424: 弥次郎 :2017/02/17(金) 23:50:16

大日本企業連合が史実世界にログインしたようです「国防は軍人の……」18 -我ら天を震わすモノ也-


『スカイアイ4よりCP。所属不明の武装集団を確認。満ソ国境に接近中。ポイント ロメオ8。以上』

『CPよりスカイアイ4。ロケーションを確認。光学撮影情報を送られたし』

『スカイアイ4了解。……撮影完了。情報を送信する。以上』

『CPよりスカイアイ4、友軍部隊は該当地に展開していないとされている。IFFおよび指定無線による呼びかけを行われたし。以上』

『スカイアイ4了解』

(呼びかけの音)

『スカイアイ4よりCPへ。IFFおよび指定無線に応答なし』

『CPよりスカイアイへ。規定通り警告を行われたし』

『スカイアイ4了解。これより外部スピーカーによる警告を実施する』

(警告の読み上げ)

『スカイアイよりCP。警告を行ったが受諾の様子は見られない』

『CP了解。武装集団を敵性集団と断定。武装識別装置の使用を許可する』

『スカイアイ4了解。これより指向センサーによる武装識別を実施する……送信する。以上』

『武装識別、ライブラリーに該当あり。フェドロフM1916およびAVS-36と思われる銃を確認。
 またトカレフ TT-33と思われる反応を多数確認。ソ連軍と判断される。
 CPより各隊。ソ連による国境侵犯を確認。迎撃体制に移行せよ。
 震天部隊はこれよりコールサインを『クエイク』とする。攻撃の準備を行われたし。
 スカイアイ4はこれの弾着観測に移行せよ』

『クエイク・リーダー了解』

『スカイアイ4了解』

『CPより即応航空隊へ。これよりコールサインをツバメとし、ソ連軍への対処を行われたし。
 ポイント ロメオ8。対地航空支援および制空権維持に当たられたし。以上』

『ツバメ・リーダー了解。航空演習を中断。これより6機でポイントに急行、上空援護を行う。以上』

『CP了解。CPよりスカイアイ4。震天部隊の標準砲によるを試射を実施する。弾着観測に移られたし。以上』

『スカイアイ4了解。これより弾着観測に移行する。以上』

(何かが着弾する音)

『スカイアイ4よりCP。誤差は有意に存在しないと観測された。以上』

『CP了解。CPよりクエイク隊。全力射撃を開始されたし。以上』

『クエイク・リーダーよりCP。これより全力射撃を開始す、以上』

            • 満州国 満ソ国境における『偶発的』な戦闘における通信ログより抜粋

425: 弥次郎 :2017/02/17(金) 23:51:29
軽い侵攻。そのはずだった。
事前の作戦通達時には、そのように伝えられた。
既に何度も繰り返してきた、ある種のルーチンワーク。
3月にソ蒙相互援助議定書という、事実上の軍事同盟が結ばれてからはソ連からの支援をより受けられるようになった。
これまでの交戦や諜報によって、満州に常駐する兵力があまり多くはなく、また満州国と大日本帝国は戦線拡大を嫌っているのは知っていた。
知っていたからこそ、こうして度々襲撃を仕掛けているのだ。これまでは一進一退の攻防。しかし、兵力に余裕のある自分たちが有利であり、
大日本帝国側が疲弊を重ねていくだろうというのはソ連とモンゴル人民共和国の一致した意見であった。
徐々に抵抗の力も弱っていくというある種の楽観さえもあったほどだ。
そして、装甲車や騎兵を伴った兵士たちは出撃したのだ。

(だが……!)

だが、これはなんだというのか。
今、目の前に広がる光景は現実なのだろうか?
上空に奇妙な形の航空機を発見して、警告を受け、それを無視してから数分と経たず、あたり一面は地獄と化した。
何処からともなく巨大な砲弾が着弾し、炸裂。冗談のような巨大な爆発は、少し前まで意気軒高だった友軍を消した。
消し飛ばし、あるいは燃やし尽くした。砲弾そのものがさく裂して破片効果をもたらし、巻き込まれた人間を肉片に変えたのだ。
また、単なる爆圧だけではなく、炸裂には25mm×90mmの焼夷弾子と非焼夷弾子が混じっていた。
史実で言えば三式弾または三式焼霰弾と呼ばれることになる対空砲弾が、対地攻撃に転用されて炸裂しているのだ。
無論、彼らがそれを知ることはない。ただ理解できたのはその炸裂の凶悪さのみ。文字通り身を持って教え込まれた。

