26 :弥次郎:2016/09/29(木) 18:45:13
大日本企業連合が史実世界にログインしたようです 国家改造1 -東京は五輪の夢を見るか?-


五輪書というものがある。剣豪・宮本武蔵の著した剣術の奥義についての書物である。
名前の由来は密教の五輪にあり、5巻(地・水・火・風・空)から構成されている。
しかし、写本されたものが複数あって相違や後の時代における考察が見受けられることから彼が本当に描いたのかは少々疑わしいものとなっている。巌流島での決闘の逸話同様に、多くの情報が創作されていると考えた方がよいかもしれない。
そしてオリンピックが読売新聞の記者によって五輪と訳されたのはこの五輪書が由来で、文字数の節約という中々切実な問題から各新聞社にまで拡散して普及していった。さて、1940年に迫った東京オリンピックは、日企連にとっても重要なものとなっていた。
用地確保の名目で土地を差し出させることもできるし、日企連の予算確保の理由にもなるし、労働意欲を高めるにも使える。
よしんば史実のように延期となっても、日企連にとっては些事だ。

「いや、これは……」

徳川家達は組織委員会の委員長を命じられて、アシハラナカツクニへと組織委員会の委員とともに連行され、現在会議室にいた。
元々オリンピック招致自体は日企連が現れる前から行われていたのだが、日企連はそこにも当然介入していた。
スムーズに進んだのは千代田のお城からの意向があったことだ。というよりも、家達らが宮城に呼ばれ、直々に拝命したのだ。
そして、彼と彼の部下となる委員会の前には立体映像投射装置によって、オリンピックの会場となる都市が投影されている。

「移動型海上都市『敷島』。
 これは現在日企連が建造中で、全長2.7km 全幅およそ1.9km。収容人数およそ140万人+α。地表部には野球場 サッカー場 陸上グラウンドを備え、内部ブロックに各種競技場を設置。吹き抜け構造で、日光も風も届きます。
 馬術やセーリング、自転車といった特定の競技を除けばすべてこの都市の上ですべてが実施可能です」

大日本帝国統治委員会から出向してきた豊州千秋は

「構造としては日企連の標準的な海上都市のフレームを6つ並べて連結しています。各地で建造が進められているものと同じですな。
 港湾機能も完備しており、植物を配置した自然区画も備え、食料生産工場や水素燃料精製プラント及び関連する発電所も備えています。
 一種のバイオスフィアとして、この敷島は独立しています」
「バ、バイオ??」
「バイオスフィア。一種の循環環境ですね。それはまあ、追々説明しましょう。
 無理ならば、競技場を内蔵した区画をそれごと持ち上げて本土に設置するまでです。
 直前でごねられようとも、十分に対処可能です。それが可能ですので」

史実側の委員は茫然と説明を聞くしかなかった。
動く島を作り上げる?そんなこと、考えたこともなかった。
海上に島を作るなどは、いくらか埋め立て工事などを経験したことがあるからこそ、ある程度は想像できた。
だが、これだけの規模で、あまつさえ動かせるようにするなど、一体誰が考えた?
これを、ただ一つだけでなく複数浮かべている?ありえない。
そのため彼らの、史実側のオリンピック委員会のメンバーの思考は半ば飽和していた。

27 :弥次郎:2016/09/29(木) 18:46:08
だが、その中で手が上がった。
その人物は、委員長たる徳川家達だった。

「何故ここまでする?ここまで大きな都市を作る意図は?」

そこが、家達には分らなかった。
まるで見せつけるかのように、この海上都市を作り上げ、惜しげもなく資材を投じる意図が。
別に陸地でやってもよいはずだ。そもそも日企連の力をもってすれば、帝都の改造も容易いはずだ。
いや、現在も進められているのは伝え聞いているし、自分も見ている。

「何故だ?日企連は、一体何を考えている?」

その問いかけに、豊洲は目をすっと細めた。

「知りたいですか?」
「当然」
「後悔しますよ?これを聞いたあなた方は、もはや無関係ではいられない」

警告じみた脅し。
だが、家達はなおも問いかけた。

「気前よく恵まれても、そこばかりは納得はできない。
 我々は無邪気には喜べない。君たちが何を求めるつもりなのか、問わなければならないのだ。
 何故、君達はそこまで力を誇示する?まるで、挑発しているようにも見えるのだ」

まるで日企連の態度は既存の社会に喧嘩を売っている。
それが偽りのない感想だ。事実彼らの行動は既存社会を崩壊させかねない勢いで推進され、辛うじて均衡を保っている。
それが保たれているのは、ひとえに民がそれを支持しているため。熱狂的とさえ呼べる支持を、日企連は集めている。

「どうしても、とおっしゃるならば、お答えしましょう」

暫く、豊洲は言葉を区切った。家達らの目をのぞき込むような視線を送っていた。
家達は、視線を逸らさない。いや、逸らせない。目の前にいきなり突き付けられた日本刀から目を逸らせなくなるように、たとえそれが自分にとって致命的であるとわかっても、見入ってしまった。

「帝国を、そして日企連を侮られては困るのですよ。世界の人間はいかに自分たちが愚かで、矮小で、非力なのか知らないのです。
 このオリンピックが終わった時、他国は試される。日企連と競い合うか、それとも滅ぼし合うか、従うか、手を取り合うか」
「踏み絵とするのか」
「ええ。遅かれ早かれ、日企連は脅威と映るでしょう。
 脅威ととられてもよいですが、かと言って、侮られては困ります」

