48: 弥次郎 :2016/11/14(月) 22:35:24
大日本企業連合が史実世界にログインしたようです-4- 「日企連の胎動」-承-


          • 太平洋 公海上 高度約33000フィート 大日本企業保有 ハイブリット大型航空プラットフォーム『コウノトリ』


出撃の時間が迫っているのでコウノトリの格納庫の中はかなり騒がしい。
投入されるのは飛行型ノーマルを中心とした航空機動AC部隊を凡そ60機。
さらに飛行型MTや通常の航空機も投入される。総勢で120機前後となる。
それらすべてがコウノトリの格納庫に納まっており、そのいずれもがハワイに到着後のサプライズセレモニーに向けて準備中だ。
多くは整備士が張り付いて調整や最終チェックを行い、式典の段取りを確認している最中である。

流星もまた、その服装は対Gスーツであるし、胃の中も食事制限によってほぼ空にしてある。
別段珍しいことではない。音速を容易くしのぐ速度を発揮できるネクストを操縦する際には宇宙飛行士も真っ青な体調管理が必要だ。
大空流星はそんな賑やかな格納庫で今回の任務に使うACを見つめていた。

「ナインボール・セラフ、か」

旧作において幾度となく立ちはだかった強敵(ナインボール)の上位機。
最強。
トップランカー。
イレギュラーを排除するもの。
"管理者”のAC。
イレギュラーが超えるべき、強大な壁。
これに乗ることに若干の抵抗を覚えてしまうのは、嘗て自分がプレイヤー(イレギュラー)であったことに由来するのか。

(いらない感傷だな、うん)

ここにあるのは、ナインボール・セラフを真似た全く別のACだ。名前と形だけが似せられた別物。
今流星の目の前にあるのは別にAIが操作するものではない。装飾用のスタビライザーなどを装着し、
カラーリングもやや派手に変更してある。肩には自分のエンブレムが描かれている。
ハスラーワンの操る、レイヴンズネストのAIが操るACではない。

「……肩が凝る仕事になるなぁ」

カラードランクのトップランカーにして、企業連からも高い評価を受ける流星は象徴的な意味合いが大きいリンクスだ。
出撃の機会はあるが、自分の仕事は日企連本土にとどまることの方がはるかに多い。企業の象徴がAFに移ったとはいえ、上位リンクスは容易くAFを撃破できることを考えれば、結局抑止力となるのはリンクスになる。
そういう意味で、常に行動は誰かが付随していて、かなり窮屈だった。

本当は気ままに過ごしたい。UnKnownがとても羨ましい。もっと自由に、もっと気ままに過ごしていたい。
誰の思惑の為でもなく、誰の命じるまでもなく、己の欲するままに戦いたい。
それこそが傭兵(リンクス)の本来の在り方なのだから傭兵らしく戦い、生きていたい。
だがそれは、我儘だ。リンクスになると決めたとき、覚悟したこと。未練がましいが、堪えるしかない。
そのように考えた時、ふいに格納庫にベルが鳴る。
時刻を告げるものではない。それは、状況を伝えるものだ。

『各員へ通達。まもなくコウノトリはハワイ オアフ島の視認領域に高度を下げつつ突入します。
 これより偽装雲塊システムを解除。船体が大きく揺れますので注意をお願いします。
 ACパイロット及び航空機パイロットは準備をお願いします』
「よし、いくか」

アナウンスに頷き、流星は動いた。
整備士たちに声をかけ、日企連のトップランカーとしての表情になった流星は、滑らかにコクピットに入る。

『おはようございます。メインシステム、パイロット情報のチェックに入ります』

電子音声の歓迎を受ける。
いつものボイスだ。無駄に頑張って再現されたこれは、しかし安心感を覚える。
コクピットやシートに設けられた生体照合システムが起動。網膜 静脈配置 指紋 掌紋などの多重のチェックを行う。

『搭乗者 大空流星を確認。
 メインシステム 通常モードを起動しました。
 これより、作戦行動を再開。貴方の帰還を歓迎します』

ああ、戦場だ。流星は感嘆の声を心の中で漏らす。
これから向かうのも、戦場だ。たとえそれが政治のための物であるとしても、自分の戦場だ。
自分の務めは果たす。それがトップランカーとしての矜持だ。

