492 :弥次郎:2016/10/28(金) 00:35:09
大日本企業連合が史実世界にログインしたようです 幕間 -総統は夢想する-



西暦1936年3月18日 ベルリン。
第三帝国(Das Dritte Reich)の首都たるベルリンは寒さに震えていた。
ドイツの緯度はドイツ南部ミュンヘンさえも札幌市よりも北に位置し、日中の気温が10度を下回るなど3月では珍しくない。
そんな寒さの中でも、ドイツという国は動いていた。否、むしろ普段より動いていたというべきか。
何しろ西暦1936年2月にドイツ帝国はラインラントへと進駐し、アーヘン、トリーア、ザールブリュッケンに兵営を設置。
同地域の非武装化を明言したヴェルサイユ条約や1925年のロカルノ条約などを平然と無視したものであった。

これには仏ソ間で仏ソ相互援助条約が結ばれたことを言いがかりとしたものだったが、ヒトラーにとっても薄氷を踏む行為だった。
事実ヒトラーはラインラント進駐の結果をかなり緊張しながら待っていたようであったし、ハインツ・グーデリアンもこれに言及していた。
結果的に言えば、戦争になれば負けると覚悟していたドイツの予想ははずれ、イギリスとフランスはそれを咎める行動を
公には行わなかった。後の時代においてはこの行動を咎める意見もあるが、隣国のフランスにしてみれば軍事行動に移れず、イギリスも準備の最中という実態を鑑みれば、その意見は現実的でないとみるべきだろう。

ともあれ、このラインラント進駐という、虎の尾を踏んで何事もなかったような軍事行動は結果的にヒトラーの権威を高めた。
それを讃える声が収まらぬうちに、ドイツ第三帝国は他の列強同様に日企連への相対を求められていた。

「まったく信じがたいな……」

裏表を含む情報網から得られた情報を元に作成された日企連の資料をめくりながらドイツ帝国総統ヒトラーは唸った。
ヒトラーが感じているモノを一言でいうならば、既視感。
あるいは、同族嫌悪と言い換えてもいい。同じモノを見ているのだ。
それは、ナチス・ドイツと酷似した企業であると判断していた。
少しヒトラーの言葉を借りよう。

「熱狂した大衆だけが、操縦可能である」
「政策実現の道具とするため、私は大衆を熱狂させるのだ」
「女は弱い男を支配するよりも、強い男に支配されたがる」
「弱者に従って行くよりも、強者に引っ張って行ってもらいたい。大衆とはそのように怠惰で無責任な存在である」

これらは神崎による記者会見で見られたものを端的に表している。
即ち、諸外国に喧嘩を売ってのけ、とてつもない計画を立ち上げ、事実大日本帝国という国家を乗っ取り、世界の前に初めて姿を現した記者会見という場で完全に欧米を論破した。大日本帝国は神崎という強い男に支配され、熱狂し、コントロール下に置かれている。事実大日本帝国内での評判は上々。余程極端な報道でなければ、神崎を讃える記事ばかり。
無論神崎を叩いている国内の新聞もあるのだが、ヒトラーにはその末路を容易く想像できる。
即ち、破滅である。

その事に同情もしない。
彼にとっては状況判断が出来ぬマスコミなどただの凡人に過ぎない。
その末路が政府によるものか、国民によるものかの違いはあるだろうが、結果は同じだ。

「全くもって狂った企業だ。しかし見事でもある……」

ブツブツと感想を漏らす。
言葉にすることで頭を整理する。

「ハイドリヒ、ヤーパンの現状についての報告をしろ」

やがて、ヒトラーは沈黙を以て控えていた男に命じる。

493 :弥次郎:2016/10/28(金) 00:36:09
命じられた男 ラインハルト・ハイドリヒ親衛隊中将は、求められるがままに答えを出す。

「皆無ではありませんが、事実上の皆無としか言えません。
 JUU(Japan Unternehmen Union)はゾルゲ摘発に絡んで、多くの諜報網の排除に着手し、これに成功しております。
 また、報道や省庁間の連絡に関しても過剰なほどに統制と秘匿がなされております」
「友人の伝手は頼れないのかね?」

