へとなだれ込んでいく。

唯一態度を鮮明化していなかった日企連も、GAEの報復を退け、序盤戦が終わった後からGA陣営への参加を表明。各企業は、磨き上げていた戦力同士をぶつけ合う、泥沼の戦争へと突入していった。
後の第一次リンクス戦争は、こうして幕を開けたのであった。

887 :弥次郎@帰省中:2016/08/31(水) 11:15:09
以上です。wiki転載はご自由に。

うん、ひどすぎる。これでもマイルドにしたのに、ひどい。
オーメルもインテリオルも怒っていい。あとイクバールとGAEも。
大体日企連とレイレナードのせいだから。

ハイダ工廠の位置がXBOX版とPS3版とで異なっていたので、XBOX版の位置を採用しています。

一目連のやったのは、分かりやすく言うと「ローラースケートで音速で滑りながら、時速30kmで動いている車の前で急制動を掛け、車にもぶつかることなく窓越しに車内の人間の口の中に箸で食べ物を突っ込む(無論口の中にぶつけない)」ようなもの。

さて、これでリンクス戦争は勃発となりましたー。
虎鶫が何気にお気に入りなので動かしたくなる。悪い癖かもしれませんな。
では次回をお楽しみに

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最終更新:2016年08月31日 19:23