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『北海の惨劇』

アメリカ軍が大挙してブリテン島に上陸した時、スカパフローにはR級戦艦と俗称される『リヴェンジ級戦艦』である『リヴェンジ』『レゾリューション』『ラミリーズ』『ロイヤル・サブリン』『ロイヤル・オーク』が停泊していた。共産英国政府の発表では『枢軸国に圧力をかける為』等と宣伝していたが、その実態はただ単にこの旧式戦艦群に十全に
回せるだけの燃料が不足し始めた為に、最新鋭艦に燃料供給を優先する為に引き籠らされているだけである。だが結局、その『最新鋭艦』も悉くカリブの海に没した為に、地中海方面に配備されていた為にジブラルタルを航空攻撃と艦砲射撃で破却され、中東方面からはスエズ運河目指して突貫中の日本軍の存在の為に実質孤立状態にあるクイーンエリザベス級戦艦を除けば、現時点でイギリス…否、連合国に残された唯一の自由に動かせる戦艦であった。


アメリカ軍の装甲空母部隊がブレスト港とジブラルタル、そして共産連合軍の航空戦力を蹂躙した時、この旧式戦艦部隊は一切反応を見せなかった。敵艦隊には46㎝砲戦艦のアイオワ級戦艦の存在が多数確認されており、装甲空母群の存在も加味すれば、最大速力22ノット弱、38.1㎝連装砲4基のR級戦艦では、仮に生還の事を一切考えずに道連れ覚悟の夜戦突撃を実行したとしても、敵艦隊に一撃を入れる事も出来ずに早期に発見され、一蹴されるのが目に見えていた為である。故に、イギリス最後の打撃艦隊は安全である『ハズの』スカパフローに籠っていた。アメリカに潜入していた連合国諜報部員からの報告によれば、枢軸軍は上陸部隊の編制に手間取っていると言う報告が来ていた為、今暫くは艦隊を『疎開』やら『防空要塞化』やらをするにせよ、それなりに猶予は連合国に残されていると考えられていた。

その為に、アメリカ軍の第二陣がアイルランドとブリテン島に上陸し、寝耳に水の侵攻を開始したのは、連合軍の中でも取り分けイギリス人を驚天動地させる物であった。
ソレが為にブリテン島中部以南では一部の共産イギリス軍による徹底抗戦と民兵の大量動員を誘発させて、ブリテン島の特に中南部地方は完膚なきまでに荒廃するのであるが、この時スカパフローにいたR級戦艦群は、アメリカ軍の陣容を知ったロンドンからの指令によって一路ソ連かドイツの港に逃げ込むべく準備を行っていた。サウスダコタ級戦艦等の
高速戦艦が多数存在する艦隊に突撃してもアメリカ人に獲物を献上するだけでしか無く、捲土重来を期して退くしかなかった。そして直ぐ傍にアメリカ軍が来ている為に自然と心理的に否応なしに焦って仕舞い、海中からR級戦艦を見つめている存在に気付く事は無かった。

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臨時編成の『スカパフロー脱出艦隊』の面子は、R級戦艦の『リヴェンジ』『レゾリューション』『ラミリーズ』『ロイヤル・サブリン』『ロイヤル・オーク』商船改装空母二隻、駆逐艦8隻と言う物であった。商船改装空母の艦載機は戦爆両用と言う事でかつ数もそこそこある為に『フルマー』を搭載しており、駆逐艦は船団護衛に使われていた旧式駆逐艦、そしてそれらの乗員の殆どは戦時徴兵かつ促成栽培物と言う素人目にも分かりやすい適当な寄せ集め編成だった。とは言え、アメリカの主力艦隊はスカパフローには目もくれずに常時ブリテン島に上陸した枢軸軍の支援にてんてこ舞いで有る事は、イギリス陸軍からの報告で分かっていた為に兎に角対潜能力が一定度有る艦艇がそれなりに揃えば脱出するだけなら何とかなるとロンドン司令部は考えていた。枢軸軍の海軍拠点からはスカパフローから極めて遠い為に潜水艦の襲撃は散発的な物だろうと想定していたのだ。結局の所、事ここに至ってまで楽観論に基づく判断を行ってしまった限り、共産連合はアメリカや日本の本質的底力を理解し切れて居なかったのだろう。アメリカが戦艦や空母、戦車師団等の『目立つ大物』しか作らない、作れない様な国家では無い事を。


