148: ライスイン :2017/09/24(日) 18:57:44
1932年某月 ソビエト連邦 モスクワ


「同志、これが日本から密輸されたという書物かね?」

「はい同志書記長、残念ながらこれらは氷山の一角でモスクワだけでなく全土に拡散しておりまして・・・党員ですら・・・。」

スターリンの問いに内務人民委員部(NKVD)として拡大改変が控えている秘密警察長官のゲンリフ・ヤゴーダが返事をする。周囲にはエジョフやベリヤ
といった秘密警察関係者だけでなくヴォロシーロフやトハチェフスキーといった軍首脳部やモロトフややブハーリンといった政府・党の要人らも居た。
彼らは昨年から頭を悩ます”日本から密輸されたとある書物”を大量に押収したとの報告を受けて見分しに来たのだった。
スターリンは箱の中から書物を一冊手に取った。表紙にはロシア語でタイトルが書かれているだけであった。しかし・・・

「おおっ!!これは・・・・っ」

中身を見たスターリンは衝撃のあまり書物を落としてしまった。そして床に落ちたそれを見た周囲の連中は一斉に箱に群がって書物を手に取り
狂ったように読み始めた。


     これがソビエト連邦が明後日の方向に超絶変化する切っ掛けであった。



                  日ソ同盟の憂鬱  第1話「進化(萌化)するソ連」




 1934年8月 大日本帝国 帝都東京 夢幻会会合場所


「おかしいですね、ソ連で大粛清が発生しません。政治的な理由で追放されたのは世界同時革命論を唱えていたトロツキーだけです。」

会合では現在のソ連の状況について中央情報局の阿倍から説明がなされていた。

「でもたしか1000名を超える党員や軍人が処刑されてなかったか?」

真崎が以前の処刑情報を持ち出して疑問を呈する。

「それについてですが処刑されたのは党や軍の権力を用いて婦女子へ暴力を働いた連中なのです。昨年からソ連内部で性犯罪者の取り締まりが
  強化されていまして・・・・その音頭を取っているのがNKVD副長官のベリヤでスターリンら首脳部もそれを指示しております。」

阿倍の言葉に憂鬱世界を経験している者達は冬戦争時にばら撒いた同人誌のお蔭でベリヤがオタと化した事を思い出した。

「モスクワの大使館から報告です。モスクワ市内で”第1回モスクワ人民コミックマーケット”なるイベントが開催されソ連要人らが出席したとの事です。」

その考えもしなかった報告の内容に唖然とする一同。

「ふははははははははっ!!上手く行ったようだ。」

突然近衛が狂ったように笑い出して言葉を紡いだ。隣に座っていた辻も笑みを浮かべている。

「二人とも・・・・何をやったんです?」

嶋田が恐る恐る尋ねる。

「尾崎君や彼を利用して取り込んだゾルゲを利用してソ連に同人誌(※1)を大量に密輸したのだ。」

「同志からの報告ではそれらに頭を悩ましたスターリンらが直々に見聞したとの報告も入っている。」

それらの言葉に嶋田を含めた他の会合参加者は一斉に頭を抱えた。なにせスターリンを含めたソ連上層部がオタと化したからである。

「だが悪い事ばかりじゃない。ソ連からは密に関係改善の申し出があった。具体的には相互内政不干渉を主軸とした友好条約の締結や
  一部亡命者の名誉回復・帝室関係者の国内訪問(居住は不可)やロシア正教会の合法的な活動の保障などです。」

149: ライスイン :2017/09/24(日) 18:58:17
あのソ連が限定的とはいえアナスタシア皇女を始めとした帝室関係者の国内訪問や合法的な宗教活動の保障、そして何より驚愕なのは

                     ”革命の輸出はしない”

という従来からは考えられない内容であった。

「それは・・・本当なのか?」

余りの内容に伏見宮が近衛を問い詰める。

「間違いありません。書簡には必要ならスターリン自ら東京を訪問して条約を締結しても良いと。更に海外の共産勢力にも日本への敵対行動は
  行わないように厳命するとも書かれています。」

