940 :弥次郎:2016/11/02(水) 21:55:13
大日本企業連合が史実世界にログインしたようです 幕間 -そして大統領は動き出す-




ホワイトハウス マップルーム。
世界地図を前にして考えを巡らせていたルーズベルトは多くの閣僚が入って来るのを見た。
副大統領のジョン・N・ガーナー、陸軍長官のジョージ・ヘンリー・ダーン、海軍長官のクロード・スワンソンなどが揃っている。
珍しいこともあるものだと、ルーズベルトは思った。というのも、日本の陸海軍もそうであったが、アメリカの陸海軍も激しくぶつかり合っている。
互いの悪口を言い合うのは日常茶飯事。陸海のトップが互いの顔を見たくもないほどに険悪な仲であった。
仮にも一国の元首であるルーズベルトがそれを察することができないわけではない。だからこそ、この組み合わせに驚いた。
いや、ある意味予想が出来たことであった。陸海どちらかがここに来ることは早くから予測できたことだ。

「どうしたのかね?」

理由は分かっているが、あえて問いかけてみる。

「既にお分かりかと思いますが」

慇懃にガーナー副大統領は切り出す。

「先日ジャパンをJaCがクーデターによって掌握し、政策の大転換を明言しました。
 それに対応するため、スイテツがジャパンに要求を出すべきと判断し、このような案をまとめました」

ちらりと隣に視線を送ってみれば、あきらめ顔の国務長官がいた。
どうやら自分以外にはほぼ話は通されていたらしい。

「Outline of Proposed Basis for Agreement Between the United States and Japan」

そのように書かれた書類の束はそれなりの厚みがある。
署名欄には自分を除く多くの閣僚や省庁の長の名前が連なってる。
陸海軍まで賛同していることには驚いた。

「ジャパンと戦争をする気かね?」

ざっと要求やその要求を突きつけた背景を読み終えたルーズベルトは努めて冷静を保ちながら問いかける。
日企連の営業停止や武装解除、国際情勢を混乱させたことへの謝罪、市場の開放、門戸の解放などなど。
さりげなく「人型」の引き渡し要求まで載っているのはご愛敬というべきか。

「いえ、要求をのまなければ経済封鎖を行い日干しにします。あの国など貿易を止めてやれば何とでもなります」

ヘンリー・モーゲンソウが自信をにじませて断言する。
事実、大日本帝国というのは工作機械や鉄くず、石油などの多くの資源を輸入していた。
全て近代国家を維持するためには必須の物ばかりだ。そしてアメリカという国は多くの市場において一定以上の影響力を持っていた。
事実アメリカからは多くの物資が大日本帝国へとなだれ込んでいた。鉄くずや原油、工作機械の輸入なども行っていた。
そのアメリカが本気で経済封鎖を行えば、確実に大日本帝国の経済は回らなくなる。それがこれまで常識だった。

「然る後に国際連盟の理事国などと合同で軍を進駐させ、日企連の本社や関連施設を制圧。関係者を捕縛し日企連を解体します」
「ふむ……」

一通りの計画を聞いたあとで、大統領は尋ねる。

「では、それに屈することなく戦争に突入した場合勝てるのかね?」
「ええ。海軍としてはヴィンソン・トランメル法の後継となる艦隊の整備を求めます。
 ナガト ムツがいますがそれ以外は老齢艦が多い。だとするならば、十分に勝機はあると考えられます」
「マッカーサーも同意しています。フィリピンとハワイとがあれば何とでもなります。3年で終わらせて見せます。
 上陸さえしてしまえば島国など簡単に制圧可能です」

一瞬陸海の長官がにらみ合う。どちらが主体となるかの争いが一瞬起こった。
だが、それは平時と異なり一瞬で終わる。何しろ日企連を潰せなければ意味がないのだから。

「大統領、これは単なる戦争ではありません。アメリカの、国家の安定を守るための防衛戦争なのです。
 何としてでも根絶やしにしなければ、我々の生きる世界が崩壊します。暴力と力に任せた政治で自由と正義が損なわれるのですよ」
「少なくとも何らかのポーズは示すべきです。このまま黙してなし崩しで認めるなど、政府の正当性さえも揺るぎかねません」

ロバート・ジャクソンやウィリアム・F・マーフィーをはじめとした司法省の鼻息も荒い。
法を司り、そして治安を維持する省としても今回のことはかなりおかんむりのようだ、とルーズベルトは冷静に見ている。
まあ、自分でさえ信じがたいのだ。多少判断を誤ってもしょうがない。そう思うことにした。

