168: 弥次郎 :2017/02/07(火) 00:26:02

大日本企業連合が史実世界にログインしたようです 幕間 -梟は思考する-





作戦を説明する。
依頼主はBFF。レイヴンズ・ネストを介しての依頼だ。
内容は、BFFの輸送艦隊の護衛だ。

予定航路は、インドから出航し西進。スエズ運河を通り抜け、地中海からジブラルタルを通り、BFFの本拠のあるブリテン島に到達するものとなっている。当然長丁場になる。

護衛戦力を依頼主は多数用意しているが、不測の事態がいつどこで起こるかは全く油断ならないと、かなり気を使っているようだ。それだけ重要な物を積んでいるんだろう。
用心するに越したことはない。当然といえば当然だ。

武器弾薬やメンテナンスについては依頼主がある程度負担するそうだ。
また、装備についてもある程度融通すると話もある。

ただし、色々と条件が付いている。
今回の依頼では輸送艦に損害を与えるなとの厳命が下っている。
被害の程度によってはかなり報酬を下げられるかもしれん、注意しておけ。
また、ネクストは禁じられてはいないが、PAの使用やコジマ系兵器の使用は厳禁となっている。

後者に関してはノーマルを使うレイヴンたちにとっては何のことはない条件だろう。
元より依頼主も複数の傭兵を雇って警備に当たらせるつもりなんだろうし、適材適所で対応するのがベストだろうな。

また、今回の仕事については依頼主の側が受注する傭兵を選ぶとのことだ。
信頼のおける傭兵を選んで重要な仕事を任せたいんだろう。そこだけは留意しておいてくれ。

こんなところか。
長い任務だし、条件は厳しいが見返りはかなり大きい。
気が向いたら連絡してきてくれ。

169: 弥次郎 :2017/02/07(火) 00:26:55

ジミー・マクソンが王小龍の部屋に入った時、紅茶の香りの歓迎を受けた。
すっと鼻孔に忍び込んでくるのは、ほのかな香り。例えるなら、バラのような香りだ。
それだけではない。独特の芳香がさりげなくその香りに混じっている。
見逃すところであったが、ジミーはそれをかぎ付ける嗅覚を持ち合わせている。

「ウバ、ですね?」

「ああ。良い茶葉が手に入った」

「手ずから入れていただけるとは、恐縮です王大人」

珍しいこともあるとジミーは正直に驚いていた。
BFFでも指折りの影響力を持つ王小龍という人物は、その周囲に多くの人間を配置し、それに命じることができる立場だ。
高齢故ということもあるが、みずからこういった茶を入れるようなことはしないのが常だ。自分が時にやることもあるが、多くの場合は使用人に任せているはずだった。

(どこに行ったんだ…?)

あたりを見れば、人払いがなされている。秘書もいなければ、リンクス戦争以来欠かさずに配置された警備員もいない。
リンクス戦争時にBFF本社に侵入されて、屋台骨たる王小龍の私室に弾丸が二発も撃ち込まれたことはジミーもよく知っている。
それこそBFFの警備部門が総入れ替え寸前にまで追い込まれた大事件だ。あれからかなり警備も強化されているが、それさえもいない。それだけ機密の高い話をするのだろうか、と一瞬身構えてしまう。

(ラインアークへの襲撃に関してのことか……)

先だってのラインアーク襲撃は、ランク1 オッツダルヴァは戦闘中行方不明(MIA)となり、アスピナの被検体3名も撃墜された。
最も、ラインアークの主戦力であるランク9『アナトリアの傭兵』は集中攻撃を受けて大破し、その後の消息がうかがえない。
元より劣悪なAMS適性で、国家解体戦争以前から戦い続けていたことでそろそろ限界だったのではとの憶測もある。
とはいえ、ラインアークの守護神の脱落は、おそらくラインアークの後援でありアナトリアの傭兵の抱え主であった日企連にも衝撃であったはず。
報復に出ることは明白であるし、ひょっとすればラインアークを含む日企連の体制が大きく動くかもしれない。

そうすれば、必然的にBFFも影響を受ける。
日企連やラインアークの報復は恐らく苛烈を極める。
それへの対処を慎重に行うのは当たり前というべきだ。

(BFFにとってはオーメルに付け込む口実が出来たと喜ぶべきなのだが……)

そんなことを思いつつも、ジミーの意識はやはりウバの香りに引きつけられた。
ジミーもリンクスの一人であり、BFFから相応の給与と待遇を受けている。
一般人では手の届かない高級嗜好品を楽しめるのもその特権の一つであり、ジミーも特権を活かして高級嗜好品を多く楽しんでいる。
その端的なものがティータイムだ。時にBFFの重要な会議が茶会という体で開かれることもあるために、自然と慣れている。

