836: トーゴー :2017/09/14(木) 21:01:14
シルヴァリオ メランコリー  ~(辻への)逆襲譚を紡げない嶋田さんはやっぱり苦労するようです~


「…では、あの爺は例の護送列車を探るようルシードに要求したのだな?」
「ええ。…アクレピオスの大虐殺から約5年。『原作』の始まりと見て間違いないでしょう」

東欧・地中海東岸を支配権とする三大国の一角、アンタルヤ商業連合国。
豪商たちが住まう屋敷の中でも一際巨大な豪邸の地下で、深刻な顔をした男女たちが密談していた。

「今の我々にできることは多くありませんが、舞踏会でゼファーが誰と踊るかだけは何としても突き止めなければならないでしょう。ルート分岐するのはあそこですし」

眼鏡をかけた怜悧な美女が述べる。彼女こそアンタルヤを統べる十大氏族の一角にして由緒正しき貴種(アマツ)たる辻家の女当主、マツリ・辻・アマツその人である。
…そしてお察しの通り、中身は大蔵省の魔王、辻正信その人である。

第五次世界大戦中に発生した大破壊(カタストロフ)により、既存文明が崩壊してから約千年。人類は日本の残したロストテクノロジーに縋って国家を形成し、人々が地上から消滅した日本を神と崇める世界…某燃えゲーメーカーが発売した恋愛シミュレーション()ゲームの世界へと夢幻会は転生していた。

「しかし、本当に転生先がアンタルヤだったのが悔やまれますね。ゲームの舞台であるアドラー帝国と敵対している以上関わるのが難しいですし、この世界の異能である星辰光(アステリズム)はヴェンデッタ時代ではアドラーが独占してますし…」

ため息をつくのはアマツほどではないが旧日本の血を引く家系であるカンザキ家の青年、ヒロユキ・カンザキ。お察しの通り、我らが主人公・嶋田繁太郎が転生した姿である。
彼が嘆くように一作目のシルヴァリオ ヴェンデッタにおいてはアンタルヤはほとんど登場せず、ミリィルートのエピローグでゼファーとミリィの亡命先としてチラッと出る程度の扱いである。
一方舞台となる三大国筆頭のアドラー帝国はというと、気合いと根性であらゆる障害を突破する鋼の英雄、クリストファー・ヴァルゼライドの統治下で黄金時代を謳歌しており、黒幕たるカグツチから提供された星辰光技術を独占することで銃や戦車といった既存兵器に頼る周辺国を圧倒している。
金と陰謀が渦巻く万魔殿であるアンタルヤ商業連合国は元々悪の秘密結社(笑)だった夢幻会(特に辻)と相性が良く、着実に勢力を伸ばしてはいるものの、最悪の場合それらすべてが無駄になる原作に関わることができないというのは夢幻会にとって悩みの種だった。

「アドラー人だったらイヴさんのおっぱいに思いっきり甘えられたのに…」
「いや、アオイちゃんの無自覚な恋心を2828しながらウォッチングしてだな…」
「チトセネキのおっぱいと女傑ぶりも捨てがたいぞ!」
「いや、無敵眼帯ゴリラ女はちょっと」
「…お前にはヤンホモストーカーライバルなチトセ・朧・アマツ♂に掘られる権利をやろう」

…どうでもいい理由で悔しがってる面々も多いが。

837: トーゴー :2017/09/14(木) 21:03:03

「いっそのこと、原作開始前に主人公であるゼファーを拉致か暗殺でもできれば楽だったかもしれないな。ゼファーがいなければヴェンデッタが目覚めず、聖戦も始まらないし」
「無茶言わないでください。暗殺が専門のアドラー最精鋭部隊元副隊長なんてトンデモどうしろって言うんですか。ただでさえ帝都は露蜂房(ハイブ)の監視下にあるというのに」
「ゼファーとミリィは二体の人造惑星(プラネテス)の保護下にあるようなものですからね…兆に達する数の機械蜂を操る露蜂房にマグニートーの上位互換みたいな錬金術師(アルケミスト)のコンビなんてラスボスコンビくらいしか勝てませんよ」

