294 :弥次郎:2016/10/24(月) 22:55:49
大日本企業連合が史実世界にログインしたようです-4- 「日企連の胎動」 -起- 舞台裏



記者会見場から出た神崎はわき目も降らず、護衛を引き連れて移動する。
質問をぶつけようとする記者も多くいたのだが、全てブロックされていた。

「報道の自由を守れ!」
「逃げるのか、卑怯者!」
「横暴だぞ!このことは記事にするからな!」

後ろから聞こえてくる罵声は、英語であれ他の言語であれ、全て神崎に届いていた。
しかし、一顧だにしない。そんな価値もないからだ。話すだけ時間の無駄。
新聞記者はこの時代においては権力者であった。日企連の指導が及ぶ国内ならばなんとかなるが、流石に海外の記者はどうにもならない。
だが、そのツケはいずれその国の国民が払うのだ。精々言わせておくのが一番である。
経済戦争になれば、この星の資産家の中に日企連に勝てる資産家や企業家など存在しない。
それだけの経済の怪物(エコノミック・ビースト)なのだ。

「……事前の警告を受けながら、我々と争うつもりですか。やれやれ、無知とは悲しい」

一人呟く神崎はそれとなく時計をそっと触る。
スイッチが入り、無線機がその機能を働かせる。

「どうでした?」
『無粋な客人が30名はいました。出口で確保します』
「派手にお願いします。ついでに広報部にも連絡を」
『もちろんです』

唇を殆ど動かさず、天鶴の一室にある監視室と会話する。
別に神崎が腹話術を心得ているわけではない。耳の中にイヤホンがあり、モーニングスーツのネクタイにセットされた
骨伝導式の通信機による会話だった。記者会見の会場においても神崎に向けられた言葉は全てマイクによって拾われ、通訳が逐次それを翻訳して伝えていた。神崎がその気になれば、会場にいた人間の拍動さえも聞き取ることができた。
故に、悪態であろうとも言葉を一つ一つ掬い取ることはできた。

また会場にあまりチェックもなく通されたように見えたが、その実態としては綿密なほどにチェックされていた。
X線 赤外線 サーモセンサー 通常のカメラなどなど、出入り口にはそれ相応の監視システムがあって一瞬で検査されていた。
カメラに限らず、聴覚や視覚を強化する外科的な施術を受けていた警備兵がその義眼などで逐次チェックもできた。
結果、明らかに目的にそぐわない物品の持ち込みがあった。大方、日企連についてあれこれと調べようとしたのだろう。
しかし残念なことに日企連はその手の戦いにも慣れていたし、技術的にも先行しているだけあってより経験を経ていた。

(高い授業料になったと思ってもらいますか……)

彼らは困惑するだろう。隠していたはずのそれらがなぜ容易く見破られたのか、理解できないから。
いや、正確に言えば理解したくないからかもしれない。彼らは常識外の例外(イレギュラー)を嫌う。
自分達の地位や名誉、あるいは権益などが揺らぐと思っているから。
だからこそ小さいのだ。彼らは。どうしようもなく、矮小。

既に日企連にはイレギュラーが存在している。
UnKnownなども良い例だが、企業の成り立ちそのものが「本来の歴史」から見ればイレギュラーだ。
だから、覆されることも覚悟の上。無論、覆されないように注意と警戒をしているのだが、蹂躙されるだけの覚悟はある。
嘗ての盟友企業であるレイレナード社が、自らが滅ぶことさえも計算に入れて世界と相対したように。

(そんな程度の覚悟もないなら、大人しく耳と目を閉じ、口をつぐんで、無為のまま死ねばよいだろうに)

神崎は思う。プレイヤーとなるということは、奪い奪われる地位になるということ。
ただ口だけが達者な論者(観客)が状況を動かすのではない。プレイヤーこそが状況を動かすのだ。
だからこそ、メディアなどはプレイヤー気取りの観客に過ぎない。
前世で、あるいはそれ以前の人生の出来事が古い機械に記憶された記憶(Mechanized Memories)のように思い出される。
何時の時代であれ、何処の国であれ、そういったメディアは自らの権力に溺れていた。そのように、神崎は記憶していた。

そんな神崎の背後でバタンと扉が閉まる。
記者会見場から響いていた声などは全てシャットアウトされた。
あとには神崎から立ち上る、怒りとも呆れとも取れる空気だけが残り続けていた。

