643: 弥次郎@帰省中 :2016/12/13(火) 23:02:04
あ、ちょっとこちらから転載お願いします…



大日本企業連合が史実世界にログインしたようです 「国防は軍人の……」16 -刀折れ矢尽きるまで…?-



「で、宿題は出来たのかい?」

「研究は進んでいる。だが、別な要件で手助けを求めに来た」

「そうかい。ま、あんたらもそれを迷いなく選べるだけマシってとこだな。無駄なプライドは泥に捨てるが一番だよ」

まるで男のような口調、低い声、そして態度。
隔離された作業室の奥にいる女性、いや花も恥じらうような少女が、外と内を隔てる隔壁越しに喋っていた。
精密作業を行う『工房』はいくつものエアロックや滅菌室の奥に彼女の、日企連のガンスミス『何仙姑』の姿はある。
体を滅菌服や手袋、ゴーグルで隠した彼女は傍目には少女とは分からない。アシハラナカツクニの研究区画の一角を訪れた南部麟次郎は、部屋に付けられたスピーカーとマイク越しに会話していた。何仙姑は手を休めることなく、最近の講義を振り返る。

「38式の短銃身化をはじめとした改良と38式実包の切り詰めの実施。それの使用を前提の史実99式を参考とした新型の銃への更新。
 さらには古今問わず銃という銃に関するレクチャー。まだ足りないかい?」

「レクチャーはありがたいが、それだけ焦ってしまうのだ。我々は不足を理解したが、それを埋めたくなるものだ。
 何かしらの安心材料が欲しい」

「材料、ねぇ……おもちゃが欲しいと駄々をこねるガキと変わらない連中にくれてやるのは少々癪だよ」

「だがな…」

「分かっているよ。でも日本人は急ぎ過ぎる。じっくり時間を掛けなきゃならないこともある。
 今すぐ新しい銃を配備したところで、あんたらにそれを十分使えるわけがないのさ。絶対にボロが出る。
 駆け足で進むならともかく、勝手に暴走するのは許せないね」

マイクが金属音を拾った。その音は何処か聞き覚えがある。

「君は何をしているのかね?」

「虎鶫の銃の組み立てだよ。丁度オーバーホールの時期でね。こっちで使うには威力過多だし、ちょうどいいってね。
 グランドコンドル Mark.XXX(トリプルエックス)。トリプルエックス、つまりスリーアウト、チェンジってところ。
 あるいはトリプルクロスとも言うね」

目の前のテレビジョンスクリーンに分解整備中と思われる銃が映る。
デカい銃だ。映っている他の物品や手袋越しとは言え彼女の手との比較などから見てもその銃の大きさは見て取れる。
無茶苦茶な大きさだ。それに、付属品と思われる処々の部品がきれいに並べられている。

「マグナム弾については聞いているかい?」

「一応は」

「なら説明はいいかな。そのマグナム弾をぶっ放す自動拳銃だよ。使用銃弾は50AEE7。
 この時代のこの国の人間には危険すぎるよ。使うもんじゃない。ふざけて撃つと、脱臼するし反動で吹っ飛ばされて骨折する。
 別な意味でこの拳銃は自殺拳銃だね」

摘ままれたマグナム弾がカメラの前に持ち上げられる。
見るからに大きい。というか、太く、ずしりと重い印象が伝わってくる。

「そんな無茶苦茶な銃が使えるのか……?」

「虎鶫は割と威力重視というか、実用的な大口径銃を好む癖がある。前はS&Wのリボルバーを使っていたよ。
 まあ、身体強化や肉体改造を行った暗殺者や刺客に対応するにはマグナムや対人特化弾を容易く発砲する銃が必要だからね。
 確実に敵を殺傷出来るだけの威力と多機能を求めれば、大型自動拳銃、それもマグナムを欲しがるさ。
 ま、少し待ちなよ。これを仕上げてから、ゆっくり説明してあげるからさ」

モニターの電源は敢えて落とされず、組み立ての様子を南部は見ることが出来た。
未知の大型拳銃とはいえ、その光景は銃火器に関する技術者にとってはまさに至宝ともいえる光景だ。
一種の調和を以て、大型の拳銃が組み立てられていく。その動作一つ一つが美しく、そして理にかなった動きでつながる。

(……これは、かなわんな)

心に刻みつけながらも、南部は年齢不詳のガンスミスへの敬意をさらに募らせた。
熟練しているのだ。彼女は、とても高い位置にいる。未来の人間と知っても彼女は優れていた。
しばし、南部はその美しき作業を、否、神聖な儀式を楽しんだ。

644: 弥次郎@帰省中 :2016/12/13(火) 23:03:14
組み立てが完了して手持ち無沙汰になった南部は、奇妙な物がやって来るのを見た。
箱が動いているのだ。高さは1.3mほどで縦横は60センチほどか。
人の腕のような部分が側面から伸びており、お茶と茶菓を入れた盆を持って自分に近づいて来る。
盆を持つのもまるで人間のような、少しばかり関節が多いが、指と手を持つ腕だ。

「あ、ありがとう…」

そしてそれは器用に卓上にお茶と茶菓を置き、会釈をするように体を軽く倒す。綺麗に腕を揃え、頭のような部分も傾いている。
まるで本当に人間のようだ。だが、その外見からして人間ではない。戸惑いながら礼を述べる。

「驚いたかい?日常生活の支援を行うドローンだよ。お茶を入れてそれに合う茶菓を見繕うこともできる。
 ま、現在……ああ、あたしらの世界だとドローンとロボットとヒューマノイドの境目は曖昧になっている。
 厳密な定義を言えば、判断能力をもつ電脳を搭載しているか、それとも主人と認識した人間のアクションや信号に応じるだけの比較的簡単なロジカルパターンか外部依存の判断能力なのかで結構変わる。
 ここにあるのはその内の後者、あらかじめ定められたロジックパターンで動き、必要に応じて外部電脳の判断を借りるタイプさ」

作業服を脱いだ何仙姑がゆったりと部屋の奥から歩いてくる。
外見は幼いくせに、その所作は外見不相応。まるで長い年月を経たかのような優雅さや気品がある。
多くの資料や物品で埋め尽くされている部屋をすいすいと抜けてくる姿は、その気品さなども相まって高貴な動物を思わせた。