砲撃であるというのは理解できた。だが、一体どこから打ち込んできているのか。
しかし、そんなことを詮索する余裕などない。部隊の指揮官であるその男は、何とか声を上げて撤退を指示しようとする。
だが、それは既に意味をなしていない。圧倒的な炸裂音がその声をかき消し、さらには立て続けの砲弾の着弾で恐慌状態になっているからだ。
完全に指揮系統は破綻している。いや、それでも逃げ出せているだけまだマシなのだろう。

「逃げろ!早く逃げろ!」

とにかく叫んだ。自分の声さえもまともに聞こえないが、叫んだ。
誰かに届くであろうというわずかな望みをかけて。
何だろうか、頭が、耳から下がなにかに濡れて温かくなっているのを感じる。
気になる。どこかぼーっとする頭は、それに興味を持った。

(ともかく逃げなくては……!)

だが、自らの手で自分の頬を叩いて思考を切り替えた。
襲撃は失敗だ。これまでにないほど、命の危険がそばに迫っているのは分かる。今は撤退するしかない。
こんな反撃に転じてくることが分かっただけでもよしとしなければならない。あとは、それを上層部へと報告することだけ。
その男は優秀だった。少なくとも、非常事態でもそのことをすぐさま判断し、行動に移せたのだから。

426: 弥次郎 :2017/02/17(金) 23:52:33

「た、助けてくれ……!」

「熱いィィィ!??!?!?!」

「ああぁぁぁぁあああ!?あああーーーーーーーー!?」

「あ、足……足は……」

叫び声が上がる。当然だ。兵士たちは、肉片とならなかった幸運な兵士たちは、しかし無事ではなかった。
着弾し炸裂した音は途轍もないものであり、多くの兵士が耳から血を流している。鼓膜が破れたのか。
他にももろに焼夷弾を浴びた兵士が叫びながら焼けていく。肉の焼けていくようなおぞ気の立つにおいが土埃の臭いに混じる。
地面に倒れたまま動かないのは、失神したのか死んだのか、判別はつかない。そんな余裕など、砲撃に晒されている彼らにはない。
選べるのは、ただひたすらに砲撃の範囲外へと逃れようとする、生存本能に従った選択のみ。

しかし彼らはあまりにも数が少なかった。
そして、敵の用いる砲弾の効果半径が余りにも広かった。
必至に人が逃げたところで、砲兵側から見ればほんの少し照準を変えてやれば、届く範囲なのだ。
また、上空からは航空機が弾着観測を行っており、それの抱えているセンサーポッドが歩兵がどのように逃げようとしているのかを、
文字通り一挙手一投足まで捉えているのだ。そしてその航空機の情報は、無線を通じて砲兵へと通達される。
砲とは戦場を支配する女神。彼らは知りえないが、彼等からは死角となる領域から砲弾を叩きこんだのは、
戦艦のそれに匹敵する36センチ砲と41センチ砲を背負った大型兵器「震天」。この戦場の支配者だ。
疲弊していると勘違いした大日本帝国が、大日本企業連合から受け取り、早速実戦へと投入した未来の兵器。
クーデターらしき事変が大日本帝国内で起きたことは、少なくとも指揮官の男は耳にしていたが、ここまで影響があるなど予測できなかった。

予測しろという方が酷なのである。そういう意味でも、彼らは「不幸」だったのだ。
まさか、「警告を無視した後に戦艦の主砲クラスの精密な砲撃によって蹂躙される」など、誰が考えるというのか。
ほどなく、震天はその砲撃をやめ、沈黙した。それは、弾切れになったからでも、トラブルが起きたわけでもない。
もはや動く標的は存在しないと確認したためだ。

あとに残ったのは巨大なクレーター、人の物か馬の物か判別がつかない肉片、そして武器弾薬だったものの残骸。
動くものは何一つない。沈黙だけが残っている。そこはもはや空白となったのだ。
空白の交差点。沈黙。静寂。それらを飾る言葉はいくらでもある。
だが、全ては無へと還ったことだけは確かだった。

