367 :名無しさん:2016/04/26(火) 12:04:51  
初投稿 HoIを想定したネタ wikiに載せてやろうという慈愛溢れる方がもしいらしたら御自由に


「糞っ、不味い、不味い、このままではリタイア一直線だ……」

 大日本帝国の北海道北東、択捉島にある自宅のパソコンの前で、男はそう愚痴を零した。
 目の前のディスプレイでは、世界地図を模したマップが広がり、そこには既に消滅している懐かしい国、ソヴィエト社会主義共和国連邦の文字が躍っていた。

「アメリカイギリスどっちか仲間に―― いや、無理だな」

 パソコンを前にブツブツと呟く男は傍から見ると気味が悪いことこの上ないが、男はいたって真剣だった。
 インターネットを通じて知り合った、大日本帝国各地のウォーシミュレーションゲーム好きの仲間達。彼等と都合を調整し、何とかマルチプレイが出来る様にしたのは良かったのだが、誰がどの国を担当するかを抽選した結果、男の目の前はほぼ真っ暗になった。
 ソヴィエトロシア。あの人類の歴史上数えるほどしか居ない最低の暴君、ロシアの大地にとって末代までの恥とまで言われる悪名高いスターリンが率いていた国である。
 帝国の友邦フィンランドに恥知らずな要求を行った挙句攻め込んで返り討ちに遭い、アメリカを唆して日米戦を誘発し結果としてアメリカを消滅させた元凶と言われ、ドイツと泥沼の消耗戦を繰り広げ、ろくに国民すら養えない貧乏国家になった挙句の果てに国家が真っ二つに割れて消滅したどうしようもない国家である。
 ロシア帝国の末裔を匿う帝国との仲は最悪。ドイツは不倶戴天の敵。共産主義に染まってる関係でアメリカやイギリスとも仲が悪い。味方なんて何処にも居ない。おまけに重工業も貧弱。まさにこの手のゲームでは、叩かれてぶっ潰されるために存在するような国である。
 こんなところを担当する事に決まっても、希望なんざ何処にも無かった。

「まだスペインのがマシじゃないか……誰に土下座外交すればいいんだ……」

 帝国が最良だが無理だ。帝国は上手くプレイすれば帝国勢による地球統一エンドすら迎えられる最上の提携相手だが、ソ連では国家体制が違い過ぎて提案を蹴られる。中の人がいれば話は別だが、帝国プレイヤーが居ると途端に無双が始まるため、マルチプレイで帝国は遠慮する事が暗黙の了解だった。今回も、帝国は抽選から外されている。よって帝国が組んでくれる事はまず無いだろう。もし万が一の奇跡が起こって組んでくれたその時は拝み倒すつもりだが。
 イギリスと組んでドイツ封じ込めも魅力的だが、多分断られるだろう。イギリスでプレイする奴はどいつもこいつも帝国と組みたがる。今回もイギリスには中の人がいる。何がしたいのか意味がわからないNPCじゃあるまいし、第二次日英同盟はほぼ成立するとみて間違いない。そして帝国と組むのなら、帝国と仲の悪いソ連とは距離を置かれてしまうだろう。
 アメリカも多分無理だ。津波で大打撃を受ける事が確定している上に、NPCなら帝国に喧嘩売って自殺。中の人がいれば帝国と手を組んでドイツやソ連との敵対を選ぶか、死の商人にでもなるのが一般的だ。

「取り合えず海軍は解体だな。何の役にも立たん」

 ソ連海軍は、貧弱という言葉すら勿体無い有様だ。日米英仏伊とは比較にならないどころか、ドイツ海軍との対決にすら耐えられない。下手をすると日英の支援を受けた――とどのつまり魔改造されたも同然だが――フィンランド海軍にも数的優位を引っ繰り返されて負ける恐れがある辺り、ソ連海軍の悲惨さが良く判った。
 こんな所に資源をつぎ込むぐらいなら、狂犬ドイツに備えて陸軍兵力をかさ増しする方がマシだった。

368 :名無しさん:2016/04/26(火) 12:05:32
「さて、どうやって生き残るか」

 多分帝国にすり寄るアメリカ、イギリス。対ソ、対独戦略の一環なのだろうが、やたら帝国に気に入られている北欧三カ国。ソ連は最悪の場合、こいつ等全部が徒党を組んで襲って来る可能性を考慮せねばならなかった。
 世界最強の技術を誇る帝国と、大西洋大津波さえ乗り切れば再び世界の工場として動き始めるアメリカ。そして、世界各地に連邦構成国を持ち、弱体化しつつあると言っても依然勢力の大きいイギリス。こいつ等に寄ってたかってボコボコにされれば、勝ち目など無い。太平洋大西洋両岸から挟み撃ちの二正面作戦は、ソ連プレイヤーなら絶対に避けねばならない最悪の展開だった。

「ん?」

 とここで、画面に変化があった。ドイツ担当になったプレイヤーからの秘匿回線メッセージだった。
 曰く、『組もうぜ』。たった一言のこの短い文章を五回も読み直して、男はふむ、と頭を働かせた。
 ナチスドイツとの陰での同盟。悪くない選択肢ではある。条約破りや嘘八百上等であるこのゲームでは、他者を信用し過ぎると足元をすくわれる。だが、現状味方なんて存在しないも同義なソ連にとっては、仮に後で裏切られるとしても魅力的な提案であった。
 少なくとも、裏切るその瞬間までは多少なりとも便宜を図ってくれるだろう。資源と引き換えに技術を買えるのは、ソ連にとっては大きな利益である。
 どうせポーランド潰しの際に嫌でも協力するか競い合う破目になるのだ。ドイツとの関係を完全に断ち切るなど不可能。仮に裏切られる可能性のあるかりそめの同盟だとしても、手を結んでしまうのも有りだろう。信用できる味方であるならなお良し。仮に裏切られても、ソ連にとっては元の孤立状態に戻るだけなのだから。
 理論上、ドイツがイギリスやアメリカ側に寝返る事は不可能ではない。騙されて結局ボコボコにされる可能性もあるっちゃあるが、アメリカもイギリスも中の人がいる以上、彼等の最優先目標は多分帝国との同盟だ。それが最もローリスクでハイリターンだからだ。ドイツも、ソ連と同じく彼等に寄ってたかって叩き潰される最悪のシナリオを危惧しているのだろう。
 日英米という強力な同盟に、独、次いでソと各個撃破されるぐらいなら、最初から組んで対抗したほうがまだ勝ち目がある。やり始めると案外長いこのゲームで、開始早々に脱落してROMに回るなど絶対に嫌だ。せめてそれが避けられるならば、独裁者同盟でも何でも組んでやろう。

「他に選択肢なんざない。ドイツに賭けるか――」

 男は、同じく秘匿回線で短く『よろしく』と返した。
 こうして、ゲーム開始早々、否、ゲーム開始以前の段階で秘かに同盟を組んだ独ソは、イタリアやトルコが様子見に徹したがために、予想通りに周囲が敵塗れという絶望的な状況の中、互いに背中を預けて力を合わせて行動するという世界不思議大戦を繰り広げる事となる。
 なお、独ソの連携を密にするためゲーム開始早々に東西から叩き潰されたポーランドには、幸運な事に中の人はいなかったという。

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最終更新:2016年09月17日 14:47