282 :名無しさん:2016/04/24(日) 16:17:46
以前、シャドウランのクロスネタを投稿した者です。
20分から5スレほど一発ネタを投稿したいと思いますが、よろしいでしょうか?

283 :282:2016/04/24(日) 16:20:54
時間になりましたので投稿させていただきます。

一発ネタ「提督の憂鬱×ケイオスヘキサシリーズ」


 浅草の道路を緩やかに走る軍用自動車の窓から、カーキ色の軍服に身を包んだ男が辺り一帯を細めた目で眺めている。軍人にしては少々痩せ気味のシルエットだが、高い背と怜悧な眼光がそれを補ってあまりある威厳を見せている。加えて手袋の五芳星(ドーマンセーマン)は彼が呪術将校の一人であることを、そして膝の間に立てた関孫六は中でも特別な存在であることを明言している。
 その隣では個性がないのが個性のような副官が影も薄く畏まっている。影のごとき男の唯一の特徴と言えるのは、万物を嘲笑しているような化け猫の笑みだけだ。

 「武僧警官がずいぶんと多いな。何かあったのか?」

 軍人……加藤 保憲の視線の先には眼光鋭く警錫杖を握り、腰のホルスターに経典を収めた武僧警官(モンクオフィサー)の姿が見える。中には梵字の刻まれたジュラルミン盾に甲冑を思わせる防護袈裟(アーマーカーシャ)まで装備した機動羅漢隊(ライアットボーズ)までいる始末。米国も崩壊し平時となって久しい内地にはふさわしくない光景だ。北米に向かう前は防呪ジャケットを着込んだ制服警官が巡回している程度だったはず。日本に帰り着く前に、大規模な霊騒乱でもあったのだろうか。

 「はい、陸海合同文化祭を真似た民間の例祭で空間想念密度が飽和してしまったらしく、霊祭化を起こして一騒動あったそうです。それで次の陸海合同文化祭で同様のことが起こらないようにと、尻に火のついた内務省が僧警の尻を蹴ったそうで」

 副官……乱堂 然が嘲笑を浮かべたまま答える。同じ国庫から予算を奪い合う味方の不幸はとても甘いのだろう。事実、例祭に招かれたイタコ芸人が分霊を降ろしてしまったせいで武僧警官だけでは手が足らず近隣の寺社仏閣から応援を呼ばざるを得なかったという話は、彼の嗤いを実に深めた。

 「民間の例祭と違って十分以上に想念密度には気を使っているんだがな」

 疲れたような声音で加藤は答える。逓信省の陰陽師が打った式だろうか。視線を空に向ければ丁の字をまとった鳩の郵便式神が手紙をくわえて西へ東へと飛び交っている。

 「これを奇貨として内務省が武僧警察をねじ込もうとしているのでは?霊的技術(サイテック)関係といえばまず軍に話がくるのは有名ですから」

 民間の手に負えない霊障となれば軍に話がくる現状に内務省が血圧を上げているのは有名な話だ。それを受け同じく霊障対応に立ち後れた仏教界と手を組んで武僧警察(モンクポリス)を設立したのだが、先日の霊祭化でずいぶんなケチが付いてしまった。そこで軍の牙城である陸海合同文化祭で存在感を示すことで巻き返しを図っているのだろう。

284 :282:2016/04/24(日) 16:21:27  
 「アラモゴードの大穴から未だに”魔”が湧き続けているというのに、内地の連中は暢気なもんだ」

 「”内務”省ですから、内ゲバも仕事のようなものでしょう」

 ため息混じりに顔をしかめる吐く加藤に、毒のこもった皮肉で乱堂が答えた。この副官を得てから胃の調子が悪くて仕方がない。加藤の顔に一層の渋味が混じる。性格も悪ければ根性も悪い。
その上人が悪くて意地も悪い。何より悪いのがそのくせ有能極まりないという点だ。
 隣の副官から窓の向こうへ視線を逸らすと、下半身だけの自働力車(オートリキシャー)が裕福そうな身なりの夫婦を乗せて併走している姿が見えた。夫婦の格好からして大陸系だろうか。
二人は高価な真空管式易算機で次の行き先を占うのに夢中だ。旦那が紙幣を差し込むと、紙幣の金魂を水晶球で読みとった自働力車は、九十九神の憑いた解析機関を急回転させながら右に曲がるレーンへと滑り込んだ。
 自働力車の向こうでは猿だけのチンドン屋が多色刷りのチラシをまき散らす。経立の猿回しとは珍しいと思えば、真ん中で猿の群に指示を出すのはアルビノ猿の神使だった。
どうやらどこぞの山神の指示で都内に出稼ぎにきたらしい。
 神仏も銭神金魂の前には形無しか。頭痛が痛いと加藤はうんざり顔で目を閉じる。故郷紀州の神々がお布施求めて人里で媚びを売っているところなんぞ想像したくもない。深い息をこぼすと、息吹法ですかと乱堂が笑った。副官の存在を無視して、加藤は拡声器から流れる歌謡祝詞(ノリトポップス)を背景に浅草の光景を眺める。

