173 :弥次郎:2016/10/17(月) 19:20:27
大日本企業連合が史実世界にログインしたようです 閑話 -駐日大使は困惑する-


1936年2月14日に発生した軍部によるクーデターと、同時に発生したエンペラーによるカウンタークーデター。
明治の維新以来の権限奉還という事態は、当然のように国民だけでなく、国外でも大きく取り上げられた。
最初は単なるクーデターとも思われていたのだが、3月5日に行われた玉音放送により、それが通常とは異色の物であると判明した。

1936年3月10日午前8時13分。
駐日アメリカ大使館でジョセフ・グルーは眠い目をこすりながらも玉音放送の内容の意訳に取り込んでいた。
たんなる英訳だけでは伝わらないニュアンスや言い回しに注意しながらも、読み下す。

特に駐日大使であったグルーはこの『権限の奉還』を重く見ていた。
権限の奉還が行われたのは近いもので言えば江戸幕府の末期に、明治の始まる前の『大政奉還』がある。
実質的に国王(将軍)がその政権維持能力がないと認めたことで、江戸幕府はその幕を下ろした。
つまり、これから大日本帝国は江戸幕府以来の大きな構造変化が起きるということである。

「見れば見るほど衝撃的だ……まるでエンペラーが国民を見捨てると宣言しているかのようだな」

グルーは日本人については知っていた。特に民族性あるいは風土的なモノを理解している。
国民のエンペラーへの敬愛あるいは情熱というのはかなりのものだと知っている。
ある意味、キリスト教圏における神への信仰と同じものを感じる。厳密に言えばキリスト教と神道における神は定義からして全く異なることを予め断っておくが、ともかく、それほどに強い感情を向けていると理解していた。
興味深いのは、エンペラーによる既存政権からの権限取り上げと、新たな支配者への譲渡だ。
この国の歴史は、エンペラーが時の権力者乃至支配者を認可し、権力を保証するということで政権が代わって来た。
つまり、新たな支配者として企業(カンパニー)がエンペラーに選ばれた。そうするに足る理由があるということだ。
その理由は何か。既に玉音放送の内容は本国に送ってある。今グルーが取り組んでいるのは、それの意図するところの読解だ。
何人かの人間と接触をして情報収集をし、その結果とこれまでの国内情勢を元に考察しているのだ。
かなりの集中と根気のいる作業だ。

「グルーさん、新しい資料です。いや……酷いものを見たな……」

グルーは書類の束を持ってきたベンジャミン・ウェルツのボヤキを耳にする。

「ん、どうしたんだい?」
「いえ、ちょっと騒ぎがありました。エンペラーパレスに向かってセップク……つまり自殺(スーサイド)していたんですよ」

ベンジャミンは握り拳を下腹部の前で動かした。
その動きから、グルーは割腹自殺、ひいては切腹であると察した。

「違うよ、ベンジャミン。セップクと自殺は異なる……命をとして詫びる行為がセップクさ。
 で、そのセップクをしたのは一体だれだったのかね?」
「軍人でしたね。将校に見えましたね」
「そうか、ありがとう」

礼を述べ、紙面に目を落としながらもグルーは考えを巡らせた。

(となると、いよいよ企業(カンパニー)がこの国のすべてを支配するのか)

軍の人間が、それも将校クラスが腹を切るということは、少し前の反乱以来政治的な権限を有していた軍さえも
これまでの失態を咎められたということになる。エンペラーの城に向かってということはそういうことなのだろう。
エンペラーと言えば、とグルーは思い出す。今日、3月10日は特別なイベントがある日だった。

「そういえばベンジャミン。今日は確かJaCの記者会見がある筈だったね?」
「ええ。ラジオで放送するはずです。エンペラーのスピーチもいいですが、こちらも注目した方が良いですよ」
「ああ、そうだな。この部屋で聞きたいから、ラジオを頼むよ」

分かりました、と返事をするベンジャミンの言葉を聞き流し、再び紙面に目を戻す。

(JaC、か。一体どこに隠れていたやら)

本国から情報を集めるように言われた企業、大日本企業連合。
グルーが会見で来た日本人の誰もが困惑していたということは、誰もが知らなかったということ。
一体どういうことなのか。グルーの興味は尽きることはなかった。

174 :弥次郎:2016/10/17(月) 19:21:56
以上。wiki転載はご自由に。1レスのみの小ネタです。
ちょっとまだ本編時間がかかりそうなので短めのネタだけ投下します。
SAN値がガリガリ削る答弁になっていて、書いていて若干辛い。
ぶっちゃけると商人の肩書の少佐と史実の人間の会話です、やばい…

175 :弥次郎:2016/10/17(月) 19:23:23
またやらかした…

×今日、3月10日は

〇今日、3月10日は特別なイベントがある日だった。

修正お願いします。
何時も転載ありがとうございます。

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最終更新:2016年10月24日 10:40