941 :弥次郎:2016/11/02(水) 21:56:53
「さしずめ懲罰戦争かい?素晴らしく現実味がない。もっとも、世論はそうでもないようだがね」

それらを茶化すように大統領は机の上にあった新聞を手で示す。

「国家転覆を成し遂げた大罪許し難し」
「平和を守れ」
「全世界への宣戦布告」
「世界秩序の崩壊を目論む狂気の企業」
「自由経済の崩壊を誘発しかねない暴挙」
「国家による秩序ある自由を」
「国際社会による弾劾を」

多くの新聞の一面は、日企連への攻撃的な文章で彩られている。
一部の新聞では、例えばWSJなどは独自に日企連の参入による経済動向の考察を乗せているが、多くが日企連そのものを認めない論調ばかりだ。

「彼らは、JaCは兵を引き、チャイナの利権を捨てるとまで明言している。
 だというのに、この叩きぶりだ。平和と発展を望むと明言していた彼等とはまるで論調が違う」
「しかし、JaCのやり方はクーデターそのもの。断じて認めるわけにはいきません」
「何とも素早いことに、国際連盟にも意見を通しているようだよ。国連の査察団の受け入れや武装解除などが要求されたらしいよ。
 どうにも鼻息の荒い人間というのは多くいるものだ」
「合衆国も賛成すべきです」

だが、ルーズベルトはガーナー副大統領の進言を鼻で笑う。

「ナンセンスだよ。エンペラーがその成立を認めない。
 グルー駐日大使のレクチャーによれば、エンペラーの存在が政府の正統性の常に担保しているのだから、亡命政府は間違いなく反逆者になる。
 国民がそれを支持するはずもない。いや、エンペラーが討伐せよと命じればその瞬間に全力で殴りかかって来る。
 それでもやるべきかね?」
「やらねばなりません。あのような企業が政府を転覆させたなど、今後の統治に影響を与えます。
 無政府主義(アナーキズム)にも似ております。これが前例となれば、企業による国家への反抗が相次ぐでしょう。
 ここで手綱を緩めることなく厳正に管理することが必要です!」
「テロを容認するというのですか!?」
「何としても叩くべきです!何のための軍と思っているので!?」
「落ち着き給え。そこまで慌てることもない」

ヒートアップしていく閣僚たちに対して落ち着くように促し、

「少なくとも君達よりグルー駐日大使の方が事情に精通していると私は考えている。
 彼は日本の専門家だ。彼と比べて君達はジャパンをどのくらい知っているのかな?」
「それとこれとは話が違います」

ルーズベルトは深く息を吸い、一瞬止め、そして吐き出す。
その上で閣僚の目を見た。何かにおびえるような目や怒りに燃えている目、正義感にあふれてる目。様々だ。
だが、冷静さはどうかとみれば、誰の目にもない。理由こそ様々だが、だれもがJaCを攻撃することにためらいを持っていない。
熱に浮かされたかのようでさえある。少なくとも平常ではない。

勿論彼らが危機感を抱くことに不自然さは感じない。
企業が国家に反逆し、その統治体制を支配したというのはこれまでの国家の体制を覆しかねない行為だ。
そして事実成功させてしまった。これが放置されれば企業という内患を今後の各国は抱えることになる。
いずれは国家を企業が転覆することさえ起こるかもしれない。それを認めたなど、どの国にとっても避けたい事実だ。
つまり、ここでアクションをとらないなどテロを容認するようなものだ。法治国家として、また合衆国の理念として、
JaCという企業は容認できない。だからと言って、現在の情勢で戦争を仕掛けることが果たして良いものか。

アメリカには多数の、いや、数え切れないほどの企業がある。
ここで過剰なまでに国家の統制を強めるとなれば、たとえそれが国家転覆阻止のためという名目だとしても、企業は国家を信頼しないだろう。

「ここで過剰に介入すれば、国内の企業に不信感を与える。国家による統制と一言でいうのは簡単だが、それを実行した場合、
 購買意欲や企業の経済活動にいらない足かせをはめることになる。それでもいいのかね?」
「そ、それは……」
「日企連の公開した公共事業自体にかみついている新聞さえある。市場の過剰な統制だとね。
 私の政策はいつから有権者や新聞に嫌われるようになったのだろうね?」

942 :弥次郎:2016/11/02(水) 21:59:07
ぺらぺらと新聞をめくった大統領の言葉に、さしもの閣僚たちも言葉を詰まらせた。
日企連のやっていることはある意味でニューディール政策と似通ったところがあった。
公共事業、農業への積極的な介入、社会保障の拡大、金融への日企連の積極的な介入。
それらによって担保される将来的な経済躍進のビジョンは将来のジャパンの経済的な躍進を果たすという日企連の予測があった。
しかし、新聞では経済学者が幾人もJaCの政策に対して難癖をつけている。その内容はルーズベルトには見覚えがある。
自分がニューディール政策を打ち出し、実行する中で出されたものと酷似している。いや、ひょっとするとそっくり真似たかもしれない。