 送霊線(ケーブル)の端子から漏れた霊気を啜ろうと集まる雑霊に、八百屋の親父が面倒そうに安っぽい除霊剤を振りかける。
 車道では過積載の飛鉢が交通課の制服警官にキップを切られて、鉢を飛ばしていた輸僧独覚(トランスホーシ)が大声を上げて抗議中。
 通りを歩くモボやモガは流行の鬼角をこれ見よがしに空に突き立てて、携帯している伝信呪符(テルズマン)に話しかける。
 電波教徒(ラジヲニスト)はGE製霊界通信機で神託の周波数を探るのに夢中のようだ。
 街頭テレビのお天気番組では託宣を受けた祈祷予報士(ウェザーシャーマン)がトランスしながら明日の天気を予言している。
 裏通りの剃髪愚連隊(ボンズヘッドギャングスタ)は「仏契りで逝けている」踊り念仏を見せつけ合うのに忙しい。

 「……東京も変わったものだな」

 ……否、人の世はみな変わりゆくものよ

 答えを求めない加藤の愚痴に、千年この地を見続けた将門公が笑った気がした。

285 :282:2016/04/24(日) 16:22:02  
 数日後。東京のある寿司屋の座敷では、日本を動かす奥の院と呼ばれる夢幻会の会合が行われていた。自律お茶くみ人形から渡された煎茶を啜り、嶋田総理は加藤が書き上げた「ケイオス・モノ監査報告書」に目を通す。

 「想像以上にケイオス・モノ(1)は効果を上げているみたいですね。この調子なら北米の地獄穴も目処がつきそうです」

 「これだけ費用がかかったのだから、そうでなければ困ります。ここまで建造費用が延びるとは思いませんでしたよ」

 嶋田の声にしかめ面で辻大蔵大臣が答える。故アメリカ合衆国が残した最大の負の遺産「北米の地獄穴」「アラモゴードの大穴」と呼ばれる、史上最大の奈落墜ち(フォールダウン)を起こした原爆実験地跡(グラウンドゼロ)。そこを封じるために建築されたのが、これまた史上最大の建造物である超弩級卒塔婆「バベル型積層都市」だ。
 もっとも、現在建築済みなのはケイオス・モノだけでケイオス・ジ(2)も建造途中。以降のケイオス・ヘキサ(6)まで設計図がやっとで、最後のケイオス・ドデカ(12)に至っては計画だけなのだが。

 「正直、あの建材を考えたくなります……冗談ですよ?」

 その理由は単純明快、莫大すぎるコストだ。大規模な都市を地下から天上まで十二層重ねた代物というだけで頭が痛くなるが、その上風水・鬼門・結界などなど呪的・霊的建築が多重多層に織り込まれている。後々に大問題になるとても、頑丈で手に入れやすく何より安い人柱有魂建材を考えたくもなろう。
 加えて建築開始してからわかったことだが、各国それぞれが担当した設計部分が教義衝突を起こしてしまっていたのだ。お陰で異宗・異教拒絶反応から自壊しかけたケイオス・モノを立て直すために各国が多額の費用と人材をそそぎ込む羽目になった。最終的に東京市開発計画を設計した天才的シスコン辰宮洋一郎の手で、本地垂迹接合と聖人免神構造を駆使して安定化したのだが、そこにかかった費用を見るや某国金融庁長官の髪が一気に白くなったほどである。

 「しかしこうなると、英国の案に同意せざるを得ませんね」

 元々は多義に因果数分解可能でどの文化圏でも聖なる数字として用いられる12のバベル型積層都市で結界を張り、大穴を塞ぐのが「ケイオス計画」であった。しかし、この圧倒的コストの前には12のバベル型積層都市など夢物語もいいところで、列強各国も両手を上げざるを得なかった。そこで英国が新たに挙げたのが「ケイオス・モノ(1)、ジ(2)、トリ(3)での三位一体構造案(トリニティストラクチャープラン)」だったのだ。
 この案に経済力で日本に劣る欧州枢軸は信教的にも賛成に周り、日本は計画の信仰方向がキリスト教側に大きく傾くことから難色を示していた。しかし、だからといって建造費用が安くなる訳でもない。そし日本にもてケイオス・ドデカまで作る金はない。銭神を拝んでも金魂に誓願してもどうにもならない問題だ。