婉曲な表現で伸ばしていた諜報網のことを尋ねるヒトラーに、さも残念気にハイドリヒは首を横に振る。

「どうにも。Büro Ribbentrop(リッペンドロップ事務所)によればオーシマ駐ドイツ大使館付武官をはじめとした我が国との連携を進めていた派閥が、陸軍を含めて急速にトーンダウンをしております。
 連絡がつかなくなっている者もいることを考えれば、大規模な粛正を行ったかと」
「共産主義者共と同じことをしたか」
「ええ。極めて迅速かつ効率的に行われております。多くが消息不明となり、財産についてはほぼ没収となっています」
「気に食わんな。やり口はあの共産主義共と同じやり方だ」

1936年の3月はまだ大粛清と呼ばれる粛正が本格化していない時期である。
しかし、それでも粛正が相次いでいたし、1936年の8月中旬には第一次モスクワ裁判が開かれ5000人余りが処刑されている。
そもそも大粛清というのは1934年のセルゲイ・キーロフの暗殺に関与したとして「レニングラード・テロリストセンター」と呼称されているトロツキー一派の仕業とでっちあげられて始まったとする見方がある。これに関連するだけでも1万人が処刑されている。
当然そのことはプロパガンダも含めて国外に漏れてくるものだ。

もっとも、ナチス・ドイツで同じようなことがなかったかと言えばむしろあった方であったりする。
特に今ドイツ総統の前に立つ男は1938年におけるブロンベルク罷免事件に関与することになるのである。
ついでに付け加えればソ連の大粛清にも少なからず関与しているのもこのハイドリヒという男だ。
だが、それについてわざわざ口にすることはない。雄弁は銀沈黙は金。黄金の獣と呼ばれた男が選んだのは後者。
素知らぬ顔で報告を続ける。

「また、トウゴー駐独大使も態度を貫いており、リッペンドロップもそのことを指摘しております。
 彼は党を嫌っているようで、今回の粛正で発言権を高めております。もはやヤーパンは第三帝国に歩調を合わせる動きを進めることはないかと」
「無能な国家め……!」

そこから先は少々罵倒になるので省略する。
ひとしきり文句を呟いたヒトラーは眼光鋭く報告の続きを促す。

「また、カイザーの名でヤーパン全体に演説がなされました。あれが国民に強烈に効いた模様です」
「どの程度かね?」
「将官から一兵卒、そして財閥や一労働者に至るまでと考えるべきでしょう。
 上海租界でも急速に撤退の動きが加速しています。資産の買い取りまでも行い、資本や人材を国内へ戻しています。
 またカンザキ代表の宣言通り、中華民国に対して和解案が提案され、仲裁裁判所にも同様の案が提出されています」
「カイザーの影響は恐ろしく大きいのか」
「ええ。既にJUUはヤーパンの奥深くにまで忍び込み、根を張り巡らせております。
 ここまで状況が変化しているならば、そして、カイザーが結論したからには簡単に結果は覆りません」

ドイツはそうではないが、とハイドリヒは心の中で付け加える。
しかし、それはおくびにも出さない。上司が部下の扱いを心得るように、部下もまた上司の扱いを心得るようになる。

「うむ……」

しばしヒトラーは思考を巡らせる。
彼の言葉を借りれば、「天才の一瞬の閃きは、凡人の一生に勝る」という。
彼が果たして天才であるかどうかには議論の余地があると言えるが、ともかくハイドリヒは沈黙で結論を待つ。
やがて、ナチス・ドイツそのものである総統は答えを導き出した。

「よろしい。日本人が頼りにならぬならないならば蒋介石を頼りにすればいい。
 ゼークトやファルケンハウゼンに連絡を取れ。日本人もいずれ反共の戦いに加わるだろう。
 だが、それは明日でなくても構わん」
「はっ」
「JUUがどのような企業であるかは不明だ。だが、その政策如何によっては我がライヒの敵となる」

最後には悪意さえ滲ませたヒトラーは大きくうなずいていた。
まるで、自分を納得させるかのように。
事実彼はリッペンドロップが提案していた日独伊による同盟の締結のことをすっぱり切り捨てていた。
君子は豹変すとはいうが、いっそすがすがしいまでの豹変ぶりである。

494 :弥次郎:2016/10/28(金) 00:37:42
「それと、オリンピックに向けた動きは十分に進めているな?」

その問いかけは、二重の意味だ。
一つは1936年に控えるベルリンオリンピック。もう一つは1940年に開催予定の東京オリンピック。
後者においては、そして後のSD長官のハイドリヒに問いかけることは大きな意味がある。