「そういえば……少し前に傭兵(レイヴン)まで雇って手に入れたと聞きましたが」

「ああ。あの時に届いたものだ。
 それだけの価値があるのだ、これにはな」

王小龍の動きは一切のよどみがない。
高齢にもかかわらずリンクスとして活動し、さらにBFFの強力な屋台骨として動き、ウォルコット家の後援をなすだけあって、動きは矍鑠としている。衰えというものから、かなり遠いのだ。日々の努力や本人の強い意志こそが、老いを遠ざけている。

170: 弥次郎 :2017/02/07(火) 00:28:05
もう一度、ジミーは漂う香りを鼻孔へと導く。

「確かに良い茶葉のようですが……」

そこまでなのか?
ジミーも、過剰と言える戦力を用いて護衛させた輸送艦については知っていた。
BFF内部でもちょっとした話題になったほどだ。まあ、インドから、もっと言えばスリランカから来させたので、その厳重な敬語はBFF内部でも理解は得ていた。しかし、そこまでか?というほどなのだ。

「重要なことは、これにコジマ粒子や有害物質がほぼ含まれていなかったことだ。
 いや、それだけではないな。茶葉の分析の結果、天然栽培をなされたものだと判断された」

「……!?」

その言葉に、ジミーは耳を疑った。
茶葉の天然栽培は、すでにこの世界においては極めて稀なものとなっている。
露地栽培という時点で既に環境中に含まれる汚染物質に曝露されるリスクがあり、それらは人体で蓄積し、影響を及ぼす。
それが常識になったのは、国家が処々の原因によって影響力を失い始めた頃、今から100年近く前のことだ。
近年ではコジマ汚染の拡大も相まって、より希少性が増したほどだ。国家時代から茶葉の有力な生産地はBFFを筆頭とした企業の努力によって維持されているが、それも時間の問題となっているのもまた事実。
コジマ技術に秀でる日企連の研究によって人体に蓄積されたコジマ粒子の排除はできるが、それでも割に合うかと言われれば微妙だ。
全く汚染されていない天然食料品。しかも、これだけ質の良い茶葉。
一体どうやったのだろうか、とジミーは疑問に思う。

「食料ファクトリーなどではないのですか?天然モノなど、今の世界にどれほどあるやら…」

「分析を繰り返したが、殆ど薬品らしい薬品も検出されなかった。ファクトリーでの製造品などではない」

「馬鹿な……」

そうこうしているうちに、すっとジミーの前にカップが出される。
カップを差し出す王小龍の手が興奮で震えているのが分かる。
匂い立つような、という言葉が真っ先に浮かぶ。カップの周囲だけが、まるで別世界となったかのようだ。
思わず吐息を零した。そっとカップに触れる自分の手が、ウバの香りにからめとられていく。
これでは、まるで紅茶に飲まれているかのようだ。
ああ、これが茶を楽しむということなのだろうか?
原初への回帰のようですらある。
ティータイムとは、ここまで神聖なものだっただろうか?

「なんという……」

心が、体が、魂が震えた。
そして、そのカップを口元に運ぶ。
湯気が、香りが、その茶葉が辿ってきた歴史が、カップから流れ込んでくる。
茶を飲むとは、その茶の歴史を味わうことであるとジミーは定義している。
味わう歴史は、まるで遠くセイロンの光景だ。

映像や現地の視察などで、その光景は知っている。
知っている、つもりだった。今となっては認識を改めるしかない。
舌で転がせば舌が喜ぶ。口内で遊ばせれば口が喜ぶ。香りを吸えば花が喜ぶ。
染み込んでくるかのように、細胞一つ一つに溶け込むように、紅茶が入って来る。

それは生き物だ。
自分、人間の中に紅茶という生命体が導かれ、存分に華を開かせた。
目を閉じれば、紅茶の奏でる光景が目に浮かぶ。まるでそこに行ってしまったかのようですらある。
単純な衝動に、ジミーは身を任せた。この時ばかりは、欲望こそが正義だった。

171: 弥次郎 :2017/02/07(火) 00:29:04

暫くして正気に戻ったジミーは若干の冷や汗を覚えながら頭を下げるしかなかった。
正直、最初の一杯を口に含んだ後から記憶があいまいだ。それほど夢中になったことは覚えている。
気がつけば用意されていたビスケットなども綺麗に消えており、おまけにそれらは自分の胃に納まっているのを認識する。