 「そもそもアメリカが原爆なんぞ作らなければ何事もなかったものを……」

 誰かの愚痴が虚空へと溶ける。それを聞く夢幻会の面々も同意の苦い表情を浮かべている。

286 :282:2016/04/24(日) 16:22:33  
 事の始まりは、二度目の転生を果たした夢幻会が「ケイオス・ヘキサシリーズ」世界であると気づいた事だった。原作の歴史においては、有魂兵器(ヤップアーム)や呪詛暗殺(カースマーダー)等により大日本帝国は対米戦を優勢に進めていた。だが、国家を挙げての総力呪詛攻撃で空間怨念密度が飽和値を遙かに凌駕した結果、史上初にして最大の奈落墜ちを起こして歴史上の存在となってしまったのだ。
 当然、原作を知る夢幻会がそんな事態を許すはずもなく、南洋の無人島で総力呪詛攻撃のシミュレーションを行い、総力呪詛攻撃で奈落墜ちが生じることを証明してみせた。さらにこの件に関して夢幻会は他国での奈落墜ちを防ぐため、意図的に情報を流出させた。

 これにより仏枢軸がロンドンへの瘴気爆撃(ミアスマボミング)を取りやめたり、英国が地中貫通爆弾への怨霊弾頭(マレイスウォーヘッド)搭載を諦めたりしたのが、ただ一国米国だけがこれを利用した兵器の開発に着手するという斜め上の判断をしてしまった。
 もっとも米国からすればある種当然の選択肢だった。これを兵器転用したところで被害をこうむるのは猿擬きの黄色人種だけだし、一つの島を堕とせる戦略兵器ならば今後の外交においても大きなアドバンテージとなりえる。それに何より、原作同様、いや原作以上の苦境に米国は立たされていたのだ。

 海は艦魂制御の自律軍艦群が米艦隊を飲み下し、陸は空霊十二祈祷エンジン搭載の不死身の機怪「學天則」がアメリカンボーイズに絶望を刻み、空は空中式神母艦が放つ無数の無人航空鬼でワイルドキャットを揉み潰す。アメリカの国力も大統領の支持率も急降下を繰り返し、増えるのは死人の数ばかり。
過労と呪殺で倒れる官僚も急増の一途をたどっていた。
 なお、一部夢幻会員の暴走のせいで、艦魂が艦隊をコレクションするような姿を、學天則はエッチなのはいけないガイノイドなデザインを、無人航空鬼はパンツじゃないから恥ずかしくない外観をしていたのはまた別の話であり、それを見たマトモな夢幻会員の胃と毛根に重篤なダメージを与えたのはこれまた関係のない話である。
 かくして夢幻会の未来技術でブーストされた日本に対し、霊魂技術に大きく後れをとる米国には太刀打ちできる手段も技術もない。かつて技術と武器でインディアンを狩っていたアメリカは、今や霊魂技術と呪的兵器で日本に狩られる立場となったのだ。

 だからと言って膝を屈しないのがヤンキースピリッツだ。何せここで膝を折ったら次の選挙に負けてしまう。かくして米国は「原罪爆弾(シン・ボンバ)」(略称:原爆)による奈落堕ち実験「トリニティ実験」に手を付けた。
 原罪爆弾はプルトニウムで覆った呪物を聖別された爆縮レンズで超圧縮することで、蠱毒化により莫大に増幅された呪詛が核爆発で辺り一面にばらまかれる素敵な代物だ。
これの爆発を祝福儀礼済み核ダンパー多重隔壁で一定範囲に抑え込み、意図的に奈落堕ちを起こすのがトリニティ実験の内容だった。
 実験地にはニューメキシコ州アラモゴード爆撃試験場、実験用原爆「ガジェット 」の呪物は虐殺されたナバホ族のトーテムが使用された。国内で奈落堕ちを起こすことには反対の声が政府内部からも多数見られたものの、大西洋では欧州枢軸に押され太平洋を日本に抑えられた当時の状況では他国の目を欺ける実験地が国内にしかなかったのだ。
かくして実験は行われた。「ナバホ族強制移住(ロング・ウォーク・オブ・ナバホ)の経路で」「虐殺されたナバホ族のトーテムを呪核に使用した」「怨念兵器である原罪爆弾」の実験が。