「おっと、長くなったね。ともかく、コイツは頼めば多くのことをこなしてくれる。
 ほら、からくり人形というものがあるじゃないか。江戸時代に、酒好きだが人形細工が優れた人間が自分の代わりに酒を買いに行かせたとか、
 有名なものだとお茶を出したりとかね。それの延長が、コイツさ」

「…ともかく、雑務をこなしてくれるのだな?」

「そういうことさ。で、なんだっけ?M1ガーランドやM1カービン再現した銃はもう教えてあるけど、そのほかにだったっけ?」

「ああ」

「オーケイ。なら、軽く講釈でも始めようか。PDA(携帯情報端末)を出しな。
 丁度ゴールデンマスターも仕上がったからね。製造過程については流石にアンタらの及ぶものじゃないけど、届かないこともない領域さ。アタシらからすれば化石のようなもんだけどねぇ」

ケタケタと笑う彼女は、さりげなく爆弾を投じた。

「ほんとさ、笑っちゃうよねぇ。歩兵用の光学兵器の標準装備化が進んでいる中で、200年近く昔のライフルの、全金属銃なんてのを作るなんてさ!」

「こ、光学兵器か…」

「そ、レーザーライフル、コイルガン、パルスガン。そんなものは長らく夢物語だった。
 だけど、200年以上昔の映画の007なんかであった個人携行可能な光学兵器は、ついに実用化されつつあった。
 1936年から100年もたたずにね。ところが、次の問題にぶち当たった。そもそもそんな威力が必要ないって。
 確かに射程や威力は十分なものがあって、一時期全軍装備や実弾の全廃棄さえ提案されていた。
 ところが、そんな銃を使うと歩兵の銃撃戦が戦闘地域に過剰な被害をもたらしてしまったのさ。
 歩兵に装備させる道具がより高度な技術を要するものとなって歩兵の単価が跳ね上がったのに、簡単に死なれてしまう。
 ついでに言えば、光学兵器の弾薬となる電力を確保するバッテリーの問題もあった。歩兵で携行するには限界があり、同じような武器を用いての反撃を想定すると、歩兵よりもMTやACに持たせた方が安全性が担保されてしまうことも発覚した」

「なるほど…歩兵に大砲を持たせた結果、撃ち合いになった瞬間に刺し違えてしまい効率が悪くなったのか」

「そ。まるで戦艦のようでもあるよ。自分と同程度の砲を決戦距離で浴びても耐久可能かどうかってね。
 でも高威力化しやすい銃と違い、歩兵の防御には限界がある。結局全部置換することは叶わなかった。
 また、光学兵器を使うと熱を発するからね、どうしても目立ってしまうのさ」

「それについては是非とも聞きたいが…」

「分かってるさ。あんたらに必要なのはこっちだ」

645: 弥次郎@帰省中 :2016/12/13(火) 23:05:57

PDAを見るように促され、画面をのぞいてみれば銃の三面図が表示された。

「試作型のセミオートマチックライフル、正確に言えばバトルライフルかな。弾丸には7.62mm×51 NATO弾を使用する。
 これはオリジナルのNATO弾と比較すれば10%ほど炸薬量を減らした弱装弾を使う。
 プレス加工と木ではない合成プラスチックの使用でコストを押し下げ、さらには寒冷地や砂塵の多い地域での使用を前提に防塵処置を施した。
 また、防寒着を装備した状態でも十分扱えるトリガーへの置換などの改良が施されている。
 射撃に関してはセレクターによるフルオートとセミオートの切替を実用化しているけど、重要なのはアサルトライフルの扱いを学ぶことさ。
 セミオート フルオートとはどのような射撃なのか。それを身をもって理解してもらうための教練用と言っていい。
 まぁ教練用とはいうど、このまま実戦配備も可能出来ると自負できるよ」

実物として2丁のライフルが取り出され、見せられる。片方は真新しく、片方は透明な何かでカバーが掛けられている。
ビニル、とかいったか。どうやら片方は直接手を触れることが望ましいものではないらしい。それにどことなく古い印象を受ける。

「こっちが試作型の方で、こっちがそのベースの64式だよ」

「64式?」

「豊和工業64式7.62mm小銃は1964年に採用されたアサルトライフルだよ。現時点では世界最高の銃と言っていい。
 日本人が使うことを前提とした設計は、構えた時の収まりも良いし持ち運びなども他の銃に比較すれば容易い。
 ただ、7.62mmを使う分フルオートの命中率は期待しない方がいいよ。強装弾ほどじゃないにしても反動がかなりある。
 銃弾そのものもこれまでのボルトアクション式とは異なるし、互換性もない。訓練用と割り切っておくれ。
 こっち、オリジナルの方は文字通り博物館から引っ張ってきたものでね。悪いが触らせることはできないんだ」

「そんなに古いのか……しかし、火薬の量は減らして大丈夫なのか?」

「普通なら、足りなくなるだろうさ。そもそも64式自体、弱装弾でも十分使えていたしね。
 日企連の製造した火薬は少量で十分な威力を発揮する。少量の火薬で十分な爆発を。携行性の追求の過程で幾多の火薬が生まれ、そして最適な調合が導き出された。これは38式普通実包の改良にも使われていてね。
 本来ならば弾薬を詰め込むところを少量に削減して携行性を増しているよ」

「なるほど…」

「さて、南部さん。どうしてこの二つの弾丸使い分けるか、理由を答えてみな」

その問いかけの答えは十分知っていた。

「必要とされる場面が違うからだ」

「あったりー。そういうことだよ。
 満州は平野部が多く、戦闘もそういう場で起こる。だとするなら、弾丸は射程が長く、威力も高く、安定してあてる必要がある。
 多少は反動があっても、多少重くなってもそういう銃の方が需要が出る。南部さんの作った南部式機関短銃一号の想定もそうだったように、相手は寒い地域で活動するために分厚い服装になる。そういうのは防弾性を発揮するからそれを貫通する必要があるんだよ。
 防護を貫通して、確実に殺す。そういう銃が必要。これは史実アメリカも経験したことでね。
 麻薬を吸ってラリってる兵士を殺して止めるには、5.56mmではストッピングパワーに劣るって結論に達したわけ」