427: 弥次郎 :2017/02/17(金) 23:53:43

ほぼ同時刻。
関東軍の前線司令部内に太鼓を叩いたかのような衝撃と低い音が届き始めた。
それは、はるか遠くで起こっている弾着の音だ。大型兵器「震天」に搭載された3連装ヘビーキャノンが咆哮し、
砲弾を間抜けにも国境を超えてきた兵士たちの頭上へとばら撒き、その砲弾の信管が規定通りに炸裂する音。
主砲となるヘビーキャノンに混じり、更なる巨砲が咆哮していく。背部に背負われた大口径砲---長門型の有する41センチ砲弾、
その砲身さえも流用してモジュール化して搭載した41センチ砲。無論本来の規格と異なるものを融合させたために、
若干ではあるが信頼性には不安があり、砲弾を輸送する手間もかかる。しかしながら、その威力については折紙付きだ。
遥か遠方で行われているにもかかわらず衝撃がここまで伝わってくるのだから、間違いなく本物だ。

そしてそれは映像でも確認できる。
弾着観測を行うスカイアイ4、日企連が持ち込んだ双発の航空機に搭載された光学カメラによって、その着弾の様子は司令部で閲覧できた。
砲弾が着弾するたびに、砲弾の信管がさく裂するたびに、新しいクレーターが穿たれる。

「圧倒的だな……」

形式上震天を擁する部隊の指揮官である渋谷安秋大佐は、正しく天を震わせる大型兵器「震天」に対し会改めて恐ろしさを覚えていた。
面制圧。言葉としては知っている。だがそれは、あくまで戦場の一角を、敵兵が集まっているところを砲撃することで、
より多くの将兵を殺害するという目的のために行う、範囲としては限定的なものである。
だが、これはそのレベルを超えている。戦場という領域を文字通り『丸ごと飲み込む』砲撃を行っている。
着弾地点にいる敵兵に、逃げ場はない。逃げ場さえもすでに砲撃の範囲に収められているのだから。
人の足で逃げる?無理だ。地面が揺れて立つことすらおぼつかないだろうし、爆圧で吹っ飛ばされるだろう・
馬で逃げる?確かに騎兵もいるだろうが、あの着弾に馬がおびえているのは間違いない。
では車で?それこそ無理である。砲弾の炸裂を浴びて無事でいるはずもない。

『砲とは戦場の女神である』

唐突に震天の操縦士と会った際に言われたことを思い出す。
なるほど、戦場を支配したければ、砲という女神を崇め、御機嫌を窺うしかない。

『ツバメリーダーよりCP。蒙古軍機と思われる戦闘機と会敵(エンゲージ)。ポイント ロメオ11。
 敵機は撤退していく。追撃の要ありと思われるが対応は?以上』

『CPよりツバメリーダーへ。追撃の必要なし。現空域の制空権維持を続けよ。以上』

『ツバメリーダー了解。震天部隊の撤退を待って帰投する。以上』

オペレーターたちの機械的なやり取りを聞きながらも、渋谷の意識に現在使われている砲弾のことが浮かぶ。
聞いたところによれば海軍工廠が試作した、三式弾とかいう特殊な砲弾らしい。
これも日企連の指示で開発が行われ、なんと満州で「実戦」だという。
つまり最新兵器が海軍から犬猿の仲であるはずの陸軍に提供されたのだ。

(えらく気前が良くなったか、あるいは日企連が海軍を納得させたのか……?)

渋谷は、陸軍所属で、尚且つ満州に派兵されたとはいえ長門型が海軍の切り札であることぐらいは知っている。
海軍が子供や子供に限らず国民に人気なのも、長門型という『目に見える偶像(イコン)』の存在も絡んでいる。
それらを考慮すると、いきなり海軍が切り札の長門型の主砲と主砲弾を陸軍へと提供し、熨斗を付けるが如く最新の
砲弾まで供与してきたのは、どう好意的に見ても胡散臭かった。
勿論その能力については、砲と砲弾についてはある程度は信用していた。

問題は震天の方である。資料は閲覧したが、それを到底信じることが出来ずにいた。
出来なかった、という過去形である通り、渋谷はその認識をお披露目の演習で、圧倒的な火力を目撃している。
おまけに、その震天は自立して移動が可能というのだ。これまでの野戦砲や迫撃砲などの常識を置いてけぼりにした、
それこそ戦艦が丸ごと陸上へと上がったようなものだ。戦艦の対地砲撃を見たことはないが、おそらく、司令部に設けられた
テレビジョンに移っている光景のようになるというのは、陸軍の渋谷にとっても想像だに難くなかった。