『AMSコンタクト』

手元のコンソールを操作すると、シートの後ろから、特徴的なプラグが飛び出てくる。
それは、流星の首の後ろに設けられたAMSソケットに突き刺さる。
AMSプラグが刺さる感覚。持って生まれた適性が高いため、あまり違和感は感じない。
ただ、高揚感を感じる。これから、戦いが始まるのだと、体が、魂が喜んでいる。

『行こうか』

一体化した流星の声に応じるように、セラフはそのカメラアイを輝かせた。
ハワイ オアフ島まで、あとわずかであった。

50: 弥次郎 :2016/11/14(月) 22:36:36
          • アメリカ合衆国 ハワイ州 オアフ島 ヒッカム航空基地


「よくもまあ、これほどまでに膨れ上がったものだな」

アンリ・ド・バイエ=ラトゥールIOC会長は貴賓席で、呆れとも簡単とも取れる呟きを漏らした。
日企連の人間がこのヒッカム航空基地に設営した会場にはICOと国連の査察団が日企連の迎えを持つために集まっていた。
総勢で2400名あまり。勿論アンリはその2400人すべてがオリンピック以外を目的にしているわけではないことを理解していた。
元々が政治のためのオリンピック査察だ。これを口実にして国内に入りたがっている人間はたくさんいる。
その事を、アンリは良く心得ている。

(変わり種までいるのか)

他にも、学者や技術者が国籍や所属に関わらず集められているのが目に留まる。ユダヤ系さえも集められている。
誰もが日企連の招待を受け、半ばおっとり刀でやって来た人間ばかりだ。その集団は総勢で9000人ほど。
企業や会社の人間だけでなく、各界の著名者や研究者、その研究者の元についている学生などもいる。
さらに、アメリカ イギリス フランス オランダ ソ連 ドイツ スペイン イタリアなどのマスコミ関係者や見学に来たハワイの住人もいる。
この送迎式を見るためにやってきた民間人もいると聞いたから、総勢で4万人はいるだろうか。
一種の大イベントと化したこの出発式は、単純に日本に用がある外国人の出発式ともいえた。

「一体どうやってトーキョーに向かうのだろうか?」
「航空機なのかもしれませんが……」
「いや、船舶なのかもしれない」
「しかしこの空港を場所として使うのだから……」

隣の席に座る会長と副会長の話は、ついその話題だ。
何度も繰り返した議論だ。船に乗るのか、飛行機なのか、飛行船なのか。
あれこれと考えはしたが、『現実的な方法』で予定通りに到着できるのかはさっぱりわからなかった。
むしろ、到着できない可能性の方が高かった。どうやっても予定通り間に合うとは思えない。

「先遣艦隊を派遣したのは正解だったかもしれませんな」
「それはそうだが、ここであれこれと文句をつけるのも野暮というものだよ。彼らの動きを待つしかない」

アメリカ太平洋艦隊から護衛を抽出して先行した先遣艦隊はそろそろ日本につくはずだ。
ただ、奇妙なことに昨日から連絡が途絶えている。彼らが日本に到着したかどうかもわからない。
そして日企連からもそれについての発表は無く、問い合わせをしても答えはなかった。
はぐらかしていることは確かだが、詳細は不明だった。

「無事にたどり着けたのでしょうか……?」
「さあ……無事を祈るしかない自分が恨めしい。彼らは少なくとも理性ある人々だと思うのだが……」

そのように心配をしたとき、ふいに声が響いた。

「大変お待たせしました、皆様。
 これより、IOC査察団の出発式を執り行わせていただきます」

機械によって増幅されているらしいその声を聞き、誰もが姿勢を正し、談笑や議論を止めた。

「本日は……」

お決まりのような挨拶が始まるのを聞き流し、アンリはふと上を見た。
空から迎えが来るのでは?という予想があり、ひょっとすると近くに来ているのかもしれないと期待したものだった。

「なんだあれは?」

アンリは、上空に奇妙な物を見た。
積乱雲のような、この季節には似つかわしくない巨大な雲塊。
明らかに風向きに逆らうようにしてその雲は動いている。

(なんだ?)

