880: 弥次郎 :2017/01/28(土) 00:41:17

大日本企業連合が史実世界にログインしたようです 「蝶が羽ばたき、嵐が巻き起こる」 -鉄の男は震える-



ソビエト連邦 モスクワ 某所。
NKVDの制服を着た人間達がいかめしい表情で作業を行っている。
彼らが扱うのは大量のビラだ。それも、数枚どころか数千、数万枚にも及ぼうかというほど。
作業が行われている部屋は、相応に広い部屋が用意されたのだが、連日の作業で文字通り足の踏み場もないほど埋め尽くされている。
木箱に詰め込まれたそれを受け渡しをする者や、焼却炉へと運んで行く者、その枚数を数える者など、様々だ。

その紙は、党が発行する広告や宣伝などではない。
このモスクワを筆頭にソ連、およびソ連を構成する国々でばら撒かれているビラである。
内容は至極単純。数枚の写真と、何かを告発あるいは糾弾する内容の文章が書かれているだけだった。
そのシンプルさゆえに、文字を理解できるものにとっては、そのビラの言わんとすることがどれだけ非人道的かを理解できた。

「私は告発する。

 私の故郷は飢えている。飢えさせられた。

 共産党は何も救ってくれなかった。

 私は声を上げる。

 私の故郷、ウクライナは飢えている。

 共産党が意図的に飢えさせたのだ。

 達成の難しいノルマが、我々の日頃の食事さえも奪ったのだ。

 食事さえも徴発の対象となっている。カーシャも、パンも、麦も、凡そ食べ物と呼べるものは奪われた。

 コルホーズは進んだのだ。それは、我々の膨大な飢えと人を人とも思わぬ極悪非道な所業によって。

 何も知らぬ人間が畑を耕したところで、以前のような、指導者がいたころの収穫ができるわけがない。

 機械化と銘打っているが、その機械さえもろくでもなものばかりだ。

 男は運河に連れていかれて労働を強要され、女はどこかへ連れ去られた。

 今こそ声を上げる。この暴虐に立ち向かわなければならない。

 人民よ、本当の敵を認識せよ。今こそ立つのだ。

 隠ぺいに隠ぺいを重ね、真実を隠す愚か者を排除せよ。赤い星が落ちるのは、近いのだ』

告発文の下には、二枚の写真が掲載されている。
その写真は千差万別であるが、そのどれもが悲惨すぎる光景を写していた。

不気味なほどやせ細った人の姿。

赤子の傍らで動かなくなっている母親の姿。

放り投げられて山積みされたと思われる墓地。

路地に捨てられている死体。

運び出されていく、不気味なほどの多くの食料。

人肉さえも口にしているやせ細った人。

あるいは、党の発行した命令書の写真。

それらは文字通りばら撒かれていたり、家々の戸口に張り付けられていたり、あるいは村ソビエトに大量に置かれていた。
当然の如く、そのビラは多くの人々の目に留まったし、その内容に目を通して訴えかけた。
そのビラは「飢饉」と「苦行」というウクライナ語を組み合わせた「ホロドモール」という言葉でソ連の行動を名づけ、非難していた。
国内パスポートと国境の封鎖、さらに医者にさえも「飢え」という言葉を使わせないなど徹底した封じ込めを行っていた、という証言も載せられている。
さらに、そのビラの文句にはあからさまな挑発が含まれていた。
言うまでもなくソビエトへの、である。時代を経るに従い、そういった文句は進化したが、それをフル動員したものだ。

「素晴らしい()計画」
「農豪を排除してまるっきり素人に任せるとかソビエトは考えることが違う」
「この程度の改善で50%の収穫増大とかワロス」
「人民は増えた収穫品を食い過ぎて餓死してしまいましたが、これもコルホーズのおかげですね」

その書き方も、文字の形も、色なども非常に扇動的だ。
どのような色や調子で書けば最も人間という種に訴えることができるのかを人間工学的に考慮してビラを作成したのだから、効果は抜群だった。

881: 弥次郎 :2017/01/28(土) 00:42:00

そのビラの効果は、ソ連国外でも波及していた。
ソ連国内だけでなく、アメリカやイギリス フランス ドイツでもばら撒かれたビラはすぐさま効果を表した。
バラまれたビラを読んだバーナード・ショウやハーバート・ジョージ・ウェルズをはじめとした社会主義者たちは、自分達が見たのが「理想的な運営がなされている様に工作された農場の光景」と指摘され慌てて確認を取り始めた。さらに国連や赤十字などは、予てからホロドモールについて指摘を続けていたが、このビラを根拠として、さらにソ連に続けた。