豊洲はホログラフィックの『敷島』を手で示す。

「お気づきかもしれませんが、この海上都市技術は非常に高度なそれを用いています。
 それこそこれまで存在しなかったのような技術も導入し、これまでの常識を覆しています。
 彼等も少し考えればこの海上都市が持つ価値を知るでしょう。軍事的・政治的そして経済的に、とてつもない価値があります」
「価値?」
「いずれはお分かりいただけるでしょう。ただ、常識が崩れ去ることは確かです」

28 :弥次郎:2016/09/29(木) 18:47:13
いいですか?と豊洲は立体映像投射機を操作し、惑星の映像を投影する。

「これが地球です。宇宙の片隅の、太陽という恒星を中心とする太陽系の、ほんの一部に過ぎない惑星です。
 宇宙の大きさから見れば、豆粒よりもさらに小さい原子のような、とてつもなく小さな星です。
 そして我々はその惑星の表面にへばりつくようにして生活しています。たかだか数千年単位で進化しただけの、タンパク質や炭素で構築された動物が支配者を気取っているのです」
「我々は小さな存在か……」

呻く家達。その言葉に豊洲は頷く。

「だからこそ、我々はその小ささを自覚し、研鑽を重ねてきた。
 まだ世界の人々は、特に欧米は日本を黄色人種と侮り、自らを神に選ばれた民とうぬぼれています。
 しかし、そんなものはただのまやかしに過ぎない。そんな幻想から目を覚まさせてやり、自分たちが如何に矮小かを教えてやらねば。
 彼らが神に選ばれた民を気取るならば、我々は神にさえ縛られぬ『例外』となりましょう。
 神にさえ従わず、邪魔をするならば神さえも容赦なく滅ぼすこともできる、とびっきりの『例外』に」

豊洲の口調は、陶酔さえしていた。とてつもない自己陶酔。
しかし、それは確固たる自信と根拠に基づいている。

「色付き(カラード)と侮り戦争を仕掛けてくるならば、我々も覚悟を決めて相手を滅ぼすとしましょう。
 彼らには、首輪を付られけ飼いならされた(カラード)の犬畜生となってもらう。我々は、それを行うだけの力がある。
 もし戦争となれば、もはやその未来は覆しようのない物となる。彼らにとって我々はイレギュラーでしょう」
(その自信があるのか……)

堂々と、戦争を恐れないと言った。そして、確信を持って勝利すると宣言した。

「秩序に抗う、不穏分子だと。ですが、我々にためらいなどない。彼らのラグナロク、あるいは最後の審判を告げましょう」
「…………」

しかし、誰もがそれに恐怖していた。
その返答はあまりにも過激だった。

「少しばかり、言いすぎましたね。では、話をオリンピックに戻しましょう」

そこまで言った後、豊洲は口調を改め、会場の説明に戻った。

(ああ、藪蛇であったか……)

だが、それは殆ど史実側のオリンピック委員会の耳には入ってこなかった。
特に、質問をしてしまった家達は自分の高度づを恥じていた。正直、彼らを見誤っていた。
日企連が、軍を持ち、陛下を担ぎ上げた、既存社会に喧嘩を売るような狂った会社であるというのは薄々感じていた。
そんな常識外の、これまでの通例を悉く覆す日企連は、挙句に政府や軍を支配下に置き、日本列島そのものの大改装に乗り出した。
その規模や技術は伝え聞く限りでもこれまた常識外。誰がやろうとしただろうか。狂っている。

だが、彼らは別な意味で『狂って』いた。まともではない。
彼らは、ただその意志で何もかもを打ち破って来たのだ。
意志の強さは、この帝国を容易く飲み込み、挙句に他の列強さえも飲み込もうとしている。
持ち得る権力も技術も戦力も、常識外にある彼らは、常識外のことを目論んでいた。
彼らのような無茶苦茶な発想を、夢物語ではなく現実にできるだけの力がある。

(狂っている……!自分達が狂っているとわかっていて平然としている……!)

そして、彼らは彼らの損得勘定だけで、この国を乗っ取った。
帝国のため、世界のためと謳いながらも、その実態はただの自己満足のための行動。
やがては、この世界さえも武力と経済力で牛耳ることをいとわないつもりだ。
かの太閤などとは比較にさえならない、傲慢で、独善的な計画。
家達は恐怖さえ覚えた。日企連という深淵をのぞき込み、そこにあるものを見てしまったのだ。
豊洲が述べたように、もはや彼らは後戻りできない。
既に彼らの、史実側の君主たる今上帝は、この狂気の企業連合を肯定し、配下とした。
彼らは、ただおびえるしかできなかった。

29 :弥次郎:2016/09/29(木) 18:49:49
以上です。wiki転載はご自由に。

ルサンチマンと言われるかもしれません。
しかし、生まれもイレギュラーで存在自体がイレギュラーであることを考えれば、日企連の考え方は至極当然です。
荒れ狂う雨の中で、我らの反撃を始めよう。言葉はいらない、ただ静寂の中で悟れ。
混沌の中に、我らはいるのだ。



なんちゃって。

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最終更新:2016年10月03日 13:59