体に走る嫌な予感。まるで、これから世界が終わってしまうのではという、理由のない怯え。
一体、なぜなのか?それを考えた時、不意に高らかに演奏が始まる。
日企連が連れてきた吹奏楽団による演奏は、澄んだ空気に流れていく。
その音楽に負けぬように声を張り上げ、司会進行役は人々を促した。

「……それでは、上空をご覧ください!」

戸惑いながら人々が空を見た時、動くものがあった。

「あれは……?」

誰もが、思わずつぶやいた。
そして、ヒッカム航空基地は巨大な影に包まれた。
太陽を遮り、雲を抜けて、日本列島からハワイまで飛んできた"モノ”は姿をさらしたのだ。

51: 弥次郎 :2016/11/14(月) 22:37:42
雲海をかき分け、“それ”は降下してきた。

“それ”は翼だった

“それ”は独特の轟音を立てていた。

“それ”はとてつもなく大きかった。

“それ”は空を飛んでいた。

“それ”は空を飛んでいる"人型”を沢山引き連れていた。

“それ”はやがて、空中で動きを止めた。

"それ”が見え始めてから、どれほど時間が経っただろうか。

「こちらは大日本企業連合が建造いたしました航プラットフォーム『コウノトリ』です。
 全長400mクラスの飛行船をフレームに組み込み、飛行船を一種の浮遊機関としており、太平洋を無補給無着陸で横断可能です。
 大きさは全幅2.3km 全長700m 全高がおよそ60m。乗員は3万人を優に超えます」

唐突に、司会進行役が飛んできた航空機の、いや航空機のような何かを紹介する。
それが、その声が、張り詰めていた糸を切った。

「____________________」

その瞬間、全てが飽和した。
人の感情が。人の声が。人の動きが。人のすべてが。
何もかもが、飽和した。

「空が落ちる!空が落ちる!」

「なんだあれは!助けて!」

「落ちてくるぞ!全員逃げろ!」

「おお神よ……!」

「一体なんだ!?」

「うわああああああああああああああああ!?」

「世界の終わりだ!みんな死んじまう!」

「夢だ、夢に違いない!ありえない!ありえない!」

「アメイジング!」

ある者は恐怖に声を上げた。

ある者は目の前の光景を否定しようとした。

ある者は、軍人の一部は、気がふれたように叫んでいた。

ある者は神に救いを求めた。

ある者は迫ってくる機体に恐怖して逃げ出そうとした。

ある者は、言葉もなくただ茫然と空を見上げて呆けた面を晒していた。

ある者は興奮に身を任せて叫びを上げた。

そこにいたのは、ただの群れる群衆だった。

むき出しの本能のままに騒ぎ、嘆き、わめくことしかできない動物であった。

52: 弥次郎 :2016/11/14(月) 22:38:53
神に選ばれた国あるいは人種を気取る白人の前に現れたのは、人造の神、機械仕掛けの全能神(デウス・エクス・マキナ)。
それは、白人達のベールを暴きたてた。
彼らは、認めたくはないが、自分たち以上の、自分たちの常識が通用しない『何か』と対峙していた。
彼らがそれを認識することはできない。ただ目の前の現象から目を背けることに集中していたか、あるいは、
まったく別なことを考える事だけしかできなかった。それを人は防衛機制と呼ぶ。一種の現実逃避だ。
だが、日企連はそれを許さない。現実を見ろと、声を上げる。目を閉じる人間に、現実を突きつけるのだ。

二の矢はわずかな時間で放たれる。
始まりは唐突な光の奔流だった。
ヒッカム航空基地の上空に、コウノトリの落とした影の中に光が生まれた。
太陽ではない。何か?
人々が見上げる先に、『それ』はいた。

「なんだ……?」
「何の光!?」
「め、目が!」
「天使……?」

無骨なACが飛んでくる中で、1機だけが神々しい光を放っているのを人々は目撃した。
まるで燃えているかのような光の奔流は、さながらそのACに翼があるかのような錯覚を見る者へと与えていた。
その翼は、正確に言えば背中にある飛行翼から出力された指向性レーザー防御機構『セラフィム』の出力を調整して展開した、
言わばパフォーマンス用のモードであった。だが、そんなことを察することはできない。
彼らがただ理解できたのは、その人型が放つ圧倒的な神聖さのみ。
何のことはない。人々はそこに神話の世界を見たのだ。