「既に。国際オリンピック委員会の査察団に人員を派遣しており、今月の22日から査察開始予定です。
 多くの情報を得ることができると確信しております」
「よかろう……いや、まて」

頷きかけた総統は突如もがくようにして首を振るう。
何かを指折り数えた後に、不意に呟くようにして尋ねる。

「確かその査察団は今ハワイにいるのだったな?」
「その通りですが……?」

困惑するハイドリヒに総統はなおも問いかけた。

「どうやってハワイとヤーパンを3日か4日で移動するつもりだ?」

返答を待たず、ヒトラーは立ち上がって壁にかけてある世界地図に歩み寄り、不意に演説をするときのような口調になって語りだす。

「ここがハワイだ」
「はい」
「そして、ここがヤーパンだ」

この時代、日米間は船便で結ばれていた。
後に世界一周を成し遂げようとした女流冒険家がいたように、この時代、飛行機で太平洋横断というのはまだ『冒険』の範疇にいた。
無論、飛べなくもないだろうが、少なくとも、そのような査察団に乗せて大丈夫というわけではない。

「そのような飛行機があるとは思えん。ハイドリヒ、客船はどの程度の船足だ?」
「巡航なら時速25ノットも出せば一般的かと。採算が取れるように、且つ、過ごしやすいとなればさらに落ちますな。20ノット前後かと」

距離にしておよそ6200km。
休まずに航行するとして、1日で航行できるのはおよそ1000km。無論直線の航路というわけではないから最低でも6日か7日はかかる。
だが、それを3日か4日で航行する?彼らの常識に当てはめれば、日企連の指定した予定表はおかしいものだった。

「だとするならば最低でも倍の速度で航行せねばならんな」
「しかし、40ノットなど……」

忘れられがちだが、ラインハルト・ハイドリヒという男は海軍軍人であった。
だからこそわかるのだが、40ノットという速力はいまだに未知の世界だ。
日本海軍で言えば吹雪型駆逐艦が全力で38ノットか37ノットで、ドイツで建造が進められているZ1型駆逐艦でさえ38ノット。
1935年に就役したフランスの客船ノルマンディーでも全力で32.2ノット。航海時にはもう少し落ちていることを鑑みれば非常識的だ。

「一体どういうことだ?JUUは本当に間に合わせる気なのか?」
「国際オリンピック委員会もそのことを問い合わせていますが、今日ハワイに来るようにとしか返答がなされておりません」
「ふむ……まあ良い。奴らが何をするかなど、一々我がライヒに影響するわけではない。
 オーストリアへの働き掛けは緩めるな。共産主義との戦いには多くの味方が必要なのだ」
「はっ」

後に黄金の獣と評される男を見送ったヒトラーはもう一度資料をめくる。
書かれている内容は、神崎代表の答弁の翻訳だ。

「主義主張のためではないとはどういうことか……」

明らかにプロパガンダのための記者会見。あの瞬間、世界に対して代表が相対していた。
故に観衆は陶酔した。溺れるように、というのはまさにあの事。その視点でも分析しなければ。
餅は餅屋。ドイツ帝国の総統はすぐさまこれに相応しい人間を頭の中で弾きだした。

「ゲッベルスを呼べ」

総統の頭は回り続ける。
ひたすらなまでに、猛烈な回転で、どうしようもないほどに愚直に。

495 :弥次郎:2016/10/28(金) 00:39:13
以上となります。wiki転載はご自由に。

ヒトラーさん盛大なフラグ&歴史がねじれた回となりました。

巨大全翼機 ラジオ中継 テレビ中継 ファクシミリ 立体映像中継 拡張現実 仮想現実 聖火リレー
宇宙からの中継 宇宙衛星を介して行われるリアルタイム実況 携帯端末による案内 ドローンによる臨場感ある撮影
日本の選手団に導入される科学的な知見とトレーニング方法 海上都市 アームズフォート アーマードコア
合成燃料 太陽光発電 風力発電 潮力発電 水素燃料 核燃料 自動車 カメラ

日企連のカードはまだまだまだまだ、たーくさん残っています。
どれから切っていきましょうか?

まさか居住さえも可能な大型の飛行機であるコウノトリで派手にお出迎えとは思わんでしょうなぁ。
次は白いおうちからの中継ですね。

最後になりますがまたもやひゅうが氏のリスペクトというか似た展開になってしまい申し訳ない限りです。
何卒ご容赦ください……

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最終更新:2016年10月31日 11:33