「失礼しました。思わず我を……」

気にするな、と上司が笑いを隠すことなく応じた。

「惚れ惚れするような食べっぷりだったぞ。年寄りにはまねできんな。
 それに、誰であれこれを前に正気ではおれまいよ」

「といいますと?」

「この茶葉の分析を担当した人間が、あろうことか真っ先に飲んでしまってな。
 あまりにもうますぎて分析をおろそかにした挙句、分析用の分まで飲み干してしまったほどだ」

おかげで取り分が減った、と愚痴った王小龍の顔は言葉と裏腹に晴れやかだ。
分析を担当したのもまた人間ということなのだ。ましてやBFFに属しているならば、ティータイムを大切にするべきである。
それは、イギリスを中心とした民族主義に権力基盤を持つBFFならではと言えた。
特上の御馳走を目の前にすれば、人は案外我慢ができないものだ。

「つまり、日企連は何らかの方法でこの、この天然茶葉を手に入れたと?」

「そうなる。が、その方法が不明だ。ラインアークへの襲撃以来、日企連は準戦備体制で厳戒状態。
 いつまでもそのままというわけではないだろうが、いずれにせよ事実をつかむのは難しい…」

「防諜体制も厳しくなっているようですし、迂闊に手を出すべきではないでしょう。
 BFFとしても、オーメルに報復に間接的にでも参加することは利するものでありますし、日企連やラインアークのの目があります」

「うむ……それは理解できる。だが、『これ』はあまりにも異常だ」

これ。
今、王小龍とジミーが楽しんだ紅茶。正真正銘の、天然茶葉。それを淹れる際に使ったのも天然の水。
文字通り万金を積んででも得がたい、汚染の少ない、それどころか全く含有していない天然食品。
そんな天然食品をいきなり輸出してきた日企連。カップの残り香を惜しむように吸い込んだジミーは、日企連の意図と、
この茶葉の出所について考えを巡らせる。

「即座に思い浮かぶのは、秘蔵していたものを放出したという線でしょう。
 嗜好品の保存技術については日企連は国家時代から真剣に取り組んでいるのは良く知られていることです。
 それを放出し、企業間におけるオーメルへの悪感情を煽る。露骨な方法ではありますが、効果的ではあります」

「ふむ…それが順当であるな」

「オーメルが強引な手法をとったことは既に周知の事実。
 無論、日企連もグレーゾーンな配下のリンクスをラインアークへと派遣を行ったのは事実でありますが、オーメルのそれに対応しての派遣であり、そこまで問題視されているわけではありません。ただ…」

言葉を区切ったジミーはしばし言葉を選び、吐き出した。

「確かに必要な手でありますが、ここで使う意味を補強するには些か弱いと思われます。
 別な意図を含んでいると、そう考えてしまうのは邪推なのかもしれません」

「いや、それは私も同意見だ。わざわざこんなものを放出してまでやることではない。
 放出することで、何かを我々に示唆しているのだろう」

それにな、と王小龍は付け加えた。

「手に入れたのは、ウバだけではない」

「他にもあったのですか?」

「ああ、およその品種を一揃い。さらに硬度の異なる無汚染の水を数トン。
 それらも分析を行ったが、保存に使われる薬品もほとんど検出されなかった」

しばしの絶句を、ジミーは晒す羽目になった。
咎められるものではないとは理解している。しかし、冷静な筈の彼の頭脳はフリーズするという恥ずべき状態に陥った。
ありえない、と喉まで言葉がせり上がってきた。今、企業上層部の嗜好品でさえも汚染をある程度は甘受している。
可能な限り汚染を抜くなどの工夫はされているのが常だ。保存においても相当気を使われている。
だが、それはない?どういうことなのか。

172: 弥次郎 :2017/02/07(火) 00:30:09

「……例の産物のことも合わせれば、いよいよありえない事態が起こっているとみるべきでしょうか」

例の産物。
日企連の抱えるマーケットで偶然発見された、文字通り天然の空気や水。

「分析班は、『まるで過去に戻って採ってきたようだ』とまで言った」

「はは、まさか…タイムマシンなどがあったら今頃大騒ぎでしょうに」

科学の著しい発達が見られてもなお、人々はSF(サイエンスフィクション)というものを捨てずにいた。
科学が進歩するに従い、架空の科学もまた進歩し、人はその空想に憧れてさらに時計の針を進め続けてきた。
当然のようにそういった時間や空間を超越するモノについての研究は進められた。残念ながらタイムマシンに該当する機械は発明されていないのだが、あくまで現段階では公表されていないだけかもしれない。悪魔の証明、『それ』がありえないと断定するというのは難しい。