「・・・・・本当の様だな。」

近衛から渡された書簡を見た伏見宮は呟いた。

「皆さん、油断してはいけませんがこの話を受けましょう。上手く行けばソ連や中共とやり合わずに済みます。」

辻のその言葉で方針は決定した。


 1936年4月1日 大日本帝国 帝都東京 首相官邸内会見室


「ここに日ソ友好条約が成立した事を正式に宣言する」

流暢な日本語でスターリンが条約の成立を宣言すると記者席からは一斉にフラッシュが炊かれた。
数日前に突如東京を訪れたスターリンに日本国民だけでなく各国関係者も驚愕していた。何せ英国情報部も兆候すら掴めなかったのだ。
そして本日の友好条約締結会見・・・・4月1日なだけにエイプリルフール特有の嘘だと最初は思っていたが真実と分かった途端に発狂する者まで居たほどだった。
更に・・・

「共産主義は素晴らしいが取り入れるかは各国人民が自ら判断すべき事であって誰かに押し付けられて行う事ではない」

とスターリンが宣言し、オマケにロシア正教会の復活や帝室関係者の訪問容認も求めるに至って心臓発作で亡くなる者すら出る始末だった。
だがこの宣言を聞いた一部政府関係者は安堵した。何せ革命の輸出を行わないと宣言したに等しいからだ。
この会見後、スターリン一行は数日間日本に滞在し各行事(※2)に参加した後、帰国していった。


 1938年1月9日 大日本帝国 帝都東京 夢幻会会合場所


「今年までいろいろありましたね・・・。」

嶋田が疲れ切った表情でつぶやいた。日ソの対立解消と交流拡大は始めは反発もあったが交流拡大に伴う利益が出るにしたがって反発の声も消滅していった。
まず各種資源が友好価格で大量に入ってきたことで開発が加速した(但し多方面での資源獲得も油断せずに進めている)。
次にソ連の指示で中国共産党が日本への敵対行動を行わなくなった事で大陸での安全度は向上した(ただし奉天軍や国民党軍の横暴は継続中)。
そして最も効果を発揮したのは双方の軍事交流であった。日本は他国の目が届きにくいシベリア奥地などで堂々と新兵器の実験も行えたしトハチェフスキーら
ソ連軍将帥との交流で多くの物を得た。ソ連側も日本の優れた技術や兵器、それらを量産する手法を学べたことで軍を質でも大幅に強化できたのだった。

「まさかソ連とここまで緊密になるとはな・・・。」

山本も同様に疲れた表情で日本人向けに製作されたボルシチを食べながら呟く。

「まあいいじゃないですか。それなりに安定してきましたし。」

150: ライスイン :2017/09/24(日) 18:58:53
逆に外交関係者の吉田や白洲の表情は明るかった。ソ連と条約を結んだあと、日本はソ連と対立していた周辺国との仲介を行う事で外交環境の安定化に努めた。
その結果、北欧諸国やバルト3国・トルコやイラン等と日本が結んだような友好条約を締結させる事に成功した。但しポーランドだけはソ連の態度変化を国内騒乱に
よる弱体化を補う物であると判断し強硬な要求を繰り返した為に締結は行われなかった。また英国は若干だが関係が悪化した(※3)。

「それに陸軍も海軍も軍備増強が出来て良かったじゃないですか」

珍しく辻が笑顔で話しかける。
双方の軍事交流は次第に一部兵器の共同開発や双方の兵器の採用に拡大していった。日本で開発された97式中戦車はソ連でT-34として正式採用されて輸入及び
ライセンス生産が行われた。また共同開発の重戦車が98式重戦車/KV-1として双方に採用されるなど各種兵器でも同様の事が行われた(※4)。
また海軍でも1937年に旧式化した扶桑型・伊勢型が41㎝砲(長門型の予備砲身を使用)に換装の上でソ連への売却が決定(配備先はバルト海及び北海)。同時に
新型戦艦4隻の建造も決定され、これらが就役し次第ソ連に引き渡される事になった。

「まあスペイン内戦で兵器実証が出来たからよかったですよ・・・・もっとも政府側に付くとは思ってもいませんでしたが。」

辻の言葉に投げやりに返事をする嶋田。日本は1937年から始まったスペイン内戦(※5)では当初中立を保っていたがフランコ率いる反乱軍が実効支配する地域にある
日本資産を接収した事を理由に陸軍1個旅団と航空隊及び護衛の巡洋艦からなる艦隊を義勇軍として派遣。ソ連義勇軍や政府軍と共に反乱軍やコンドル軍団を蹴散らして
内戦は僅か1年ほどで政府側の勝利となった(※6)。またこの内戦下でソ連義勇軍の駆逐艦ベールヌイ(※7)が日本義勇軍の巡洋艦の支援の元で反乱軍の戦艦エスパーニャに
雷撃を敢行して撃沈するなど交流の成果が実戦でも発揮されていた。また日本は内戦支援に対する返礼としてラ・パルマ島の西暦2000年までの租借を打診され受けている(※8)。