見せつけるように光を放っていたセラフはその機構の最大出力を発揮しようとしていた。
瞬間、炸裂。光が再び人々を襲う。

「熾天使……?」

ぽつりと、音が失われた世界に声が漏れた。
全長にして30mあまりの翼が6枚形成された。
その姿は、まさに熾天使だった。

誰もが、言葉を失った。
誰もが、動きを止めた。
混乱し、錯乱し、恐怖に囚われていた人々は『それ』によって正気に戻った。
その瞬間、世界はたった1機のACを中心に回っていた。
ただ1機のACと世界は、対等の立場で相対していた。

どれほどの時間が経過しただろうか。光の奔流は徐々に収まり始める。
流石にパフォーマンスとはいえ、その出力は無限に出せるものではない。
熾天使は翼を納め、緩やかに地上へと降下してくる。

「なんということだ……」
「美しい……」
「ジーザス……」

多くの人々が首を垂れ、十字を胸の前で切り、膝をついて祈り始める。
感涙のあまり泣き出してしまう人さえもいた。何度も神の名を呼び、何かをわめいている。
辛うじてカメラマンたちがその姿を逃すまいと撮影を続けていた。

「日企連の製造したACの一つである『セラフ』。単独での飛行能力と可変機構による広い行動半径を持ち、多くの火器を装備により、その戦闘力は通常兵力の数個軍団以上になります」

さらりと流された言葉に、正気を保っていられた軍人が耳を疑う。
数個師団相当。各国によって差異はあるものの、数個師団というのは数千人から2万人ほどの歩兵が組み込まれる。
それだけの戦力に匹敵するという。おまけに空を飛ぶ?航空機でもないのに、プロペラもないのに。一体どうして?どうやって?
彼らの想像は追いつかない。考えは迷走し、錯綜し、あらぬ方向へと迷う。

「日企連のトップランカーリンクス 大空流星によって操縦されています」

そして、セラフは緩やかに着陸する。
展開されていた『セラフィム』の停止に伴って生じた膨大な熱量が陽炎となって機体から立ち昇っていく。
それさえも、人々には神聖さを感じる要素であった。セラフ、熾天使とは神への愛情あるいは情熱で燃えている天使なのだ。
その温風は、鳥肌が立ち、震えさえ走っていた人々を温めた。確信を込めて言おう、人々はセラフに、人造の天使に本物の天使を見たのだ。

53: 弥次郎 :2016/11/14(月) 22:40:04
「おい!あれ!あれを見ろ!」

誰かが叫ぶ。
地上に降り立ったセラフに注がれていた視線は、一転して空へと向かう。

「おいおいおいおい……どういうこった!?」

それは車だった。
翼があり、プロペラが回転していて、とてつもなく全長が長いことを除けば、車に見えなくもなかった。
所謂ストレッチ・リムジン、豪華な内装と機能を持ち合わせる車であった。しかし、飛んでいる。
好奇の視線を送る人々に、その車は見せつけるかのように上空で大きく円を描いて見せた。
その姿は地上にセットされた巨大な投光器によって照らされる。
コウノトリの船体を背景に浮かび上がるそれは、紛れもなく空を飛んでいる。
そして、それは緩やかに降下してくる。高度は徐々に0に近づき、着陸。

「な、なんで車が空を飛んだんだ!?」
「バカな、ありえない!」
「吊り下げているんだ!飛行機で吊り下げているに違いない!」
「それこそおかしいぞ。ロープも糸も見えないぞ!どうやってあんな車を吊り下げているんだ!」
「知るか、そんなこと!インチキに決まってる!卑怯者め!」
「撃ち落としてしまえ!誰か銃をよこせ!」

そんな叫び声があちこちで起こる。
混乱が混乱を呼び、憶測が流れる。
悲鳴、叫び、怒声、好奇、侮蔑、喜び。あらゆる声がまじりあう中を、リムジンは悠々と進む。
やがて、リムジンは貴賓席の近くで停車する。丁度絨毯が敷かれ、貴賓席から乗り込むことができるようにセッティングされていた。
そして人型、ACが整列し捧げ銃の姿勢となって控えていた。まるで歓迎するかのように。