それに、正直なところを言えば、企業にとってタイムマシンなどあってほしくないのだ。
現状こそが、企業による支配体制及びクレイドル体制こそ最良であり最善である。
人々にそのように思わせ続けるには、それを覆すものすべてを排除し、コントロールしなくてはならない。
どの企業も、暗黙の裡にそれを守り続け、それの主導権をめぐってのゼロサムゲームや政治的な闘争を続けてきた。
リンクス戦争もその一例に過ぎない。結果としてレイレナード社は崩壊し、抱えていた衛星破壊砲も消失した。
企業支配は、その陰で自らの抱える暗部を隠すための巨大なベール、カバーストーリーと言えなくもない。

もしこれが、本当に過去のものであるなら、とカップの中の世界を眺めながらもジミーは考える。
もしかこの世界にさかのぼれるならば、日企連は今の企業体制をそっくりひっくり返す『証拠』『材料』を得たということになる。
そうなれば、如何に日企連と雖もBFFは敵対せざるを得ない。やむを得ないが、そうしなければ自分達が、BFFが崩壊するのだ。

(だが、それは困ると思う程度には日企連に情はある……)

ジミーは、BFFの裏表を余すことなく王小龍の傍らで見てきたこそ理解している。
リンクス戦争以降、凋落の一途をたどったBFFが致命的に崩壊しなかったのも、リンクス戦争において取引を行った日企連のおかげである。
日企連がレイレナード社と繋がっていたのは知ってはいたが、その事をBFFは日企連との取引で現在も秘匿されている。
もし日企連が手を回さなければ、おそらくもっと被害が増え、BFFはその体制の維持さえ支障をきたしただろう。
個人的にも、日企連がBFFにとって必要であると思っている。その誠実な態度にはある程度報いねば、BFFの沽券にもかかわる。

そんなことを思うジミーは、上司がスプーンをもてあそんでいるのを目にする。
長い付き合いだからこそ分かるが、あれは何かに相当迷っている時の癖である。
王小龍という人物、リンクスは果断にして冷徹。闇に蠢く狡猾な梟というイメージがある。
しかし、ジミーは知っていた。その実はかなり情に流されているところがあるのだと。

173: 弥次郎 :2017/02/07(火) 00:31:12
恐らく、自分と同じく日企連について迷っているのだろうと察する。
ありえないと思われることであるが、日企連が全企業の敵となる可能性があるのは、辛いのかもしれない。
そこで、少し話題を変えることにした。

「……タイムマシンも面白いですが、並行世界というのはどうでしょう?
 歴史のIFの世界。我々の世界とは時系列そのものが違う、酷似しながらも違う世界に干渉できたというのは?」

「ほう、並行世界、パラレルワールドというわけか?」

「これは議論せねばなりませんが、一般に過去を改変すれば何らかの影響が現在に生じます。
 バタフライエフィクトという言葉があり、カオス理論が否定されていないのであるならば、日企連が…そう、『我々の生きている』世界の過去に干渉してこれらを得たとするならば、その影響は必ずどこかに現れるはずです。
 現在ではそれが明白になっていないだけという可能性もあり得ますが、干渉しても問題が無いというのは、その『過去の世界』が時系列的に独立しているパラレルワールドであるから、という仮説が成り立ちます」

「異世界に……あるとするならば並行世界に、日企連はその戦力を派遣しているということか?」

食いついてきた。
手ごたえを感じつつ、ジミーは自分のPDAを操作する。
少し前に、諜報部から気になる報告が続いていたので良い機会だと思えた。
画面に表示するのは、その報告書だ。

「日企連の内部での、特に本土である日本列島においては物資の流れが一部不明瞭になっているとの報告もあります。
 また、諜報部によれば、日企連の新型AFが『試験航海』の名目で本土を離れ、長期不在となっています」

AF建造は、特に察知ししやすかった。
企業間の戦力の主体はリンクスとAF。隠匿しやすいリンクスに対し、AFというのはその建造に時間と労力を要するためだ。
その兆候は、例えば資材の動きであるとか作業員の動き、企業内市場の物価、AF建造に関与する企業の株価など。
シギント オシント ヒューミントなどなど、あらゆる手段でそれは得られる。勿論日企連は対抗措置は取っているが、BFFはそれに関して国家時代から先んじている企業だ。ある程度はつかめる。