だが、ジャパンの経済の躍進は悪いことばかりではない。

「ジャパンの経済が動けば、ステイツの輸出分野は少なからず影響を受けるはずだ。
 もちろん良い方向にね。少なくはないステイツの企業が参入している市場がいきなり没落するのも仕方がないのかな?」
「投資する先を間違えただけ。そう割り切るしかないでしょう」
「投資家からも、あの危険な企業が存在していた列島に投資した事を後悔する声も上がっています。世論は何とでもなります」
「しかしね……」

カンザキ代表も言っていたように、狂っているとか危険だとか思われようともJaCは気にしないだろうと考えていた。
堂々と挑発し、馬鹿にしたような振る舞い、自分たちの狂気を認めた。それはそれでいいではないか。
だが果たしてそれにどういった意図があるのか?それを考えたとき、不意に違う視点からの光景が脳裏に走る。

「いや、まて……これも計算の内ということか、なるほど。挑発に満ちた物であれば、むしろそうなるか……」

そのひらめきは自然と口からこぼれる。

「どういうことです?」
「君らの反応はごく当然であり、JaCにとっては計算通りの反応ということだよ」

考えれば考えるほど確信が湧いてくる。
今度は大統領が興奮を隠せなくなる。だが、それは新たな発見の興奮だった。
狂気の企業集団と思いきや、その裏はすさまじい計算と予測に裏打ちされた行動があったのだから。

「JaCは我々を試しているのさ。ここで戦争になだれ込むのか、それとも話し合いを持つのかをね。
 国民の意見や世論の手綱くらい握れない国家など、彼らは相手にする価値もないと思っている」
「つまり、挑発したのは一種のポーズでもあると?」

ハル国務長官の言葉に大統領は深くうなずいた。

「そういうことだよ。いわば所信表明。世界を相手にして戦って見せると内外にアピールした。
 ついでに国家に対する企業の反乱という未知の事実を突きつけて、国内に目を向けさせている。
 誰だって自分たちの政府を企業が倒すなど考えてこなかった。けれど、これからはそれが起こりうるということだ。
 カンザキ代表もそういっていたじゃないか」

自分を納得させるような言葉。
事実、大統領は閣僚に向かってというよりも自分自身に語っていた。
一人納得した大統領は卓上の日企連への要求をまとめた書類を手に取って念を押した。

「この案については口外しないように。藪をつついて蛇を出す結果になっては困る。
 今はまだIOCの査察の結果を待とうじゃないか。そこまで急ぐことでもない。いいね?」

否と言える人間は、少なくともその場にいなかった。
斯くしてアメリカ合衆国の対応は日企連の今後の動向を注視するという方向へと決められた。
これに関連してアメリカ合衆国大統領フランクリン・ルーズベルトは議会から、というよりも議会における共和党と民主党の
“有志”の賛成多数によって可決された日企連への介入法案に対して拒否権を行使した。議会が再度法案を提出する前に
日企連の認めたIOC主導によるオリンピックに向けた査察を実行させて自らの判断の正しさを証明。これを完全に廃案へと持ち込むことに成功した。
これにより、アメリカ合衆国において日企連への介入や弾圧などについての意見は沈静化。アメリカの企業の懸念の声もあって介入論は姿を消した。

そう、表向きは。
後の歴史家は語る。ここでルーズベルト大統領は力づくでも、あるいは今後のアメリカ合衆国内部の不和を覚悟した上で、
過激な方向へと傾いていった国内世論の統制を強めるべきであったと。また、ルーズベルトは他にも見誤っていた。
日企連の言動はブラフであるとこの時は考えていたのだ。彼自身も経済封鎖が効果があると考えていたが、使うまでもないとも。
日企連であろうとも日本という括りから逃れることはできない。日企連が自分たちの予想を超えてはこないと、アメリカを超えることはないと、
慢心し油断していたのであった。その油断を後悔するのはIOC査察団の結果を聞くまで待たねばならなかった。

943 :弥次郎:2016/11/02(水) 22:00:46
以上。wiki転載はご自由に。

自信喪失気味。筆が乗らない。
悲しいなぁ。うまく書けている自信があんまりないですね。

訂正
940
×世界地図を前にして考えを巡らせていたルーズベルトは

〇世界地図を前にして考えを巡らせていたルーズベルトは多くの閣僚が入って来るのを見た。

なんか集中力散漫だなぁ…
ちょっとゆっくりしよう、そうしよう

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最終更新:2016年11月07日 10:55