971: 弥次郎 :2017/02/01(水) 23:16:36
大日本企業連合が史実世界にログインしたようです 「蝶が羽ばたき、嵐が巻き起こる」2 -総統は動き出す-



          • ドイツ第三帝国 首都 ベルリン 総統府
ヒトラーの前には、ドイツ国内で発見されたビラがあった。
ウクライナでの人工飢饉と飢餓輸出の事実をすっぱ抜いた、まさしく扇動のためのビラ。
そして、それを持ち込んだラインハルト・ハイドリヒは、ドイツ総統の前でそのビラの出所を断言した。

「これをばら撒いたのは間違いなくJUUです」

「何故、断言できる?」

「ここまで均一な質の、クレムリンから発せられた命令書を克明に写す写真を大量にばら撒ける技術を持つなど、JUU以外にはあり得ません。意図的に質を落とした形跡は見られますが、隠しきれてはおりません。
 いえ、質を落としてはいますが、むしろそれを悟らせようという意図が見えます」

「と、いうと?」

「マンチュリアとソビエトの間の国境をめぐる係争はひっきりなしに起きております。
 ソ連の注意をそれて一番得するのはどこの誰か。そして、それを可能とする技術を持ち合わせているのは誰か?その答えは…」

「JUUだな」

総統の断言に、ラインハルト・ハイドリヒは肯定を示す。

「事実、ヤーパン国内では不気味なほどにソ連批判の論調が展開されております。
 マンチュリアへの侵攻も『共産主義の名のもとに搾取する領域を拡大しようとするソ連の攻撃だ』と。
 JUUの機関紙の意見が、ほぼ総意と言ってもよいでしょう。しかし、それはあまりにも統制が取れた論調です」

「少なくともJUUにとっては、ビラがまかれることは考慮の内であるということだな」

「Ja.ヤーパンにおいてはこの暴露を契機に社会主義の取り締まりが強化されつつあります。
 絶好と呼べるタイミングで、ウクライナからの亡命者がヤーパンに到着。その証言が語られました」

こちらがその新聞です、とドイツ語訳がなされたメモを添付した新聞が差し出された。
正しく餓死寸前に追い込まれた亡命者の証言がいくつも並んで掲載されている。
流石に本人の写真はなかったのであるが、「ビラ」の言う「国内パスポート」の写真が掲載されていた。
「ビラ」曰く「農地に人民縛り付けるための枷」。なるほど、これを以てすればウクライナの人間を管理するのはたやすいだろう。
これを信じる信じないは自由である、などと白々しく書かれてはいるが、その実としては信じるように誘導している。

「亡命者か…」

「現在はヤーパンのどこかで保護されているとの情報があります。とはいえ、それを暴こうとするだけ無駄でしょう」

「ふむ……問題はJUUやヤーパンがどのようにソ連に対抗するか、だ」

そのように問いかけているが、ヒトラーはその答えを問いかけながらも自らのうちに見出している。

「あの人型、それで抵抗する腹積もりか?」

「ハワイで見られたRüstung Trooper(アーマードコア)は、彼らの言を信じるならばその戦闘力は数個師団に匹敵すると。
 それが事実であるならば、そしてカンザキ代表が述べたように各地に配備されるということならば、マンチュリアにもあるとみるべきでしょう」

単独で数個師団分の戦力となる人型兵器。
これは「セラフ」についての説明であり、どこまで適用されるのかは不明だ。
そもそも、RTについては不明なところが多すぎる。どのような仕組みで、どのように製造されたかも一切が不明。
分かることと言えば、人の形でありながらも空を自由に飛ぶことができるということだけ。

「正体不明な戦力がどれほどの価値があるかは不明。しかし、それに自ら当て馬になりに行くとは考えにくいでしょう」

「ここで迂闊に軍事行動を起こせば、それこそ疑いを裏付けるものとなるだろうしな」

それはそれで構わんが、とヒトラーは頷く。
彼にとって、このビラの情報は正しく棚から牡丹餅。
早速ゲッペルズや宣伝省を動かして反共産主義のプロパガンダをばら撒かせて、国内に浸透させつつあった。
最初こそ半信半疑であったが、ソ連の、クレムリンの慌てぶりからその真偽を確かめるのは簡単であった。

「では、今後JUUはどう動くと考えられる?」

「JUUが積極的な行動に出ることは難しくはありますが、出来ないわけではありますまい」

「それが可能だと?」

972: 弥次郎 :2017/02/01(水) 23:17:51

「コウノトリがあります。ソ連領をまたいで該当地域に到達し、軍事的にも人道的にも展開可能でしょう。
 アレが1機だけ、という保証はどこにもありません。場合によってはアレが複数投じることも懸念せねば」

ハイドリヒの言葉に、反射でヒトラーは声を上げる。

「まずいな」

その意味は、多重だ。
軍事的に見ても、軍事も含んだ国家戦略的に見ても、まずいのだ。
なんとそのコウノトリは、ハワイにたどり着くまで発見されなかったのだ。
それだけ高空を飛行できたし、また彼らの言を信じるならば「偽装雲塊システム」なるものによって雲に紛れていたという。
長大な航続距離と偽装を組み合わせれば、どのような国であれ隠密裏に飛行してたどり着くことが可能ということ。
何も飛ぶだけではない、使い道はそれこそいくらでもあるだろう。
これまでの前提条件が一気に覆る感覚。
JUUだけが、一方的なアドバンテージを得ているという恐怖。
地球の反対側にいるヒトラーでさえも、うすら寒いものを感じるしかない。