旧日本が製造した人型兵器・カグツチ。彼の開発した技術を元に生み出された超兵器こそが人造惑星である。兵器としては欠陥品と言われている彼らだがその戦闘力は凄まじく、原作で中ボス扱いだった殺塵鬼(カーネイジ)単騎でも十分な時間さえあればアンタルヤを滅ぼせるだろう。

「ともあれ原作に直接関わることが困難な以上、それによって生ずる周辺への影響を利用するしかないでしょう。…グランゼニック家への接近は順調ですか?」
「それなりには。こちらに自陣営を食い荒らされることを警戒しているようですが、主要な一族が英雄の粛清で丸ごと吹き飛んだおかげで内部はガタガタです。こちらの差し出した手を払いのける余裕もないようですね」

グランゼニック家はゼファーの親友ルシードの実家であり、辻家と同じアンタルヤ十大氏族の一角であるが、先代当主であるルシードの父がヴァルゼライド、カグツチ、チトセ、ギルベルト、アオイ、まだ軍にいるアルバートにゼファーという原作本編ではまずあり得ないアドラーオールスター相手に軍事機密を盗み出そうとするというダイナミック自殺をかまし、成人した一族を全てアドラーに集めていたためにルシード以外の大人が全員『病死』して子供しか残っていないという悲惨な境遇に陥っている。子供たちが成人するには最も年長の者でも6年はかかり、その間一人で一族を支えねばならないルシードは帝都の商業区画の元締め兼、駐アドラー大使のような役目であるギルド長として帝都に赴任しているが、彼が先任者の父のようになったら没落一直線だろう。
実際、原作においてチトセルート以外ではルシードは死亡する。ヴェンデッタルートから3年後の世界である続編のシルヴァリオ トリニティにおいて、また中核を失ったグランゼニック家は落ち目であることが語られており、そうなった場合はそれまでに作った伝手を総動員して夢幻会はグランゼニック家の勢力を取り込むつもりだ。
チトセルートに進んだ場合はルシードと繋がりが強いクーデター政権がアドラーに誕生するため、ルシード経由でアドラーへ裏からコネクションを広げることが可能となる。どちらであっても、辻家の不利益にはならない。
ちなみに実はルシードも粛清によって死亡しており、今の彼は最優の人造惑星・ヘルメス-No.δ 錬金術師として復活したカグツチの眷属である。そのため、結局どのルートに行ってもグランゼニック家はお先真っ暗と言える。

「『暁の海洋』と『強欲竜団』、ついでにリン・ミツバとの伝手は作ってありますが、もしヴェンデッタルートに行かないようならアッシュ君を引っ張り込むという予定に変更はありませんね?」

会議は始まろうとしている『シルヴァリオ ヴェンデッタ』関連だけではなく、その続編である『シルヴァリオ トリニティ』関連の話へと発展していく。

「ああ。チトセルートやミリィルートに行った場合は無名の傭兵として野垂れ死にするようだし、それなら我々が拾っても問題あるまい。これらのルートがどんな未来に続いているのか分からないが、本来の続編主人公なら何か使い道もあるだろう」
「彼はアドラーへの憎しみに凝り固まっているはずですが、幼馴染が名を変えて生きていることを知れば戦う理由もなくなるでしょう。再会させてあげればナギサの方にも恩を売れますし」
「アッシュは宇宙一の頑固者を説き伏せたコミュ力チート。ナギサは冥王の眷属になっていたとはいえ、普通の星辰光の三相女神でスフィア到達者の救世主とタイマンガチバトルしたグラビティトンチキ系アマツ。原作の主要登場人物だったことを差し引いても、引き込んでおきたい人材ですしね」