「ま、麻薬を?」

「そ。ハイになって文字通り鉄砲玉さ。ひゃっはー!ってね」

バッと手を上げて叫ぶ。しかし彼女の顔は至って真面目だ。

「5.56mmは負傷させるには十分だけど、殺すには足りない。元々5.56mm弾には携行性を高めて威力を落とし、『負傷させてその兵士を戦力外にする』という目的がある。そうでなくてもばら撒けば敵は避けようとするからね」

「確かに、一利あるな」

殺害に至らなくとも、負傷すれば衛生兵が呼ばれ、後方に運ばれることがある。
治療を受けたとしても完治するまでその兵士は戦力外となるし、その兵士を補填する必要も出てくる。
それが通常の考え方だ。38式歩兵銃も威力について似たような議論があったことを南部は知っていた。

「そう。だけど、これはまともな軍ならばという但し書きがついたんだよ」

手を下した何仙姑はPDAを操作しながら訥々と語りだす。

「時に1993年。ソマリアにおいて発生した内戦において『モガンディシュの戦い』が起こった。
 この作戦は敵勢力の指導者の捕縛という目的で行われた。アメリカ軍は160名あまりの兵士と、多数の航空機 ヘリコプターを投入。対する民兵側はそういった兵器を持たなかった。作戦そのものは短時間で一気に決着させる予定だった」

PDAに目をやれば、ソマリアという地域の地図が表示され、その上に×や矢印が書きこまれ始めた。
飛行機 回転翼機 歩兵のイラストが動いていく。その動きは、片隅に表示された時計を見る限りかなり素早い。

646: 弥次郎@帰省中 :2016/12/13(火) 23:06:47

「その言い方からすると、簡単に終わらなかったのだな?」

「ああ、その通り。予定では僅か30分余りの強行拉致となる予定だった。
 ところがどっこい、実際の戦闘は長引き、何と日付をまたいで15時間も続いた。
 おまけに投入されていたヘリコプターが民兵からの攻撃によって撃墜され、少なくはない犠牲者が出た。
 また、ここで着目されたのが、民兵側の状態だった。ハッシン…分かりやすく言えばマリファナを吸っていたのさ。
 高い興奮状態にあった民兵は銃弾を浴びながらも攻撃を続行した。勿論、その兵士は死んだだろうね。
 でも、アメリカにとっては想定外もいいところだった。歩兵の命が高くなったのは知っての通り。
 使い捨てにする兵はまともな軍ならばあまりにもコストがかさみ、信頼も置けない。だけど、テロ組織や民兵にその常識は通用しない」

「…まさか」

「そのまさかだよ。そいつらにとって命なんてのは安いもので、多少の負傷は無視されるんだよ。死ぬ気で戦えって。
 そんな奴らを5.56mmでは殺すには至らなかったのさ。敬遠されていた7.62mm弾や敵が使っていたAKを鹵獲して急場を凌いだりいたらしい。
 何処にあたっても一発で殺せる銃がないと安心できない。後に、撃墜されたヘリコプターからとって「ブラックホークダウン」という、その時の顛末を描いた映画が作られたくらいでねぇ。どれだけ衝撃を与えたのかは言うまでもないことさ」

言葉を失う南部だが、何仙姑は平然としたものだ。

「この戦闘はいくつかの教訓をもたらした転換点となった。まず、歩兵同士のぶつかり合いはその歩兵の死によって世論にとってマイナスをもたらしやすい戦争方式とみなされ、航空機やミサイルなどハイテク機器によって担保されるものへと変化したこと。
 事実ブラックホークのパイロットを助けようとした歩兵が惨殺されて、アメリカの世論は兵力撤退へと転がった。
 もう一つが、さっきも言ったような銃火器の問題さ」

「たしかに敵を倒せぬ銃は論外であるな…」

「でも、本当ならそんな威力の銃はいらないのさ。そもそも5.56mm弾が普及したのは、7.62mm弾が不評だったからに他ならない。
 ロングレンジで高い威力を持っていれば絶対に負けない!という風潮があったことからも当初は7.62mm弾が使われていた。
 ところが、ベトナム戦争でソ連が配備していたAK系列の銃の方が携行性に優れ、安定して狙いがつけられた。
 ベトナムのジャングルという環境は射程の優位を生かすには適さなかった。伏兵が圧倒的に多く、遭遇戦も多いしね。
 結果、M14は投げ捨てられ、5.56mm弾を使用するM16が急速に配備された。その結果が威力不足なんだから、やるせないもんだ」

「ううむ…」

「そしてもう一つオチがついた。撃って当たっていたかに見えた5.56mm弾は実は命中していなかったこともあったってことさ」

「は?」

しばし絶句した南部の反応を何仙姑は楽しむ。
南部の目の前で何仙姑は妖艶にふふっと笑ったが、嘘をついているわけではないようだった。

「WW2において配備されたM1カービンもそうだったんだけど、戦闘では意外と冷静に狙いが定められなかったことが発覚した。
 事実、光学照準器(ダットサイト)の配備によって命中率が向上し、あれは何だったんだ?という状態になった。
 ま、フルオートでばら撒けば相応に狙いはぶれるし、照準をきちんと合わせてという余裕もなかったと言える」

「何というか……ご愁傷さまだな」

「同じことは起こりうると考えておいた方が良いよ。戦闘時はよほどの訓練を積んでもハイになるし、情報錯そうも起こる。
 情報を鵜呑みにするのではなく、よく情報がどのような状況で獲得されたものかを鑑みないといけない。
 軍の近代化や情報化が行われてもなお『戦場の霧』というのは良く発生してしまうのさ。どれが正しく、どれが間違っているのか。
 一瞬の判断の遅れが部隊そのものの命運を決める。アンタにはあんまり関係はないけど、前線での情報を受け取る際にはそういうモノもあると思いな」

647: 弥次郎@帰省中 :2016/12/13(火) 23:08:01

「参考までに聞くが、君達はどうやって情報収集をしているのかね?」

「アタシらの世界だと、銃弾が標的に命中したかどうかを追尾する装置を使用する。どういう状況なのかも記録する装置と同時にね。
 コストの問題から弾丸内蔵式ではなく個人携行できるレーダーなどによる追跡だけどね。歩兵が照準器で標的をロックオンすれば、命中したかどうかだけでなく、その標的がどこにいてどう動いているかも追跡できる。流石に高価すぎるから、銃火器の命中率などのデータ採取のために一定数を配備して結果を集めるために使われることが多いけどね
 もちろん、こっち(史実側)で配備するのはずいぶん先だよ」