スカパフローを夜逃げ同然に出撃した脱出艦隊は、出撃してから僅か15分と経たない内に敵潜水艦との接触を受ける。即座に護衛駆逐艦が爆雷攻撃を敢行するも戦果未確実と言う結果に終わり、その後も引っ切り無しに敵潜水艦の発見報告と不明電波受信が艦隊に飛び込み続け、艦隊全ての乗員に対して長時間続いた対潜戦闘と針路変更による精神的、肉体的疲弊を必然的に増大させていた。無視したくとも、敵潜水艦は連合軍から『Quiet murderer(静かなる殺戮者)』と畏怖される酸素魚雷を撃ち込んでくるために無視出来る筈も無かった。そしてイギリス脱出艦隊は疲れ切った頭の中にふと疑問を想い浮かばせた。『どうして此処まで敵潜水艦が襲撃してくるのだろう?』『自分たちがアメリカに向かう時は遠すぎたせいで対して物量攻勢を掛けられなかったのに、何故敵は北海にまで潜水艦を送り込めたのだろう?』…と。

彼らの疑問は、戦後になって晴れる事になる。枢軸国の主要国家である日本帝国とアメリカ合衆国は、この第二次世界大戦中に多数の高速補給艦艇を整備し、実戦投入していたのであった。特にアメリカの場合、戦前は軍事予算を大分削られていた事も有って大した補給艦艇を整備していなかったのだが、戦時予算で激増した海軍予算をふんだんに使用して、複数の機動艦隊を丸々編制出来るだけの費用を投じて『開戦後に建造を開始して』『第三次カリブ海開戦前頃には』実戦投入していた。その為『Operation Enduring Freedom』や後の欧州大陸制圧戦では、その優秀な補給艦艇の存在も有り、燃料切れや物資不足を心配する事無くアメリカ軍の陸海空全ての戦力は獅子奮迅の大暴れをしていくのであった。因みに日本軍の方は恐慌の震源地だった為に予算激減を余儀なくされたアメリカ軍よりも幾らか恵まれていて、戦前からそれなりの高速補給艦艇を揃えていたが、開戦後より又アメリカと同じく優秀な補給艦艇を無数に増産している。

293 :641,642:2016/01/03(日) 16:13:39
少し話がそれたが、兎に角枢軸軍が大量増産した補給艦艇の中には当然の如く潜水母艦も多数建造されており、ガトー級潜水艦の補給を引っ切り無しに行っていた。
その為に潜水艦部隊は、余程酷い損傷を負ったりしない限り、理屈の上では帰還しなくても長期間通商破壊活動を続けられる状況であった。無論、人員の疲弊や艦体整備等の関係も有る為に潜水艦の増勢が進むにつれて余裕を持ったローテーションを心がけられていたが。そしてその多数建造された潜水母艦の恩恵を受けたガトー級潜水艦は、既に商船が絶滅した大西洋からケルト海やビスケー湾、更にはブリテン島を超えて北海にまで大挙襲来していた。R級戦艦部隊が遭遇したのは、その北海に進出して来たガトー級の第一陣であり、極めつけて不幸な事に、その第一陣の編成は、艦隊でも一番初めに大西洋を越えて北海に乱入すると言う事で、大西洋で多数の商船を撃沈したり、幾度も敵艦隊を早期発見する武功を立てたりしていたベテラン勢が集中的に配備されていた。『連合軍の厄災』こと『アルバコア』こそ整備の為に第一陣メンバーには居なかったものの、そんな事は何の慰めにもなりはしなかった。

艦載機の発艦出来ない日の入り直後に『ガードフィッシュ』はイギリス脱出戦艦部隊を発見。イギリス艦隊の心理的な焦燥や装備不足、また戦時編成の為の促成劣位な連度などによってじっくりと艦隊の針路と編成を識別する事が出来た『ガードフィッシュ』は、周囲の味方艦に最大出力で情報を伝えると同時に酸素魚雷を全門斉射後、即座に沈降して逃走を開始。追撃するべきイギリス駆逐艦は一隻が艦橋下部に酸素魚雷を一発被雷し、艦体の半分以上が消し飛んだ末にそのまま沈没。残る射出魚雷も商船改装の護衛空母に二発被雷し、防御力皆無なその艦体が耐えられる筈も無く轟沈。その後イギリス脱出艦隊が夜間の対潜戦闘で混乱し、イギリス海軍らしくもなく事態収拾に時間を掛ける醜態を見せる中、世にも珍しい『ワンショット・ツーキル』を成し遂げた『ガードフィッシュ』に引き続き、多数のガトー級潜水艦が潜水艦戦術の本家本元であるドイツ海軍顔負けの見事なウルフパック戦術を展開。潜水艦隊が久方ぶり、かつ最後の多数の戦闘艦艇を一度に喰った戦闘であった。


