625 :弥次郎@帰省中:2016/09/04(日) 21:45:04
大日本企業連合が史実世界にログインしたようです 『国防は軍人の……』5 -新しい翼-



大日本企業連合 小笠原諸島演習場。

柴田武雄少佐は慎重に操縦桿を握っていた。
レシプロ機とは異なる独特の回転音と振動が体を揺らし、飛行機とは異なる浮遊感が戸惑いを呼ぶ。
飛行して通り過ぎるのではなく、飛行して浮遊する感覚。これまでの飛行機がさながら取りになったというならば、今乗っているのはまるで凧に乗っているかのように感じる。あるいは、トンボかもしれない。

(くそ、手を上げなけりゃな……)

情けないことに、自分で立候補したこの乗り物の試験という任務が怖かった。
面白い乗り物だと聞かされ、興味本位で立候補し、これまた分厚い手引書を手渡され、泣く泣く休憩時間を削って勉強した。
覚える内容は非情なほどに多く、訓練時間も増やされる羽目になった。

「標的を発見」
「了解、攻撃に移る」

操縦桿にかけられているカバーを外し、引き金に指を掛ける。
手が震える。それは興奮か、それとも引き金を引いた時の威力を教えられていることに由来する恐怖か。
ふと、初めて航空機に乗った時のことを思い出す。その時も、このように震えがあった。
未知と相対することへの恐怖と興奮。それが体を走り抜けていく。

「発射!」

そして、副操縦席の人間の声に従い、引き金を引いた。
一瞬の空白と、続けた発射音。搭載された20mm機銃2門が標的の戦車と人を模した人形へと発射されていく。
レバーを操作し、武装を切り替えを行う。97式回転翼機はロケット弾も搭載していた。
操縦者の意を組んだロケットは狙いに従って標的へと推進し、そして定められたとおりに爆発した。

「すごいな……」

徐々に煙が晴れていく。そこには、ハチの巣どころかわずかな残滓へとなり果てた標的の姿があった。
一度破壊されていたとはいえ、主力を担っていた95式軽戦車がこうまで簡単に撃破されてしまうとは、どれほどの威力があるのか。
人を模した標的はもはや跡形もない。もしもこれが生きた人間だったら、と考えるだけで気分が悪くなる。

「怖いもんだな……」
「攻撃ヘリはこのように地表の標的に対して極めて高い威力を発揮します。無論制空権を抑えた上で投入しなければ簡単に撃墜されてしまいます」

副操縦席で操縦の補助をしている日企連の指導員の言葉に柴田は深くうなずいた。

「確かに、飛行機には強くはなさそうだしな……」
「また、対空砲が進化すれば、小型化や機動化した対空砲になれば容易くヘリを撃墜できます。近接信管砲弾の登場が対航空機攻撃の効果を高め、より脅威になります。この回転翼機は速力が遅いですからね」

627 :弥次郎@帰省中:2016/09/04(日) 21:46:06
このUH-1モドキの97式回転翼機は、その限界速度が240km/h前後で、巡航速度で200km/h前後にとどまっている。
おまけに史実側のパイロットに合わせるためにスペックを制限するためのリミッターをかけているため、もう少しスペックは落ちている。
96式艦上戦闘機でさえ最高速度が400km/hであるため、もし会敵すれば簡単に翻弄されて撃墜されてしまうだろう。
それこそ、ひらひらと飛ぶ蝶が鳥に餌として狩られるように。

「じゃあ、なぜこれの採用を?」
「回転翼機はその場での滞空能力があり、旋回能力も高く、狙った位置に物を投下しやすいという利点があります。
 また、通常の飛行機ほど着陸場所を必要としないという特徴もあります。高い建物が少ないならば、低空を飛行しても問題ありません」
「その場に浮かぶとそんな利点があるのか…」
「ええ。対潜攻撃にも対地攻撃にも非常に有用で、将来的には広い役割を担う様になります。
 使い方を変えれば農薬散布にも使えますので、民間でも有効となります」

確かに回転翼機は離陸の時も飛行機のように滑走路が必要ではなかった。
精々この回転翼機がてっぺんの羽を回すスペースが必要なだけで、飛行機よりも楽だった。

「一応防弾ガラスを使っていますので、多少の銃撃は貫通しません。ただしあるだけマシという感覚でいてください」
「当たらないようにするには?」
「動いてかわすか、攻撃される前に敵を破壊してください。それと、制空権を握っていない所には近寄らないこと。
 これが安全に運用するためには絶対に必要です」
「了解だ」