弾丸を追尾。その事実は南部の驚愕を誘う。
南部は以前レーダーというものを聞いたことがある。
だが、航空機などならばともかく人より小さい銃の弾丸を追いかけるとはどういうことか。
しかもその速さはかなりの物だろうに。

「なんと、とんでもないな……ところで、その後は銃はどうのようになったのだ?」

「ボディアーマーの技術的発展やパワードスーツによって5.56mm弾は徐々に威力不足となったよ。
 でも、大量に製造されたために数的主力であったことはたしかさ。メーカー側が生産ラインを大幅に変えることを嫌ったのもあってね。
 それに弾丸そのものの改良も重ねられたから威力は向上した。一発当たりの単価は高くなったけど、新規設計の銃弾に置き換えるよりは安いからね」

「……意外と所帯じみているな」

「泣く子と企業と財布には勝てないってね。アメリカの物量は恐ろしいけど、時にそのアメリカさえも持て余すレベルで作ってしまうことがある。
 特に冷戦のころにアメリカもロシアも軍備拡張をし過ぎて、冷戦終結後もしばらく在庫処理に困ったくらいさ。
 だから近代化改修を重ねて何とか財政的な負担を下げようとしたけど、その分遅れも生じてしまった。
 戦車 航空機 銃、そこに例外はあんまりなかった。M14はその拡張性と信頼性からかなり長く使われたロングセラーだけど…」

「その分延命せざるを得なかったというわけか」

「そういうこと。一方で7.62mmはその後両極端に分かれた。威力を弾頭の改良などでほぼ保った5.56mm以上の口径へと縮小したものと、
 7.62mmを維持するか拡大した長距離射撃用弾丸にね。一つの転換点となったのは、軍事用パワードスーツの普及だった。
 初期の頃は文字通り人をある程度保護する程度だった。そんなパワードスーツに対処できるものが求められて一部が進化した。
 一時は対パワードスーツ徹甲弾を発砲可能なバトルライフルが普及したこともあったくらいさ。炸薬も弾頭も強化した、とてつもない銃が流行した。装甲車にも効果があったほどさ。しかし、強度を増していくパワードスーツやMTには、今度こそ追いつけなくなっていった。装甲車なども徐々に進化していき、一部の例外を除けば貫通できなくなった。
 結局、対人対物ライフルとして、嘗ての対戦車ライフルの如く標的を変えることになったのさ」

「なんというか、ぐだぐだ?という奴か」

「ま、そういうことだね。誰も全能ではないから、はるか先まで見通せるわけじゃない。
 特にNATO規格はその盟主であるアメリカの都合が大きく絡んでいる。パックス・アメリカーナとはそういうことなんだよ。
 大国の都合に小国が振り回される。ましてや世界最大の国力を持つアメリカには、正当な理由があっても逆らえない所があったのさ。
 人生万事、否、銃生万事塞翁が馬かね…」

「逆に言えば、他国を振り回しても文句は言われないのか」

「体面を気にする必要はあるけどねぇ。文句が大きくなりすぎるといざというときに困る。意外と気を遣うのさ」

日企連も同じさ、と心の中でつぶやく。決して漏らしはしない。
恐らく上層部も同じことを考えるだろう。

648: 弥次郎@帰省中 :2016/12/13(火) 23:10:20
さて、と仕切り直した何仙姑は話題を別な物へと移した。

「38式は30式からかなり互換性のある財布にも優しい銃だよ。けど、とにかく長く、重く、そして扱いにくい。
 その分99式ではかなり縮めた。資料は見てもらった通りだけど、南方に進出した際に長すぎる38式ってのは扱いにくかったんだよ」

「だが、懐に入り込まれたらどうするのだ?」

「その時にこそサイドアームだよ。サブマシンガン ショットガン 自動拳銃 マシンピストル…まあ、可能な限り用意する。
 日中戦争時には輸入が出来なくなってサイドアーム不足に陥ったくらいだからね。御国のためにって民間から徴発されたと聞いているよ」

「日中戦争……もうすぐ起きてしまうな」

「何とか避けようとはしているけどね。ま、アンタはそこに使う銃のことを考えるのが仕事さ」

違いない、とうなずいた南部はPDAの画面に注目する。

「サイドアームは、特化させた主力武器である銃の不得意分野を補うのが目的の銃と考えてくれればいい。
 もっと大雑把に言えば、弾切れや故障が起きた時に取り出す予備の銃と言ってもいいかな。
 その中でも不意の遭遇戦にはサブマシンガンやショットガンが特に有効だよ」

何仙姑が手を振ると、ドローンがそれに応じて近づいてくる。その背中の部分に懸架していたコンテナから銃を取り出し始める。何仙姑
最初に取り出されたのは、ショットガンだった。くるりとバトンのように綺麗に回した何仙姑は両手でそれを差し出す。

「こいつはウィンチェスターM1897をベースとしたショットガン。1897年に開発されたポンプアクション式のモノでね。
 本物ではないけれど、可能な限り再現したもの。これも特許やらなにやらがあるけど、そこら辺は解決できる」

南部はそれを持ち上げ、構えてみる。重さは38式より少々軽い程度か。銃床もありしっかりと支えられているために狙いは定めやすい。
銃そのものは程よい長さもあり、空いている左手で先台(フォアエンド)で支えることもできるので酷くぶれることもないだろう。
トリガーガードとトリガーが大きめに作られているのは恐らく防寒装備でもトリガーへの指の掛けやすくするための配慮だろうと想像できた。
銃口はどうかと見てみると、先端にはどうやら銃剣をつけると思われる部分がある。

「意外だな、銃剣嫌いな日企連が銃剣をつけるとは」

VRシミュレーションでのやり取りを南部は聞いていた。
「史実」の情報もあっての事なのか、日企連は銃剣が嫌いだという印象を史実側に与えていた。
それはある意味では正しく、また同時に誤っていた。