「何が起こっているんだ……」

茫然とするIOC会長のアンリや副会長のジークフリード・エドストレームらは、促されるままにふらふらと貴賓席から移動する。
夢を見ているようであった。空が翼によっておおわれ、天使のような人型が空から降臨し、車が空を飛んできた。
一体いつから白昼夢を見るようになったのか。アンリは思わず頬を強くつねった。
とても痛い。ということは現実なのか。

「夢を見ているのか……?」
「いいえ、これは現実です……!これが、現実!」

蒼白になっていく自覚のあるアンリとは異なり、ジークフリード副会長の顔は喜びと興奮に満ちていた。

何てサプライズだ!素晴らしい!」

叫ぶ副会長をなだめながらもアンリは混乱する自分を何とか抑えようとする。
着陸したリムジンからは徳川家達をはじめとした東京オリンピック委員会のメンバーが降りてきた。
ジークフリードはそれに興奮を隠さず近づいていき、やがてがっちりと握手を交わした。
彼に触発されてなのか、他の来賓もおずおずと近づいて、リムジンへと乗り込んでいく。
やがて、自分の番が来た。

「素晴らしいサプライズだ。まさかあのような物を用意できるとは思えなかった。想像もできなかったよ。
 ところで、アレに皆が乗るにはこれだけでは足りないように思われるのだが?」

握手を交わしながら問いかけると、日企連の社章をつけた男性はにこやかに答えた。

「ええ。このエアリムジンだけでは足りません。
 まだまだ必要なようなので、たくさんご用意させていただきました」

上を指さされた。
それに促されて空を見ると、いた。大きいものから小さいものまで。
同じように空を飛ぶ車がヒッカム航空基地に次々と着陸しようとしている。

54: 弥次郎 :2016/11/14(月) 22:41:00
それだけではなかった。
次の動きが、コウノトリであった。

「なっ……!?」
「プロペラがない!?」
「バカな、馬鹿な……そんなはずはない!」
「翼もないぞ!?」
「飛行船か?」
「いや、そんなはずは……何だこの音は!?」

悲鳴のような声が上がる。
轟音を轟かせ、全く未知の物体が徐々に空から、コウノトリから降下してくる。
コウノトリの下部、せり出していた部分が切り離され、そのまま落ちてくる。
それも、4隻もだ。緩やかに、落下ではなく明らかに浮遊しているのが分かる。
全長はどれほどだろうか。目測で300mはある。立方体に近い何かが、申し訳程度の翼を広げて飛んでいた。
垂直離着陸。この時代では、飛行船だけの特権であった。だが、後にVTOL機というカテゴリーが生まれ、実用化される。
そして日企連がやったのは、それの拡大及び拡張。まさに箱舟(アーク)。輸送コンテナに垂直離着陸能力をつけるだけという乱暴ではあるが至極単純な原理で飛ぶそれは、元々コウノトリを着陸させることなく積み下ろしを行うために開発されたものだ。
ほぼ垂直方向のみの飛行・滞空しかできずにやや不便なところはあるのだが、史実側の人間の度肝を抜くには十分すぎた。

「これより、コウノトリへと皆さまをご案内いたします。係員の誘導に従い、順を追って連絡シャトルに搭乗をお願いします」

笑みを浮かべた日企連の司会進行役の言葉に我に返った人々は、競い合うように乗り込もうとする。
もう、彼らは考えることをやめていた。ただ、空を飛ぶ車に夢中になることで、精神の安定を保とうとしていた。
そうでなければ、彼らはとっくに発狂してしまっただろう。

「……?」

ふと、アンリは徳川家達と目が合った。
その眼には、恐怖の色があった。恐怖の対象は言うまでもなく、そして驚くべきことに、日企連に向いているのを察した。
同じ日本人さえも恐怖させる日企連。彼らはいったい何者で、何をなそうとしているのか。それは、彼の思考の及ぶものではなかった。

無言のままに、両者は握手を交わす。
彼らの様子をカメラマンが何枚も写真に収めていく。
二人は、共通の意識があった。日企連への恐怖だった。
それだけが、二人をつないでいた。


この日という日を、人々は記録し、記憶し、何度も振り返ることになる。
言い方はさまざまであるが、奇跡が起こった日として、そして、まさしく神話が再現された日として。
また、日企連がその持ちうる力と技術力を、彼らが全く理解しえない魔法のような技術を持っていることを明らかにした日として。