アメリカ側が戦闘中に潜水艦『ドラド』をイギリス駆逐艦の爆雷攻撃で喪失し、その他二隻に中小破、一隻が大破し撤退途中にて乗員救出後沈没の損害を受けるも、その代価として最終的に護衛空母二隻、駆逐艦三隻、戦艦『ラミリーズ』撃沈、戦艦『ロイヤル・オーク』中破、『レゾリューション』大破と言う膨大な戦果を獲得。その後追撃もそこそこに本来の目標である商船狩りへと任務を移行するも、組織だって撤収した為に戦闘後に『ラミリーズ』に発生した悲劇は知る由も無かった。『ラミリーズ』は艦隊から取り残された末に、誰にも看取られる事無くたった一隻で、多数の乗員と一蓮托生に冷たい北海の海底に沈んでいった事を。

ガトー級潜水艦の襲撃が終わった時、イギリス艦隊の陣形は、正しく『算を乱す』と言う表現が適切なまでにボロボロであった。元々促成栽培の水兵が多くを占め、艦も旧式な物が多数だった為に、こうなるのは当たり前だったかもしれないが。旗艦の戦艦『ロイヤル・サブリン』は取る物も取り敢えず、通信の繋がる残存駆逐艦と戦艦に溺者救助を早々に切り上げて、損傷を負った『ロイヤル・オーク』はキール軍港、残りの戦艦『リヴェンジ』『ロイヤル・サブリン』はレニングラード近くの軍港であるクロンシュタット軍港へ退避する様に命令する。この時『レゾリューション』は被雷の打撃で通信機器が破壊された上に機関部への浸水も発生しており、探照灯による救援要請もイギリス艦隊司令部からは無視された。もしかしたら戦闘の混乱が未だに残っていたせいで本当に『レゾリューション』の救援要請に気付かなかっただけかもしれないが、唯一つ言える事は、『レゾリューション』は乗員の必死の救援要請も空しく味方艦隊から置き去りにされ、少しずつ進む浸水の恐怖と何時止まるか分からない機関の状態に怯え、戦いながらも、数百名近い乗員の命と共にたった一隻で北海の地に没した事だけである。

294 :641,642:2016/01/03(日) 16:16:36

終戦後、アメリカとイギリスの情報を突き合わせて調査した際に、この『レゾリューション』に齎された悲劇が漸く発覚するも、イギリス軍は『レゾリューション』をガトー級の攻撃で喪失したと公式には認定しており、アメリカ軍はその情報を元に海底探査を行うも『レゾリューション』らしき物体の存在は確認されなかった。その後もアメリカやイギリスのみならず話を聞きつけた部外者である日本人も混じって北海の各地を探査した物の、現在に至るまでも『レゾリューション』は発見されていない。


そして、脱出に成功した他戦艦にも悲劇的な未来が待ち受けていた。其々修理や補給こそ行われるも、戦争は既に海から陸地と空へと移行している為に、旧式戦艦には防空砲台以外の出番は殆ど無かったうえに、『枢軸軍の欧州大陸上陸』『スペイン・イタリアの参戦』『ドイツの降伏と寝返り』と言う目まぐるしく変わりゆく戦況に翻弄された末、ドイツとソ連に其々接収されたR級戦艦たちは、ドイツに逃げ込んだ『ロイヤル・オーク』は『バルバロッサ』と改名され、ソ連に渡った『リヴェンジ』『ロイヤル・サブリン』は『アルハンゲリスク』『ノヴォロシースク』と改名された末に、枢軸と連合に分かれて姉妹艦同士が敵味方として戦うになる。



祖国であるイギリス帝国が第一次世界大戦を繁栄の頂点として、戦費返済に四苦八苦し、恐慌で急激に零落れ始め、逆恨みからの一発逆転を掛けて自らの先祖が積み重ねた『歴史』を投げ捨てて共産化し、一瞬の栄光を見せた末に凋落して行く様を、何も出来ないまま見続け、第二次世界大戦における初戦闘で北海にて無為に二隻の姉妹艦を喪い、挙句の果てには名を変え国籍を変え、敵味方すらも変わった末に『同じ姉妹艦』が『敵同士』として戦う事になった彼女たちに、もし『魂』と言う物が有ったとするならば…一体、どの様な思いを抱いていたのであろうか、今となっては、唯神のみぞ知る者である。願わくは、天界にて彼女たちの魂が安らかなる時を過ごせ給う事を………




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295 :641,642:2016/01/03(日) 16:19:32
ハイ、以上になりまするー。正月三が日最後の日に何つー物を書き込んでいるのやら。
まあ正月三が日休みは今日だけなんすけどね自分<(゜∀。)<アヒャ


さーて、次何しようかなっと……

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最終更新:2016年10月13日 16:21