「そういうわけじゃないさ。銃剣は接近されたときの手段に過ぎ無いと割り切っているだけだよ。
 アンタらみたいに銃剣を使うことを前提には考えていない。槍を持って戦争に行くんじゃないのさ。
 まさか、刀折れ矢尽きるまでを本気で信じて、本気で刀や矢でやるつもりかい?」

「い、いやそれは…あくまで例えの筈だ」

「そうだよ。たとえさ。近代戦闘は銃を持って殺し合うのさ。もちろん例外をやってのけた馬鹿もいたけどね。
 それに、アタシらの世界だと銃剣なんてのは特定以外では廃れているというレベルじゃなくてねぇ…」

まあいいや、と何仙姑は次の銃を手に取った。

「イサカM37。これもアメリカ生まれのショットガンだ。驚くよ」

ポンと渡され、本当に驚いた。

「軽い…?」

銃そのものは長さはウィンチェスターM1897とあまり変わらない。
だが、それでも軽い。軽量化で何かしらしているのかとも推測できたが、露出している部分を触れば感触は金属のそれだ。

「御明察。全長1158~1260mm、重量は重くても3.4kg。他のショットガンを凌駕する軽さが売りだよ。
 ライトフェザーって仇名もある。別に炭素材や軽量合金を使っていない。これは可能な限りオリジナルを再現したものだけど、全てスチール製にも拘らず非常に軽量だった。他にも排莢孔を兼ねる装填孔が下部にあって、それ以外の開口部がない特徴もある。
 おかげで内部に水や泥が潜り込むことも少ない。そのおかげかラフな環境で使うことが多い軍でも随分と重宝されたよ」

「開口部…なるほど。余計なゴミが入るのは危険だな」

「一つ注意しておくけど、散弾銃がどういうものかも知らずに使うのは危険だよ」

「?」

「アンタらに講義で教えたように、瞬間火力という面で優れていて、広範囲に影響を及ぼせる。
 けど、扱いもやや特殊さ。ソードオフ版だと散弾が至近距離でばら撒かれるから拳銃と同じ感覚で使うと…うん、酷いね」

649: 弥次郎@帰省中 :2016/12/13(火) 23:11:06
何が、とは言わなかった。ただおぞましい光景が頭の中で想起される。
散弾銃はその射程こそ拳銃ほどであるが、攻撃範囲、即ち飛び散っていくことによって面として攻撃力を発揮する。
もし味方が敵の近くにいる状態で、その散弾銃の特性を考慮せずに撃てばどうなるか。彼女の言う通り、それはひどいことになるだろう。

「で、こっちがサブマシンガン…日本語で言えば機関短銃とか短機関銃とも呼ぶね」

「機関短銃か」

南部はべ式機関短銃ことハーネルMP28短機関銃と試作中の試製二型機関短銃のことを思い出す。
日企連の提示した資料によればそれらを経て100式機関短銃へと繋がっていくことも知らされていた。
自分が作りそうだ、と思ったのが最初の印象だ。取り寄せて研究中だったMP28のような横に伸びた弾倉や着剣機構などは、まさに「らしい」ものだった。最も、日企連側の評価は高いとはいえなかったのだが。
そんな南部の「機関短銃」既存概念を裏切るようなものがポンと卓上に置かれる。

「こっちがイングラムM11…MAC11とも呼ぶ。使用銃弾はブローニング拳銃と同じく.380ACP弾。
 携行性に優れているから、こっちは護身用か警護用に普及させるよ」

「こんなに小さいのか?」

卓上のそれは、まるで拳銃だった。
サブマシンガンと言われなければ、パッと見ただけではそうとは気がつけないかもしれない。
拳銃には本来ないストックや長めのマガジンなどで何とか区別は出来るが、それ以外はほぼ同じだ。

「そう。こいつは自動拳銃くらいしかない。重さもそう変わるものじゃないさ。
 総弾数は増やせるけど、どっちかと言えば何処へでも携行しやすいことこそが売りだから、そこまで重要じゃないね」

「ふむ…」

「アンタら帝国の技術だとここまで小型化は難しいかもしれない。でも、やれないこともない。
 多くの銃を研究目的で作って技術蓄積を行うのもまた重要さ。場数を踏めば理解できることもある。
 とりあえずコイツのノックダウン生産とライセンス生産が優先だろうね」

次に出されたのは、先程のイングラムよりも小銃に近い形状の銃だった。
長いマガジンが前方よりについており、銃身長も全長も長いのが分かる。

「こっちはドイツのMP-40/Iをモデルとしたサブマシンガン。弾薬は.380ACPを採用。
 携行しやすさは抑えているかわりに、その重量と構えやすさによって安定して射撃可能。
 長銃では困る領域に持ち込むことを想定している、アサルトライフルに近い形でも使えるサブマシンガンだね」

確かにアサルトライフルに似ているし、MP-28と比較すれば確かにその系譜であることが何となく察せられる。
手に取って構えてみれば、確かに講義で教えられたアサルトライフルのように構えられる。
構える際にもストックの長さがちょうどよく調整できるようで、南部にもきっちりと合致した。

「徹底して量産性を追求か」

手元のPDAに映る資料にはそのように表示されている。
よく見ればこのサブマシンガンには金属やプラスチックばかりで構築されている。
削りだしの木材などは確かに加工に時間がかかる。いや、日企連の技術ならば可能なのかもしれないが、
少なくともこの銃を開発した人間は木材を一々使うことなど時間の短縮には障害になると考えたのだろうと推測した。
プレス加工という手法はアシハラナカツクニの支援工作艦『トヨアシハラ』の自動車製造ラインで見た覚えがある。
迅速に金属の形が変わり、あっという間に大量に同じ部品を作り出す光景には流石に驚いた。しかも人の手をほとんど借りずに、
機械だけでどんどん作ってしまうのだ。日企連から見ればとてつもなく非効率な手法で我々が銃を作っているということは想像できる。
銃に限らず、工業品すべてに該当するだろうといいうこともだ。

(いずれはアレも導入しなくてはないな…)

しっかりと心に留め置いた南部は何仙姑の説明に耳を傾ける。

「本来ならコイツは9mmパラベラム弾を用いる。将来的には軍用の小口径弾丸は9mmで統一する予定だから、
 大幅な設計変更なしに迅速に更新するにはこうした9mmを使う銃を改装した方が手っ取り早い」

