754 :手俊樹:2016/05/12(木) 21:40:11
ネタSS 落日の日章旗あるいは単なる不調 上映編

 上映が終わる。
 薄暗く映画を上映するには最適な暗さ。そこが明かりが付けられ、元の明るさに戻る。
だが映画を見た者達に動かない。いや動けない。喋る者もいない。
 季節は夏、しかし室内は冷房が効き、快適な温度になっている――にも関わらず額に汗をにじませ、あるいは目に涙すら浮かべている者もいる。

 「(残酷だが、良い薬になればいいが)」
 そうなってほしいと願い、動けない彼らを見る、映画製作に携わった関係者。

 映画のタイトルは「落日の日章旗あるいは単なる不調」。30分程度の短編であるにも関わらず、その内容はあまりにも衝撃的であった。
おそらく起こり得るであろう未来を、最良であるにも関わらず最悪ともいえる未来。
確かに独裁に走るでも、己の力に過信して世界に侵略する未来でも、偶発的要因で第三次世界大戦が起こってベルリン・モスクワ・パリ・ロンドン・東京が核で溶けるでもない。共産主義やファシズムの狂信者達がアメリカ風邪を用いたテロによる文明崩壊でもない。環境悪化により作物の不作による飢餓地獄ですらない。
自分たちが思い描いた、最良の未来。そうであった筈だ。

 だがあの未来はなんだ?

技術関連に関しては「やり過ぎだ」とも言われる衰退ぶり、しかし「これは最良の未来に起こり得る最悪な事態のシミレーション」という元救国の宰相により、シナリオが変えられる事無く上映された。

 確かに、ソ連・ナチスの崩壊に伴う外敵・脅威の消失。それによる楽観主義の席巻。それに伴う組織の腐敗。民主主義の弊害。資本主義の構造。あまりにも偉大すぎる過去とその重積……人材育成を間違えば起こり得る未来ではある。
しかし、倉崎重工の腐敗ぶりと政治の混迷ぶりは「ありえない」「我々の教育にケチをつける気か」として関係者の逆行者は猛反発した。

755 :手俊樹:2016/05/12(木) 21:43:35

 「……私たちがどこから来たか、お忘れか?」
が、大蔵省の魔王の発言によりすべてが沈黙した。

 そうだ、自分たちはあの世界から来たんだ。
 高度成長、バブル経済。戦後の焦土から立ち上がり、そして自動車大国アメリカですら舌をまく高性能自動車を初めとするすばらしい技術。
しかしその反面、倫理や道徳の変貌。政治家や会社の責任逃れ。そして社員や民間へのしわ寄せ。数多の技術の流出etc……。
 とくに政治的・軍事的知能の後退は目に余るものであり、最低限の法案ですら独裁と罵られる始末。そしてそれを止めるどころか助長させる報道機関。
 安全保障、技術漏えい阻止機能と社会浄化機能が全く機能しない世界。良い部分がどんどん腐敗していく世界。それが我々の居た世界ではなかったのか?

前の世界を知る逆行者達はそう思い出させられ、そして今、会議室に各業界の次世代を担う二世・三世あるいはその関係者が数人ずつ集められた。

 「我々がやっている事。それは世界の混迷を防ぐことであり、平和と民主主義を保持する事……以外にもやるべき事がある。理解できましたかね?」
事の発端となった魔王の発言に、彼らは頷く。


 その会議室の隣の部屋。ガラス張りになっていてその会議室の様子がわかるようになっている部屋にて、夢幻会のメンバーが語る。
 「それにしても、あの映画。どうやって作ったんです?」
 「CGや最新技術をかき集めて作ったらしい。もちろんあの出演者も逆行者だよ」
中々様になってるだろう?と続ける。
 確かに演技では出せない生活臭。まるで俺の生活じゃあないか……と言うメンバーも居た。

 事の発端は辻が大蔵省の小会議室でごく一部の関係者の前で己の野望を明らかにした件が発端である。
それを聞いた逆行者の中にいずれ自分たちも死に、その後我々のような浄化装置ですら腐敗してしまったら……という疑念が高まった。
その疑念に突き動かされるように、今回の上映会は始まった。
 あらゆる機材、技術を総動員して金に糸目をつけずに、1940年代に2010年代の生活を30分だけ再現したのであった。

しかしこの上映会により逆行者とそうでない者達の両者の認識の間に大きなズレを生じさせ、様々な影響を与えることになる一因にもなったのであった……。

落日の日章旗あるいは単なる不調 上映編 完

757 :手俊樹:2016/05/12(木) 21:50:38
以上です。勝手に冷房を作ってしまいすみませんでした。
後22時過ぎに予告があるにも関わらずうpしてしまいました…(自分も仕事の都合で22時半うpでは厳しいものがあるので)

一応本編の補足?みたいにしましたが、辻の杞憂をくみ取った嶋田さん達の行動…みたいにしました。
逆行者にしてみれば杞憂以外の何物でもないけど、本当に起こり得ない事ではありませんし…(特に新型機をめぐる迷走あたり等

759 :手俊樹:2016/05/12(木) 21:56:27
少なくとも現実の戦前の満州の豪華列車には搭載されていたので、憂鬱世界では民間にも売り出されている筈です。(普及しているとは言ってない

762 :手俊樹:2016/05/12(木) 22:05:36
(いえない。まさか26・27話見ずに、ちょっとの毒感覚で時事ネタを盛り込んだら思わぬBADENDになってしまっただなんて…)
いずれにせよ、皆さまのSSに少し近づけたようで幸いです。

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最終更新:2016年09月17日 15:23