 結果に関してはアメリカにとっては予想外の、夢幻会にとっては想像通りのものとなった。起爆と同時に発された衝撃怨波が祝福儀礼済みの核ダンパーで反射され、呪詛の再収束と蠱毒化を繰り返した挙句、周囲一帯の同位相怨念と類感共鳴し強制活性化。ついにはアラゴモードを含む周辺地域全てが飽和怨念密度を突破して、全部まとめて奈落堕ちしたのだった。
 さらに奈落堕ちの大穴からはウェンディゴやサンダーバード、サスカッチなどなどの”魔”が溢れ出し、南部・西部を中心に米国中を暴れまわった。
 米陸軍も州兵も必死に応戦したものの祝福儀礼済み水銀弾の数は足りず、従軍牧師による祈祷の効果もわずかなもの。むしろ死霊の数と怨念の量を増やして穴のサイズを広げるだけに終わった。
一方的に日本に殴られるばかりで役に立たないどころか、この事態を引き起こした政府に愛想をつかした各州は、独自の呪的防衛を開始した旧ユタ州(現ディザレット共和国)を引き金に独自の行動を開始。
 かくしてアメリカ合衆国は歴史上の存在へとなり、現実から姿を消したのだった。

287 :282:2016/04/24(日) 16:23:09  
 「文句を言っていても仕方ありません。国内の宗教で三に関わるものはありますか?」

 「各所に確認を取ったところ、神祇院からは天照・月読・素戔男の三貴子が、仏教界からは仏・法・僧の三宝が、正教会からは父・子・聖神の聖三者が挙げられています」

 嶋田総理は止まった会話を再開するよう呼び水を投げかける。それに対し、内務省の人間から間髪入れずに回答があった。所管の僧警が不甲斐ない現状、自分たちが内務省の泥を拭うのだと十分以上に気合が入っている。

 「では、それらを本地垂迹接合で組み込む形としましょう」

 「「「いぎなーし」」」

 イエズス会布教の際の大臼(デウス)=大日如来、本地垂迹思想の大日如来=天照大神、さらに神仏習合より生まれた三宝荒神を用いれば、三貴子・三宝をキリスト教と結びつけることは十分に可能だ。正教会の聖三者は三位一体思想と非常に近しいため、こじつける必要性すらない。
 これで、三位一体構造で安くすませても問題なさそうだと場の空気が軽くなる。

 「しかし設計段階のケイオス・トリはいいとして、建設途中のケイオス・ジや建設済みのケイオス・モノに組み込むとなると大事ですな」

 が、誰かの重苦しい一言で再び空気がずしりと重さを思い出した。教義衝突で崩れかけたケイオス・モノを再設計して宗教観衝機構を組み込むのにどれほどのコストと手間を要したか。多少なりとも予算に関わる人間ならば考えるのをやめたくなる規模だった。

 「まあ、愚痴を言ったところで費用が減るわけでもありません。バベル型積層都市を12棟建設するよりはずいぶんマシです。将来に禍根を残さないための必要経費と割り切りましょう」

 重い空気を割り切りよい言葉で辻大蔵大臣が持ち上げる。泣いて神仏にすがろうとどうにもならない問題なのだ。泣いている暇があるなら少しでも動いて事態をマシにすべきだろう。

 「そうなれば、次に必要なのは指揮を執る人間ですな」

 「とは言ってもケイオス・モノを立て直した辰宮君以外に適任はいないでしょう」

 確かに、本地垂迹接合及び聖人免神構造を発案・設計し、各国の人間を説き伏せて自壊しかけたケイオス・モノを立て直した立役者である辰宮洋一郎をおいて相応しい人間は他にはいないだろう。たとえそれが一秒でも早く仕事を終えて帰国し、妹である辰宮由佳理と好き放題イチャつく為であったとしても、その能力に疑いを抱くものはいない。

 「では、ケイオス・モノ及びジへの三位一体構造及び本地垂迹接合組み込みの総指揮は辰宮君に任せると言うことで」

 「「「いぎなーし」」」

 かくして国家の一大事たる大仕事を終えて、妹由佳理との砂糖も逃げ出すような甘ったるい蜜月を堪能していた辰宮洋一郎は、再びの難行を押しつけられて渡米することとあいなった。
 なお、泣いて駄々こね渡米を嫌がる洋一郎に辞令を渡しに行った加藤が辟易したり、兄との逢瀬を邪魔された辰宮由佳理が恨みのあまり生き霊と化して日本政府上層部の抜け毛の数を激増させたのはまた別の話である。



終わり

288 :282:2016/04/24(日) 16:27:11
以上です。お目汚し失礼しました。Wikiへの掲載はOKです。

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最終更新:2016年09月17日 14:10