なまじ歩兵のヘイトを稼いでしまうのが攻撃ヘリだ。
もし仮に墜落したら、その時歩兵たちが大人しく見逃してくれるわけではない。
そしてヘリコプター操縦というのは、かなり専門性の高い技術である。それゆえにヘリは「高くつく」兵器だった。

「では戻りましょうか」

進路を急設された仮設ヘリコプター着陸基地へと向ける。
恐らく、部下たちが先程の威力を見てこの回転翼機に乗りたがることだろう。
だが、こんなもので人を蹂躙などしたくないと思ってしまうのは、軍人として失格なのかもしれないと、柴田は考えてしまった。

(日企連におんぶにだっこ、これはあまり歓迎できないな)

このヘリコプターの動力は、説明されたがよくわからない発動機。
本当なら、このエンジンも自分たちで整備しないといけないのだろうが、彼らに依存している。
自分にできることをしようと、そう思うことで柴田は気分の悪さをごまかした。

629 :弥次郎@帰省中:2016/09/04(日) 21:47:14
アシハラナカツクニ 第7ドック。
比叡の改装作業が行われている第5ドックと比較すれば小さめのそこには、ある空母が収められていた。
航空母艦 鳳翔。日本海軍初の空母であり、最初から空母として建造された最初の航空母艦である。
この鳳翔は日企連の簡易の改装を受けていた。着艦制動装置やアレスティングワイヤー、着艦誘導装置の搭載のほか、
油圧カタパルト、水上電探や対空電探、そして無線機の搭載を行っていた。勿論、これらの装備は日企連が用意した
教導用の装備品で保守点検や運用は史実側の軍人が指導を受けながら行うことになっている。日企連にとっては古びた
ローテクノロジーであるが、史実側世界にしてみれば、世界でも最高峰の、まだ構想すらなされていないシステムだった。
はっきり言えば、この時点ではこの鳳翔こそが世界最高の防空能力を搭載しているのだ。
それらは日企連の24時間シフト制で突貫で工事がなされ、改装案の承認からわずか2週間たらずで完了した。

草鹿龍之介は鳳翔を見下ろす作業用通路から戦闘機やその部品が積み込まれていくのを眺めていた。
その傍らには艤装工事の監督にあたった七篠技師がタブレット端末を片手に立ち、あれこれと話をしている。
やがて、クレーンが巨大な装甲の塊を持ち上げてくる。この時代ではありえない合金で構築されたそれは人の胴体を思わせる形状をしていた。

「おお、あれが……」

目ざとく草鹿は気が付く。
その目は、まるで新しいおもちゃに夢中になる少年のようですらあった。慎重に甲板へと降ろされたそれは、
数名の作業員によって鳳翔の格納庫内部へと運び込まれていく。ここからは見えなかったが、格納庫で艦内の張り巡らせた配線と
接続されていき、必要な電力を供給することになっている。その発電量は、史実側の常識を超えていた。

「VシリーズACのコアパーツです。水素燃料ジェネレーターHERZ GNE500を搭載しており、発電力はあれだけで
 戦艦を1隻余裕で賄えます」
「せ、戦艦を!?」
「ええ。実用的な光学兵器の使用さえも可能とする大出力の発動機です。その気になれば、鳳翔に光学兵器を搭載できます。
 本来の鳳翔の発動機では対空・対水上電探の運用には出力が足りませんが、これによって解決します。
 通信機や電探が使えるようになるだけで、作戦行動が迅速に進められるようになります」
「なるほど……」

日企連の技術者達が鳳翔の改装前に説明した内容を草鹿はよく覚えていた。
将来的に対空システムは電算機を用いた物へと進化する。そして、それの電源を確保するために発動機が進化していく。
やがては原子力機関を搭載して膨大な発電量を確保したり、ガスタービンという機関の採用を行う。そしてそれらがどれだけ
技術的な困難が待ち受けているかも教えられていた。そしてそれを解決するための手段こそが、『人型』の動力源を
『人型』の胴体ごと積み込むというとんでもないもの。まるで、駆逐艦の砲が足りないのを戦車を積み込んで解決するような案だ。