「はい。ウクライナを先んじて抑えられることは、欧州の食糧事情をJUUに握られることにもつながります。
 無論、全て握ることは不可能でしょう。しかし、ソ連の搾取を打ち砕いたJUUへの心証は考えるまでもありません」

焦りと困惑。そして耐えがたいほどの恐怖。それが、ヒトラーを苛んだ。
確かにソ連がこのような人工飢饉を生み出していたのは俯瞰的に見ればプラスである。
しかし、それがドイツの手によって暴かれたのではなく、JUUによって暴かれたというのはあまりにも条件が異なる。
特に東方への進出と東方生存圏(レーベンスラウム)の構築を構想するヒトラーの率いるナチスにとっては、将来的な進出を構想している地域を、突如として現れたJUUに横からかすめ取られる可能性が出てきたのだ。
少し考えれば自然とわかる。もし介入が行われれば、ソ連は「簒奪者」「圧制者」となり、JUUは「解放者」となるのだ。
現在の国際的な論調が、一時的にであるにしてもJUUに有利に働いている以上、それはより強調される。

ヒトラーも認めざるを得なかったのであるが、あのコウノトリという航空機があれば、地上のいかなる場所であれJUUが展開可能だ。
その搭載能力や、それに使われている技術の高さは裏表の情報を照らし合わせても確実である。
脳裏に浮かぶのは、東欧へと天使の如く降臨するコウノトリとその艦載機たち。どう見ても救世主や神の恩寵となるだろう。
ハワイの光景については、見飽きるほどに、そして煽情的なまでにメディアによって取り上げられている。

だが、それはドイツ第三帝国にとっては悪夢の光景だ。
なまじ、ハワイに展開された光景を見せつけられたが故に、その悪質さがわかる。
バチカンでさえも天使のような人型、「セラフ」と言ったか、その人型についての対処に迷っている。
それほどまでに「セラフ」は「天使」なのだ。名前を付けた人間は、欧州という土壌を、宗教を「わかって」やっているに違いない。
この世において、もっとも人々に浸透した書籍は聖書である。それを連想させるモノを利用すれば、嫌でも覚える。
プロパガンダとは、簡単そうではあるが難しいものだ。相手に効果的に訴えかけねばならない。
その点で言えば「セラフ」は出来過ぎである。

973: 弥次郎 :2017/02/01(水) 23:19:44

「早急に手を打たねばならんな……とはいえ、JUUがどう動くかを見極めねばな。
 そこについて何か報告はあるか?」

それに対し、一切の遅滞なく、ラインハルトは報告する。

「リッペンドロップ事務所によれば既にヤーパンは国内外の大使館やメディアを通じてこの事実の拡散を実施しております。
 まさにJUUの独壇場というべき状態でしょう。ソ連からの回答はほとんどありません。事実を確認中と明らかな時間稼ぎを行っております」

「そうか……!」

その回答に、共産主義者に不利な情勢が出来上がりつつことに満足げに頷く。
共産主義者の失態の拡散は結果的にせよ理があった。
JUUの登場が大きく情勢を動かし、これまでまどろっこしく感じていた所を解消してくれたのはありがたいことだ。利用させてもらおう。
話は変わるが、とヒトラーは前置きし、ビラを指さして問いかけた。

「この命令書をJUUがどのように入手したかも問題だ。そこは判明しているか?」

「残念ながら。しかし、この命令書をビラを軍やNKVDなども動員して、強引に排除していることを考えれば、この命令書の真偽を表すには自明かと思われます」

「では東欧の情勢はこのビラの通りだということか」

「論ずるまでもありませんな」

「……」

暫くの沈黙を、ヒトラーは作った。
その沈黙は、恐怖の沈黙だ。しかし、徐々にそれは別な沈黙へと変わる。
それは、彼がこのビラの、そしてビラの作り出した状況の利用価値を認識したからに他ならない。

「ハイドリヒ」

「はっ」

「つまり、我々が『解放者』として進む土壌はすでに整っているのだな?」

「御想像にお任せします、マインフューラー」

「…よろしい、クレムリンへの工作を続行しろ。東方生存圏の獲得はゲルマン民族の悲願だ。
 今すぐではないが、利用できるものは利用する。それが、JUUであろうとな」

「はっ」

そのほかにいくつかの指示を出した後にSD長官を送り出したヒトラーは、一人地図に目をやる。
ドイツから見た東方、東欧地域にその目は吸い寄せられている。

「そうだ…」

まるで、恋い焦がれる乙女のような、良くも悪くも純粋なまなざしは舐めるように『それ』を見ている。

「世界は陸でも繋がっているが、空でも繋がっているというわけだ」

ヒトラーの頭には、新たなプランが構築されつつあった。
彼のひらめきから始まるそれは、セラフの羽ばたきが巻き起こした、嵐であった。
本来のあるべき流れからの剥離を決定づける、始まりを告げる嵐だった。

974: 弥次郎 :2017/02/01(水) 23:20:39
以上。wiki転載はご自由に。
陰謀話をそれっぽくかけているかなぁ…
ヴァルター・ヴェーファーとウラル爆撃機がアップをはじめました

返信とかは明日になってから行います…おやすみなさい…

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最終更新:2017年02月11日 22:14