「.380ACP弾か…8mmの方が威力があるのではないか?」

「日企連規格で再構成された嘗ての銃弾だからね。カタログスペックは大幅に進化しているよ。
 そもそも、複数の弾薬の混在状態が一番怖いからね。悪いけど既存の弾薬は多くを取り換えることになる」

650: 弥次郎@帰省中 :2016/12/13(火) 23:11:44
「そうか。そういえばそうだったか…」

「まあ、そう肩を落とさなくていいさ。アンタの作った8mm銃弾は日本人に向けて作ったものさ。
 誇っていい。そういう答えを導きだせたんだからね。並大抵の努力じゃない。後世のガンスミスにとっては偉人の一人さ」

話を戻すよ、と何仙姑はPDAの映像ファイルを開き、南部にもよく見えるようにした。

「サブマシンガンに似たものは少しばかり開発されていたけど、ドイツのベルグマン MP18が最初とすることもある。
 塹壕戦においてはボルトアクション式よりもフルオートが可能で反動が小さな銃こそが必要ではないかってね」

「塹壕戦……」

幸か不幸か、大日本帝国陸軍は塹壕戦が生まれる契機となった日露戦争を経験している。
しかし、塹壕戦そのものの経験はない。第一次世界大戦時にはイギリスから参戦を求められたが、結局ドイツ植民地への攻撃に留めたのだ。
故に、西部戦線で繰り広げられた泥沼は知る由もなかった。機関銃と毒ガスと有刺鉄線と進化した銃によるにらみ合い。
歩兵たちはひたすらにスコップで塹壕を掘り進め、何時襲撃が起こるか分からない中、ひたすらに耐久することを強いられた。
そこで生まれたのがトレンチガンやサブマシンガンなどの新機軸の武器であった。

「しかし、その塹壕戦を想定の銃は、とくにサブマシンガンには意外な利点が誕生していた。
 ライフルよりもコストや製造の簡易性から導入のハードルが低く、銃弾は拳銃弾が流用でき、取り回しがよく、重装備が出来ない兵士にも拳銃以上ライフル以下の丁度良い火力を持たせることができるという利点。
 ドイツはこれの研究を続けて歩兵の火力を確保した。それまで存在していたサブマシンガン(短機関銃)というのは、『重機関銃の代替品あるいは補填品』だったのだけれど『携行しやすい拳銃弾を使うフルオートの銃』というコンセプトで、このMP-40および前身のMP-38は生み出された。既存概念の見事な破壊だよ」

PDAではその射撃の様子と思われる映像が流れる。
まさに機関銃のような連射速度で、拳銃の弾丸が吐き出されていく。
以前資料で見せられたアサルトライフル(突撃銃)やセミオートライフルにも近い。

(これを見せたら軍部はひっくり返るだろうな)

ぼんやりとそれを思いながらも、南部はしっかりとその映像を見つめ続けた。

「攻撃力とは、一般に威力や射程ばかりを気にしてしまいがちになる。
 けど、そこに追加されるべきは『必要な時に必要な場所に使い手が持ちこめるか』という命題だよ。
 例え百発百中の砲があろうとも最前線ではなくはるか後方にあっては意味がない。ましてやその砲が動かせませんとなったら、動かしやすい百発一中の砲の方が頼りになるのは必然だよ」

「東郷元帥の言葉か」

百発百中の一砲能く百発一中の敵砲百門に対抗し得る。
彼女が引き合いに出したのは日露戦争後に連合艦隊が解散されるときに東郷平八郎が訓示として述べた言葉だった。
南部の指摘に何仙姑は頷く。

「そ、東郷さんの言葉だよ。でもアタシが修正するなら『限定状況においては』と頭につけるね」

「君の発言から察するに、当たる場所に置かねば意味がないか」

「そういうことさ。まあ、原義としては『鍛錬怠るべからず』なんだろうけど、ややこしい言い方をしたもんだね。
 格好つけずに『1つの勝利は100の鍛錬より生まれる』とでも言えばいいのに。貧乏なこの国でそんな発言すれば、本気で百発百中の砲を作ろうとするに決まってるさ」

「真意を知らなければ、馬鹿正直に字面を追いかけてしまうな……」

「そう。その字面も一見すると正しいように見えるけど、その実態は全く異なる。目に見えるモノや既存概念に縛られ過ぎてはいけない。
 このサブマシンガンも、その名前やこれまでの『重機関銃の代替品あるいは補填品』というコンセプトに引きずられれば、何度上申しようともこの銃は絶対に評価されないか、間違った使い方をされる」

「そうだな…これで長距離射撃など馬鹿らしい。使いどころを誤らぬようにしてもらわねばな」

過ちは繰り返さない。少なくとも、日企連の世界ではそのような錯綜があった。
それを知ることが出来ただけでも相当大きい収穫だ。

651: 弥次郎@帰省中 :2016/12/13(火) 23:13:08

「これだけ紹介してもらったのはありがたいが、どれを選ぶべきだろうか?参考までに聞きたい」

一通りの説明が終わり卓上や南部のPDAには多くの銃火器の実物や資料が置かれていた。
その上で南部は問いかけたが、何仙姑はにべもない返答を返す。

「どれにも利点があるのさ。だから、順位なんて決められない。アタシが決めることは候補を決める事さ。
 最大公約数的な概念で候補は絞られた。だから、アンタがやるべきことなのはこれらを使用する陸軍に持ち込み、こういう銃がありますがどうでしょうか?と伺いを立てる事さ。ガンスミスがやることはそこまでさ。扱うこと自体は軍人の仕事なんだよ」

「うむむ…」

「実際に使う機会は、多分直近にある。上海方面がきな臭いらしいじゃないか。
 そこでの実戦の情報を元に軍部とよく話し合いな。一体どのような銃が今後必要になるのか。
 一体どのように銃を進化させていくべきなのか。そして、何がもっとも最善であるかを探しな」

説明を区切った何仙姑は乾いたのどを潤すために自分のお茶を飲み干す。
お茶の香りなのか、どことなく甘い香りが何仙姑の吐息に混じった。
ふぅと息を吐き、何仙姑は優雅に器を置く。何気ない所作だが、その動きには何かしらの美しさがあった。
それに、年甲斐もなく南部はクラクラしてしまった。匂うような色気というか、まるで幼子が大人になったかのような錯覚さえ感じる。