630 :弥次郎@帰省中:2016/09/04(日) 21:48:08
一体誰がこれを考え付くものか。しかも余剰の電力によって空調装置が船室に設けられるようになり、ある程度居住性が改善された。
草鹿も空調を個室で体験したがこの世とは思えないような涼しさを体験した。暑い夏ならば、あれほどありがたいものはないだろう。
戦闘機にも無線の受信機と送信機がつけられ、母艦との間で相互的に通信できるようになったことと合わせれば、
偵察や戦闘時に逐次情報を得ることができると期待できる。

「情報統制の為、あれはカバーをかけて5式発動機ということにしてあります。念のため、迂闊には広めないようにお願いします」
「分かった。整備士への注意は私が責任もって行おう」
「お願いします。まずはこの鳳翔や加賀を用いて学んでもらいます。
 カタパルトや防空システム、そして発着艦システムというものを整えます。その上で、進化をしてもらいます」
「やることは多いが、期待に応えられるよう努力しよう」
「ええ、頑張ってください。……ああ、きましたね。試作97式です」

その時クレーンが戦闘機を持ち上げて鳳翔へと積み込みを始めた。ゆっくりと甲板に降ろされたそれは、作業員によって
エレベーターに積まれ、格納庫へと送られていく。その戦闘機は生産され始めたばかりの96式艦上戦闘機とは大きく異なっていた。
ペイントこそ日本の所属を示す日の丸が描かれているが、より洗練されており、シャープな印象を与えていた。
搭載されている機関砲も7.7mm機銃ではなくアメリカから購入することになるブローニング AN/M2航空機関銃こと
1式12.7mm固定機関砲モドキを左右の主翼内部に1門ずつ搭載しており、落下型増槽(ドロップタンク)を搭載、
ロケット弾の搭載も可能なハードポイントがあり、当然のように油圧式の引き込み脚の全金属戦闘機。
三菱などに提供された烈風改二を除けば現時点では最高戦力と断言できる飛行機。その名前を、七篠技師は呼ぶ。

「試作97式艦上戦闘機『南風』。日企連の教導用戦闘機として、鳳翔で暫く運用していただきます」
「来ましたな、本命が」

631 :弥次郎@帰省中:2016/09/04(日) 21:48:48
その釣りあげられた姿を見れば、誰もがこの戦闘機の特徴を知ることができた。

「翼が折りたためるとは……全金属戦闘機ではすごいものができるのですな」
「アメリカの空母が多くの艦載機を搭載できるというのは、何も艦載機そのものを多く詰める格納庫だけでなく、
 艦載機そのものを小さくするという方向でも模索を進めた結果なのです。この97式のモデルとなったグラマン
 F8Fは零戦に勝てる性能と軽空母や護衛空母に搭載しやすいサイズを両立させた戦闘機です。
 まあ、その弊害として航続距離や搭載量に縛りが出来てしまい、戦争の終結によって不要となってしまったという
 不遇の戦闘機でもあります。しかしアメリカの国力によってわずか9カ月という短い期間で一気に開発されています。
 おまけに欠陥らしい欠陥もあまりありません」
「なんと……」

草鹿はその圧倒的なアメリカの国力に絶句する。96式艦上戦闘機が足掛3年を要したというのに、何という速度で開発したのか。
しかも、欠陥らしい欠陥がない?搭載量が少ないことは確かに問題かもしれないが、正直言えばそれはぜいたくな悩みだ。
武装の搭載量が小さいと言っても、並行して開発されていた戦闘機などと比較しての話。今の96式などと比べるまでもない。
七篠技師の説明は続いた。

「ある意味これはそれの先取りのようなものです。
 小型空母でもサイズ的な余裕のある艦載機。カタパルトの実用化が済めば、小さな空母も十分活躍できます。
 国力上、小さな空母を使わざるを得ない帝国海軍にとっては天祐ともいえるかもしれません」

実際、この試作97式艦上戦闘機というのははっきり言ってしまえば史実のF6FとF8Fのコンセプトを取り入れたものだった。
史実側の空母は総じてサイズが小さい。これは軍縮条約の影響であったり、黎明期に建造された鳳翔や龍驤が現役だったことも関係する。
発着艦そのものは、カタパルトの採用や使い捨てのロケットを使えば何とかなるし、アレスティングワイヤーや
光学着艦装置といった機器の導入で解決する見通しが立っていた。しかし、それでも搭載機数の限界というのは存在するもので、
その解決案として日企連が提案したのが、この試作97式艦上戦闘機だった。