295 :弥次郎:2016/10/24(月) 22:57:15
「これでよかったと、そう思いたくないのはぜいたくな悩みなんだろうか」

東京府の首相官邸にはノーマルも含む厳重な警戒が敷かれていた。
2.26事件の後からいくらか外出の制限は解除されているが、事実上厳戒令は維持されたままだ。
むしろ、今回の会見の後からが本番であった。解除されているのは要するに息抜きである。
首相官邸で話をするのは岡田内閣代行大臣と鈴木貫太郎侍従長。
ラジオ放送を聞いていた岡田の元を鈴木が訪れたのはつい先ほどの事。
録音していた会見を聞きながら、岡田は窓の外を闊歩するVシリーズACを眺めていた。

「あの会見、まさかあそこまで言うとはな……」
「日企連の人間の言い方を借りれば直球、というのかな。いや、見事に啖呵を切ってのけていた」

一方でソファーに身を委ねる鈴木は笑みを浮かべている。
実に痛快、と言わんばかり。実際、彼は神崎代表の大胆な物言いにむしろ心地よさを覚えていた。

「陛下は笑っておられた。変に卑屈にならず、あのような態度をしてのけねば、日企連らしくないと」
「豪胆な……見習いたいものだ」

しばし考えた岡田は、やがて漏らした。

「これは、ある意味反逆なのだろう」
「は?」
「こうなる運命なのだと、こうなってしかるべきなのだと、そういう流れに抗う行為だ。
 本来ならば、あと数か月で日中戦争がはじまる。それがどうなるかも、分からなくなっている。
 本来の歴史から如何に剥離できるか。それは全て我々の双肩にかかっている……」
「それは、まあ、確かに」
「仮にも内閣代行総理大臣を拝命した私が躊躇ってはならぬとは分かっているのだがな……」

弱音だ。
代行という形にせよ、絶大な権力と国力を握る地位についている岡田はこの帝国で言えば2番目の地位にある。
しかし、いきなり舵取りの意味が変わった。このまま流れに任せることは危険だと教えられたのだ。
どうすればいいのか、見当がつかなくなる。ただ、終わりだけがぽっかりと浮かんで見える。

「岡田啓介代行総理大臣」

不意にフルネームを呼ばれ、振り返る岡田。
皇居の方向へと一礼した鈴木は真剣な表情でここに来るまでにあったことを話す。

「陛下は一言私に問われた。『朕は王道を進めているだろうか』と」
「それは……」

王道。それは、理想の政治。理想の王がとる政治の道。政の道。
幾多の君主がそれをなさんとした、民も国も豊かになる治世の事。

「歴史を見れば、覇道を進み、凋落した君主は星の数だけおり、それは今日の歴史が示している。
 日企連の持ち込んだ資料にもそれは記されておりました。当然、陛下もご存じの筈。その上で、私に問われた」

その意味は、おのずと分かる。

「陛下さえも、躊躇いや迷いを持たれたということ。日企連に命じることを、最後まで躊躇われた。
 日企連によれば、陛下が決断を下されたのは今年の2月24日。この意味はお察しいただけるだろう」

しばしの沈黙。
そして、岡田は、笑った。
大きな笑いだ。ともすれば、滑稽にさえ見える笑い。
鈴木はその笑いの意図するところをつかめずにいた。
暫く笑いを収めた岡田は、ややせき込みながらも言い放った。

「ならば、我々は結末を覆して見せる。陛下のお選びになった道が、覇道ではなく王道であると証明してみせればよい。

呵々と笑った岡田は、溜まっていた涙を振り払う。

「そう、日企連の言葉を借りれば、例外(イレギュラー)であったか、その例外ならば、それができるはずなのだ。
 王道を進まんとするならば、我々はその礎となり、道となろう。この体も命も、何もかもが陛下の物なのだから。
 その力を我々が発揮できなければ、この国は本当の意味で滅びる」

故に、と岡田は宣言した。

「故に、戦って見せよう。そして、証明するのだ。陛下が正しかったのだと」
「微力ながらも、この鈴木も御助力しましょう」

二人の臣民は、固く誓い合った。
全ては陛下の為、この国の為に、そしてすべての臣民のために。
日企連を利用してでも、彼らの目的を理解してでも、この帝国に尽くす。
彼らに残された道は、それだけなのだから。

296 :弥次郎:2016/10/24(月) 22:57:49
以上です。wiki転載はご自由に。

マスコミの話題が出たので速攻で書いてみました。
そして覚悟完了な臣民お二人。

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最終更新:2016年10月26日 14:12