「…どうしたんだい?」

流し目がのぞき込んでくる。
まるで、一夜限りの泡沫の夢を見せる女郎か。ぞわりとするような悪寒と、興奮。
前者は生物としての、後者は雄としての衝動。それが南部を苛んだ。物理的にではなく、感情的に。

「い、いや、なんでもない……」

咄嗟にごまかす。
ごくりとつばを飲み込んでしまったのはうまく隠せただろうか。

「資料はアンタのPDAに転送しておくよ。もし紙の資料が欲しければアシハラナカツクニの総合ロビーにアタシのドローンを配置しておくから、そいつにPDAをかざしてアクセスし、指示するといい。アタシのエンブレムが目印だ」

電子音を鳴らしドローンが自己主張する。

「いいかい。どの銃も選んで採用できる。けど、これから選ぶ銃にこそ帝国の未来は委ねられるんだよ。
 手段を選ぶ暇はない。日企連を利用しな、徹底的に。それをやってやるだけの気概は日企連もあるし、これくらいの投資なんて屁でもない。ついでに言えば資料に乗っている多くの銃がまだ世の中に出されていないものばかりさ。
 著作権だとか特許だとか意匠権は半分くらい無視していい。重要なのは如何に経験を積み、来るべき戦いに備えるかだよ」

来たるべき戦い。それは1940年代に向かえる太平洋戦争を指していた。
もっと直近の戦争で言えば日中戦争もあるが、日企連の焦点はそちらには向いていない。
あまりにも次期が近すぎるが故に対応が間に合わないという判断故だった。南部も同じ意見だ。
だが、かといって手を抜き過ぎることも許されていない。

「あと3年半。のばせても10年もないかもしれない。急ぎなよ」

「わかった。資料は持ち帰って協議する。標本は頂けるか?」

「んー…まあ、いいかな。そうだねぇ……持っていくのは苦労するだろうから、アタシのドローンをつけるよ。
 虎鶫とかが既に共同で教えているだろうから、軍の方からも要求が来るはず。その時にこいつらを見せればいい」

素早く立ち上がった何仙姑はいくつもの銃をドローンのコンテナに収めていく。
本体、予備の弾薬、整備キット、マニュアルを納めたマイクロチップなどだ。
紙媒体の資料も付属されている。どうやら、彼女はPDAに不慣れなこちらの状況を知っているようだ。

652: 弥次郎@帰省中 :2016/12/13(火) 23:13:50
その様子を眺めながらも南部は正直な感想を漏らした。

「用兵側と開発側の両方をきっちりと抑えているのだな、日企連が」

「作り手と使い手がきっちり連動していることが理想的じゃないか。
 それが日企連のやり方だからね。始まりと終わりを最初に決め、議論し合いながら中身を詰めていく。
 全部をコントロールなんて労力がかかるなんてレベルじゃないし、思考を限定してしまう。撃てば響く。いい言葉さ」

その言葉と共にコンテナがパチリと閉じられる。
素早い操作でドローンに指示が与えられていく。
恐らく、自分についてくるように指示しているのだろうと察する。

「ま、まあ、そちらでできるならば私に文句はない」

そのように言うのが精いっぱい。
おずおずとドローンに合図し、南部は出口へと向かう。

「ああ、それと」

不意に何仙姑は声を飛ばす。

「アタシは成人している。言ってみれば、合法だよ」

南部はその言葉は聞かなかったことにした。
倫理観と本能のぶつかり合いを忘れるべく、半ば走り出すようにして部屋を後にした。
運搬用のドローンが慌てたように南部を追いかけ始めた。

「なんだい、結構うぶいんだねぇ」

再びケタケタ笑った何仙姑は残ったドローンに後片付けを命じる。

「さて、アタシもお仕事お仕事」

表情を戻し、PDAの電話機能を呼び出す。
コールするのは虎鶫。銃の仕上がりを伝えるためであり、南部へと銃を紹介したことを伝えるため。
これで遠からず新型の銃についての教導も始まるだろうし、実包訓練も始まるだろう。
全ては日企連が転がしている。彼らはまだ、自分達を無視できない。暫くは流されてもらおう。
マッチポンプと呼びたければそう呼べばいいだろう。だが、それが必要なのは間違いない。
世界を、談合込みとは言え一国を飲み込んだ日企連に、この程度のことはたやすい。

「さあ、もっと楽しませておくれよ、史実の偉人たち。否、臣民」

愉快気な笑いは、南部には届かない。部屋の中にだけで完結した。
臣民がどうあがくのか。その様子を見ることが彼女の楽しみでもあるのだから。

653: 弥次郎@帰省中 :2016/12/13(火) 23:14:37

教練用小銃

口径:7.62mm
銃身長:470mm
ライフリング:4条右回転
使用弾薬:7.62x51mm NATO弾
装弾数:20発(箱型弾倉)
作動方式:ロングストロークガスピストン方式
全長:約970mm(ストックなどで可変)
重量:約3760g(弾倉及び付属品を除く)
発射速度:最大約500発/分
銃口初速:約700m/秒(減装薬)
有効射程:480m~550m

大日本企業連合が史実側に提供した教練用小銃。
日企連では当初5.56mm弾あるいは6.8×43mmSPC弾のような携行しやすく量産性に優れた銃弾を供与するはずであったが、
満州という日本列島本土とは異なる状況においては5.56mmNATO弾がソマリア内戦で経験したような「威力不足」や
「ストッピングパワー不足」という問題に再び直面するという意見が出た。確かに7.62x51mm NATO弾はフルオート射撃には向いておらず、
ベトナム戦争で酷評を受けたように強すぎる反動という問題から全軍に配備するには不適格と言わざるを得なかった。
さりとて交戦距離が長い満州では防寒着による防弾性の獲得という事実と合わせ、可能な限り威力と射程が求められていた。