「そのAFの詳細は?」

「大型の工作艦型とのことです。これ自体は、なんらおかしなものではありません。日企連は海上企業ですので。
 問題なのはそのAFが何処に向かったのか。工廠のある横須賀を出港後に南進。東南アジアやオーストラリア方面に展開しているかと推測されますが、その後の消息は不気味なほどにつかめておりません」

全くつかめないという異常に、王小龍は眉を顰める。
如何に隠密裏に行動しようとも、何らかの形で人の目に触れ、それが諜報にかかる。
工作艦型であるならば自己メンテも恐らく可能であろうが、補給を受けるにはやはりどこかの母港によらなければならない。
しかし、それが長らく消息不明。いよいよを以て不気味である。一種の循環機構を持つ海上都市でなければ、ずっと航行できるはずもない。
海上企業として、海上を航行するAFや艦艇 海上都市についてはBFFは徹底して情報を集め、監視している。
そのBFFさえも追跡できない。諜報の不手際とは、簡単には言えない。

「補給艦隊の動きは?」

「それも途中で、比喩でもなんでもなく『途切れて』います……故に、不気味なのです」

そう、その報告は嘘偽りなく「途切れて」いるのだ。
何やら防諜をかなり力を注いだ輸送艦隊が動いたことはつかめたが、その足取りも追跡不可能になった。
文字通り、『消えた』のだ。少なくともジミーはそのように結論付けた。

「AFの建造が進んでいたことは間違いありません。これは情報部が3年も前に掴んでいたネタです。
 事実、小笠原の海中資源養殖プラント群から大量の資材が運び込まれ、新規に建造が開始されています。
 日企連の抱える海上都市群の世代交代の時期は遠からず迎えることになりますし、それにも使える工作艦型というのは理にかなっています。
 もしこのAF建造がダミーだとしても、そこまで偽装した建造計画を作った意図は何になるか?となります」

「ふむ、確かにな」

ダミーであると断じるには、あまりにも労力と利益が釣り合わないのだ。
日企連はAF建造については無理に秘匿しようとはしていない。
勿論スペックや建造過程についてはかなり秘匿しているのだが、建造の兆候などはどうしても漏れてしまうと一種の諦めがある。

174: 弥次郎 :2017/02/07(火) 00:33:06

というか、半ば身内認定をされているBFFやGAにはそれとなく建造についての情報が漏らされるのだ。
そこから仕事を受注することもあるので、ある意味ではBFFも手を抜いていられる。
そんな日企連がやるか?と問われると、ノーとしか答えられない。オーメル対策にしてもあまりにも大掛かりだ。

「これに納得のいく説明をつけるとすれば、それは2つしかありません」

ジミーは指を2本立てる。
指折り、その予測を述べる。

「1つはそのAFが試験航海中に事故あるいは攻撃を受けて沈んだか、長期入渠という可能性です。
 これは比較的納得がいくものです。如何に日企連と雖も、そのAFに失敗が絶対に無いということはあり得ません。
 また、オーメルやアルゼブラ、インテリオルが日企連領内に侵入し、AFを攻撃するなども不可能とは断言できません。
 その失態を隠すためにというならば、別段おかしくはないかと」

ふむ、という上司は表情を変えない。
この程度は簡単に予想できるし、あまりにもつまらない答え。
それは自覚している。だから、残る考えを吐き出す。

「もう一つは……何らかの形で、日本近海から全く違う世界へと派遣しているというものです」

「非常識だな」

そういうが、王小龍は否定はしない。
非常識だが、ありえなくはない。その物的証拠を、今二人は楽しんでいるからだ。

「因みに……お前はどちらだと思う?」

「それは言わずとも、です」

自分の考えは前者である、という顔の部下にと王小龍は苦笑する。
恐らくジミーも見透かされていると理解している。自分も、どことなく希望を抱いてしまった。
こんな茶葉や水や空気が得られる環境がどこかにあるのだとすれば、欲を言えばそれを日企連を介して得られるならば、と。
しばしの歓談の後、上司と部下に戻った二人は仕事に戻った。
彼らが周囲の人間からその芳醇な香りの理由を、しつこいほどに聞かれることになったのはご愛敬であった。

175: 弥次郎 :2017/02/07(火) 00:35:10
以上。wiki転載はご自由に。
BFF、そろそろ勘づきます。
というか、日企連の方からさりげなく教え始めています。

イギリスの歴史とは茶葉を求めての物である’(偏見)。
もし史実側でイギリスがインドを手放して日企連傘下に入ったら、BFFに売り飛ばしますかね
建前的には独立、実質的にはBFFインド交易会社が分割して統治とか
ちょっとはBFFにも汗をかいてもらわねば

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最終更新:2017年02月11日 22:25