428: 弥次郎 :2017/02/17(金) 23:55:37

震天、「天を震わす」という名に恥じない、正しく大地を、天を揺らすような砲撃と炸裂。
速射と呼べる速度で、その砲弾は満州の大地を闊歩する兵士達の元へと配達(デリバリー)されていく。
展開されてる震天は現状では2機。装備が三連装ヘビーキャノンとそれぞれに背負われた41センチ砲が1門づつの、合計8門。
それが1個大隊にも満たない歩兵たちに降り注ぐ。偵察情報によれば装甲車を擁しているようだが、何の慰めにもならない。

「不幸な事故ですな」

「事故?」

その砲撃の様子を見ていると、隣からとんでもない言葉が聞こえた。
自分の隣に立つ男、杉並総一郎大佐。自分と共に本土から満州に派遣された日企連の軍人。
思わず返した声に、何を言っているんだという調子で杉並は言い放った。

「ええ。満ソ国境で我々が演習を行っているところに、ソ連軍と思しき集団が『運悪く』入ってしまい、
 警告を行ったが無視されてしまい、『たまたま』震天の砲撃に飲み込まれてしまった。そして多数の死傷者が出てしまった。
 我々は慌てて『演習』を取りやめ、生存者の確保と現場確認を行った。そういうことなのですよ」

偶発的な戦闘の政治的な位置づけは、不幸な事故。
そう、これは単なる事故。そのように処理される程度の、係争中の国境ではよくあることに過ぎない。

「生存者などいるのか……?」

杉並の指示の白々さは、さしもの渋谷さえも顔をしかめた。
41センチや36センチもの砲弾が発射され、着弾して、炸裂して、歩兵が無事なのだろうか?
そんなはずもない。航空機からの映像を見る限り、動いている人影は見えない。
誰もが倒れ伏して、ピクリとも動かない。いや、『人だったもの』が散らばっているだけだ。
あとは、砲弾が穿った大量のクレーターだけが残されている。戦場の支配者である砲がわずかにたわむれただけで、ご覧の有様。

「渋谷大佐」

それが表情に出たのか、杉並は逆に咎めるように言い切る。

「敵は、係争中の国境地帯で呑気に行進(マーチングバンド)という挑発行為に及んだ。
 ならば、それを見せてもらった報酬は電子隆起爆薬をたっぷり詰め込んだ対地砲弾で支払うのが『礼儀』というものではありませんか?」

渋谷大佐は、自分の血が音を立てて凍り付くのを感じ取った。
その発言の過激さがではなく、その言い方に戦慄した。まるで、聞き分けが悪い子供に躾をするかのような気軽さだ。
確かに、電子隆起爆薬についてはその威力のすさまじさは理解しているし、実際に見せてもらい、どれだけ危険かを把握している。
TNT換算で500倍もの威力を持つという。あくまで理論値であるとは言われたが、それを知って物おじしなかったといえば嘘になる。
これだけの火砲を打ち込むことが、何を生み出すのかを、いまいち想像できないはずがないのだ。
だが、この日企連の将校はそれを至極当然とした。『礼儀』とまで言い切った。
つまり、これは、生身に近い兵士たちに過剰な砲弾を浴びせることが、『当然』の範疇に納まっているのだ、この将校にとっては!
そんなことのために、最新兵器やら大型の兵器を持ち出してきた。無慈悲という言葉さえ生ぬるい。
残酷 残虐 鬼畜。それらを以てもまだ足りない。この男は、この男の命令を淡々と伝えるオペレーター達は、
容赦という言葉を母親の胎内にでも置いてきたのか。そんな様子の渋谷を知ってか知らずか、杉並はひとりごちる。

「一罰百戒。満州の国境を侵すならば、41センチ砲弾のサービスを受ける程度の覚悟はしてもらわねばならない。
 これでソ連軍も蒙古軍も懲りてくれると助かるのだが……いや、人民の津波を過信するソ連には懲りるはずもないでしょうか?
 もっと多くを用意しなければならないかもしれませんね……」

そんな恐ろしい言葉まで聞こえてきた。
嗚呼、これが幻聴であったならば、と少し倒錯的な思考へと渋谷の意識は傾く。
だが、現実なのだ。覆しようのない、現実。

429: 弥次郎 :2017/02/17(金) 23:57:36

堪えろ、と軍人としての自分が囁くのを渋谷は感じる。
これは軍人としては正しいのだと。満州に踏み入ろうとするソ連を蹴散らすのは正しいのだと。
一方で、人間として、あのような残虐な行為を許容できない自分がいるのも確か。
だから、食って掛かるように問いかけた。