どちらを基準とすべきか、それとも7.62x39mm弾や6.8×43mmSPC弾のような中間弾薬を採用するか。
議論の中で解決策として提示されたのが、満州向けと本土を中心に普及させるライフルの合計二種類を用意するというものだった。
前者に所謂バトルライフルを割り当て、後者にはアサルトライフルを普及させることは本来ならば大日本帝国には不可能だったが、
日企連の支援の下で大量の銃火器の更新が可能となったことでこの案は採用されることになった。
担当者曰く「両方とも大量に作って互換訓練しとけばいいじゃん」。力技ここに極まれりである。

日企連が参考となる小銃の策定を行った結果、旧自衛隊で採用されていた64式7.62mm小銃を発見した。
日本人が日本人向けに開発したということと、大量の資料がきちんと保管されていたことから製造もしやすいと判断されて採用が決定した。
史実と異なり作動方式はロングストロークガスピストン方式が採用されている。
反動はオリジナルよりも大きいが、基本的にセミオートでの射撃を前提としたバトルライフルのように使うことや、
ショートストロークガスピストン方式よりも構造が単純化できるというメリットを生んだ。またパーツを減らしていることも合わさり、
オリジナルと比較して整備性と耐久性の向上を実現しており、史実側でも容易く整備が可能である。
分かりやすく言うならば、心臓部の耐久性などがAK47に近づいた64式である。


新南部100式短機関銃
使用銃弾:.380ACP弾若しくは9mmパラベラム
種別:短機関銃
銃身長:251mm
装弾数:32発
作動方式:シンプル・ブローバック方式 オープンボルト撃発
全長:630mm(ストック延長時833mm)
重量:3815g
発射速度:500発/分
銃口初速:380m/秒
有効射程:100m

日企連が製造した短機関銃。
モデルとなったのは短機関銃の先駆けと言えるドイツのMP-40。より正確に言えば、ボルトを前進状態で停止させておく
安全装置を最初から組み込んだMP40/Iがベースとなっており、またMP41のように木製の銃床をオプションとして取り付けることが出来る。
プレス加工とプラスチックや合成木材を組み合わせて全体的な軽量化 低コスト化 量産性向上を図っている。
MAC11などとは異なり、こちらは実戦配備型のサブマシンガンで、市街地などの取り回しが要求される場所での運用が前提である。
試作型は第二次上海事変に投入され、取り回しの良さを評価されて後に制式採用に至った。

654: 弥次郎@帰省中 :2016/12/13(火) 23:15:21
グランドコンドル Mark.XXX
全長:295mm
銃身長:187mm
使用銃弾:.50AEE7(.50Action Express Experiment7)
(特殊徹甲弾 電磁ショック弾 焼夷弾 弱装弾 麻酔弾など多数バリエーションあり)
総弾数:8発
作動方式:シングルアクション ガス圧作動式
重量:2.89kg前後(オプション含み)
有効射程:100m前後
機能:サーモセンサー 指向性集音機 レーザーポインター X線撮影装置 生体認証装置 その他機能多数

虎鶫の愛銃。身体強化やボディアーマーが進化したことにより、通常の拳銃では威力不足となるケースが増えたことから、
設計や開発が継続されたマグナム銃の末裔。高い耐久性と信頼性に裏打ちされた名銃である。開発元は元アメリカのGA。

採用銃弾は.50Action Expressの系譜につながる.50AEE7(.50Action Express Experiment7)。
この弾丸の特徴はその12.7mmという大口径弾の持つ容量を活かした多機能的なバリエーションにある。
電子的強化を行った人間への電磁ショック弾やボディアーマーを貫通しやすい特殊AP弾、殺傷力を高めた炸裂弾、
麻酔弾など種類は非常に多い。威力は口径はそのままながらも火薬と弾頭の改良および銃身長の延長などで増加している。
しかし、素のままの人に向けるモノとは言いにくい。多くの場合火薬量を減らした対人弱装弾が使われている。
また反動と重量も相応であり肉体強化を行うかかなり鍛え上げた人間でなければ使えない。

虎鶫は自らの手のサイズと身体強化に合わせ、レーザーポインターと各種測距装置の追加やグリップの形状調整を行った。
フレームそのものの耐久性も強化炭素材や軽量合金によってかなり強化しており、いざとなればこの銃そのものを
一種の鈍器のようにも使用出来る(曰く、ナイフに持ち変える時間さえも惜しい時がある)。
空になったマガジンでも抜群の耐久性があるようで、缶詰をこじ開けるのに使ったこともあるらしい。
さらにグリップに埋め込まれた小型コンピューターと虎鶫本人の脳に埋め込まれたAMSの電子回路を連動させることで、
残弾の確認や照準のブレの機械による修正、予想される弾道の表示、搭載された指向性マイクで銃を向けた先の音を拾う、
各種センサーなどで標的を検出するなどの機能がある。これらの情報は全てAMSを通じて視覚に投影され、
さらに射撃に際しては虎鶫自身の体を最も適切な姿勢をとるように機械的にコントロールすることも可能である。

この小型コンピューターはセーフティも兼ねており、グリップとトリガーに設けられた生体認証装置によって
虎鶫が許可した人間しか扱えないようにロックすることも可能である。このセーフティは盗難などを警戒したものであり、
下手をすれば使い手を殺しかねない凶悪なマグナム銃をうっかりでも発砲しないようにとの虎鶫の配慮でもある。
このトリガーロック機能は虎鶫が個人的に有する一部の大口径猟銃(ウェザビー・マークVとその系列)にも採用されている。
勿論この機能がハッキングされることも考慮しており、機能はトリガーのロックにのみ関与、手間はかかるが物理的に解除も可能。
また、電子機器を配置していないS&W500のひ孫にあたる銃も携行している。


〇人物紹介

何仙姑(かせんこ)
日企連所属の(変人)ガンスミスの一人。年齢は不明だが少なくとも成人している。
転生者らしいのだが、その過去に何があったのかは黙して語らない。
曰く「少々意味は違うけれど、怪力乱神を語らず」とのこと。
虎鶫ら日企連の軍人の要求にこたえる一品を作り、専属とされるほどの技術がある。
現在は史実側の銃火器の開発に関わっている。

655: 弥次郎@帰省中 :2016/12/13(火) 23:16:40
以上です。wiki転載は>>643からお願いします

議論の内容を反映し、口径のミスを修正しました。
感想返信は明日以降になります。
ではおやすみなさい…

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最終更新:2017年02月11日 21:40