「やるべきことは分かっているな、リトヴィノフ エジョフ?」

「は!」

「お任せを」

直々に呼び出しを受けたニコライ・エジョフとマクシム・リトヴィノフは震えながらも、それをおくびにも出さずに命令を受けた。
その厳命は病的なまでの命令だった。長らく、ソ連基準であるが、この鉄の男の手足となって働いてきた彼らは、本能的に理解できた。
このソビエトの最高権力者は、それほどまでにこのビラを恐れているのだと。

同時にこのビラがまき起こした事態の重大性を時系列的にも察した。時期が時期である。
アメリカ海軍の暴走というショックが抜け、日企連の有する技術が国連やIOCを、そして招待されたメディアを通じて広まり、それらのショックがようやく抜け始めたころ。ここでさらにセンセーショナルに事実の公表がなされれば、翻弄されるがままに世論は知ろうとする。
それが憶測であるならばともかく、明確な証拠や証言に基づいたものであれば、なおさらだ。

ばら撒かれたビラは急速にソ連という地域から駆逐された。
クレムリンの主であるヨシフ・スターリンの苛立ちを、そして恐怖を表すように、そのビラの排除が命じられたのだ。
静かに、そして苛烈な排除はNKVDをはじめとした秘密警察および軍によって実行。後の証言によれば「ビラを持っていれば逮捕」、「ビラの内容を理解出来れば逮捕」「ビラの文字を読めれば即グラーグ送り」という一種の病的なまでの実行であった。
それでいて、ビラは存在しないものとして扱われた。回収されたビラはその多くが焼却炉か暖炉や焚火に放り込まれて燃やされた。

「奴らにはグラークが似合いだ。役立たずどもめ!」

スターリンの叫びは、粛正の嵐となってソ連内部を吹き荒れた。
ゲンリフ・ヤゴーダを皮切りに内務人民委員部(NKVD)の人員とその家族親族が逮捕され、公開裁判の上で処刑が実行された。
史実よりも早い、大粛清(大テロル)の実施であった。センセーショナルに排除されたゾルゲのこともそうであるが、
これまでの努力が一瞬にして無駄にされたことがよりスターリンの苛立ちを加速させていた。
件のNKVDにしても、スターリンの要求には首を縦に振るざるを得なかった。確かに元々逆らえないのであるが、紛れもなく諜報分野での敗北であるし、責任を負うことができるのは彼等しかいなかった。

だが、このビラによって引き起こされた前倒しの大粛清は、史実においても発生した弊害を早くから生むことにもつながった。
エジョフ曰く「木を切り倒すときは木端が散るものだ」。意味するところはスパイを炙り出す際には無実の人間も巻き込まれるが、それでもやらなければならないと言ったところだろう。事実彼はスターリンの大テロル(粛正)を忠実に実行した。
その影響はソ連の計画経済や社会制度の機能不全につながっている。畑から兵士が取れるといわれるロシアでは処刑されても補充が効くとはいえ、余りにも天文学的な数に達してしまえば影響は避け得ないのである。

故に、ソ連は、クレムリンは外敵からの侵入を察知する能力を一時的に麻痺させてしまった。
闇深くに踊る者たちにとっては、夜露に紛れ外套とナイフの世界を歩む者たちにとっては、千載一遇のチャンスであった。
ソ連は、想像だにしなかったのかもしれない。ソ連首脳部の、この時期に権勢を握るヨシフ・スターリンの思考パターンやおおよその行動について熟知している組織が、企業が存在していることなど。
そう、ソ連は、スターリンはあまりにも危険な相手を敵に回してしまった。
しかし、誰がそれを責められようか。
自分達の行動を、相手にとっては未知の筈のそれをとっくに既知としているなど、誰が想像するのか。
故に、彼らは翻弄されるしかない。翻弄され、好きなように弄ばれるしかないのだった。

882: 弥次郎 :2017/01/28(土) 00:42:40
以上。wiki転載はご自由に。
なんだかうまくかけている自信がないです。
レス返しなどは明日になってからやります。

887: 弥次郎 :2017/01/28(土) 10:06:22
誤字
さらに国連や赤十字などは、予てからホロドモールについて指摘を続けていたことを、このビラを根拠として

さらに国連や赤十字などは、予てからホロドモールについて指摘を続けていたが、このビラを根拠として、さらにソ連に続けた

すいません、転載時に修正お願いします。
もうちょっとこういうの減らさないといけませんな。

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最終更新:2017年02月11日 22:06