トリニティではアンタルヤの存在感が増し、アンタルヤ人の登場人物もそれなりの数になる。
ヴェンデッタの方の展開にもよるが、こちらについては夢幻会は原作知識というチートを利用するつもりでいた。

「まあ、本来は日常の陽だまり枠に入るような少年少女をこういう世界に引きずり込むのはあまり気が進まないですが…」
「いまさら善人ぶっても仕方ないでしょう。例え幸せになって欲しいと思ったゲームの主人公とヒロインだったとしても…我々は国益の為に利用するのみです」

838: トーゴー :2017/09/14(木) 21:04:39

「ヒロユキ様、こんばんは。姉上にお会いになっていたのでしょうか?」
「え、ええ。そんなところです。シノブさん」

会合終了後。辻家の屋敷で、カンザキは一人の美少女と遭遇していた。

「…これは、カンザキ様に召し上がっていただきたくて用意したお菓子です。毎晩遅くまでお仕事をなさっているとお聞きしていますし、お夜食にでもどうぞ」

そう言って小さな包みを差し出してくる少女。
艶やかな黒髪に、愛らしくそして美しく整った顔立ち。細身だが出るところは出ている魅力的な体つきに、大和撫子という言葉が似合う楚々とした雰囲気。
彼女の名はシノブ・辻・アマツ。マツリの妹である。

「あ、ああ…ありがとうございます…」

少し青い顔で包みを受け取るカンザキ。


アマツの女とは、脳内ピンクな従者ヒロインが『狙うは猟犬、迫るは毒蛇、かみつく強さはすっぽんです』評するような存在である。
アマツの女とは、それに加えて『睡眠薬を盛った挙句貞操を頂戴して既成事実を作られたとてなんら不思議ではございません』と言われているような存在である。
アマツの女とは、原作者が『相手が既婚者でも『せめて想い出だけでも』と関係を迫り、数年後に『あなたの子よ』と子供を抱えて襲来するくらい普通』と発言するような存在である。
そんな地雷物件(一部例外あり)に未来の旦那様とロックオンされているカンザキは気が気ではない。


「…シノブ、カンザキ殿に何か用でも?」
「…手作りのお菓子をいただいただけですよ、マツリ殿」

そこにニヤニヤと笑いながらマツリが姿を現す。

「マツリ殿とは余所余所しい。姉上と呼んでいいんですよ?」

場を引っ掻き回して遊ぼうと、爆弾を投下するマツリ。

「姉上…お姉様がカンザキ様の姉上…つまり、わたくしと…」

マツリの言葉に、幸せな未来絵図へとトリップするシノブ。

「…………」

それを前に、ダラダラと冷や汗を流すカンザキ。


世界の命運を握る吟遊詩人(オルフェウス)は、如何なる道を選ぶのか。
女神(アストレア)を守る狼として、その覇道に付き従う人狼(リュカオン)か。
陽だまりのような少女の夫として、穏やかな日々を生きる只人(ゼファー)か。
それとも、あらゆる輝きを呪う最悪の魔星として、英雄と神星を滅ぼす冥王(ハデス)か。
ついでにカンザキの貞操と尻の安寧はいつまで続くのか。

様々な思惑(ピンク含む)が交錯する中、運命の夜は更けていく…

839: トーゴー :2017/09/14(木) 21:09:55
以上です。

最後の嶋田さんが愛が重い女に迫られるシーンが書きたかっただけじゃねえのと思った方、否定はしません(爆)
Light製の燃えゲーは好きなので(正田卿wikiで『さすシュピ!』な項目作ったり、『じゅるり』の原因になったコメント付きの投票したりしたの、私です(笑))、一度夢幻会とのクロスネタが書いてみたかったんですよね。
原作キャラは出しませんでしたが、多分トミーとかがおじさんと仲良くやってます。夢幻会は『本気』な人結構いるでしょうし。

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最終更新:2017年09月16日 12:11