「しかし、これを受ければソ連も反撃してくるのでは……?」

懸念はそこだ。これだけの攻撃を浴びせられたソ連は、当然のように反撃してくるはず。
勿論、今回のような砲撃の嵐を想定するのだから、航空機かあるいは散兵戦術をとるというのは想像できる。
そこへの対処はどうするのか。

「もちろん反撃してくるでしょうし、外交的にも攻めてくるでしょう」

杉並は、表情を変えない。
ただ、淡々と返答を返すだけ。

「我々は、ただ待つだけですよ」

「待つ、だと?」

その返答は渋谷にとっては予想外だ。
一体何を待つというのだろうか。季節が変わるのを待つのか、それともソ連が降伏するとでも思っているのだろうか?
理解できない。分かるのは、杉並が何か確信を持っているということだけ。

「ええ、待つのですよ。ご安心ください。遠からず、IOCの査察が終わるころには効果が出るでしょうね」

その余裕は何処から来るのだろうか。
訝しんだが、渋谷の考えられる限りでは想像さえできなかった。
この、未来から来たと嘯く狂気の企業連合の考えは、まるで雲のようにつかみどころがない。

(そう、確か……ムラクモ・ミレニアム……叢雲、か)

叢雲という単語は知っている。
雲、集まり群がった雲のことだ。
即ち、吹けば飛ぶような小さな雲も、集まり、群がり、繋ぎ合わさることで月さえも覆い隠す。
雲を捕まえることはできない。それに、雲は風に乗って何処までも飛んでいく。
そこに「在る」にも拘らず「無い」かのように振る舞う。
不気味だった。
何もかもが正体不明な企業が、日企連が、恐ろしかった。
そんな内心を、渋谷は沈黙を以て殺すしかなかった。

『クエイク・リーダーよりCP。敵の殲滅を確認。これより帰投する』

『ツバメリーダーよりCP。同じく帰投する』

『CP了解』

無感情なやり取りだけが、響いた。
勝利の喜びも、誉に感じ入る余韻もない。
渋谷はその虚しさに、抗うすべを持っていなかった。

430: 弥次郎 :2017/02/17(金) 23:58:19
「デモンストレェションはこれで終わりか……圧倒的だな、まったく」

「牟田口大佐、苦労を掛けた」

「いえ、当然のことをしたまでです。
 大型兵器の運用のためには、まず用兵側にその力を見せつける必要があります。
 今回の“偶発的な事故”は関東軍内部の動きを一気に統一するのに十分すぎる結果となったでしょう」

「力を見せつける……圧倒的な暴力こそが正しさを保証する。
 何とも皮肉なものだな。アレを見せつけられて、反抗できるものなどいるものかよ」

「しかし、浮かれ過ぎもよくはない。
 通常戦力の整備も進めねばならんし、大型兵器の運用には膨大な量の物資が必要だ。
 輜重の待遇改善については進めているが、一人の歩兵に1トンもの砲弾を運べとは言えない……」

「その為の陸上巡洋艦だろう?」

「……ああ、陸上巡洋艦整備計画。八八八艦隊か」

「よもや陸軍が、と思ったが、ああまで理論で固められると反論できんな」

「鉄道は確かに重要な輸送手段だが、その線路を破壊されれば二進も三進もいかん。
 震天やツクヨミを運用する以上、大型の輸送艦艇が必要なのは間違いない。まさか、1トンもある砲弾を輜重兵に運ばせるわけにもいかん」

「軍備については心配はない。経済の方面でもな。岸や星野は元より乗り気であるし、拓務省も嫌とは言わん。
 問題なのは神輿の方だ」

「神輿……つまり、工藤と吉岡か?」

「ああ。こればかりは、後始末をつけねばならん。あれでも忠誠を誓う者たちだ。力づく、とはいかんだろうな」

「説得の人員を日企連は送ったというが、うまくいくかどうかだ」

「期待は出来ます。我々もできることを探していくべきかと……」

「その通りだ。日企連と我々は利用し、利用される関係にある。それを忘れてはならん。
 奴らは、規範であり社会機構だ。それに身を委ね切れば、待ち受けるのは死だ」


      • アシハラナカツクニ 士官向けラウンジにて

431: 弥次郎 :2017/02/17(金) 23:59:22
以上。wiki転載はご自由に。
事故って怖い(小並感
眠い、寝ます……

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最終更新:2017年02月20日 11:45