「中共も奥地で穏やかに勢力を拡大したお蔭で蒋介石も我が国との対立を避けるようになりましたしね。もっとも奉天軍の無法っぷりは相変わらずですが」

「ドイツ軍事顧問の支援を受けた国民党が共産党と戦い、その共産党を支援するソ連は未だラッパロ条約をドイツと結んでいる。正に情勢は複雑怪奇なり・・・か」

 長征で奥地に避難した共産党はソ連と国境を接した事で補給を受けられて一息つけた。そしてソ連の指導(汚染)で方針を改めて穏やかに改革を行いつつ周辺軍閥を
取り込んでいき、これを無視できなくなった国民党は対処の為に日本との対立を避けるようになった。

「まあ毛沢東や周恩来や朱徳が同人汚染するとは思ってもみなかったがな。」

伏見宮の言葉の通り、ソ連の指導で汚染された彼らは同人誌を愛読するだけでなく自ら執筆するまでになり”延安中華同人祭”まで開催。ソ連経由で日本の同人作家も
参加するなど盛況な賑わいを見せていた。
 また毛沢東自身も変化を見せ、健康に気を使うだけでなく自ら美的戦闘術(セ○シーコマ○ドー)を編み出して布教するなどしていた。

「共産勢力との対立が解消されただけでも良しとしましょう」

近衛の言葉で締めくくられ、本日の会合は終了した。

151: ライスイン :2017/09/24(日) 18:59:33
※1:北方戦争(女体化)・ナポレオン戦争(女体化)・クリミア戦争(女体化)などロシアが関わった戦争で登場人物を女体化させた漫画や小説が多く含まれていた。

※2:政府関係者との交流だけでなく同人作家との交流や本場のコミケの視察など私的な内容も含まれていた。

※3:条約締結を察知出来なかった事や自らに無断で行われた事への腹いせなども原因の一つだった(表向きの主張は日英同盟の蔑ろ)。

※4:96式戦闘機をMig-1として採用したり共同開発の自動小銃を90式突撃銃/AK-47(弾薬は7㎜×43)として採用するなど。

※5:日ソの支援で政府側が強化された事に加えて穏当な政策が実行され続けた事から反乱軍も力を蓄えるのに時間がかかり発生が史実より遅れた。

※6:正式名称はスペイン内戦だが日本国内では”1年戦争”と呼称される事もある。

※7:日本の技術指導によりソ連国内で建造された特型駆逐艦のソ連仕様。

※8:この世界では衝号作戦を実行するつもりのなかった夢幻会だが最後の手段及び大西洋での拠点確保の意味もあって受け入れている。


○98式重戦車1型/KV-1A重戦車

全長:7.9m 全幅:3.4m 全高:2.9 重量:46t 最大装甲厚:110m+増加装甲

エンジン:暁改 液冷ディーゼルエンジン 出力:800hp 速度:43㎞/h  航続距離:180㎞ 乗員:5名

武装:65口径76.2㎜戦車砲×1 7.62mm車載機銃DTx2

 97式中戦車を元に日ソが共同開発した重戦車。技術確立の為の試作的な意味合いが強い。
本来搭載する予定であった105㎜砲の開発が遅れた為に97式中戦車と同じ砲を搭載している(100㎜砲は次の型から搭載予定)。
生産は少数で日本では大洗戦車教導団、ソ連では赤軍戦車学校に教導用に配備されている。


 いかがでしょうか?
息抜きに”ソ連(萌化)が最初から味方に付いた憂鬱”というネタを考えてみました。
日本の密輸同人誌で汚染されたソ連と影響を受ける各国共産勢力・・・考えただけでも頭が痛くなりそうです。
この世界ではソ連は史実の様な周辺国侵略を行わず友好的に接しています(但しポーランド除く)。
またドイツは将来”物量だけでなく質的に大幅強化されたソ連軍”という悪夢に悩まされる事になります。

~予告~

 ドイツ軍がポーランドに侵攻しソ連も対抗上、日本や周辺国の了解を得てポーランドに進出する。
ヒトラーの野望は際限なく肥大化しソ連侵攻の為の橋頭保確保を目論んでフィンランドへ侵攻し”冬戦争”が勃発。
西欧でもドイツの侵攻が続き困り果てた英仏は日ソに救援を求めていく。

次回”世界大戦勃発”

掲載お願いします。

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最終更新:2017年09月26日 10:44