そう、この日はある種のターニングポイントとなったのである。
2月26日の2.26事件、3月10日の記者会見、そして3月14日の3.14蜂起に続く、歴史の転換点。
歴史が大きく動き、世界が大きく蠢き、それまでの世界が粉々に破壊された日。

「熾天使の日」

そのようにとある新聞が報じ、世界はその事を記憶し、記録した。
同時に、世界の流れが、世界の流れの主導権が日企連の手へと移った日としても鮮烈に記録された。
全ては、日企連が描いたシナリオに従うように。

55: 弥次郎 :2016/11/14(月) 22:42:14
「ま、順当に成功ですね。このオペレーション浦賀は」

「当然です。あれだけ大盤振る舞いをしてやったのですから、効果が無ければ財務部としては困ります」

「浦賀作戦……コード18530708。何とも皮肉だな」

「これが世界の眠りを覚ます来航となるでしょう。さあ、まだまだショーは始まったばかり。追い打ちを掛けますよ」

「無粋な先遣艦隊は?」

「捕縛しました。何やらわめいていますが、彼らは戦争を吹っ掛けようとしたことは確かです。
 これでさらに動きやすくなりますよ。彼らを生かすも殺すも我々の掌の内です。
 精々、白人の意思の総意として振る舞ってもらいますよ」

「天狗を見て泡を食っていましたな。全く傑作です。
 傲慢にも自分たちの優位を語ろうとしていましたが、まるで無茶苦茶でした」

「ああ、神の名を叫んで、天罰が下るだとか、猿には許されていないはずだとか、面白いことを叫んでいましたね」

「あれで世界の支配者にして、神に愛された人種らしいですよ?」

「はっはっは、面白いな。だとするならば神とやらは我々に微笑んでいるのだろうな」

「違いありません。ゲートが、この時期の史実世界と、オーメルとの雌雄を決する前に開いたのはまさに天佑でした」

「それにしても、平和の式典であるオリンピックを口実に戦争を仕掛けようなど、オリンピックの精神に反していますな」

「まったくだ。もっと活用し、利用すればよいというのに」

「返還の要求はあるでしょうが、どうしますか?全面戦争でも構いませんが」

「今の段階で世界を解体してしまうのはつまらないし、面倒な話だ。精々交渉カードとして使いましょう」

「それが一番か」

「ええ。すべては利益のために。企業らしく振る舞いましょう。我々にとってはもはや至極当然になっていますがね」

「ふふ、いい資料を提供してもらいましたよ。何しろ犯罪者ですからね、難癖付けて調べ放題です」

「……では、各員、予定通りに動いてください。我々は世界の敵となった。同時に世界を翻弄することもできます。
 しかし、決して油断しないようにお願いしますよ」


夢幻の企業家たちは語り合う。
全ては二つの世界の、人の為、人類の為、そして未来のために。
神をも恐れぬ彼らは、その策謀の歯車を、この上ない傲慢さと強い意志でさらに回し始めた。
もはや、史実の誰にも止められない。あるのはただ、振り回される愚かな人々と、日企連のみだった。

56: 弥次郎 :2016/11/14(月) 22:43:06
以上です。wiki転載はご自由に。
鮮烈なデビュー。白人様はこんな常識を疑うようなことを平然としてのける日企連を漸く認識しました。
マジで発狂不可避ですな。まあ、混乱するのも仕方ないよね?でも、死んでくれ(真顔

セラフがやったことはあれですな、エヴァのOPの初号機のアレですよ。
あれを現実で天使だとかイエスだとか精霊を信じてる西洋人に見せつけるんですよ。
世が世なら十字軍などもあり得ますねぇ。宗教界にとっては痛すぎる打撃でしょうな。
ようこそ、苦痛の地獄(現実)へ。歓迎しよう、ここに神はいないのだ。

日企連を舐め腐った先遣艦隊は国連とIOCの笠を着てペリー提督の真似事をしようとしていました。
何をしようとして、何が起こったのかは舞台裏で描きましょうかね。

さて、これで起・承ときました。
そろそろ正気を取り戻そうとするので、白人様にはもうちょっと思考が飽和状態でいてもらいますか。
それの方が何かと都合が良いですから。ヒトラーさんも言ってました、民衆は熱狂させておけばいいって。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2016年11月21日 12:44