「しかし、零戦より強いということは搭乗員達を振り回すのでは?」
「そこはスペックを意図的に落としていますし、性能抑制装置(リミッター)を掛けているので零戦以下になっています。
 さすがに乗りこなせないような戦闘機を配備はしませんし、特化こそさせていませんが扱いやすくしています」
「よかった……」
「搭乗員からも好評をもらっています。流石に烈風改二ほどではありませんがね」

それはよかった、と言いかけた草鹿だが、これが将来敵国の手によって作られることを考えると複雑な思いがした。
資料によれば、日本との本土決戦時に使われる予定だった戦闘機だ。同時に優れた戦闘機がいくつも用いられて、性能差もあって
帝国海軍や陸軍を苦しめていたと考えれば、素直に喜べない。

632 :弥次郎@帰省中:2016/09/04(日) 21:49:38
(日企連がこうして潤沢に物資を提供していても、それは帝国の為ではない……自分たちの為だ)

そう、日企連の援助は、あくまで自分たちの利益の為。帝国のためではない。帝国の利益はあくまでおまけに過ぎない。
臣民たらんとする草鹿は、末恐ろしさと頼もしさを両方感じていた。本来ならば、こうした戦闘機開発の情報は戦場の
目撃情報や写真撮影などによって収集が行われる。先んじて見ているのはあくまでそれをしなければ負けてしまうからだ。
戦時の情報共有について考えておかなければと、草鹿は頭の片隅に追いやらぬようにしようと誓った。

史実でも零戦は格闘性能と航続距離を求めた結果、防弾性や下降に問題が生じてしまい、鹵獲されて研究されつくされ、
サッチウィーブなどの対処戦術を編み出されてしまう結果となった。また長すぎる航続距離は搭乗員に長距離飛行という
負荷をかけることにもつながってしまった。その事実を突きつけられた航空機メーカーや航空屋は慌てて要求の見直しに奔走している。
事実航続距離の延長要求というのは、広大な中国戦線での運用のためとはいえ、その防空力に目がくらんだところもある。
設計者の堀越二郎も、その要求にこたえるためには何かしらを犠牲にしなければいけなかったと述べている。
だが、癖のない飛行機ならば扱うことも容易いだろう。草鹿は笑みを浮かべながらも、気を引き締めて感想を述べる。

「それならば安心です。完熟訓練まで何とか済ませられるように掛け合ってみます」
「ええ、ぜひとも。燃料などはこちらからも融通しますので、ご安心を。
 また、試作97式は改装中の扶桑型強襲揚陸艦や比叡などへの搭載も検討されています。陸軍も限られたスペースに
 格納しやすいこの戦闘機に注目しているようです。共通化ができれば多くの利益が出るでしょう」
「陸海軍の装備の共通化ですか」
「はい。機体を融通しあったり、パイロットを補い合えれば、少ない兵力でも数に勝る相手に対処できます。
 現在装備品の部品の統廃合を行っていますが、一朝一夕にはできません。
 しかし、その恩恵は計り知れません。これまでの兵器の性能や信頼性の向上にもつながりますし、全体的な底上げとなるでしょう」
「ありがたい……」
「ただ、これを制式採用し量産できるのは恐らく1940年に入ってからでしょう。それまでは日企連が提供します」
「4年後ですか……折り畳み式の主翼が問題にならなければいいのですが」
「無論折り畳み機構を排除したモデルも用意しています。そちらの方が整備も楽ですよ。
 今後の戦闘機開発に大きな弾みとなるでしょう」
「ええ、そうですな」

斯くして、航空母艦「鳳翔」はアシハラナカツクニでの改装の後に、本格的に練習空母として活動を始めた。
また、改装後に5月に発生した上海事変に際しては96式艦上戦闘機と少数の試作97式を搭載して出撃。
艦載機による偵察活動の他、密かに対空電探や通信管制などの役目を全うし、貴重な戦訓を旧帝国海軍へともたらすこととなった。

633 :弥次郎@帰省中:2016/09/04(日) 21:51:17
以上となります。wiki転載はご自由に。


七篠技師って出てきましたが、 七篠 → ななしの → 名無しなんですよね。

試作97式艦上戦闘機は作中でも述べている様にF8FやF4Uですね。
ま、性能自体は抑えられていますが。

扶桑姉妹はやむなく強襲揚陸艦にすることに。
砲撃で水際防御叩いて、制空権握る戦闘機を飛ばして、大発を発進させる感じですね。
ふふふ、アンクルドデッキをどこぞの伊勢型のように二つ乗っけてみますかねw
速いとこ設定決めなきゃ(白目

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最終更新:2016年09月08日 19:25